なぜアパレルが「世界2位の汚染産業」なのか? 大量生産・大量廃棄が生まれた背景と問題は

ハンガーにかかった洋服

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ファストファッションの台頭による大量生産・大量廃棄、製造時の環境負荷など、課題が山積みのアパレル業界。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、アパレル業界は世界で第2位の汚染産業とみなされている(※1)。 本記事では約30年間アパレル業界に従事したBPLab(ビーピーラボ)の渡邉桂子氏に、業界の問題を伺った。今回、アパレル業界の問題を紐解いていくのは、化粧品業界に約25年携わってきたサキュレアクト代表の塩原祥子氏。アパレルと化粧品は、同じトレンドを追ってきた業界同士、似たような課題も多いという。各業界が抱える課題の共通点・相違点についても注目してほしい。

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2024.12.17

アパレル業界の変化と現状 約30年で市場は半減、なのに供給数は2倍・価格は下落の矛盾

糸

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渡邉氏がアパレル業界に就職したのは1990年。バブル景気の真っ只中、アパレル業界の市場規模がピークに達した頃だった。

「当時は、日本でデザイナーズブランドやキャラクターズブランドが台頭し始めて少し経った頃。それまでは服といえば海外製がメインでしたが、日本でデザインされたものが流通し始めました。自分らしさを表現する一番の手段がファッションだった時代です」と渡邉氏。消費者の視点では「ご飯を我慢してでも服を買っていた」そう。「『ほしい!』という欲求が爆発した時代」と当時を振り返る。いまとは服に対する考え方がまったく異なっていた。

アパレルの市場規模は1991年に15.3兆円でピークを迎え、以降は減少傾向。2000年代以降は横ばいで推移するものの、コロナ禍の影響を受け、さらに減少。2022年時点で8.7兆円と、ピーク時の半分近くまで落ちている(※2)。

一方、アパレルの国内供給数は1990年に約20億着だったのに対し、2022年には約37.3億着と、2倍近くに急増。さらに、衣料品の小売価格は1991年の値を100とすると、2022年時点で半分以下のアイテムも(※2)。つまり、過去約30年で市場が半分近くに縮小しているにも関わらず、供給数は2倍近くに増え価格が格段に低くなったことが見て取れる。

「1990年代の頭頃は、服は並んで買うのが当たり前。セール時には店頭の服が空になることもめずらしくありませんでした。メーカーが消費者の欲求を埋めるために『足りないからつくる』というのを30年間続けた結果、当時は100%近くだった消化率(製造した数に対して消費する数の割合)がいまでは40%台程度まで下がっています(※3)」と渡邉氏は語る。

時代とともに需要と供給のバランスが取れなくなったのは、化粧品業界も同じだ。アパレル業界では、2000年代後半に、日本にファストファッションブームが訪れた。化粧品業界では、プチプラコスメや韓国コスメが流行するようになった。

「30年前というと、化粧品業界では大手がメインだった時代。化粧品を製造する会社がここ10年くらいで急激に増え、それに伴い、供給過多に拍車がかかりました。服もそうですが、1990年代はいまよりずっと化粧品の値段が高かった。だからこそみんな、夢と希望をもって大事に使っていたと思います」と塩原氏は話す。

「アパレルが環境汚染産業」と言われる理由は?

途上国の服のごみの山

アパレル業界が世界2位の汚染産業と言われるのにはさまざまな理由がある。例えば、製造時の水の消費や、マイクロファイバー流出による海洋汚染などもそのひとつ。CO2の排出量に関しては、航空業界と海運業界の合計より多いというデータもある。(※1)

廃棄が前提の製造構造とサイクル

なかでもとくに深刻視されている問題は、廃棄による環境負荷だ。

「アパレル業界では基本的に、在庫をある程度残す前提で製造しています。ブランドによって方針は違うと思いますが、少なくとも私がアパレル業界にいた2016年頃は、プロパー消化率50%程度で計画を立てていました」と渡邉氏。

つまり、半分は売れ残ることが前提でつくられているということ。製品が売り切れると、ビジネスチャンスを逃すことになるからだ。これは「欠品は悪と捉える化粧品業界にも共通している。

