目に見えないほど小さな「藻(も)」。そんな小さな生物が、未来の化粧品を変える存在になるかもしれない。その可能性を確信し、化粧品などのものづくりへの活用を進めているのが、「circuRE act(サキュレアクト)」だ。「微細藻類(びさいそうるい)」にはどんなポテンシャルがあるのか?そして、私たちの生活にはどんな影響をもたらすのだろう?(※上記画像は藻類のイメージ)
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
「微細藻類」とは、肉眼では捉えられないほど小さなサイズの藻(も)のことだ。藻類は大きく2種類に分類され、大きなものを「大型藻類」、小さなものを「微細藻類」と呼ぶ。大型藻類は、私たちの食卓でもおなじみのワカメやコンブ、モズクなど。一方、微細藻類は大きさが数µm (1000分の1mm)~数100µm(10分の1mm)ほど。ミドリムシやクロレラ、アオミドロなどがあてはまり、目に見えないものも多い。
そんな微細藻類は、食物連鎖の出発点にあたる生物だ。微細藻類を食べる海洋生物、そして海洋生物を食料とする動物たちや私たち人間というふうに、微細藻類が食物連鎖の原点として、地球の生態系を支えている。また、二酸化炭素を取り込み、酸素を排出する光合成を行うことで、私たちが生きるために欠かせない酸素をつくり出している。
「微細藻類が光合成によって排出する酸素の量は、陸上の植物が排出する酸素の量とほぼ同じと言われています。私たちが呼吸で取り込む酸素の半分は、微細藻類由来のものなんです」と、サキュレアクトの塩原祥子代表は話す。
また、微細藻類の死骸が海底に堆積し、数億年もの時間をかけて生まれたのが、石油であると考えられている。地球環境は、目に見えない微細藻類によって支えられているといっても過言ではないのだ。
一口に微細藻類といっても、数十万種も存在するといわれており、特徴はさまざまだ。そのなかで、オイルを多く蓄積する微細藻類があるという。サキュレアクトが注目しているのは、国内外で電気事業を展開するJ-POWERが10年以上前から研究を続けている、そんなオイル蓄積量が多い微細藻類だ。
「微細藻類の一つひとつは顕微鏡を使わないと見えないほど小さいですが、培養して増やすことで次第に水の色が濃くなっていき、培養する条件を変えることによりオイルを蓄積するようになります。約2週間でオイル蓄積量が最大となるため、そこで培養した微細藻類を回収し、蓄積されたオイルを抽出します。そのオイルが、さまざまなものに活用できるんです」(塩原氏、以下同じ)
その代表格が、SAF(持続可能な航空燃料)のようなバイオ燃料だ。バイオ燃料の原料には、サトウキビやトウモロコシなども利用されている。しかし、本来食糧となるものを使うのは、今後食糧不足が懸念されるなか、最適とは言えないかもしれない。その点、微細藻類は食糧と競合しない持続可能なバイオマスとなり得るのだ。
また、地球温暖化の原因となるCO2の削減に貢献できるのもメリット。バイオマス燃料の燃焼時に排出されるCO2は、光合成により大気から吸収されたCO2に由来するため、カーボンニュートラルな燃料といえる。
おまけに、J-POWERが研究を行っている「ソラリス株」「ルナリス株」と名付けられた微細藻類は日本国内で見つけたもので、海水で培養できる。
「人が利用できる淡水は地球上の水の0.008%*ほどといわれるなか、海水で培養できるなら、淡水を使わずに済むため大きなメリットです。しかも、微細藻類は太陽光と水、二酸化炭素、栄養塩さえあって条件さえ整えれば連続的に増殖します」つまり、微細藻類には地球の未来をよりよくする大きな可能性があるというわけだ。
*地球上にある水の量|内閣官房水循環政策本部事務局
微細藻類から抽出・精製したオイル。
微細藻類が産生したオイルは、化粧品の原料としても利用できる可能性があるという。
