SDGsって
なんだろう?
すべての動植物や人類が幸せに
生きられる社会をつくる
経済的・技術に日々発展しているわたしたちの世界には、解決すべき社会的な課題が多く存在する。気候変動をはじめとする地球環境の急な変化、地域や人の格差、安全な食べ物の確保、争い……。どれも解決にたどり着くまでが難しいが、このままにしておくと、動植物や人類の存続が危うくなってしまう。この課題をできるだけ早く解決し、現代と未来の動植物や人類が幸せに生きられる社会にすることは、現代の地球に生きる私たちの責任なのだ。
しかし、込み入っているからこそ解決までたどりつけていない社会課題だ。そこで、 考え方やアクションの起こし方の指針となるのが、「SDGs(エスディージーズ)」である。まずはこの指針について学ぶことから始めよう。
TOPIC SDGsとは
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳される。2015年9月、国連加盟国193カ国の全会一致で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030 アジェンダ」にて、世界中の社会課題をゴールとしてまとめられた。(※1)社会課題は17個の目標に分類され、目標それぞれに紐付いて、169のターゲットと232の指標が決められている。
国連は、「持続可能な開発」を「将来の世代の欲求(ニーズ)を満たしつつ、現在の世代の欲求(ニーズ)も満足させるような開発」と1987年に定義づけている。これを達成するには、経済成長と社会の包摂、環境の保全が需要な要素である。SDGsが記されたアジェンダの前文には「誰一人取り残さない」*と記されている。持続可能な社会の実現のためには、これまで通りの社会概念を打ち壊し、新しい考え方を見つけ、システムを構築し、運用することが要求されるのだ。
*原文はそれぞれ「Trancedorming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development」と「no one will be left behind」。
TOPIC 脱炭素社会に向けた
パリ協定
なお、SDGsが採択された2015年には、もうひとつ重要な国際条約が結ばれている。「パリ協定」と呼ばれるこの条約は、2015年11月、国連気候変動枠組み条約、第21回締約国会議(COP21)で採択された、拘束力の高い国際条約だ。
パリ協定では、おもに2つの目標が定められた。
ひとつは「世界の平均気温上昇を、産業革命前と比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること」。もうひとつは「今世紀後半に、世界全体の人為的温室効果ガス排出量を、人為的な吸収量の範囲に収めること」だ。なお、SDGsのアジェンダの欄外には、「気候変動枠組み条約(UNFCCC)*が、気候変動への世界的な対応について交渉を行う最優先の国際的政府間対話の場であると認識している」という脚注が載っている(※2)。気候変動への取り組みは、SDGsにおいても重要とされているのだ。
*1992年6月3日から6月14日まで、ブラジルの都市リオ・デ・ジャネイロにおいて開催された環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)において、署名のために開放された地球温暖化問題に関する国際的な枠組みを設定した環境条約である。
TOPIC SDGsが
成立するまでの歴史
ここで、SDGsが採択されるまでをさかのぼってみよう。
成長の限界
まず、世界的に資源が有限であるという話が出てきたのが、1972年に民間組織「ローマクラブ」が発表した報告書「成長の限界」だ。産業革命から続く資源の消費と環境汚染から起こる地球の急激な変化に危機感を覚えた各国の有識者が集まり、報告書を通して「このまま人口増加、環境汚染、資源消費などが続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」と警鐘を鳴らした。これ以降の、「MDGs(ミレニアム開発目標)」、「リオ+20(国連持続可能な開発会議)」「第3回 国連防災世界会議」という段階を経て、SDGsが成っている。
MDGsとは
「MDGs」は、Millennium Development Goals(ミレニアム開発目標)の略。2000年9月に国連ミレニアムサミットで採択された「国連ミレニアム宣言」に、それまでの国際開発目標を統合したことにより誕生した。8つの目標それぞれに、21のターゲットが定められている。 MDGsの目標は以下のとおり。
- 極度の貧困と飢餓の撲滅
- 普遍的な初等教育の達成
- ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
- 幼児死亡率の引き下げ
- 妊産婦の健康状態の改善
- HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
- 環境の持続可能性の確保
