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ファストファッションの台頭で大量生産・大量廃棄が当たり前になり、製造時の環境負荷の高さも指摘されるアパレル業界。そのため欧米を中心にファストファッションを規制する動きがあり、「スローファッション」に注目が集まっている。スローファッションの特徴とは何か、意味やその背景を紹介する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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スローファッションとは、環境、製造にかかわる人の人権、動物などに配慮しながら、
使用する人が「本当にいい」「本当に必要」と思ったものだけを厳選して、「長く大切に愛用する」ファッションの楽しみ方のこと。トレンドに流されたり踊らされたりせずに、上質で丁寧につくられたものを選ぶ。
スローファッションと相反するのが、ファストファッションだ。ファストファッションとは、トレンドを取り入れたアイテムを短いサイクルで大量につくり低価格で販売する業態のこと。
日本ではファストファッションのブランドが2000年代後半頃から急速に増え、2009年には「ファストファッション」が新語・流行語大賞トップ10に選ばれるほどの一大ブームとなった。
だが、ファストファッションの影にあるのは、大量生産・大量消費を促すスタイルであること。大量に売れ残った製品が存在し、低価格で生産されるため労働者の労働環境や人権の問題もある。それと真逆にあるのが、スローファッションと言える。
まとめると、以下がスローファッションとファストファッションの違いだ。
・価格:ファストファッションは安価で手に入りやすいが、耐久性が低い。スローファッションはやや高価でも、長く着られる。
・消費サイクル:ファストファッションは流行に合わせて短期間で買い替える。スローファッションはお気に入りを長く使う。
・環境負荷:ファストファッションは生産時の環境への負担が大きい。さらに大量生産によって大量の廃棄が生まれている。
スローファッションと似た言葉に、エシカルファッションがある。エシカルファッションとは、原料の調達、生産、流通といった過程で、エシカルな視点が配慮されてつくられたファッションのこと。
エシカルとは倫理的の意味で、環境への負荷や労働者の人権、動物福祉といったことも配慮する。スローファッションもエシカルファッションも厳密な定義はないが、どちらも近い意味であると言える。
スローファッションで使われるのは、オーガニック素材、天然素材、リサイクル素材など。原料生産時の農薬や化学肥料の使用を極力控え、さらに生産工程での汚水による土壌汚染、水質汚染なども抑えられるようにしているものも多い。また、ひとつのアイテムを長く使うため、短期間の使用で廃棄するようなことがなく、廃棄物による環境への負荷も軽減できる。
ファストファッションは驚くほどの低価格で販売されており、その価格を実現するためには、劣悪な環境下で低賃金で労働を強いられている人がいる可能性が高い。この実態に世界が注目したのは、2013年にバングラデシュで起きた「ラナプラザの悲劇」がきっかけ。ラナプラザと呼ばれる商業施設には縫製工場がひしめき、多くの人が労働していたが、ビル崩壊の兆しがあったにも関わらず、そのまま労働させられ、ビル崩壊によって多くの人の命が奪われたのだ。
スローファッションでは、このような悲劇が二度と起きないように、ファッション生産に関わる人の人権にも配慮している。
アパレル製品には、動物の皮革が使われてきた。だがアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から、世界のラグジュアリーブランドが「ファーフリー宣言(毛皮を使用しない宣言)」することが増え、これらの皮革を使用しないファッションが主流になってきた。スローファッションもこのような動物の皮革を使用しない。
ファストファッションは、トレンドにあわせて安いものを購入するスタイル。だがトレンドが終われば、そのアイテムは着なくなる。それに対して、スローファッションはトレンドにはこだわらず、時代が変わっても長く使えるアイテムを大切に愛用していく。
そのためアイテム一つひとつの価格を比較すると、ファストファッションよりも高く見えるが、長期的にみれば決してそんなことはなく、むしろコストパフォーマンスがいい。スローファッションは、「賢く選んで長く使う」スタイルだ。
