リサイクルやリユースといった概念が浸透しつつあるいま、無印良品の取り組みに注目が集まっている。不要になったプラスチック収納用品や衣料品の回収といった同社の取り組みのみならず、地域社会とも連携した循環型社会の実現に向けた挑戦には、商品を生産して届ける企業としての本気度を感じる。企業、生活者、地域社会が一体となって目指すことの必要性についてみていく。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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1980年のブランド誕生以来、無印良品のものづくりの根幹には、「素材の選定、工程の点検、包装の簡略化」の3つの視点があるという。それは地球環境や生産者に配慮した素材を選び、すべての工程で無駄を省き、限られた地球の資源をできるだけ長く、大切に使おうという思想だ。
そのため、現在のようにサステナブルなライフスタイルが取り沙汰される以前から、リユース・リサイクル活動には積極的。衣料品やプラスチック収納、スキンケア商品のペットボトルなど、不要になった自社製品を店舗で回収し、リユースして販売したり、リサイクルして再資源化したりする取り組みを実施。ただ売るだけではなく、つくり手の責任として、商品が使われたあとにも目を向けている。
なかでも本腰を入れるのが、看板商品でもある収納ケースの循環プログラム「プラスチック収納の回収」と、衣類をリユース、アップサイクルする「ReMUJI」だという。
無印良品の店舗の一画に設けられた回収コーナー。「地球のように回してみよう」のメッセージが掲げられている。
2023年2月スタートと、比較的新しい取り組みなのが「プラスチック収納用品の回収」だ。対象となるのは、衣装/収納クローゼットケースなどのポリプロピレン製品と、やわらかポリエチレンケースシリーズの約200種類。狭小店などを除く全店舗で行っている。
店頭の回収ステーションに持ち込まれた商品は、使用上問題ないと判断されれば一部店舗で再販され、それ以外はリサイクル工場にて粉砕してペレット化。一部にバージン素材を活用しながら、 “再生ポリプロピレン使用商品”として生まれ変わる。
再生ポリプロピレンのみでの製品化は難しく、その理由を「再生材はバージン素材と比べて強度の面でどうしても劣る。お客様に安心して使っていただく品質を保つためには混合がベスト」と、循環推進部の永戸順也氏は話す。
無印良品のプラスチック収納用品といえば、看板商品でもある。その回収に取り組むことになった背景には、地球資源の循環と廃棄物の削減があるという。「長年、石油由来のプラスチック製品を販売しているなかで、不要になったら破棄される現状を問題視していました。生産した私たちが責任を持って回収し、再資源化できないかと検討した結果です」と、永戸氏。
さらに、「プラスチック製品はリサイクルできるという考えが広まり、お客様にも捨てない選択をしていただけるようになれば」。そんな啓発的な意味合いもあるという。2030年までに全プラスチック製品での再生プラスチックの使用を目指し、資源を循環させる仕組みづくりに全力を尽くす。
大型の収納商品ともなれば、持ち込むのも一苦労。自治体での回収の方にメリットがありそうと思いきや、そうでもないという。
「無料で引き取ってもらえるというのも、魅力に感じる方が多い。また、その日に店舗で引き取ってもらい、帰りには新しい商品を買って帰ることもできます。さらに、2024年5月30日からは、不要になったプラスチック収納用品を店舗へ持ち込み時にお声がけいただくと、無印良品の公式アプリ『MUJI passport』のMUJIマイルをプレゼントするサービスを用意しています。*」(永戸氏)。
取組の開始から1年が経ち、利用客からは「粗大ごみだと思っていたものが資源になる」、「無印良品に持っていけばリサイクルにつなげられる」といった、好意的な声が多いという。引っ越しなどのタイミングでも、ぜひ利用したいサービスだ。
*これまでMUJIマイルのプレゼント対象は「衣料品」のみだったが、「プラスチック収納用品」「スキンケアPETボトル」にも拡大した。
回収した服を染めて販売する「染めなおした服」。
無印良品の衣類を回収して循環させるプロジェクト「ReMUJI」は、2015年に、回収した服を染めなおして販売する「染めなおした服」からスタート。2021年秋には、回収した古着を丁寧に洗濯して販売する「洗いなおした服」、回収した服をリメイクする「つながる服」がラインナップに追加された。
回収対象となるのは、無印良品の衣料全般で、仕分けの段階で「ReMUJI」として扱えないものはリサイクルを行っている。
服の回収自体はReMUJIが始まる5年前の2010年よりスタート。当時は回収した服をリサイクルしてエネルギーに変える取り組みに参加していた。
現在のような形態になったのは、「戻ってきた服をみてみると、古着とは思えないほど状態のよいものが多かったんです。まだまだ着られるものをリサイクルするのはもったいない」、そう思ったことがきっかけだと、循環推進部の戸村幸太氏は話す。使えるものはできるだけリユースして次の人につなげ、少しでも長く着てもらいたいというのが取り組みの原点だ。 そうしてはじまった「ReMUJI」のコンセプトは、日本に古くから根付く先人たちの知恵が着想源。古くなったものを染めなおす、刺し子をして補強するといった、服を最後まで大切に着る日本人特有のもったいない精神を受け継ぐ。
回収した服を藍色や黒色に染めなおし、新たな息吹を吹き込む「染めなおした服」。染めるという性質上、素材は綿混率の高いものが向くというが、そもそも無印良品の製品は綿100%のものが多いため、理にかなっている。
藍色といっても伝統的な植物による藍染とは異なり、反応染めという化学染料による方法をあえて選んだ。理由は、「藍染に比べて色落ちしにくく、お客様に長く商品を愛用していただけるから」と、戸村氏。
