日本ではごみを焼却処理するのが当たり前だと考えられているが、これは世界のスタンダードではない。他国ではごみを主体的に捉え、リサイクル可能か、または資源になるかどうかという視点で扱われている。焼却には必ずCO2が排出され、環境にダイレクトに影響を及ぼすからこそ、ごみを少しでも減らすことが必要だ。2023年5月29日、ゼロ・ウェイストの町として知られる徳島県上勝町とサントリーグループ(以下サントリー)の間で、ペットボトルの水平リサイクルに関する連携協定が締結された。この記事では、上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みとサントリーの水平リサイクル事業について、現地で取材した様子を交えながらお伝えする。
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上勝町内にある樫原の棚田。江戸時代から200年もの間土地利用形態がほとんど変わっておらず、国の重要文化的景観に認定されている。
徳島県上勝町は、日本の原風景が残る美しい田舎町だ。人口は約1400人程度と四国一小さな町だが、2003年に日本で初めてゼロウェイスト宣言をしたモデル的な自治体として、全国のみならず世界にもその名が知れ渡っている。
焼却や埋め立ての機能がない上勝町では、収集車によるごみの回収を行っていない。現在は「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」で一拠点回収をしており、住民自らがセンターに持ち込んで45種類に分別している。
上勝町ゼロ・ウェイストセンターの大塚桃奈氏によると、上勝町がゼロ・ウェイストに取り組むことになったのは、町の焼却炉が機能しなくなったことが理由の1つだそうだ。
90年代半ばまで、上勝町ではごみが野焼きで処理されていた。もともと田んぼだった場所が残土処理場となり、便乗した形で町内の廃材や家庭ごみが持ち込まれるようになった。そこから自然発生的に黒い煙が立ち込めるようなごみの野焼きが行われていたという。
1997年に容器包装リサイクル法が制定され、国内で資源回収をしていく流れができると、上勝町にも分別制度が導入されるようになる。ゴミステーションを開設し、ごみは9つに分別されるようになった。町が最初に取り組んだのは生ごみを回収せずにコンポストを推奨する政策で、補助金制度を設定し企業と共同で導入した。上勝町は農家が多いことから、もともと生ごみを自宅で処理できる環境下にある人が多かったのも、導入が成功した大きな要因だ。家庭ごみの4割を占める生ごみを各家庭で堆肥化することと、住民自らゴミステーションへ持ち込む形を取ったことによって、ごみ削減と処理コストが抑えられるようになった。これが一拠点回収のはじまりだ。
1998年には小型の焼却炉が2基導入され、機械を使ってごみを燃やすことが可能になった。同時に、燃やすごみの量を減らすために22に分別数を増やした。しかし2000年にダイオキシン類対策特別措置法(※1)が施行され、当時上勝町で稼働していた小型の焼却炉から基準値以上のダイオキシンが発生していることが分かり、2基中1基が閉鎖となった。
こうしたなか、町はごみ問題に正面から向き合い、ごみ処理にかかる経費や環境負担を考えた。その結果、資源回収先を選定し、ごみの分別数を35に増やして対応することを決定。約1ヶ月間という短い準備期間で役場が住民に説明会を開き、翌年から実行することになった。
ここから上勝町のごみに対する取り組みが加速し、2003年に自治体として全国初のゼロウェイスト宣言するに至ったのだ。町は2020年に焼却や埋め立てをゼロに近づけるという目標のもとに動き出した。
「くるくるショップ」には、上勝町民から不要になったものが持ち込まれ、利用者はドネーション制で自由に持ち帰ることができる。地元のお年寄りにとって、ちょっとした交流や楽しみの場となっているとか
もともとゼロウェイストは上勝町役場主導で始まった取り組みではあったが、実際に活動を進めたのは住民たちだ。2005年にNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーが発足し、地域の有志と町外から移住した若い人たちがゴミステーションの運営や町内の事業所との連携、町外への発信活動を進めてきた。
ほかにもリユース・リデュースを目的とした「くるくるショップ」、「くるくる工房」、イベントなどで使うリユース可能な“くるくる食器”、ポイント制度の導入など、様々な活動を進めてきた結果、これまでにごみの排出量は全国平均に比べて約半分(一人あたり480g/日)に削減。全体の8割が資源回収されている。また、ごみの処理費用が6割削減できたのも大きな功績だ。
