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トレンドに合わせたファッションを楽しめる「ファストファッション」。デザインが豊富で低価格というメリットがある一方で、大量生産・大量消費の産業構造が問題視されることも多い。その歴史や問題点とともに、ファッションの未来について、改めて考えてみよう。
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ファストファッション(fast fashion)とは、トレンドを取り入れた衣料品を、低価格で、短いサイクルで、世界的に大量生産・販売するファションブランドやその業態のこと。安くて早くて手軽な食事を意味する「ファストフード」をなぞらえた造語である。以下で、ひとつずつポイントを見ていこう。
ファストファッションのアイテムは、ハイブランド等のコレクションや展示会、街での流行り、売れ筋のデザインなどの最新情報を基につくられるため、最新のトレンドが常に反映されているのが特徴。それらを手軽に取り入れられることが魅力で、世界的に売り上げを伸ばしている。ファッションを存分に楽しみたい消費者のニーズに応える形で生まれた業態といえる。
ファストファッションは、「fast(早い)」という意味の言葉がつく通り、商品展開の早さが特徴だ。最新のトレンドを取り入れた程よい品質の商品を短期間で売り切って、どんどん新しく入れ替える。
ファストファッションを手がける会社は、SPA(製造小売業)の形態をとっているケースが多い。企画から販売までを自社で完結させることで、スピード感のある提供が実現している。短期間でトレンドを反映できる理由も、ここにある。
ファストファッションは、定義に細かな条件こそないものの、数百円から数千円程度の低価格で販売されている。低価格を実現できる理由はさまざまだが、人件費の削減や大量生産によって1着あたりのコストを削っている点が大きい。
また、上述したように、SPAの形で仲介を挟まずに製造しているのも理由のひとつだ。
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ファストファッションが日本で台頭したのは、1990年代初頭のバブル崩壊がきっかけとも言われている。ハイブランドが勢いを失い、その代わりにシェアを拡大していったのが、低価格が売りのファストファッションブランドだ。
1990年代後半には、スペイン生まれの「ZARA」やアメリカ・サンフランシスコ生まれの「Gap」が、それぞれ渋谷と銀座に日本初の店舗をオープンしている。1984年にカジュアルウェアの店として1号店をオープンさせた日本生まれの「ユニクロ」も、1994年頃にSPA(製造小売業)の形態に移行し、1998年にはその代名詞ともいえるフリースが話題となった。
そして、日本にファストファッションブームが訪れたのは、2000年代後半のこと。スウェーデン発の「H&M」やアメリカ・ロサンゼルス発の「Forever 21」といった外資系のファストファッションブランドが相次ぎ初上陸し、ファストファッション人気が加速していった。2009年に、「ファストファッション」が新語・流行語大賞トップ10に選ばれたことからも、当時の注目度の高さがうかがえる。
世界においては、中国発の「Shein(シーイン)」が2008に登場し、急成長を遂げている。米国のファストファッション市場において、シーインの市場占有率が2020年3月から2022年までに倍以上に増え、トップシェアを誇っている。(※1)
世界のファストファッション市場は拡大を続けており、2022年時点で1,060億米ドル以上に達したと推定され、2027年には約1,850億米ドルに達することが予測されている(※1)。
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低価格でトレンドのファッションが楽しめる点が魅力のファストファッションだが、近年は問題視する声もあがっている。
その理由の1つに、環境への負荷がある。製造や輸送、販売といった、生産工程におけるそれぞれの段階で、環境問題を引き起こしているのが現状。ファッション業界はしばしば環境負荷が大きい産業だといわれるが、なかでもファストファッションに起因する環境負荷は深刻だ。
服を製造するためには、原料の調達からはじまり、紡績や染色、縫製などさまざまな工程を踏んでいる。ファストファッションは、大量生産することが前提のビジネスモデルであるため、製造の際に必要な資源やエネルギーが必然的に多くなる。また、大量廃棄により、資源が無駄になるのも問題だ。
洋服の製造過程では、大量の水が使われる。とくに、原料の栽培や染色では、大量の水を必要とする。環境省のデータによると、原料調達から製造までに消費される水の量は、業界全体で年間約83億㎥。服1着に換算すると約2300L。浴槽約11杯分に相当する。(※2)
また、加工の段階で使用される化学物質が川や海に流れ込むと、自然界で分解されることはなく、水質汚染や海洋汚染の原因となる。消費者の手に渡ってからも、洗濯時に、化学繊維のくずがマイクロプラスチックとして海に流出する。下水処理で処理しきれずに、そのまま海に流れている現状がある。
