2016年の立ち上げ当初から、アップサイクル原料やオーガニック成分の採用など、サステナブルな製品づくりを行ってきた「Celvoke(セルヴォーク)」。大々的に発信していなかったことから、愛用者ですら知らない人が多いという。そんな知られざるセルヴォークの取り組みについて紹介する。
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<SUMMARY>
◆取組の概要:アップサイクル原料の採用、天然由来100%の原材料でできたコスメパッケージの開発
◆きっかけ:創業当時から「自然の恵みと先進テクノロジーの融合」を軸に、原料選び等で環境へ配慮してきた
◆背景にある課題:化粧品業界が抱えるCO2排出やプラスチック使用の課題のほか、時代の変化とともにブランドの取り組みを広く発信する大切さにも目を向けている
スキンケアシリーズ『カーム』ライン。
「セル=細胞」と「ヴォーク=声」に由来するように、内なる声に耳を澄まし、個性と美しさを細胞レベルから引き出すことをコンセプトとして生まれた「Celvoke(セルヴォーク)」。
ブランドの軸となっているのは、オーガニック×バイオテクノロジーを駆使したスキンケアと、天然由来成分にこだわりながら洗練モードを追求したメイクアップだ。つまり、ブランドが立ち上げられた2016年当初から、自然の恵みを享受するものづくりを大切にしてきた。「オーガニックやアップサイクル原料に着目したのも、ブランドに根付く考えにもとづいたもの」と、同ブランドのPR、石井亜希氏は話している。
「たとえば、2021年からスタートしたスキンケアシリーズ『カーム』ラインには、さまざまなアップサイクル原料を採用しています。それは、サステナブルだからという理由が先にあったわけではなく、より肌への効果がパワフルなものをと、研究開発を進めるなかで辿り着いた結果でした」(石井氏)
「ウメコメ発酵エキス*」の原料となる、休耕田で有機栽培された玄米。
これまで廃棄されていた規格外の農作物、お米の糠や発酵物の残渣のなかに、実は肌にいい成分がある。その気づきから、セルヴォークはアップサイクル原料の開発に取り組み始めた。パートナーは、独自の発酵技術で未利用資源の再生・循環に取り組む株式会社ファーメンステーション。生態系への悪影響や地域の衰退につながるとして問題になっている、休耕田や耕作放棄地の再生活用にも力を入れているスタートアップだ。
約4年もの年月を費やして開発した原料の一つが、『カーム』ラインに共通して配合されている「ウメコメ発酵エキス*」。原料は、岩手県奥州市の休耕田で育てたオーガニック玄米と、和歌山県熊野紀州でオーガニック栽培された規格外の梅。どちらも有機JAS認定を受けた原料で、麹と酵母で発酵させることで、セラミドやアミノ酸を豊富に含み、肌へのパワフルなはたらきが期待できる成分になったという。
*(アスペルギルス/サッカロミセス)/(ウメ果実/コメ)発酵粕エキス(保湿成分)
「ウメコメ発酵エキス*」のもうひとつの原料は、有機栽培された梅。食用規格外となったものを利用する。
ファーメンステーションの取り組みは、これまで使われていなかった資源に光をあて、発酵の技術によって新たな価値を生み出すこと。循環型社会の実現を目指し、地方創生にも積極的に取り組んでいる。そんな同社との協業は、セルヴォークがその思想や取り組みに共感したことも大きかったと、ブランド事業本部の佐藤育実氏は語る。
「環境に対する姿勢に共感を覚え、何か一緒にできないかと考えていたところ、このような形で実現することができたんです。セルヴォーク単体では取り組みが難しいことも、こういった企業とタッグを組むことによって、サステナブルなものづくりの可能性を広げることができますね」(佐藤氏)
他にも食用規格外のゆずなどをアップサイクルして、スキンケア製品の原料として活用している。
さらに、2023年3月発売の『カームブライトニング クリアゴマージュ』には、日本初というアップサイクル原料も。スクラブ剤として採用した「米発酵パウダー**」は、岩手県産のオーガニック玄米を発酵・凍結乾燥させ、パウダー状にしたもので、セラミドやアミノ酸が豊富に含まれているという。
