国内外で2万店舗超を展開する大手スーパー、イオンの農業法人であるイオンアグリ創造株式会社。同社が運営する埼玉日高農場は、GLOBALG.A.P認証に加え、有機JAS認定も受けているサステナブルな農場だ。安定した収穫量を維持しなければならない事業会社であるにも関わらず、時間や手間のかかる有機農業を推進する彼らの思いを聞いた。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
「すだちの香り」で肌と心が喜ぶ 和柑橘の魅力と風土への慈しみあふれるオイル
イオンのプライベートブランド「トップバリュ」では、オーガニック&ナチュラルがコンセプトの「トップバリュ グリーンアイ」シリーズを展開している。そのひとつ「トップバリュ グリーンアイ オーガニック」は、展開商品のすべてにおいて有機JAS認証を取得している。
「トップバリュ グリーンアイ オーガニック」の野菜の産地のひとつに、イオンアグリ創造株式会社が運営する「イオン農場」がある。農場運営には、残留農薬、農作業事故、環境破壊などさまざまなリスクが伴う。商品の安全だけでなく、農場で働く従業員や近隣住民の安全、地域生態系の保全などの管理が必要であることから、農業の持続可能な経営管理ツールとしてすべての直営農場でGLOBALG.A.P認証を取得している。
また、イオンアグリ創造株式会社は、日本の農業を若者が憧れを抱くような産業に育てたいという思いのもと、新卒採用も積極的に行っている。農業未経験であっても20代のうちから会社員として、農業に携わり経験を積むことができるため、若いエネルギーが率先してサステナブルな農業を推進しているのだ。
今回訪れた埼玉日高農場もそのひとつ。GLOBALG.A.P認証だけでなく有機JAS認定を受けている。有機のじゃがいも、にんじん、ビーツ、リーフレタス、ブロッコリーなど、食卓に欠かせない野菜を生産、南関東と北関東のイオングループ店舗に出荷している。2016年からオーガニック農産物栽培に向けて圃場準備をはじめ、2017年、同社で初となる有機JAS認定を取得。現在は、耕作地のすべて(約12ヘクタール)で有機栽培を行っている。
農場長の三富明希氏。就農歴は10年、農場長としての経歴は7年。慣行栽培の経験から有機農業に興味を持ち、日高農場へ異動した。
「有機は本当に自然との対話です」と話すのは日高農場で農場長を務める三富明希氏。「自然環境の中で栽培するので、虫や病気などのリスクはどうしても避けられません」。害虫や病気を防ぐというのは、生産者としてもっとも重要なことであり、収穫量に直接影響してしまう。「化学合成物質を使わない有機農業では、成長時期に応じて防虫ネットを隙間なくかけたり、作物と作物の間の風通しをよくしておくことで病気を予防します」。
この防虫ネットもただかければよいというわけではない。「防虫ネットは風通しを悪くしてしまうので本当はあまり長い間かけていたくないんです。ただ、今年の秋口はブロッコリーの花蕾(からい)ができる時期が暖かかったので、虫の活性が弱まる時期が遅くなると考え、防虫ネットを外すタイミングを遅らせました。結果として虫からは守れましたが、その間は雨が多く気温も高かったので、ネットの中で蒸れて多くが病気になり、収穫量が減ってしまうということがありました」と副農場長の田坂光氏。ブロッコリーの有機栽培はとても難しく、生産者も少ないので、しっかりつくってお店に並べられればお店の魅力にもつながる。だからこそ、やりがいがあるという。
一つひとつ状態を確認しながらブロッコリーを収穫する田坂氏。手作業で外側の葉を落としていく。「どうすればよいものをたくさん、効率よく生産できるのか、いつも考えています」
3か月天気予報、1週間天気予報を常に見ながら、畝間の草管理や種まき、防虫ネットの取り外しなど、そのときどきの環境に合わせて管理を変える。その土地の気候、風土だけでなく、天気の急変にも左右されてしまう。その都度、最善策を考えて細かな対応が必要なため難易度が高い。いざという時の化学物質というつぶしもきかないので、慣行栽培よりも不安定で効率もよくない。それでも有機農業を推進したいという思いを、三富氏と田坂氏に語っていただいた。
Photo by 3954
田坂氏(左)と三富氏(右)
元々は慣行農業に携わっていたという三富氏。自然に沿って野菜を育てるオーガニック農法に興味を抱き日高農場への異動を志願。「自分がこれまで知っている農業とは違う、自然に沿ったやり方に興味がありました。毎年天候や土の状態、虫の発生時期でやり方が変わっていく、その方法を学びたかったんです。実際に有機農業と慣行農業は全く違い、思いもしなかった苦労がたくさんありました。でも苦労した分、実りがあります。生で食べたときに感じる味の違いです。おいしさ、鮮度を追求するために、毎年チャレンジであり、毎年よい経験になっていると思います」。
副農場長の田坂氏は、農学部農学研究科の出身。学生時代から環境問題に関心があり、途上国で植林のボランティア活動に参加したこともあった。「途上国では木を植えても、木にあげた肥料を、食べ物をつくるために盗難されたりするのを学び聞き、ただ自然を保護するだけでは何も変わらないんだと思いました。環境を守りたいならもっと自然と人との間で活動しなければいけないと気づいて、有機農業を広げたいと強く思いました」。
多くの人に届けられるイオンだからこそ、有機農業を推進していかなければならないという責任のようなものもあると言う。「だからこそ、新しいことにも挑戦していきたい。例えば果樹。認証が難しいというのはわかっています。でも有機の果物をお客様に届けるというのは意味があると思います」と三富氏は目を輝かせた。
有機農業を広めていくために、田坂氏は地域とのつながりをもっと深めたいという。「イオンのような大きな企業だからこそ、有機農業を率先して進めなければならないと思っています。今は他の生産者の方々と協力して何かしてみたいです。例えば学校給食。今はまだ難しいかもしれませんが、有機農業を知ってもらうことができる一番の方法ですよね」。
実際に働く彼ら自身が、有機農業、オーガニック農産物を広めることに使命を感じて目標を持っている。これがイオンアグリ創造が有機農業を推進することができている理由だ。
イオンアグリ創造が運営するイオン農場のインスタグラム投稿には、こんなハッシュタグが付けられている。「#DREAM」「#農業を憧れの職業へ」「#広がれオーガニックの輪」。どれもポジティブで、未来を見据えた明るい言葉だ。今回訪れた日高農場で働く方々に、この質問に答えてもらった。
写真前列左から
三富明希さん(勤務歴10年/農場長)
Q1 将来の夢は?