しかし、ゼロウェイストを目標とした2020年を迎える中で、上勝町の大きな問題のひとつとして直面していたのが過疎化だった。林業で栄えた最盛期に6000人ほどだった人口が、その1/4以下になってしまった状況では、町の主産業がどんどん小さくなることは目に見えている。この地域でどうやって交流を生むかという模索がなされた結果として2020年5月30日にオープンしたのが、「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」だ。
Photo by Transit General Office Inc.(株式会社 トランジットジェネラルオフィス)
上空から見ると「?」マークになっているこの施設は、上勝町の住民がごみと各資源に分別する「ごみ分別所&ストックヤード」を中心に、スリフトショップの「くるくるショップ」、「ラーニングセンター&交流ホール」「オフィスラボ」などで構成されている。
くるくるショップの壁には廃材で描かれたゼロウェイストの文字が。
物を持ち帰る際には重さを測る。549kgの数字は、直近1ヶ月で持ち帰られた物の重さで、これだけの重量がごみにならずにレスキューされたことを意味している。
今回は現地で、上勝町住民の方のお宅にお邪魔させてもらい、自宅での分別からセンターへの持ち込みまで同行させてもらった。するとそこには、「できる限りごみにしないで資源にする」という意識の高さをハッキリと見ることができた。ゼロウェイスト宣言20年目となれば、恐らく住民の方にとっては“当たり前”なのだろうが、こうした住民ひとりひとりの気持ちが、45分別の理解と実現につながっているのだと感じた。
上勝町で行われている政策のひとつ「ちりつもポイントキャンペーン」。対象の資源物を分別したり、量り売りで商品を購入したり、町内の店舗でレジ袋を使わずに買い物することでポイントが貯まるシステムだ。溜まったポイントは町内で使える商品券や生活用品、学用品などに交換できる。
ポイント対象の資源を持ち込んだ種類に応じてポイントが付与される。ポイント数は自己申告制、町民同士の信頼の証だ。
上勝町ゼロ・ウェイストセンターの?マークの点の部分は宿泊施設になっている。ゲストは泊まった部屋で出したごみの分別体験ができるというユニークな仕掛けだ。上勝町の取り組みに興味を持った老若男女が世界中から訪れる人気のホテルだ。
こうしたゼロ・ウェイストの取り組みは、センターの施設以外にも、町の至るところで見ることができた。“郷に入れば郷に従え”精神で意識してみると、普段なにげなく捨てていたごみが資源に見え、突然愛おしく思えてくる。徳島市から来てくれたタクシーの運転手さんが、「上勝町の皆さんは心が優しい方ばかり」だと言っていたが、その理由がわかった気がした。捨てないことと循環の意識が、人や地球への思いやりの精神を生むのだろう。
前述の片山さん宅にて。ペットボトルを資源化するためには、ラベルとキャップを分別することはもちろん、きれいにすすぐことが大切だ。液体が残っていると保管中にカビが生え、リサイクルできないためだ。
このようにゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)に向けて町中が一体となって取り組む上勝町と、2030年に向けたプラスチック方針を掲げるサントリーの意識が合致し、共にペットボトルの「ボトルtoボトル」水平リサイクルを進めることになった。これから数ヶ月の準備を経て、2024年4月から実施される。
2023年5月29日に行われた調停式の様子。
水平リサイクルとは、一度使った製品をリサイクルして同じ用途のものに再生産する資源循環の方法だ。ペットボトルにおいては、今回の「ボトルtoボトル」というわかりやすいネーミングに表現されているとおり、使い終わったペットボトルを何度も繰り返しペットボトルに生まれ変わらせることを意味する。サントリーの光森秀典氏によると、もちろん品質スペックを確認しながらではあるものの、回収されたペットボトルは何度も何度も繰り返しペットボトルに生まれ変わらせることができるという。
日本では使用済みペットボトルの約94%(2021年度)が回収され、全体の約86%がリサイクルされていることから、ペットボトルは“リサイクルの優等生”と言われている。しかし、その中で水平リサイクルされているのは約2割に留まっており、残りは繊維や食品トレーになっているのが現状だ。ペットボトル以外にリサイクルされた場合は二度とペットボトルに戻すことができないうえに、役目を終えると焼却されてしまう。「同じ価値のものに変えるという水平リサイクルは、一番理想的な方法。だからできるだけ水平リサイクルを増やしていくことが重要だと考えている」とサントリーの藤原正明氏は語る。
2024年4月から実施される上勝町とサントリーがペットボトルの「ボトルtoボトル」水平リサイクルの製造工程。
サントリーはペットボトルの100%サステナブル化に向けた取り組みを行っており、2030年までにグローバルで全てのペットボトルをリサイクル素材または植物由来素材100%に切り替え、新たな化石由来原料の使用をゼロにする“ペットボトル100%サステナブル化”実現を目指している。
