ユニクロは、20年以上も前からリサイクルに取り組む。01年に店頭でフリースの回収を開始し、固形燃料や断熱材、防音材などへの活用をはじめ、06年には回収を全製品に拡大。20年からは製品のリサイクル・リユースを目指す「リ・ユニクロ」を立ち上げ、ダウン製品で初めて“服から服”のリサイクルを実現した製品の販売を開始した。さらに、ユニクロの代名詞とも言える「エアリズム」「ヒートテック」にもリサイクル素材が活用されている。日本でもっとも親しまれているアパレルブランドのひとつであるユニクロ。その躍進とリサイクルの現場と、影の立役者の存在に迫った。
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歴代のリサイクルダウン。2020年以降毎年販売している。
ビジネスとサステナビリティの両面でユニクロの躍進を支えるのが素材メーカーの東レだ。「ヒートテック」「エアリズム」「ドライEX」「ウルトラライトダウン」「感動パンツ」――「フリース」の素材供給から始まり、ユニクロを代表する数々のアイテムを共同開発して素材を供給してきた。
ユニクロの広報担当者は「『LifeWear*』をつくるうえで、革新的な素材開発は非常に重要です。東レと20年近く密接に連携することで、快適に着ることができる服づくりが実現しています」と話す。
*LifeWear:ユニクロが展開する「究極の普段着」のこと。
滋賀県に位置する東レ瀬田工場。
ユニクロと東レの取引が始まったのは1999年のこと。当時大ヒットを飛ばしたフリースの原糸を東レが供給した。2006年には、より緊密な素材開発体制をつくるためにユニクロを手がけるファーストリテイリングは東レと戦略的パートナーシップを締結する。
第1期の06~10年は糸から生地、縫製まで一貫した開発・生産体制の構築を実施し、第2期の11~15年はグローバル供給拠点の拡充やグローバルオペレーションの拡大を行った。第3期の16~20年は、デジタル技術を取り入れた的確なサプライチェーンの構築やサステナビリティへの取り組みに乗り出す。
そして20年11月、ユニクロは初めての“服から服”への循環型製品として「ユニクロU」のリサイクルダウンを発売した。店頭で回収したダウン製品を解体し、取り出したダウンとフェザーを活用した製品で、東レはそのリサイクル技術を開発した。
まず、ユニクロの店頭で回収されたダウンが、東レの工場に届き、どのように中のダウンを取り出してリサイクルするのか、その工程を見てみよう。
通常ダウンをリサイクルする場合、その多くが手作業で切り分けて羽毛を取り出す。だが東レでは、この工程を全自動の機械を使って行っているところが画期的だ。
世界初の全自動羽毛分離装置を開発した東レのエンジニアリング開発センター 部員の岡尚樹氏。全自動羽毛分離装置の前で撮影。
手作業での羽毛の取り分けは、時間や労力がかかるのでコストが高くなる。さらに羽毛や粉じんが作業者に健康被害をもたらす可能性もある。取り出して舞い上がるダウンを袋詰めする作業も難易度が高い。
だが、ダウンをリサイクルするにあたり、ユニクロから東レには「効率的におこなうことができて、さらにリサイクルしてできたダウン製品を新品のダウン製品と同等価格で販売できる」よう、リクエストがあったという。
左は新しいダウンで、右が回収したダウンから取り出したダウン。
東レが挑戦するのは羽毛量が多い布団ではなく、40~60g程度のダウン製品(ウルトラライトダウン)から効率良く羽毛を取り出すこと。通常、人の手で行っている作業をいかに機械で再現するかが鍵になった。
東レは17年末に開発に着手し、約2年の開発期間を経て19年にダウン製品を裁断してダウンとフェザーを取り出し、その梱包までを全自動化した世界で初めての羽毛分離装置の技術を確立した。
同年9月から店頭でダウン製品の回収をはじめ、20年5月にから羽毛分離装置を稼働させて回収したダウンから製品をつくり、20年11月の発売にこぎつけた。
開発を担当した東レ エンジニアリング開発センター 部員の岡尚樹氏がまず重視したのは「ダウンにダメージを与えずに取り出すこと」だった。
