リサイクル率全国上位を実現する鹿児島県・大崎町と住民の取り組みに迫る

鹿児島県・大崎町

12年連続でごみのリサイクル率日本1位となっている鹿児島県・大崎町。2024年4月に、大崎町の分別を実際に体験できる施設「circular village hostel GURURI」がオープンする。実際に宿泊し、大崎町の取り組みを体験した模様をレポートする。

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2024.04.09
EARTH
編集部オリジナル

地球を救うかもしれない… サキュレアクトが出合った「未来を変える原料」と新たな挑戦

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循環型社会を目指す「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」

鹿児島県大崎町

鹿児島県大崎町

日本は高いリサイクル技術を持っているのに、他の先進国と比べてリサイクル率は決して高くない。それは日本がごみを焼却に頼っていることが大きな原因だと考えられている(※1)

ダイエットの目的がダイエットをすることではないように、リサイクルの真の目的もリサイクルではない。新たにモノを生み出したり処分したりしないことで、天然資源枯渇の回避や、廃棄物の減量化、処分時の温室効果ガス減など、さまざまな問題の解決に一歩ずつ近づけるというのが狙いだ。環境汚染の深刻化に向けて世界が目指すサーキュラーエコノミー(循環経済)においては、不可欠な活動だと言える。

今回取材した鹿児島県大崎町は、広大なシラス台地が広がる自然豊かな大隅半島に位置する人口1万2000人ほどの街だ。ごみのリサイクル率は80%を超えており、自治体としてリサイクル率日本一12年連続を含む15回を達成。「ジャパンSDGsアワード」内閣官房長官賞を受賞するなど、環境問題解決に向けて積極的に取り組む町として知られている。

また「大崎リサイクルシステム」は世界的にも評価されており、2012年度からはインドネシアに技術協力を行っていることから、日本を代表する“リサイクルシティ”と呼んでも過言ではないだろう。そして現在はごみだけでなく、“サーキュラーエコノミー”を根底に、もの・人・経済などすべての資源が循環する「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」という循環型社会を目指している(※2)

そもそも大崎町がごみのリサイクルを始めたのは、町に焼却処分場がなかったのが大きな理由だ。かつては出たごみをすべて埋め立てによって最終処分をしていたが、予定されていた計画期間よりも早く埋め立て処分場の残余年数がひっ迫し、新たなごみの処分方法の検討を迫られることに。最終的に既存の埋め立て処分場を長く使用する道を選び、ごみを削減するために1998年から分別が始まった。これにはもちろん住民の協力が不可欠で、実際に分別が始まる直前の3ヶ月間は、150箇所の集落において計450回の対話が行われたという。

リサイクル率日本一を誇る“大崎リサイクルシステム”

1998年に3品目からはじまった家庭ごみの分別は、だんだん数が増え、現在では28品目で行われている(2024年4月より紙おむつが新たに分別品目に追加された)。これだけ多くの品目に分別されているのは、ごみがきちんと資源化されているということだ。最新のデータで、大崎町のリサイクル率は84%という驚異的な数字を叩き出している(全国平均は20%前後)。

大崎町のリサイクルシステムについて、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会職員の解説を元にまとめてみよう。大崎町の家庭から出るごみは大きく分けて、①60%が生ごみや草木 ②23%が資源ごみ ③17%が一般ごみ という割合だ。

STEP1
一般家庭から出るごみの6割を締めているのが生ごみや草木で、大崎町ではこれらを一般ごみとして扱わず、すべて堆肥化している。町が巨大なコンポストを持っていて、それぞれの家庭から集められた生ごみや草木を堆肥の材料として回収している、とイメージするとわかりやすいだろう。

鹿児島県大崎町

各家庭で出た生ごみは、ごみ集積所にある青い樽のなかに直接入れればOKという便利なシステム。生ごみが腐ると堆肥の出来に影響が出るため、週3回という高頻度で回収される。(筆者が取材した日の朝は該当地域で回収日ではなく、樽の蓋が閉じられたままだった)

鹿児島県大崎町

ここが“町の巨大コンポスト”大崎有機工場。生ごみは破砕機で、草木は大きな重機で細かくされた後、重量比1:1の割合で混ぜて二次発酵まで行う。生ごみから出た汚水は発酵に必要な水分として使われるのだとか。汚水=栄養ドリンクのような存在という、なんとも美しい循環!