ファストファッションの台頭により、製造サイクルが早くなった点も在庫過多につながっている。「世界的なラグジュアリーブランドなど、本来服は1年以上かけて長いスパンでつくるのが当たり前。それがいまは業界全体でどんどん短くなってきています。一概には言えませんが、日本の大手アパレルでは半年くらい。もっと短いブランドもたくさんあります。最近は、1ヶ月に1回スパンで店頭在庫が入れ替わるようなブランドも多いですよね?」と渡邉氏は問いかける。

余った在庫は、セールやアウトレットで3年程度で売り切れればいいが、すべてを0にするのは至難の業。二次流通業者にわたす方法もあるが、在庫が市場に滞留するとブランド毀損につながるため、できれば避けたい。「燃やしたり埋め立てたりして廃棄するのが、ブランドにとって、もっとも手っ取り早いという考えに落ち着いてしまう」という。実際、大量の売れ残りを廃棄していることが明るみになり批判を受けたブランドもある。

このような社会の流れから、フランスでは売れ残った服の廃棄を禁止する法律ができた。また近年は、廃棄の手段を取らず再資源化を模索するブランドも出てきた。「売るか、捨てるかの2択だったところに、リサイクルの考えが出てきたのがここ3〜4年の話です」(渡邉氏)

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寝具メーカーのイワタ、浅野撚糸とBPLabが共同でつくった、裁断くずからできたタオル「IWATA RENMEN©︎」

従来廃棄していた裁断くずをリサイクルしてつくったタオル「IWATA RENMEN©︎」。BPLabが、寝具メーカーの「イワタ」、撚糸・タオル製造販売の「浅野撚糸」と共同でつくった。

私たち消費者に見えないところで、糸や生地といった原料の廃棄も起きている。従来は、服の製造は、原料を確保し、オリジナルの生地をつくるところからスタートしていた。しかし、製造サイクルが格段に短くなりあらかじめ原料を確保しておくケースが増えている

「服で余らせるより生地で余らせるほうが、縫製代がかからない分、生産コストを削減できます。廃棄というと、どうしても服としての廃棄を思い浮かべてしまいますが、生地を廃棄しているケースも多いのが現状です」(渡邉氏)

さらに、消費者の廃棄も多い。環境省のデータによると、1年間に購入される服は1人あたり約18枚。対して手放す服は約15枚、着用されない服は35枚。多くの服が消費され、簡単に手放されていることが伺える。手放す手段としては、可燃ごみ・不燃ごみとしての廃棄がもっとも多く、68%を占める。

服がごみとして出された場合、再資源化されるのはわずか5%程度。残りの95%は焼却・埋め立て処分され、その量は年間約45万トンにもおよぶ。これは、毎日大型トラック約120台分に相当する約1200トンが焼却・埋め立て処分されている計算だ(※4)

日本で不要とされた衣料品が海外に輸出され、発展途上国の環境を蝕んでいる事実も知っておくべきことだ。古着は多くの場合、日本やヨーロッパなどの先進国から発展途上国に送られる。必要なアイテムだけが抜き取られながら複数の国を経由し、最終的には発展途上国のごみとなり、砂漠に埋め立てられたり、そのまま放置されたりする

「海外輸出後のごみ問題は、ファストファッション化で商品寿命が短くなったことも大きく関係しています。発展途上国に到着した時点で、すでに使い物にならないようなものも多いのが現状です」と渡邉氏は嘆く。

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化粧品業界でも廃棄の問題が深刻だが、「企業が時代の早さだけについていこうとした結果」だと塩原氏は言い、こう続ける。

「アパレルも化粧品も大量生産・大量廃棄で、『早く早く、次へ次へ』という状態。その点では同じです。ただ、アパレル業界では少しずつ再資源化の話が出てきていて、いまとは違った時代がやってくるような印象を受けます。一方、化粧品業界は法律が変わらない限り、いまのまま大量生産が続いていて、結局ごみとなるものをつくり続けているだけ……というような気がします」(塩原氏)

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消費者には見えない人権に関する課題も

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持続可能な社会において重要なのは、環境問題だけではない。2013年に発生した「ラナプラザ崩落事故」は、煌びやかなアパレル業界の裏側を世界に知らしめた。