独立、仲間たちと開業。
Q2 農業のどんなところが好き?
自然とふれあいができるので、自身の育て方ですべてが変わるのでやりがいがある。
Q3 オーガニックのいいところは?
本来に近い栽培ができるが自然との対話がある。
Q4 どのように食べてもらいたい?
葉物類ならそのままで食べてほしい。できれば慣行栽培のものと比較してほしい。根菜類は煮物など。
田坂光さん(勤務歴8年/副農場長)
Q1 将来の夢は?
オーガニックを広げて、持続可能な農業の実現を目指したい。
Q2 農業のどんなところが好き?
畑で季節の移り変わりを感じられるのが、とても生き物らしく健康的な働き方なのが好き。管理できた畑からきれいでおいしい野菜がたくさんできるととてもうれしい。
Q3 オーガニックのいいところは?
難しいけど、おいしい野菜ができるところ。自然の循環を生かしての農業だから環境への負荷も少ないと思っている。
Q4 どのように食べてもらいたい?
家族や仲のいい人たちや大切な人たちと、おいしいねと言いながら笑顔で食べてもらいたい。
大山法哲さん(勤務歴2年)
Q1 将来の夢は?
農場長もしくは副農場長。
Q2 農業のどんなところが好き?
完璧にうまくいかないところ。
Q3 オーガニックのいいところは?
やはり味が一味も二味も違うところ。
Q4 どのように食べてもらいたい?
おいしく食べてもらえたら幸いです。
写真後列左から
渡邉文雄さん(勤務歴8年)
Q1 将来の夢は?
家庭菜園を充実させる
Q2 農業のどんなところが好き?
自然を感じること。空、土など
Q3 オーガニックのいいところは?
安心安全
Q4 どのように食べてもらいたい?
生食で。
永嶋幸弘さん(勤務歴5年)
Q1 将来の夢は?
オーガニック野菜の生産が広がること。
Q2 農業のどんなところが好き?
食品を自ら育てられるところ。
Q3 オーガニックのいいところは?
野菜本来の味を伝えられるところ。
Q4 どのように食べてもらいたい?
余すところなく、すべてを食べてほしい。
友常洋子さん(勤務歴1ヶ月)
Q1 将来の夢は?
自分の畑をもつこと。
Q2 農業のどんなところが好き?
土や太陽に癒されながら仕事ができること。作物の成長の喜び。
Q3 オーガニックのいいところは?
体にも地球にもやさしいこと。
Q4 どのように食べてもらいたい?
あまり食べられていないビーツですが、炒めると甘みがでておいしいです!
福島輝男さん(勤務歴8年)
Q1 将来の夢は?
自分で野菜をつくってみること。
Q2 農業のどんなところが好き?
青空の下で仕事ができる。
Q3 オーガニックのいいところは?
化学農薬を使用していない。
Q4 どのように食べてもらいたい?
お好きなように。
出射円さん(勤務歴4年)
Q1 将来の夢は?
日高農場のオーガニック野菜のブランド化です。ジュースなどの加工品も含め、より多くの人に食べてみてもらいたいです。
Q2 農業のどんなところが好き?
青空の下での生産だけでなく、加工、デザイン、広報等さまざまな分野につながりながら仕事ができるところです。
Q3 オーガニックのいいところは?
より限られた農薬、肥料、資材のみを使用しているので、より安心して食べられるところです。こころなしか甘みも強くなってきた気がします。
Q4 どのように食べてもらいたい?
まずはぜひ素材の味を楽しんでもらいたいです。レンジでチンして塩で食べるのが一番のおすすめです。
埼玉日高農場は笑い声の絶えない明るい雰囲気の農場だ。とても仲がよく、撮影のために集まった短い時間でも作物について意見を交わしていた。こうして会話し、挑戦と失敗を繰り返しながら、同時にたくましさも培っているのかもしれない。そして試行錯誤を重ねながら有機農産物の安定供給を実現している。私たち消費者ができることとして、有機農産物を選ぶというのも、農業の明るい未来のための一つの方法になる。
撮影/朴 玉順 企画・取材・編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
ELEMINIST Recommends