「化粧品と食品は、同じ原料由来からつくられることが多いです。しかし、将来の食糧不足を考えると、食糧になるべきものから化粧品原料を確保しなくてもいいようにしたいと思っています。そもそも、化粧品の原料の多くは輸入に頼っていますが、持続可能な社会のためにも国産でまかなえるのが理想的。それがCO2排出量削減にもつながります」と塩原氏。
そんな存在となり得るのが、微細藻類由来のオイルだ。ソラリス株・ルナリス株から抽出した「ソラルナオイル**」の生産が軌道に乗れば、国産の微細藻類由来の原料を使った化粧品ができ、化粧品業界のよりよい未来にも大きく寄与することになるだろう。
サキュレアクト創業時の「化粧品業界を変えたい」という塩原氏の想いと微細藻類は、ここでつながっているのだ。
「ソラルナオイルは、化粧品原料に限らず、将来的には洗濯洗剤や食品洗剤にも使ってもらえたらうれしいです。ソラルナオイルを始まりとして、私たちがふだん使っている生活用品が、環境や社会に配慮されたものになっていったらいいなと思っています」
**J-POWERが持続可能な社会を実現するために研究開発を進めてきた微細藻類由来のオイル。
サキュレアクトでは、ソラルナオイルを抽出した際に発生する搾りかす(残渣)の活用も模索中だ。「地球からいただいた恵みをすべて使い切ることに意味がある」と語る塩原氏は、「残渣を捨ててしまうと、CO2を捨てることになるのでやりたくない」と、100%有効活用することを目指している。
ソラルナオイルのもととなるソラリス株とルナリス株は、細胞にガラス質の殻をもっているのも特徴。オイルを絞った後には、残渣として粉末が残る。その粉末の使い道もさまざまだ。
残渣は多孔質の特長を持つため吸湿性にすぐれている。その特徴を活かした陶器などの焼き物。また、建材原料、繊維原料、バイオマスプラスチックなど私たちの生活に広く活用できる可能性があるのだ。
微細藻類から抽出したオイルを化粧品に利用する。その実現に向けた第一歩となるソープが誕生する。サキュレアクトの自社ブランド「530(FIVE THIRTY)」では、これまでに99%天然由来成分を配合したソープ「sea design soap」をつくってきた。
そこからさらに進化を遂げ、ソラルナオイルを配合し天然由来成分100%の石鹸を第2弾として発売。長い時間をかけて研究されてきたソラルナオイルが、はじめて配合されたフェイスソープだ。
すでに販売している「sea design soap」と同様、肌にも環境にもやさしい昔ながらのコールドプロセス製法で、火を使わずに職人が手づくりしている。自然派の洗浄剤を使用し、洗い上がりがしっとり、なめらか。手づくり特有のふわふわの泡立ちで、皮脂や汚れをオフする。
塩原氏がソープをつくる理由は、「家にあるプラスチック製品をひとつ減らしてみませんか?」という提案だという。洗顔フォームや洗顔ジェルを石けんに変えると、プラスチック容器を減らせるだけでなく、製造時の資源の削減や海洋汚染を減らすことにもつながる。
「ポンプやチューブタイプの洗顔料を石けんに置き換えても、それほど不便に感じないものではないでしょうか?この石けんには『きれいな青い海に戻っていってほしい』という想いを込めています。使うたびに、海のことを考えてもらえるとうれしいです」
ソラルナオイルを配合した「sea design soap」は、2024年6月10日よりマクアケで先行注文を受付開始。7月末からは「アットコスメストア(@cosme STORE)」原宿店の店頭で発売予定で、7月25日からは「ELEMINIST SHOP」でも販売される。微細藻類のポテンシャルを応援する意味をこめて、一度手にしてみてはどうだろう?
「微細藻類は生き物なので、さまざまな外的影響を受けて突然増えなくなることもあり、育てる条件を整えることが必要」と語る塩原氏。コンタミネーション(培養時に雑菌や異物が入ること)による培養不良を抑制する培養方法、オイルの蓄積量をもっと増やすなど、まだまだ課題はあるというが、微細藻類にはその小ささとは裏腹に大きなポテンシャルがあることに変わりはない。
ELEMINIST Recommends