「アパレルというとどうしてもモノに焦点が行きがちですが、サステナビリティの基本には人権があります。そこに目が向いたのは、ラナプラザの事故からだったと思います。日本のアパレル業界での衝撃も大きく、きちんとした労働環境のもと、適正な価格で製品をつくっているかが意識されるようになりました」(渡邉氏)

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ラナプラザ崩落事故によってアパレルの労働問題は大きく知られることになったが、「実は化粧品業界にも、目に見えない労働問題が多く残されている」と塩原氏は話す。

「例えば、ラメのような光沢感を出すために使われるマイカという鉱物。発展途上国では、鉱山に堀った小さな穴に子どもが入って採取しているという。生活苦にあえぐ途上国の人たちが一生懸命採った原料を、他国の業者が買い叩いている現状があるんです。私たちには見えていない、そういうことが、化粧品業界には往々にしてあります」(塩原氏)

アパレルのリサイクルの問題 回収された衣類が繊維に戻るのはわずか1%

「廃棄がダメなら、リサイクルすればいい」と考えるのは自然だが、簡単なことではない。消費者が手放した衣類がリサイクルされる割合は15%、海外輸出を含むリユースは19%と決して多くない。残りの66%が焼却や埋め立てによって処分されているのが現状だ(※4)。

というのも、リサイクルと聞くと「服が回収されて、それが再び服になる」と思われやすいが、回収された衣類が繊維に戻るケースは全体のたった1%程度しかない。近年、リサイクル素材でできたものが増えてきたが、リサイクルポリエステルは主にペットボトルから、リサイクルコットンは使わなかった糸や工場の端材などからつくられている。

「さらに、リサイクル素材は海外で出たペットボトルごみなどを原料に使っていることが多く、その場合、海外の廃棄物を買っているのと同じなんです」(渡邉氏)

リサイクルにはコストと手間がかかる 製造時から「循環しやすさ」を考えるべき

日本で服から服(繊維to繊維)のリサイクルが進むためには、「回収・分別・素材のクオリティ・消費者の意識」の4つの変化が必要であると渡邉氏は考える。

まずは、回収する量を増やすことが必要だ。そして、次に分別の工程。現在出回っている服は、コットン100%でも洗濯表示タグがポリエステルだったり、ポリエステル100%の表示があるのに縫い糸がコットンだったり、さまざまな素材が混合しているのが一般的で、これではリサイクルしにくい。

BPLabが提携しているリサイクル工場では、リサイクル後によりニーズにあった資源として活用するため、「綿100%のシャツ、赤いシャツ、黒いシャツ……」という具合に、集められた衣類を種類・素材・色などで300品目近くまで細かく分別しているという。しかし、それだけの作業をできる工場は限られてしまう。使用後のリサイクルのことまで考えた、「リサイクルしやすい服づくり」が必要だ。

さらに、繊維に戻るところまで到達したとしても、「服に戻せる技術は、正直まだまだ。いまのところ、服から服へのリサイクルは難しい」という。そして、最後に消費者の意識の面でも、リサイクル素材に対してポジティブなイメージや考えが欠かせない。

塩原氏も「リサイクルには手がかかることを消費者はもっと理解したほうがいい」と訴えた。

いま現在、日本で衣類の循環ができているとは言い難い。それでも、国内で回収した衣類をリサイクルしようという動きが、ここ数年で増えてきている。

またあまり知られていないが、衣類のリサイクル後の姿として一番多いのは、車の内装材だ。車の内装材や工場で使うウエスには、ずっと前から業界では当たり前のこととして、古着が活用されているという。そのほか、イスの張りやカーテンなど、インテリア雑貨にも戻り始めている。品質保持のために、バージン素材にリサイクルコットンを20〜30%混ぜる形で、一部は服にも戻りつつあるそうだ。

「行きすぎた欲求」に応え続けた結果、変わってしまったアパレル業界 私たちにできることは?