鹿児島県大崎町

約半年の時間をかけてできあがった堆肥は、「おかえり環ちゃん」という名で販売されており、その値段は15kgで300円(左)、5kgで100円(右)と格安!町内の農家さんや家庭菜園で広く使われている

STEP2
23%の資源ごみの内訳は、プラスチック類、缶、びん、紙類、衣類、金属類、ペットボトル、蛍光灯類、乾電池類などだ。こう書くと一般的な分別に思えるが、実際はびんだけで4分別、紙に至っては8分別と、かなり細かく分けられている。資源ごみの回収は月に一度。あらかじめ家で分別してごみ集積所に持ち込むか、ごみ集積所で分別するかは各家庭によるところではあるが、いずれにしても1ヶ月保管しておかなければならない。台所から出たものはきれいに洗って乾かしておかないと、臭いや虫が発生する原因にもなるので、管理もそれなりに大変だ。回収されたものは、有限会社そおリサイクルセンターが運営する「そおリサイクルセンター」に持ち込まれる。ここで職員の方が手作業でさらに細かく分別する。

鹿児島県大崎町

そおリサイクルセンターにて、回収された資源ごみを検品し、さらに50種類程度に再分別される。販売した売却益金は大崎町の貴重な歳入となるため、意識としてはごみではなく商品として扱っているとか。大崎町では”ごみ”ではなく、“資源ごみ”という言葉がよく聞こえてくる

鹿児島県大崎町

そおリサイクルセンターではシルバーの職員さんも働いている。リサイクルセンターができたことにより、40人の雇用が生まれ、さらにシルバー人材センターからも8人程派遣されている。「おかげさまでこの年で遣っていただけて…」と謙遜されていたが、再分別の技術はまさに職人だった

鹿児島県大崎町

そおリサイクルセンターにて細かく再分別された様子。これはほんの一部分だ

STEP3
残る17%の一般ごみは、現状で資源化できないものが当てはまる。具体的には、使用済みのティッシュや衛生用品、粗大ごみ、肌に触れた下着類、紙おむつなど。これらは焼却炉がないため埋め立てられることになる。一般ごみの2割を占めている紙おむつは、現在水平リサイクルにむけて実証実験が行われている最中だ。水平リサイクルが実現すれば、埋め立てごみの量がさらに減ると期待できる。

鹿児島県大崎町

埋め立て処分場には、大崎町と隣の志布志市で集められた一般ごみが運ばれてくる。埋め立て処分場を見られることはそうそうないが、大崎町では学校教育や町が設けた場などで町民に見学の機会があるという

鹿児島県大崎町

1990年から使用されているこの埋め立て処分場は、本来2004年で満杯になると言われていた。しかしごみの分別回収“大崎リサイクルシステム”を続けた結果、埋め立てるべきごみ量が激減。今後約40年間は継続して使えるだろうと言われている

このほど2024年4月に、大崎町で20年以上続いているこれらの分別を実際に体験できる施設がオープンした。体験型宿泊施設「circular village hostel GURURI」だ。

「GURURI」は築50年の教職員住宅を改修した建物で、内装は高い断熱性や地域内資源循環を目指している。加えて木質バイオマスボイラーや薪ストーブ、リユース太陽光パネルによる太陽光発電など、極力地上資源を利用したエネルギーでまかなうシステムになっている。

circular village hostel GURURI

体験型宿泊施設「circular village hostel GURURI」

今後“エコホテル”として注目を集めそうな「GURURI」。プロジェクトマネージャーである遠矢将(とおや・しょう)氏に、この施設を造った際のエピソードや想いについて聞いた。

遠矢将さん

遠矢将(とおや・しょう)氏 大崎町出身。県内他都市での進学、東京都内の建築事務所勤務などを経て、15年ぶりに大崎町にUターンした

「リノベーションにあたり、自分たちで元の建物の解体作業をしたおかげで、最初に出す廃棄物をかなり少なくすることができました。木材をほぼこの敷地内に残し、ソファーフレームやキッチン、エネルギー源に変えたことで、8割の廃棄物が減らせたんです。このように、廃棄物を敷地内に残して再利用するプロセスは、現状建築業界でほとんど行われていませんが、今後選択肢の1つとなればと思っています。大崎町はたしかにごみが少ないですが、捨てているもの自体は東京でも大崎町でも一緒です。場所を変えて暮らしの体験をすることで、ふだん扱っているものが全く違って見えるようになるので面白いと思います。そして分別したものが資源になることを理解するのも重要ですが、生ごみを堆肥化したり、焼却炉に頼らなかったりする“未来の日本の姿”を意識しながら過ごしてもらえたら嬉しいですね」(遠矢氏)

circular village hostel GURURI

「GURURI」はリビング棟(LDK棟)と寝室棟の2棟に分けられている。これらはリビング棟の様子。アイランド形式のキッチン天板は、閉園した地元の保育園の床材を、足組には解体で出た廃材を使用している

circular village hostel GURURI

断熱材や窓のトリプルガラスなどで高い断熱・気密性能を実現しており、とても快適だった。冬は薪ストーブも使える

リサイクルを真ん中に地域、人、企業が活躍してこそ実現する

大崎町で生活や商いを営む人々は、リサイクルに対してどのような意識を持ち、どう取り組んでいるのだろうか。今回は3名の方に話を聞くことができた。

関屋智誉さん

関屋智誉(せきや・ともたか)氏。定番野菜のほか、西洋野菜など年間200種類を露地栽培する大崎町の農家「トモタカファーム」の代表。取引先には、有名寝台列車や高級レストランも