このゴマージュには、ほかにも雑穀のヒエを精製する過程で出るヌカを活用した「ヒエヌカオイル(保湿成分)」や、食用規格からはずれたオーガニック栽培の宮崎県産ゆずを使った「ゆず水(ベース処方)」など、多彩なアップサイクル原料が使用されている。
「自然環境や社会に調和した原料でありながら、肌への効果はパワフル。それこそが、セルヴォークが追い求めるスキンケアの形だと考えています」(石井氏)
**(アスペルギルス/サッカロミセス)/コメ発酵粕
2022年に全面リニューアルしたアイシャドウケース。
セルヴォークのサステナブルなものづくりの考えは、メイクアップラインにも反映されている。2022年8月、これまでプラスチック製だったアイシャドウのパッケージを、全面リニューアル。サトウキビの絞りかすと竹でできたエコ素材「ファインフォーミング パルプモード」を採用した。紙製容器包装であることを示す「紙マーク」がついている、繰り返し使える紙製のパッケージだ。
その背景にあったのは、セルヴォークに限らず、化粧品業界全体が抱えるCO2排出やプラスチック使用といった課題。 化粧品の容器にはプラスチックが使われることが多く、廃棄されたあと、プラスチックごみとなり、環境を汚染したり、焼却処分でCO2が排出されたりすることが懸念される。
「セルヴォークでは、バイオPET(植物由来の原料を利用してつくられるプラスチック)を使用するなど環境に配慮してきましたが、今回のリニューアルはさらに一歩踏み込んだ形のチャレンジとなりました」(石井氏)
ファインフォーミング パルプモールドは、サトウキビの搾りかすである「バガス」と竹を粉砕し固めたもの。竹は生命力が強く、成長が早いため、木材に代わる持続可能な素材として注目されている。バガスは、全世界で年間1億トン以上も発生していると言われ、主にボイラー燃料や飼育原料などに有効利用されているほか、最近ではパルプ紙としての二次利用が盛んになっているが、それでもまだ多くのバガスが廃棄されているそうだ。
「紙マーク」がついた、繰り返し使えるパッケージだ。
それら2つの原料を合わせてつくられたファインフォーミング パルプモールドは、紙としてリサイクルすることが可能。天然由来100%で生分解性であるため、万が一自然界に流出しても、土に還るという。またプラスチックケースに比べて、焼却処理時のCO2の排出量も削減できる。おまけに、印刷にはバイオマスインキ(生物由来の資源から成分を抽出してつくられたインク)を使うなど、細部まで環境に配慮された。
しかし、これをアイシャドウのケースに採用するには、かなりの苦労があったようだ。
「まず、耐久性の問題がありました。粉砕し水に溶かした素材を金型にはめ、プレスして成形するのですが、なんせ紙なので、プレスの圧によって、蓋がちぎれてしまったり、繊維がほぐれてしまったり……。また、デザインや機能面でも苦戦しましたね。コンパクトなサイズ感にするため、樹脂皿と蓋がカチッと隙間なくぴったりはまるような仕様にしたのですが、数ミリ単位の調整を何度も繰り返しました」(佐藤氏)
セルヴォークのメイクラインのテーマである「洗練モード」を表現するため、重視したのは、ケース表面のなめらかさや、スリムでシャープなイメージ。「ほっこりした、“紙っぽい”デザインにはしたくなかったんです。資材メーカーとともに何度も試作を繰り返し、納得のいくデザインに仕上げることができました」(石井氏)
さらに全17色あるアイシャドウから好みの色を別売りのパレットケースに入れれば、自分だけのアイシャドウパレットをつくって楽しむことができる。これには、飽きずに長く、繰り返し使い続けることで、少しでも廃棄物を減らしたいという狙いがあるそうだ。
「化粧品は消費財であって、どうしても使い終わったら捨てるものだと思われています。ですが、このアイシャドウパレットなら、中身を変えるだけで外側のパッケージはずっと使い続けることができます。メイクを楽しむことが、廃棄を減らすことにもつながると思うんです」(石井氏)
今回の大がかりなリニューアルは当然コストのかかる工程だったが、セルヴォークの母体となるマッシュビューティーラボ自体にサステナブルな取り組みを推進しようという考えがあり、実現したという。
