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アップサイクルとは、捨てられるはずだったものに新しい価値をプラスして価値を高めること。基本的な意味から、リサイクル・リユース・リメイクとの違いをわかりやすく解説。またアップサイクル認証のほか、アップサイクルが注目されている背景、日本や海外での取り組み事例を紹介する。
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エレミニスト編集部
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アップサイクルとは、捨てられるはずだったものに新しい価値を与え、元の状態より価値を高めること。価値が高くなることで、ものとしての寿命が伸びることが期待される。ものが大量に生産、廃棄される消費社会から持続可能な社会へのシフトが求められる昨今、注目されているキーワードの一つが、アップサイクルだ。
アップサイクルは、よくリサイクル、リユースなどの言葉と混合されやすい。それぞれアップサイクルとは意味が異なるため、その違いを詳しく見ていこう。
元の製品の素材を生かしながらデザイン性やアイデアをプラスし、新たなものへアップデートする「アップサイクル」。これと似て非なるものが「リサイクル」だ。廃棄するものを再利用する点は同じだが、リサイクルは廃棄された缶やペットボトルなどを分解・資源化し、新たな製品の“原料”として再利用すること。
つまり「生産・加工・流通・サービス・小売」という生産・流通段階から見ると、リサイクルはものづくりの川上(生産)に向かって再利用される。一方、川下(流通)に向かって再利用されるのがアップサイクルである。
着なくなった服をフリーマーケットやフリマアプリで売る。壊れた家電製品は捨てずに修理に出す。これらの行為は、「リユース」と呼ばれるものである。誰かの手に渡ったり、元の状態に戻したりしながら、一つのものがアレンジを加えられることなく“そのまま”繰り返し使われることをいう。
リメイクは「元のモノの特性を生かしてアレンジを加える」という広義ではアップサイクルと同じである。しかし、アップサイクルとはその価値を上げるものに特化しており、アレンジ後の価値が必ずしも上がるとは限らないリメイクとは異なる。また、リメイクを楽しむ人のことを「リメイカー」と呼び、その価値を共有する輪は年々広がっている。
レジ袋はもらわずエコバッグを使う。ペットボトルは買わず、飲み物はマイボトルで飲む。洗剤はリフィルのみ買う。このように、そもそもごみや不用品の発生を最低限に減らすことを「リデュース」という。「リサイクル」「リメイク」「アップサイクル」「ダウンサイクル」のどれよりも、優先して実践されるべきなのが「リデュース」である。
ダウンサイクルは、アップサイクルの対義語。元の価値より低いが、新たに使用価値を見出すことをダウンサイクルという。再び捨てられる可能性が高く、リサイクル製品としての寿命は短いものが多い。
SDGsが普及したことで、人々のアップサイクルへの関心が高まっている。とくに企業にとっては、一度原料に戻すための加工に手間とコストがかかるダウンサイクルと比べ、比較的コストがかからない点も理由の一つだろう。大きな潮流が見られるのは、ファッション業界と食品業界だ。
日本では、家庭から廃棄される衣料が年間約75万トンにもおよぶ。(※1)その66%は焼却・埋め立て処分され、環境へ大きな負担がかかっているのが現状だ。一方、リユース・リサイクルなどの再利用率が34%とまだ低いものの、年々割合が高くなってきている。(※2)
CSRの観点からも、リサイクル素材を生かした衣料や、古着や廃棄物を活用したアップサイクルに力を入れるブランドが増えてきている。
食品業界のアップサイクルトレンドについては、世界の人口増加による食糧難と大規模な食品ロスが背景にある。世界の人口は2050年には97億人に達するとされ、食糧難が深刻化することは想像に難くない。
それにも関わらず、2011年に国連食糧農業機関(FAO)が発表したレポートによると、世界で生産された食品は40億t、廃棄量はなんと13億t。約3割もの食品が廃棄されているショッキングなニュースに世界中が危機感を抱いたのである。(※3)
大量の食品廃棄を防ぐ希望の光として、アメリカでは近年アップサイクルフードが注目を集めている。2019年時点で市場規模は467億ドル(5兆3700億円)。2029年まで年率5%で成長すると期待されている。(※4)
また、日本でも大手企業が取り組みを始めている。規格外の野菜や果実をジャムや酒、クレヨンにしたり、稲作で発生する籾(もみ)をスキンケア商材にしたり。古くから日本人に宿る“もったいない精神”からくるものか、生産地の現場では早くからこういった取り組みが行われていたようだ。
アップサイクルとは、元のものより価値が高めて別の新しいものに変えること。つまりものとしての寿命が伸びて、長く使うことができるというメリットがある。リユースやリメイクではものの寿命はあまり長くないため、そこがアップサイクルの特徴と言えるだろう。