女性と服

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企業の過剰生産と消費者の行きすぎた消費行動が、環境に負荷をかけている」と渡邉氏は考える。

「バブルから現代まで、産業が『行きすぎた人々の欲求』に頑張って応え続けてきたんです。その2大巨頭がアパレルと化粧品。1990年から現在までの30数年、選択肢ができて、デジタルの普及でものが買いやすくなって、私たちは豊かな生活ができるようになりました。その背景で、循環しないものづくりや廃棄が起きている。地球に負荷をかけています」(渡邉氏)。

私たちに必要なのは、「行きすぎている」ことに気づくこと。塩原氏はこう話す。「欲求とのバランスが大事。本当にほしいものを高く買って大事に使うという、少し昔のスタイルに戻れたら……と思います。『ものを買いすぎている』部分に関して立ち戻ったほうがいい。消費者は『本当に必要か?』冷静に考えるようにしてほしいです」(塩原氏)

また、企業の姿勢も問われるという。「環境を考慮すると、企業がもっと考えるべきところがあります。消費者の欲求に応えるだけが素晴らしい企業ではないというフェーズにきているのかもしれません」とも語った。

捨てない選択を当たり前に 衣類&雑貨は回収ボックスへ

ロフトの衣類回収ボックス「BIOLOGIC LOOP(ビオロジックループ)」

ロフトの主要8店舗に常設でおいている、「BIOLOGIC LOOP(ビオロジックループ)」の回収ボックス。

服にせよ、化粧品にせよ、まずは買う前に立ち止まり、本当に必要なものだけを購入することが大切だ。そのうえで、大事に使うこと。不要になった際は、安易にごみに出すのではなく、分別できる物は分別しよう。アパレルの場合は、リサイクルやリユースを検討することが地球環境のためのアクションになる。

不要になった衣類や雑貨の回収なら、「BIOLOGIC LOOP(ビオロジックループ)」や、「R-LOOP(アールループ)」がある。

どちらもBPLabが資源の循環のために提供しているプラットフォームで、「BIOLOGIC LOOP」では衣類や繊維製品全般を回収。「R-LOOP」はブックオフと提携し、衣類だけでなく、ベビー用品やバッグなど雑貨も回収し、集まった雑貨はブックオフのアジア直営店で適正に販売される。

衣類は、BPLabの契約工場で分別・処理が行われ、マテリアルリサイクルにより活用される。燃やしたり埋めたりしない100%リサイクルを約束し、証明書を発行することで、回収の後のトレーサビリティが確保されている。

衣類・繊維製品全般の回収「BIOLOGIC LOOP」

回収対象:衣類(肌着・布マスク・濡れているもの等は対象外)
回収場所:ロフト主要8店舗、イオンモール130店舗(幸服リレー開催)、日産スタジアム(横浜F・マリノス主催ホームゲームの際に常設)等

衣類・雑貨の回収「R-LOOP」

回収対象:衣類、ファッション雑貨、生活雑貨、おもちゃ
回収場所:ブックオフ店舗、東横イン(全国30ホテル程度)、相模原市役所等

衣類・雑貨の回収「R-LOOP」

いまの地球に必要なのは、限りある資源を有効活用し、ごみを減らすこと。そのためには、いまあるものをリサイクルすることが一層大切だ。私たちが衣類や雑貨などをリサイクルするときは、ぜひ信頼できる回収ボックスを活用しよう。

取材協力
BPLab(ビーピーラボ)渡邉桂子取締役
1990年にアパレル企業に就職し、フランスのライセンスブランドや大手総合アパレル企業、百貨店などで30年以上にわたりアパレル業界に従事。業界が抱える問題に触れ、サーキュラーエコノミーへの移行の必要性を実感し、2021年にBPLabを創業。2023年から取締役に就任。循環型社会を目指すべく、複数のプラットフォームやシステムを提供している。
BPlab https://www.bplab.info/

circuRE act(サキュレアクト)塩原祥子代表
広告代理店やスタートアップなどで25年にわたり、化粧品の製品企画に従事。微細藻類と出合い、「原料を通して化粧品業界を変えたい」との想いのもと、2023年3月にサキュレアクトを創業。サステナブルな化粧品の提案を通して、循環型社会の実現を探究している。海洋汚染を減らすプロジェクト「team 530」として、定期的にビーチクリーン活動も行う。
サキュレアクト https://circureact.com/

※掲載している情報は、2024年12月17日時点のものです。

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