洋服の製造には、多くの石油資源が使われており、原料調達時や工場でのCO2の排出量も多い。製造プロセス全体における年間のCO2排出量は約90,000ktとされ、服1着あたりでは約25.5kg。500mlペットボトル約255本製造分に値する。(※2)
ほか、化学物質が放出されることによる、大気汚染も懸念されている。
ライフサイクルが短いファストファッション衣料は、大量廃棄につながりやすい。古着としてリユース、回収されてリサイクルするという方法もあるが、多くの服がごみとして廃棄されているのが現状。環境省の2022年度調査によると、服を手放す際の手段として「可燃ごみ・不燃ごみとして廃棄」を選ぶ割合は68%だった。ごみとして出された服は、焼却処分や埋め立ての対象となる。日本国内では、毎日大型トラック120台分(1,200t)の衣服が焼却・埋め立てされている。(※2)
衣料品廃棄は、日本だけではなく、世界的にも問題だ。ケニアには、世界各国で売れ残った服がたどり着く“服の墓場”と呼ばれる地域がある。大量の古着が再利用やリメイク等で運用され、使えない服はごみとして埋め立てられるが、そのまま川に捨てられるケースもあるという。詳細は以下の記事から確認できるので、ぜひチェックしてみてほしい。
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ファストファッションは、低価格と短いサイクルを維持するために、さまざまな工夫が行われているが、それが労働問題に発展しやすい傾向にある。
ファストファッションの低価格を維持するために、多くの労働者が低賃金で働いている現実がある。世界のファッションブランドが、安い人件費を求めて、東南アジアや中国、インドなどのアジア圏を製造拠点にしており、安価な労働力に依存している。
ファッション業界の過酷な状況を知らしめることとなった事件に、2013年4月24日にバングラデシュの都市サバールで起きた「ラナプラザの悲劇」がある。ファストファッションブランドの縫製工場が多数入居していた商業ビル「ラナプラザ」が崩落し、1,100人以上の死者、2,500人以上の負傷者、500人以上の行方不明者を出した事件だ。このラナプラザの悲劇の犠牲者は、低賃金で働かされていた若い女性が多かったとされる。
ファストファッションの大量生産を支えるために、多くの労働者が長時間労働を強いられているのも問題だ。児童労働や強制労働の問題とも絡んでおり、産業構造の見直しが求められている。
ラナプラザの悲劇では、労働者たちの劣悪な労働環境も浮き彫りになった。崩落したラナプラザは、違法な増改築を繰り返し、危険な状態で操業を続けていた。崩落の誘因は、縫製工場の発電機やミシンの振動だったとされている。ラナプラザの悲劇は、劣悪な環境での長時間労働が常習化した結果、起きてしまった痛ましい事件だ。
ファストファッション業界の問題を解決する動きが加速し、さまざまな企業が取り組みを進めている。先述した「ZARA」や「H&M」、「Forever 21」、「Gap」、「ユニクロ」はともに古着回収プログラムでリユース、リサイクルに力を入れ、「SHEIN」を含めすべてのブランドで、製造段階において環境負荷が押さえられたサステナブル素材の利用を進めている。
また、世界には、政策によって業界の改革を後押ししている国もある。以下でひとつずつ見ていこう。
2024年3月、フランス下院では、ファストファッションに罰則を設ける法案を可決した。環境や社会への影響を考慮しての決定だ。1商品あたり10ユーロ(約1600円)の罰金を課すほか、ファストファッションの広告を禁止する。
2022年1月には、フランスで売れ残った衣料品の廃棄を禁止する法律が施行された。生産者が廃棄やリサイクルにまで責任を持つ「拡大生産者責任(EPR)」の考えを適用し、繊維廃棄物に対するリサイクルを義務づけた形だ。売れ残った衣料品は、リサイクルか寄付をすることが求められ、違反した場合は最大15,000ユーロ(約190万円)の罰金対象となる。同様の動きが、ヨーロッパを中心に広がりつつある。
EUでは、ファッション業界の持続可能性を高めるための方針を発表した。ファストファッションのような使い捨てを阻止し、サステナブルファッションへ方向転換するための方針だ。2030年までに、リサイクル繊維の使用を義務化し、廃棄を禁止する。環境への配慮のほか、労働問題や人権問題も考慮しての決定だ。
手軽におしゃれを楽しめるファストファッション。一見メリットが多いかもしれないが、多くの犠牲の上に成り立っている現実がある。日々ファッションの恩恵を受けている私たちは、その側面を忘れてはならない。
近年は、ファストファッションからサステナブルファッションに舵を切る動きがあり、さまざまな取り組みが行われている。しかし、私たち消費者の意識が変わらないと、本質的には何も変わらない。必要なものだけを買って、できるだけ長く使う。サステナブルでエシカルな選択をする。そういった心がけが、これからの未来には欠かせない。
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