さらにリサイクルでは、製品を分解して原料まで戻す段階でエネルギーを使う。しかしアップサイクルなら、そのようにエネルギー使用を抑えられる。
アメリカのアップサイクル食品協会(UFA)が2020年に、食品廃棄を防ぐ目的でスタートしたのが「アップサイクル認証」だ。アップサイクルされた食品や製品について認定する、世界で初めての認証制度として知られる。同協会ではアップサイクルフードの定義について、以下のような条件をあげている。(※5)
・本来なら廃棄される食材や生産過程で出る副産物を使っているもの
・付加価値の高いもの
・人が消費するためのもの
・監査可能なサプライチェーンで調達・生産されているもの
・どの原料がアップサイクルされているかラベルに明記されているもの
認証された企業・ブランドは、消費者が一目でわかるよう、ロゴ入りの認証マークを製品につけることができる。
生産・加工時に発生する廃棄物や副産物を原料にして、別の食品を企画・開発する企業が増えてきている。例えば、「アサヒグループ」はサンドイッチ製造で発生したパンの耳を使って地ビールを醸造、食品販売の「オイシックス」は野菜のヘタや果物の皮を使ったスナック菓子を販売している。
ファッション界では、古着を現代的な洋服やバッグ・小物に再構築するケースが多い。また生地の切れ端やデッドストック(売れ残った洋服)をアップサイクルする例もある。さらに、農産廃棄物から染料をつくって染色に使用するなど、生地の加工段階でのアップサイクルも行われる。
コーヒーかすやココナッツの殻、オリーブの種など食品・飲料の副産物には、高い抗酸化物質やビタミンなどの栄養素を含むものがある。それらの成分を抽出してアップサイクルしたスキンケア商品の需要が高まっている。バラの花びらやパルプといった廃棄前の天然成分を活用したフレグランスも増えてきている。
こんにゃくの加工段階で廃棄される飛び粉からセラミド成分を活用した美容・健康サプリメントがある。また大手製菓の「カルビー」から提供された規格外のじゃがいもをアップサイクルし、除菌ウェットティッシュが開発された例もある。
建設時の残土やがれきの残渣を建設用のブロックにアップサイクルし、コストカットとCO2排出の軽減を目指す企業が増えている。空き家となった古民家を取り壊さず、昔ながらの情緒を残したままリフォームする古民家再生がブームとなって久しいが、これもアップサイクルと言えるだろう。
日本国内でもアップサイクルのブランドが数多く生まれている。食品からファッション、コスメ、生活雑貨など、日本で入手できるアップサイクルブランドは、こちらの記事で紹介している。
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米・サンフランシスコ発のクッキー生地専門店「Doughp」は、ビールの醸造工程で生まれるビール粕をアップサイクルしたパウダーを使い、クッキー生地にして販売している。小麦粉でつくるクッキー生地より糖質量が低く、ほかの商品より食物繊維が6倍も豊富という。
Photo by A Waste Epiphany
オランダのブランド「ア・ウェイスト・エピファニー(A Waste Epiphany)」は、建設現場で出るレンガやコンクリートの廃材を、花瓶、プランター、ブックストッパー、小型テーブルなどにアップサイクル。複数の種類のレンガを使用することで、ひとつひとつに色合いが異なるデザインが生まれている。
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大量に生産され、わずかな期間で廃棄されることが多い傘。ロンドンと東京を拠点とするサーキュラーデザインブランド「Anti」では、そんな傘をデスクランプやテーブルランプにアップサイクルしている。埋め立てや焼却処分されることが多い傘の問題解決に貢献したいと、同ブランドを立ち上げたという。
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企業やブランドが率先して取り組むことが、アップサイクル普及の大きな原動力となる。そのためにも消費者である私たちが、上に挙げたようなさまざまな業界のチャレンジを積極的に知り、応援する姿勢が大切だ。
同時に、個人でできることがないか日々の生活を見直すことも重要。なにかを捨てようと思ったとき、一度手を止めて想像してみよう。たとえば飲み終えた缶は観葉植物の鉢に、お菓子の空箱は収納箱に使えるかも。どんな小さなことでもいい。少しの工夫で環境にやさしく、毎日の暮らしは豊かになるはずだ。
※1 環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務|日本総合研究所
※2 Sustainable Fashion|環境省
※3 世界の食料ロスと食料廃棄|FAO
※4 食品廃棄物のアップサイクルと 地域の可能性|社日本経済研究所
※5 Upcycled Food Association
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