スローファッションの基本は、衝動買いはせず、本当に必要なものだけを選んで購入すること。流行やセールに惑わされず、手持ちの服とコーディネートできるか、長く着られるかを基準に選ぶ。クローゼットで「長いこと着ていない服」ができるだけないように、不要なものは買わない姿勢が大切だ。
ファストファッションはトレンドを追いかけるスタイル。周囲の人と似たような服が増えてしまうかもしれない。一方、スローファッションは逆に、本当に気に入ったものをじっくり選ぶスタイル。流行に左右されにくいシンプルで上質なデザインが多いため、長く着ても飽きることはなく、組み合わせしだいでさまざまなコーディネートを楽しめる。
結果として、自分の「定番アイテム」ができ、着る服に一貫性が出てきて、「自分らしいスタイル」を確立することにつながる。流行に振り回されるよりも満足度が高くなると期待できる。
アパレル産業は石油産業に次ぐ「世界第2位の汚染産業」と言われる。この理由のひとつは、売れ残ることが前提でつくられ、売れ残りは廃棄されていること。また、製造工程でも廃棄がたくさん出て、さらに消費者も不要になったら簡単に廃棄することも理由にある。
また、生地の製造には大量の水と化学薬品が使われ、染色や加工の過程で有害物質が河川や土壌を汚染する。ポリエステルなどの合成繊維は洗濯のたびにマイクロプラスチックを排出し、海洋生態系にも影響を与える。
さらに、生産から輸送、販売に至るまでのサプライチェーン全体で大量のエネルギーを消費し、CO2排出の主要な要因にもなっている。このようにファッションは、見えないところで深刻な環境負荷を与えているのだ。
ファストファッションの拡大によって、消費者が短期間で着なくなった服は「ごみ」となり、リサイクルされるどころか、アフリカやアジアなど途上国に大量に輸出されるケースが増えている。
一見「リサイクル」されているように見えるが、現地では受け入れられない質の低い衣類も多く、最終的には埋め立てや不法投棄につながり、環境汚染や生活環境の悪化を引き起こしている。
こうした背景を受け、ファストファッションを規制する動きが出てきている。例えば、フランスでは2022年1月より売れ残った衣料品の廃棄が禁止された、2025年にはウルトラファストファッションと呼ばれるブランドに対する罰則法が規定された。
日本でも環境省が「サステナブルファッション」への意識啓発を進めるなど、変化の兆しが見られる。こうした国際的な動きは、消費者にも「安さや早さ」ではなく「持続可能性」を基準に服を選ぶ重要性を問いかけている。
スローファッションの流れはヨーロッパを中心に世界各地へ広がっている。とくに注目されるのが、2025年6月にフランス・マルセイユで初開催された「スローファッションウィーク」だ。華やかなパリコレのようなショーではなく、リサイクルやアップサイクル、古着の活用、修理・刺繍のワークショップなど、すでにある資源を生かす実践型のイベントだった。
また、欧米を中心に「いまある服を修理して長く着る」価値観も広がっている。リペアやリメイクをおこなう「RE.UNIQLO STUDIO(リ・ユニクロ スタジオ)」は世界17店舗(2023年6月時点)に拡大。パタゴニアはオランダやロンドンに修理センターを開設するなどしている。
こうした国際的な動きは、流行を追うファッションから「環境・人・地域」を大切にするファッションへの転換を象徴している。スローファッションは、単なるトレンドではなく、持続可能な未来を築くための世界的なムーブメントになりつつあるのだろう。
日本でもスローファッションへの関心は少しずつ高まっている。例えば、ファッションブランドが主導する「古着回収プログラム」では、不要になった服を店頭で回収し、リユースやリサイクルに活用する試みが進んでいる。
衣類を中心に回収・選別・再流通までを行う「ECOMMIT(エコミット)」の回収拠点は
全国4,000カ所以上になり、ユニクロ、無印良品など、回収を行う店が着実に増加。
ELEMINISTが行ったアンケート調査では、96.9%の人が「洋服をリサイクルしたことがある」と回答しているように、不要になった衣類は廃棄ではなくリサイクルという選択肢が一般化しつつあるようだ。
スローファッションは、環境への負担を減らし、つくり手を守りながら、自分らしいスタイルを楽しめる新しいライフスタイルだ。大量消費や使い捨てが当たり前になった現代だからこそ、「長く大切に着る」というシンプルな姿勢が見直されている。
まずは、大量生産・大量消費のあり方がどのようなものなのか、それによってどのような問題が生じているのか知り、スローファッションの良さに目を向けてみよう。
そんなスローファッションを取り入れた暮らしでは、きっと心地いい毎日を送れるに違いない。
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