化粧品業界に長年関わるなかで、未来には環境負荷が少ない原料が必要不可欠だと感じ、ある原料技術と出合ったことで自ら起業した「circuRE act(サキュレアクト)」の塩原祥子代表。化粧品業界だけでなく、地球環境をもよい方向へ導く可能性がある「未来を変える原料」とは何だろう? サキュレアクト立ち上げの背景や、よりよい未来のための挑戦について紹介する。
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塩原代表が化粧品業界に25年携わって感じたのは、「ごみしかつくっていないかもしれない……」ということだった。約17万個もの返品・累積不良在庫の廃棄を目の当たりにしたときに、大量に製品をつくり大量に廃棄を出す業界のシステムに嫌気がさしたという。「地味な生活に徹するか、環境先進国であるドイツに行くか、と本気で思った」と、化粧品業界からの卒業を決意した際の心境を語った。
年間25億個(※1)の化粧品がつくられている化粧品業界は、供給過多の状態。塩原氏は、その半数近くが廃棄されているのではと推察する。さらに課題は、廃棄の問題だけではない。化粧品の容器にはプラスチックが多く使われ、さらにリサイクルできない複雑な構造になっていることが多く、ごみにするしかないケースが多々あるという。おまけに、化粧品製造において、水以外の原料のほとんどを輸入に頼っているのが現状という。化粧品業界の構造が、地球環境へ与える負荷は決して少なくない。
「問題を知った以上、このまま製品企画は続けられない」と、一度は業界を離れる決意をするに至ったのだ。
藻類(イメージ)
その頃に出合ったのが「微細藻類(びさいそうるい)」だった。微細藻類を研究・活用するプロジェクトを知ったとき、「藻類が人類を救うかもしれないと真面目に思った」と、塩原氏は話す。
微細藻類とは、わかりやすくいうと、目に見えないほど小さな藻(も)。水のなかに生息する生き物で、植物プランクトンのひとつだ。光合成を行い、二酸化炭素を吸収して酸素に変える。地球上の食物連鎖の出発点となる存在だ。
そして、数十万種類もあるといわれる微細藻類のなかには、オイルを多く含むものがある。そのような微細藻類を培養して抽出したオイルは、使い道が多岐にわたり、将来的には油に代わる原料の製造が可能になる見込みだ。つまり、化粧品に配合される油由来成分の代わりに活用できる可能性があるわけだ。
化石燃料の枯渇が懸念されているが、微細藻類は太陽光、水、二酸化炭素、栄養塩さえあれば、連続的に増殖する。「化粧品の原料(基材)としても活用できればいいと思った」と、微細藻類が“未来を変える原料”になる可能性を感じ、微細藻類からの原料開発を進め、さらなる可能性を模索するために、2023年3月にサキュレアクトを創業したのだ。
化粧品業界から離れたいと思っていた塩原氏が、再び化粧品に携わる道を選んだ理由について、次のように話す。
「原料を開発し、化粧品業界の外側から関わる方法もあるのかなと思っています。あとは、世の中に化粧品業界の現状を知ってほしい。これが、いままで色んな角度から化粧品に関わってきた私が、最後に化粧品業界でできることなのかなと思ったんです」
社名のサキュレアクトは「circuRE act」と表記する。「Reduce(削減)」「Reuse(再利用)」「Recycle(リサイクル)」「Responsibility(責任)」「Reconomy(経済活動の再定義)」などの「RE」に、「循環(circulation)」をかけ合わせて考案した。地球のための未来を1から考え直すという想いが込められている。
人間が地球1.75個分もの資源を酷使しているともいわれる現代(※2)。「どんどんものをつくるのではなく、環境に配慮したうえでものをつくることが大前提」だと塩原氏は訴える。サキュレアクトは、私たちが使う資源を地球1個分まで戻し、持続可能な社会を実現するためのアクションを提案していく。
サキュレアクトでは微細藻類を活用する研究とあわせて、海洋汚染を減らす取り組みにも力を入れている。
環境問題と向き合うプロジェクト「team530(チームゴーサンマル)」では、環境問題に関する情報発信や、ビーチクリーン活動を行っている。海岸の清掃活動は、海洋汚染を少しでも減らすために始めた。主な拠点は神奈川県の茅ヶ崎海岸。team530の想いに賛同する「8HOTEL CHIGASAKI」とともに、定期的に活動を行う。
拾うごみとしては、風化して小さくなったレジ袋やパッケージ類、ブイ、網などの漁業関連のごみ、たばこの吸い殻のほか、魚が食べてしまうような細かいものも多いという。
「プラスチックごみは、海岸で拾わない限り、海に入ると分解されずに残ってしまいます。海岸は最後の砦。海岸のごみを見て『生活を見直す』『ごみを出さない』などの行動のきっかけにしてもらえたらうれしい」と塩原氏は話している。
サキュレアクトでは、海洋汚染を少しでも減らす取り組みのひとつとして、自社ブランド「530(FIVE THIRTY)」で肌と地球にやさしい化粧品の提案も行っている。第一弾として販売しているのが、天然由来成分99%配合の「sea design soap」。
洗顔ソープ、ボディソープ、ハンドソープと置き換えて、プラスチック使用量を削減するひとつのきっかけにしてほしいとつくられたものだ。顔・手・体すべてに使えて、1個3cm四方の小ささで約1ヶ月を目安に使用できる。
さらに、肌と環境へのやさしさにこだわり抜くために、「環境問題に起因する原料は使用しない」「パーム油不使用」「クルエルティフリー」など、13のプロダクトポリシーを設定。ここまで厳しいポリシーを掲げているところは、なかなかないだろう。
「化粧品の成分は、海洋汚染につながるものも多いです。水と反応して、最終的にマイクロプラスチックになる成分もあります。環境に負荷をかけてまでつくらなくていいと思っていて、530ではポリシーに反するものはつくらないと決めているんです」と塩原氏は話す。
さらに、配合成分だけでなく、原料や生産地の見える化にもこだわり、配合目的・配合比・原料由来・原産国はすべて公式サイトで確認できる。
私たちの暮らしが便利になったことと引き換えに、地球が悲鳴をあげている。海洋汚染や地球温暖化など、地球がいま抱えている問題は、どれも、私たちが便利な生活を追い求めた結果だ。
豊かな地球を取り戻し、未来へつないでいくためには、環境負荷の少ない生活へシフトしていくことが欠かせない。私たちが生活のなかで、できることは何だろう?まずは小さなことからでもいい。この機会に改めて考えてみよう。
※1 化粧品出荷統計|経済産業省
※2 環境問題とは?地球の未来のために、知るべきこと
取材・執筆/吉田友希、撮影/森本修大(塩原氏ポートレート、ビーチクリーン)、編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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