とくに人気なのがアイコンともなっているシャツだ。縫製する糸のみポリエステルであるため、後染めをするとその部分が染まらず、ステッチのようなデザイン性が出るという。染による独特の風合いは顧客からも好評で、手に取る人が多いとか。
「洗いなおした服」。
こちらは、回収した衣料品を選別した後、工業用の機械で洗濯している。洗いにかけることで汚れを落とし、古着特有の匂いもなくなるため初心者でも手に取りやすい仕上がりになっている。
戸村氏によると、「デニムであれば前に着用されていた方の色落ちの雰囲気が楽しめる商品や、新品では味わうことのできない風合いが特徴。現在は販売されていない無印良品の商品に出会える魅力もある」とのこと。
「つながる服」。唯一無二のデザインと、見た目の可愛らしさから、手に取る人が多いという。
汚れのない部分を再利用し、2枚のシャツをつなぎ合わせてリメイクしたのが「つながる服」だ。現在は、シャツ2型の他、デニムからつくったポーチとバッグの2型が並ぶ。ポップアップなどのイベント以外は新宿靖国通り店のみの取り扱いとなるため、すぐに完売するほどの人気ぶり。「サステナブルといったことは抜きにして、単純にデザインが可愛いと思ってくださる方が多い印象です」と、戸村氏は分析する。
リメイクと聞くと奇抜なデザインを思い浮かべるかもしれないが、そもそも無印良品のアイテム同士を組み合わせているため、“無印らしさ”は健在。基本のデザインパターンも決まっており、現行の商品とも馴染む。
また、前仕分けを店舗スタッフの手で行うことで、シャツは3,990円、ロングシャツは4,990円と手に取りやすい価格だ。その理由について、「リユースするからにはしっかりと次の方につながることが重要だと考えている。そのためにもお客様にとって手に取りやすい価格で提供することも意識している」と話す。
一般販売されていないが、「つながる服」の工程で出た端切れをつなぎあわせたバッグを一部社員が利用しており、いまある資源を大切に使う精神は、社内でも広がっていることがうかがえる。
衣料品の大量廃棄が問題になりつつある昨今、リユースやリサイクルに取り組むブランドも増えた。だが、期間限定や一時的なポップアップが多い印象もある。
無印良品の強みを聞いてみると、「常に店頭で『ReMUJI』の商品を手にとってもらえる環境が大切だと考えている。回収にご協力いただいた際に、ご自身が持ち込んだ服がどのようにリユース、リサイクルがされているのか売場で直に感じてもらえます」と、戸村氏。現在、常設で『ReMUJI』の商品が購入できるのは25店舗で、今後も増やしていく予定だ。
「プラスチック収納の回収」、「ReMUJI」とも、今後目指すのは回収量の大幅な増加だ。「ReMUJI」でいうと、2023年8月期の年間回収量は約52t、年間販売数は30,433着。2017年2月期では回収量約11.3t、販売数は10,713着だったため、着実に増えてはいるが、まだまだ足りないという。「プラスチック収納の回収」については、2023年スタートということもあり、目指す数値には到底達していない。
まずは取り組みの周知が必要だという。「まだまだ認知していただけていない。また、取り組みを知っていただけても、気軽に参加いただくには現状まだまだ課題がある」(戸村氏)。「多くの方に知っていただくことで、この限りある資源を循環させる仕組みを、お客様と一緒につくり上げていきたいです」。そう永戸氏は語る。
無印良品の商品は、簡潔でシンプル。そして品質にも重点を置いている。そのため「まずはリサイクルよりも、ひとつのものを長く使っていただくことを大事にしたい」と、永戸氏。
戸村氏も、「回収だけを推奨するのではなく、買ったものを大事に使っていただく。それでも着れなくなったり、使えなくなったりしたものは回収させていただくことが、当社の資源循環の考え方なんだと思います」と締めくくった。
東京有明の無印良品(プラスチック収納用品のリユース販売)
無印良品には、「一つひとつのお店が、地域のコミュニティセンターとなる」という理念がある。それを体現する一例が、東京有明店の江東区との取り組みだ。江東区と「無印良品 東京有明」が協力して資源循環型の社会を目指すもので、「無印良品 東京有明」が、江東区の古着の回収やフードドライブの常設回収の拠点のひとつとなっている
無印良品で行っている古着の回収は、同社の商品に限っているが、ここでは江東区の古着の回収の常設拠点としての機能も担っているため、対象を広げ、無印良品以外の古着や布製品も店頭で回収する。無印良品の商品なら、同社のリユース・リサイクルルートで再利用し(ReMUJI)、それ以外は江東区がリユース・リサイクルを受け持ち、一定基準に満たないものは、工業用雑巾(ウエス)の加工や、綿やフェルトの原料になるという。
利用者からは、「無印良品以外の古着も引き取ってくれるので、家庭にある不要衣類を一箇所に持ち込めて便利」、「店舗が営業している時間なら持ち込みできる」といった声が届いている。無印良品では、「店舗が江東区の回収拠点の機能を担うことで、地域の方が参加しやすい仕組みを整え、古着をごみにしない手助けができれば」と考えているという。
社会全体が循環型社会の実現に動いているいま、私たち生活者にも持続可能なライフスタイルへの変換が求められている。だが、『プラスチック収納の回収』や『ReMUJI」』をふくめ、企業単体だけではその実現は難しいのが現状だ。
無印良品では、「地域の方に、『当社のこういう取り組みにぜひ協力したい』と思って頂けることが大切だと感じています。資源循環は私たちだけでは実現できませんから。そのためにも、無印良品が地域や社会で役立つ存在になっていきたい」という。私たちが進むべき循環型社会の姿が、ここにあるに違いない。
執筆/村田理江 企画・編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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