まずは、羽毛分離装置の中の「裁断機」のパーツだ。ベースとなったのは炭素繊維用の裁断機。炭素繊維は非常に硬いが「やわらかい羽毛とファスナーやボタンなど硬さや材質が異なる副資材の両方を鋭利に切断する必要がある。そこで、刃の形状や材質を検討しながら刃の開発に取り組み始めた」。何度も検証を重ね、羽毛へのダメージを極力抑えた裁断機を開発した。
もう一つ障壁になったのは、裁断機を通った後の「分離機」のパーツ。羽毛とそれ以外を分離する必要があり、ゼロからの開発となった。
「短時間で分離するには風の流れをコントロールするしかありません。いかに風を乱してその風を安定的に上昇させることができるか。風だけではなく分離機自体の角度も重要で、流体シミュレーションの技術を用いて検証しながら適正化していきました」(岡氏、以下同)
ダウンとフェザーは上昇気流で送り出し、極薄の生地、樹脂ファスナー、金属のジッププル、製品タグは下に落ちるような筒状の分離機を開発した。分離した羽毛とそれ以外はそれぞれ袋詰めされるように設計した。
分離機は非常にコンパクトな大きさだ。「機械をつくるにあたり、コンセプトをコンパクト・クリーン・シンプルとしました。もちろん落下する距離や時間が長ければ長いほど、羽毛は分離します」
短時間で羽毛を効率よく取り出すためにコンパクトに設計し、パーツごとにさまざまな工夫を凝らした。最終調整時は2分の1サイズの実験機をつくり、ダウン製品の投入部から裁断、分離までの改良・改善を重ねた。
分離したダウンとフェザーの麻袋は9~10kg単位で梱包されるが、輸送時のCO2削減のために改造した業務用の布団圧縮機を用いて圧縮梱包する。生産処理能力はひと月約8万着(2交替、ULD換算)で、羽毛の回収率は90%と高い。
「回収率を高めるために完成後も適宜微調整を繰り返しました」プレッシャーや苦労も多かったに違いないが「楽しかったですよ」と笑顔で生き生きと話す岡さんの姿が印象的だった。
これまで回収して再利用したダウン製品は100万着以上にものぼる。これだけの数を効率的にリサイクルできるのは、この東レの技術開発のおかげと言っても過言ではないだろう。
一方、店頭での回収量の予測が難しく回収と製品化の両立の難しさも課題になっており、広報担当者は「回収量に応じて商品企画を考え、生産量を調整している」とのこと。もちろん、耐久性に優れ長く着用できることは利点でもあるが、一定量を回収できなければリサイクルビジネスが成立しないのも事実だ。
AIRism
あまり知られていないかもしれないが、ユニクロはリサイクル素材の活用も推進している。「エアリズム」や「ヒートテック」など、リサイクルポリエステルを使用している服は数多い。そして、これらの素材を提供しているのも東レだ。
DRY-EX
ユニクロはリサイクル素材の活用も推進する。20年春夏からは「ドライEX」でリサイクルポリエステルの活用を始めた。従来の「ドライEX」の高い吸汗速乾性を実現する機能性はそのままに環境への配慮を両立した。
東レはペットボトルを原料にマテリアルリサイクルによってリサイクルポリエステル糸をつくる。高品質なリサイクルポリエステル糸をつくる場合、「ケミカルリサイクル」がよく知られている。
ケミカルリサイクルとは分子レベルまで化学的に分解し、再重合することをさすが、コストとエネルギー使用量が課題である。他方、物理的に分解するだけの「マテリアルリサイクル」は低環境負荷ではあるが品質や耐久性等の課題が知られている。東レの革新性はマテリアルリサイクルによって高品質な機能糸を実現した点にある。それを消費者として見過ごしてはいけない。
DRY-EX
さらにリサイクル素材は生産に手間がかかるためバージンポリエステル糸よりも高額になるが、東レはユニクロが大事にする手の取りやすい価格設定に対し、技術を発展させていくことで対応しようとしている。
ユニクロ広報も「材料高騰がお客さまの負担とならないように尽力しています。東レ様との共同開発を通じて技術やナレッジを積み、製品の販売量を増やしてきました。また安定的に供給できるように主要なリサイクル素材は自社指定の工場からの調達する仕組みを構築しつつあります」と話す。