CO2排出量削減の観点で最も重要なのが水平リサイクルの推進。それを加速化させるのに欠かせないのが自治体の協力だ。すでに協力関係を結んでいる自治体はいくつかあるが、今回の上勝町との締結で、さらに一歩前進することになる。
ただし、水平リサイクルだけではペットボトルの製造の原料として十分に賄いきれない。それは今後も他の用途に使われる分がある程度残る可能性が高いからだ。そこでサントリーは、「循環+(プラス)」という考え方から植物由来素材の活用にも力を入れている。
「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」では、資源の行き先や処理費用などが全て掲示されている。現状上勝町で集められたペットボトルは、広島県で繊維製品やシート製品にリサイクルされているが、2024年4月からはこれが100%ペットボトルに生まれ変わることになる。
上勝町の住民はペットボトルの回収について、常にキャップとラベルを外し、ボトルをすすいできれいな状態でゴミステーションに持ち込むことを徹底している。「ボトルtoボトル」水平リサイクルが始まっても、これまでと同じように行えば良いので、新たな負担がかかることはない。もっと言えば、水平リサイクルによってペットボトルのリサイクル率自体が上がるわけではないので、表面上だけでは何が改善されるのかがよく分からない、という意見もあるだろう。
この取り組みで解決できるのは、回収後の用途や行き先不透明問題だ。先述の通り、繊維や食品トレイなどのいずれ捨てられてしまうものではなく同じ価値のものに生まれ変われば、プラスチックの海洋流出などの環境破壊を防ぐことにつながる。
もう一つは、サントリーとの連携によって入口と出口をしっかり把握できることで、回収されたペットボトルがどこへ行ったのかがきちんと“見える化”することだ。
住民の協力が今よりもっと良い形で循環していくことに、新たな取り組みの意義があるだろう。
ごみの集積所とは思えないほど整理され、清潔が保たれている。利用者が廃棄物ではなく資源として考えている姿勢がここにも感じられる。
住民と行政の強力なタッグによって進められている上勝町のゼロ・ウェイスト政策だが、今回の計画のように民間企業との連携が加わることで、さらに進化していくだろう。一方で清涼飲料市場を牽引するサントリーとしても、資源として有効に活用できることを啓蒙するいい例となる。サントリーの藤原氏は「ご縁があれば、協定を結ぶ自治体を増やしていきたい」と話す。
上勝町が他の地域に与える影響と模範性について、上勝町長の花本靖氏はこのように語ってくれた。
「上勝町の行政としては環境破壊を防ぎ、そのための多くの仲間を増やしていくことを目指しています。『上勝町ゼロ・ウェイストセンター』はそういう目的で作りましたし、多くの方が見学にきてくださっています。日本では現在多くの自治体がごみを焼却処分していますが、将来的に焼却炉がダメになった時に、できる限りなくしていけるように次の世代に考えていただきたいんです。上勝町のモデルが正解だとは思っていませんので、一つの事例として捉えていただいたうえで、循環型社会を共に目指す仲間が増えてほしいのです。上勝町としては、ペットボトルの水平リサイクルや焼却を1つ減らすとどうなるか、などの事例を示していきながら、この取り組みを少しずつ広めていきたいです」
町内には、(一社)ゼロ・ウェイスト・ジャパンが運用するゼロ・ウェイスト認証制度の認証を受けた店舗が全部で6店舗ある。写真はカフェ「Cafe polestar」。
「ゼロ・ウェイスト宣言」から20年経った上勝町では、かつての子どもたちが既に町を動かす主体となっている。ごみにしないことを当たり前だと捉えて育まれた心根は、これからも上勝町の頼もしい財産となっていくだろう。
2023年現在上勝町のリサイクル率は8割と、ゼロ・ウェイストとはいかないまでもかなりの確率で資源循環化されている。今回締結した水平リサイクルの取り組みによって、“その先の一歩”にますます注目度が増すことは間違いない。花本氏はこうも語った。
「今の地球環境問題は自然ではなく人間が作ったもの。だから“人間がどうにかしていく”べきですよね」
ペットボトルの水平リサイクルができるようになったのは、サントリーとリサイクル事業者の技術革新と協力体制によるものだ。これこそまさに“人間がどうにかしていく”ために動いた一例と言える。
物に溢れた便利な生活は時代の恩恵だが、その裏側にある犠牲を放っておくべきではない。人間が生み出したものは責任をもって人間の技術で循環し、地球に負荷をかけないように努める。ペットボトルの水平リサイクルは、改めてこのことの重要性を気づかせてくれるだろう。
取材・執筆/河辺さや香 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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