数あるナチュラル&オーガニックコスメのなかでも、セルヴォークが唯一無二の立ち位置を確立している理由は、「洗練モード」を軸とした世界観にある。これまでオーガニックのコスメというと、どこか牧歌的でほっこりとした、洗練モードとはかけ離れたイメージがあったかもしれない。しかし、セルヴォークはエッジの効いたカラーやビジュアルで、オーガニック業界に新たな風を吹かせた。
「ブランドが女性像としてかかげる、“奥行きのある女”が持つにふさわしいものであること。オーガニックやサステナブルの考えが根幹にありながらも、洗練されたモードな世界観を届けるということが、一番のこだわりであり、ブランドの存在意義でもあると考えています」(佐藤氏)
ブランドのアイデンティティーは、製品の要所要所に織り込まれている。たとえば、ブランドの人気商品であるネイルポリッシュの容器は、一見スタイリッシュでスモーキーなガラス素材にしか見えないが、植物由来の環境配慮型樹脂とバイオPETが使われている。廃棄する際、分別に苦労することも多いネイル容器だが、地域によっては可燃ごみとして簡単に捨てられるのも魅力だ。
ネイルポリッシュには、植物由来の環境配慮型樹脂とバイオPETでできた容器を採用している。
また、上述の新製品『カームブライトニング クリアゴマージュ』では、アップサイクル原料でセルヴォークらしさを表現。廃棄されるはずだった国産のゆずの果皮から精油を抽出している。
『カームブライトニング クリアゴマージュ』。
「アップサイクルされたフレッシュなゆずだけでなく、フランキンセンスなど9種類の精油をブレンドすることで、セルヴォークらしい、奥行きを感じられるような香りに仕上げているんです。洗練モードの先にあるブランドの想いを、スキンケアでもメイクでも感じていただけたら嬉しいです」(石井氏)
こうしたセルヴォークの取り組みは、ブランドにとっては当たり前のことであり、あえて大々的に伝えることはしてこなかったそうだ。そのため、ブランドユーザーのほとんどは、これらの取り組みを知らずに、独自の世界観やプロダクトの良さに惹かれて商品を手にしているという。
しかし、社会全体で環境への意識が高まるなど時代の変化のなかで、改めて発信していくことの必要性を感じ始めていると石井氏は言う。
「最近は、製品もパッケージも、よりサステナブルなものを選びたいというユーザーが増えてきているように感じます。私たちにとっては、当たり前すぎてきちんと伝えきれていなかったことを、企業側の自己満足で終わらせず、しっかりと伝えていくことに意味があるのではないかと感じています」(石井氏)
そして、せっかく伝えるならばセルヴォークらしい世界観も大切にしていきたいと佐藤氏。
「これまでは、モードな世界観から商品を選んでいただくことが圧倒的に多かったと思います。ですが、スキンケアラインが充実していくなかで、実は天然由来成分やサステナブルにこだわるブランドなのだと気づく方も増えているようです。今後は、モードやおしゃれの先にある理念や情報を知ったうえで、セルヴォークを選びたい、という方が増えていくといいですね」
また、時代が変化したことで原料会社や資材会社などもブランド理念を理解してくれるところが増えているという。それは、今後の製品開発やものづくりにも大きく影響するだろう。
「これまでは、ブランドの意向に沿ってくださる会社を探すのは大変なことだったのですが、最近ではサステナブルや環境配慮という点に着目されるところが増えてきて、選択肢がぐんと広がってきています。そうした会社とタッグを組みながらも、ブランドとしては、現状に満足せず、常に新しい技術や原料を探していくことが重要だと感じています」(佐藤氏)
「グローバルな視点では、一つのブランドができることは本当に小さなことかもしれません。それでも、ささやかな取り組みから、美容業界のスタンダードが変わっていくのなら、それが一番の理想ではないかなと思うんです」(石井氏)
ブランドの世界観や使い心地から手にした商品が、実は環境に配慮されたものだった。そんな理想的なブランドのあり方を、セルヴォークは実現しつつあるのかもしれない。
執筆/秦レンナ 企画・編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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