- 開発のためのグローバル・パートナーシップの構築
(国連広報センターより)
MDGsによって具体的な目標が定められたことは、特に開発途上国の抱える問題を解決する原動力となった。その結果2010年に、開発途上地域における極度の貧困人口の割合を1990年比で半減させるという目標を達成し、2015年には約3分の1までの減少に成功。そのほかの指標でも一定の成果を収めている。
リオ+20とは
「リオ+20」は2012年、ブラジル・リオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議」のこと。この会議は、1992年に同国で国連環境開発会議が開催された、その20年後の開催にあたることから「リオ+20」と呼ばれている。「リオ+20」では、顕在化したエネルギー資源の有限性などの「地球の限界」や、今なお残る貧困の撲滅と持続可能な開発を図るため、経済・社会のあり方を見直す「グリーン経済への移行」などが議論された。
さらに、MDGsの成果がリオ+20でも議論され、各国は「アクション志向で簡潔、わかりやすく、かつグローバルな性質を有し、すべての国々に普遍的に適用できる主要な持続可能な開発目標」を設定する(※3)ことに合意した。 MDGsで定めた目標は、SDGsへ目標やターゲットとして継承されている。
第3回 国連防災世界会議
近年、気候変動による局所豪雨の増加や台風の進路の北上などといった変化が観測されている(※4)。豪雨は局所や短時間であっても、川の氾濫や洪水を引き起こす。このデータは、水害の危険度が広範囲にわたって増す可能性があることを示唆している。2015年に宮城県仙台市で採択された「仙台防災枠組み2015-2030」では、災害リスクの削減や気候変動への適応策などに取り組む必要性を強調されている。なお、防災の視点は、SDGsにもターゲットとして組み込まれている。
TOPIC 17の目標
SDGsでは地球上に存在する数々の問題を解決へ導くための目標を、以下の17の項目に分類して掲げている。さらに、それぞれの目標はキャッチコピー化されてアイコンもつけられた。SDGsの17の目標は以下のとおりだ。
- 目標1
- あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困を終わらせる
- 目標2
- 飢餓を終わらせ、食料の安定確保と栄養状態の改善を実現し、持続可能な農業を促進する
- 目標3
- あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進する
- 目標4
- すべての人々に、だれもが受けられる公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
- 目標5
- ジェンダー平等を達成し、すべての女性・少女のエンパワーメントを行う
- 目標6
- すべての人々が水と衛生施設を利用できるようにし、持続可能な水・衛生管理を確実にする
- 目標7
- すべての人々が、手頃な価格で信頼性の高い持続可能で現代的なエネルギーを利用できるようにする
- 目標8
- すべての人々にとって、持続的でだれも排除しない持続可能な経済成長、完全かつ生産的な雇用、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を促進する
- 目標9
- レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する
- 目標10
- 国内および各国間の不平等を減らす
- 目標11
- 都市や人間の居住地をだれも排除せず安全かつレジリエントで持続可能にする
- 目標12
- 持続可能な消費・生産形態を確実にする
- 目標13
- 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を実施する
- 目標14
- 持続可能な開発のために、海洋や海洋資源を保全し持続可能な形で利用する
- 目標15
- 陸の生態系を保護・回復するとともに持続可能な利用を推進し、持続可能な森林管理を行い、砂漠化を食い止め、土地劣化を阻止・回復し、生物多様性の損失を止める
- 目標16
- 持続可能な開発のための平和でだれをも受け入れる社会を促進し、すべての人々が司法を 利用できるようにし、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任がありだれも排除しないしくみを構築する
- 目標17
- 実施手段を強化し、「持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップ」を活性化する
(「SDGsとターゲット新訳」版)
この17の目標には、先進国である日本に暮らす私たちにとって身近な問題も関わる。
例えば、目標5の「ジェンダー平等」では、中等教育・高等教育を受ける機会、労働所得、政治家、経営者、教授・専門職、国会議員など政治家の割合で男女の差が大きい。(※5)