また「欧州に比べるとまだ少ないかもしれませんが、国内でも、環境配慮型素材かどうかを確認しながらお買い物をする方が増えてきています。ユニクロの場合、共同で商品づくりをする海外のデザイナーやコラボレーターがリサイクル素材を取り入れたいと仰るケースも多いです」と加える。
おなじみの「エアリズム」や「ヒートテック」にも23年からリサイクルポリエステルが使われている。とくに「エアリズム」の機能性を再現するリサイクルポリエステルの難易度が高かったという。ポイントは3つある。
1つ目は「細い糸」実現のための異物除去だ。「エアリズム」に使用するリサイクルポリエステルは回収PETボトルが原料で、すべて日本国内で回収したものを使用している。しかし、回収したボトルには瓶や缶をはじめとした他異物が混入している。極細糸実現には異物を徹底的に除去する必要があった。そこで東レはリサイクラーである協栄産業と協働して25以上の異物選別工程を経て異物を極限まで除去することを実現した。これにより、超極細繊維をリサイクル素材でつくることを可能にした。
AIRism
2つ目は「白い糸」実現のための高度な洗浄技術の採用だ。回収したペット樹脂にはお茶やコーラなどの飲み物の成分が浸みこんでいるため、一般的な水洗浄では汚れを取り除くことができない。そこでペット樹脂のフレークをアルカリ溶液に浸けて機械で強力な摩擦をかけて汚れをかき出すことで表面が透き通ったフレークにしている。この技術によってリサイクル素材であっても純白のインナーを実現した。
3つ目は「透けないインナー」実現のために糸に機能性を付与した点だ。材料が無色透明のためそのまま使用すると肌が透ける生地になってしまうという。東レはリサイクルペットボトルの中に防スケ成分を添加することを目指し実現。繰り返し洗濯にも耐えられるように染料を糸に定着させる成分を添加することで「純白」が長持ちするインナーを開発した。
ユニクロの親会社であるファーストリテイリングは、30年までに使用する素材の50%をリサイクル素材に切り替える目標を掲げる。24年春夏・秋冬商品全体でのリサイクル素材使用率は18.2%だ。ポリエステルは47.4%と目標に対して順調に推移している。コットンやウール、カシミヤでも取り組んでいるが、「当社が設定する品質やコストをクリアするまでに至っていない」として、まだ商品化に向けた努力が必要であるという。
ユニクロの店頭にある「リユニクロ」の回収ボックス。2025年4月30日まで、ユニクロのダウン商品1点につき500円割引デジタルクーポン(5,000円以上の買い物で使用可)がもらえる「『捨てるなんて、とんでもない』ダウン回収500円クーポンキャンペーン」を実施中だ。
東レとの戦略的パートナーシップの第4期の21~25年は、“LifeWear”を深堀している。近年の気候変動や生活の変化によって増す軽量アウターへのニーズに応え、機能性中綿を使用した「軽くて暖かい」アウターや合成繊維と天然繊維を掛け合わせて生まれた柔らかい着心地の「極暖ヒート テックカシミヤブレンド」など革新的な商品を開発している。
一方、素材を混ぜればリサイクルの難易度は上がることも課題になる。ますます極端化する気象に対応すべくユニクロが追求する快適な「LifeWear」とリサイクル可能性の両立は東レの技術にかかっている。
たとえ技術革新によってあらゆる製品がリサイクル可能になったとしても、生活者から不要衣料品を回収できなければ技術は生かされず、新たな資源を採取し続けることになる。生活者には愛着を持って製品を使いこなすことを前提に、不用となった衣料品に対して「ごみではなく素材になる」という認識を持ち、循環の輪に参加することを期待したい。
撮影/浅羽将司 取材・執筆/廣田悠子 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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