目標12の「持続可能な消費と生産」も、私たちにとって身近だ。これは資源効率や省エネに関わるもので、持続可能なインフラや経済活動に影響する。例えば、日本では年間2,550万トンもの食品廃棄物が廃棄されており、そのうちまだ食べられるものは612万トン(※6)。これらの食材を廃棄せずに、食料に困っている人々に分配したり、余分な食材を生産しないようにすれば、焼却処理のときに排出されるCO2が減って環境負荷を抑えられる。また、そもそも食品を生産する際に使う電気を再生可能エネルギーに変えれば、その分の環境負荷もさらに減る。
こうした影響を見てみると、目標12で挙げられている課題は、気候変動の抑止(目標13)やクリーンエネルギー(目標7)にも繋がっていることがわかるだろう。SDGsの目標は一つひとつ繋がっている。そのため、一つの目標に着目すると、自然とほかの目標が掲げる課題が見えてくる。と同時に、SDGsは目標一つのみを達成するのではなく、17個の目標すべての達成度を同時に上げていくことが大切なのだ。
TOPIC 169のターゲットと
232の指標
169のターゲット
SDGsの17の目標にはそれぞれの目標の内容を明らかにしつつ、持続可能な社会を目指すため、さらに具体的で細かな169のターゲットが設けられている。たとえば目標1. 貧困であれば、以下の7項目がターゲットとなっている。
- 1.1
- 2030年までに、現在のところ 1 日 1.25 ドル未満で生活する人々と定められている、極度の貧困(※1)をあらゆる場所で終わらせる。
- 1.2
- 2030年までに、各国で定められたあらゆる面で貧困状態にある全年齢の男女・子どもの割合を少なくとも半減させる。
- 1.3
- すべての人々に対し、最低限の生活水準の達成を含む適切な社会保護制度や対策を各国で実施し、2030年までに貧困層や弱い立場にある人々に対し十分な保護を達成する。
- 1.4
- 2030年までに、すべての男女、特に貧困層や弱い立場にある人々が、経済的資源に対する平等の権利がもてるようにするとともに、基礎的サービス、土地やその他の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適正な新技術(※2)、マイクロファイナンスを含む金融サービスが利用できるようにする。
- 1.5
- 2030年までに、貧困層や状況の変化の影響を受けやすい人々のレジリエンス(※3)を高め、極端な気候現象やその他の経済、社会、環境的な打撃や災難に見舞われたり被害を受けたりする危険度を小さくする。
- 1.a
- あらゆる面での貧困を終わらせるための計画や政策の実施を目指して、開発途上国、特に後発開発途上国に対して適切で予測可能な手段を提供するため、開発協力の強化などを通じ、さまざまな供給源から相当量の資源を確実に動員する。
- 1.b
- 貧困をなくす取り組みへの投資拡大を支援するため、貧困層やジェンダーを十分勘案した開発戦略にもとづく適正な政策枠組みを、国、地域、国際レベルでつくりだす。
(※1)極度の貧困の定義は、2015 年 10 月に 1 日 1.90 ドル未満に修正されている。
(※2)適正技術:技術が適用される国・地域の経済的・社会的・文化的な環境や条件、ニーズに合致した技術のこと。
(※3)レジリエンス:回復力、立ち直る力、復元力、耐性、しなやかな強さなどを意味する。「レジリエント」は形容詞。
232の指標に基づき取り組みの様子を数値化
SDGsは努力目標ではない。2030年を目処に目標を達成するため、国連は232の評価指標を設け、これに基づき、「持続可能な開発目標(SDGs)報告」として毎年国連が進捗状況を発表している。
また、国ごとに取り組みを数値化して評価してつけた達成度の順位も発表されている。この進捗状況やランキングのニュースを目にしたことのある人も多いだろう。
TOPIC SDGsで大切な
5つのPとは
SDGsの17の目標は、「5つのP」というカテゴリーに分けることができる。この5つのPは、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030 アジェンダ」の前文で提唱されているもので、①People(人間)、②Prosperity(豊かさ)、③Planet(地球)、④Peace (平和)、⑤Partnership(パートナーシップ)の頭文字から取ったものだ。
People(人間)
目標1. 貧困の撲滅、目標2. 飢餓をなくす、目標3. 健康と福祉、目標4. 教育、目標5. ジェンダー平等、目標6.水と衛生
これらは、人間らしい暮らしを送るうえでの目標だ。飢えや渇きに苦しむことなく、誰もが平等で健康に暮らすための世界をつくることを目指している。
Prosperity(豊かさ)
目標7. クリーンエネルギー、目標8. 経済成長と雇用、目標9. 産業、目標10. 不平等の廃絶、目標11. 居住地(まちづくり)
これらは自然と調和した経済活動を続け、住み良い環境を作るための目標だ。技術発展のみを追い求めるのではなく、働きがいや生きがいを感じ、バランスのとれた快適な生活を送られる世界の実現を目指している。
Planet(地球)
目標12. 持続可能な消費と生産、目標13. 気候変動の抑止、目標14. 海の多様性、目標15. 陸の多様性
これらは地球環境を守り、維持してくための目標だ。限りある資源を有効活用し、私たちの暮らしがこれからも持続していくため、また生物や植物の多様性を維持し、未来に豊かな環境を残していくための課題が定められている。
Peace (平和)
目標16. 平和と公正
国や地域の戦争、紛争や民族の迫害をなくすための目標だ。戦争に加え国際的な殺人や子どもに対する暴力など、日常的な生きる権利の侵害を防ぎ、誰もが平和を享受できる社会の実現を目指している。
Partnership(パートナーシップ)
目標17.パートナーシップ
これはSDGsを達成するにあたり世界に人々が協力して問題あたることを求める目標だ。国同士だけでなく、企業や学校・家庭といった組織内でも、役割を分担し協力しあうことの重要性をうたっている。
TOPIC 「行動の10年」で
私たちがやるべきこと
SDGsの達成の期限は、2030年。2020年からの残り10年は「行動の10年(Decade of Action)」と呼ばれている。課題解決のスピードを速め、取組みの規模を拡げていくため、アクションを起こすことが期待されているのだ。
「持続可能な開発目標」という難しい言い回しでハードルは高く感じられるが、そのなかには、わたしたちが日々の生活で感じている違和感や問題が含まれていることも多い。SDGsの17の目標をひとつひとつ理解していくことで、わがごととして捉えられる機会も増えるはずだ。
2015年の採択から5年、日本でも政府の呼びかけによりSDGsの理念が浸透しつつあるいま、次世代に持続可能な地球を残していくためには、大切なのは、一人ひとりがSDGsを意識し、自身の手の届く範囲からでも、アクションを起こしていくことである。そのためにも、まずはSDGsの17の目標とそれに紐づけられた169のターゲットと232の指標をしっかりと確認しておこう。
TOPIC 日本政府の取り組み
日本国内でもSDGsの達成に向け、政府だけでなく民間企業や個人によって多くの取り組みが行われてきた。政府の取り組みを例にとると、2016年より内閣に「SDGs推進本部」を設置し、毎年2回政策会議を実施するとともに、目標達成に向けた政策を取りまとめた「SDGsアクションプラン」を発行している。
なかでも特筆すべき取り組みが、SDGsの達成に積極的に取り組む都市を選定する「SDGs未来都市」である。日本全体がSDGsの達成に意識を向けるため、2018年から2020年までの間に各都市から「SDGs未来都市」として選定するものとしてスタートした。現在は2024年末までに累計210都市を選定すると発表されている。これまでも、なかでも特に先導的な「自治体SDGsモデル事業」には上限3,000万円の補助金が交付されている。
こうしたSDGs達成の取り組みは着実に実を結び始めており、2020年における日本のSDGsの達成度は、166カ国中17位。アジアではトップクラスの達成度となっている。
しかし内訳では、目標4. 教育、目標6.水と衛生、目標9. 産業に関しては高い達成度を示しているものの、目標5. ジェンダー平等、目標10. 不平等の廃絶、目標13. 気候変動の抑止、目標14. 海の多様性などに関しては、その取り組みの強化が強く求められている。
TOPIC 国連の取り組み
世界各国や国際機関の中でも、SDGsの達成に向けた取り組みは数多く推進されている。SDGsの採択の要となった国連では、全ての国連機関が活動を推進しているが、そのなかでもUNDPが主要で動いている。さまざまな動きをしているなかで、企業への影響を発揮しているのが、国連グローバル・コンパクト。これは、参加する企業や団体がそれぞれリーダーシップを責任と創造性を持って発揮することで、実現可能な成長に近づく取り組みだ。
さらに2018年には各国の主要な報道機関にも参画を呼びかけて「SDGメディアコンパクト」を設立した。参加メディアには、SDGsに関する話題が挙げられるほか、国連から優先的に情報提供が行われる(※7)。参加メディアから得られる情報は、SDGsの目標の達成に向けてわたしたちの知識を深め、対話を促し、社会課題解決の行動を起こす手助けになるはずだ。なお、このコンパクトには、世界から参加している約180社のうち、80社以上が日本からの参加だ(2021年5月時点)。
また、国連の機関は、各管轄が管轄分野に関わるデータを出している。例えば、国際労働機関(ILO)は世界の雇用や労働環境など、国際連合国際児童緊急基金(UNICEF)は子どもの健康や学習など、WFPは世界の食料問題などにかかわる統計を扱う。こうした情報は、わたしたちが住むこの世界全体について知る手がかりになる。わたしたち一人ひとりがいち消費者の視点から国連の情報を逐一見ることで、SDGsに挙げられるような課題をに対する行動のとり方が見えるようになる。国連は単なる政治的な機関なのではなく、わたしたちの世界の窓であり、アクションにヒントを与えてくれる存在なのだ。