関屋智誉(せきや・ともたか)氏が代表を務める大崎町の「トモタカファーム」は、主に鹿児島県内のレストランを取引先に持ち、露地栽培のみで年間200種類の野菜を生産している。所有している畑は全部で8か所。畑1つあたりで使用する堆肥はざっと軽トラ3杯分だそうだ。関屋さんはすべての畑で、大崎有機工場でつくられた堆肥「おかえり環ちゃん」を使っている。

「最初はホームセンターで堆肥を買っていたんだけど、『おかえり環ちゃん』の方が圧倒的に経費を抑えられるんだよね。成分表を見ても普通の堆肥とあまり変わらないし、野菜の育ちもいいからずっと使っています」(関屋氏)

トモタカファームの野菜

生ごみから生まれた堆肥でおいしい野菜が育ち、地域に還元される。これはとてもわかりやすい“サーキュラーエコノミー”の縮図だろう。関屋さんはこの地域らしい面白いエピソードを語ってくれた。

「こっちの人ってカンパチのあら煮とか好きだからさ、きっと生ごみに魚のガラとかいっぱい入ってるんだろうね。それらや骨粉とかが堆肥になるから、いい栄養分になるんだよ(笑)。それと、堆肥も季節によって若干成分にばらつきがあるんだよね。食べ物には旬があるから、生ごみの中身も当然違うし、台風が来ると木が倒れるから木材が増えるでしょ。大規模でやってる農家さんはばらつきが気になるみたいだけど、うちは野菜に“規格”を設けていないから大丈夫だ。とにかく、こうやって生ごみが循環しているのはすごくいいことだよね」(関屋氏)

上村曜介(かみむら・ようすけ)さん

大崎町に隣接する志布志市に本社および工場を置く酒造会社・若潮酒造の上村曜介(かみむら・ようすけ)氏。東京都内で食品メーカーの研究職などを経て6年前にUターンした。大崎町在住

鹿児島県を代表する酒造会社・若潮酒造を実家に持つ上村曜介(かみむら・ようすけ)氏は、県外に出てUターンしたことで、大崎町のリサイクルに対して改めて目を向けるようになった。

「これは今も多少あるんですが、焼却炉を買うお金がないから仕方なくごみを分別しているというのが、大崎町民の本音だったと思うんです。それがいつの間にか県外の方から注目されて、人が集まってくるようになってきたのはすごいことですよね。『ジャパンSDGsアワード』内閣官房長官賞を受賞したことも重なって、町民の意識が少しずつ変わってきたのかなと思います」(上村氏)

上村氏は帰郷後、若潮酒造の新規商品開発に参画。2021年に志布志市内で開かれたSDGsの勉強会をきっかけに、芋焼酎と地元産の規格外フルーツや野菜を活用したお酒「f spirits」(写真)を開発し、食品ロスを軽減しながら新しい価値を生み出したことで話題を呼んだ。さらにそれがきっかけとなり、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会の提案によって環境配慮型の紙パック(写真)を企画開発。従来の焼酎パックではできなかった紙資源としてのリサイクルが可能になったことも、大きな功績だ。

「SDGsやごみに対する考え方は、人によって温度差があると思うんです。キツイけどいいことだからやる、というのでは続かない。自分たちのビジネスに結びつけられるからこそ持続可能になるのだと考えています」(上村氏)

亀澤信介(かめざわ・しんすけ)さん

亀澤信介(かめざわ・しんすけ)氏。大崎町菱田地区(GURURIのある地域)内にある集落の公民館長(2024年3月現在)。また、住民のごみ出しをサポートしてきた住民組織「衛生自治会」の理事でもある。「GURURI」の解体ワークショップにも参加した

10年前に鹿児島市から大崎町に移住した亀澤信介(かめざわ・しんすけ)氏は、“大崎リサイクルシステム”の未来に対して不安の声を聞かせてくれた。それは加速する高齢化によって、今までできてきた分別ができなくなるのではないかという懸念からだ。

「大崎町がリサイクルを始めて20年以上経ち、ずっとやっている方たちもだいぶ高齢化してきました。もちろんよい取り組みだとは思っていますが、今後も高齢者がついてこられるか、同じことをできるかという点は、考えていかなければならないことです。また、人口減少も問題になっていますが、本当の循環という意味では人に帰ってきてほしいですよね。大崎町では子どものころからリサイクルが当たり前だという教育を受けています。リサイクルを負担に感じないような意識を持ち、帰ってくる人を減らさないためにも、今後もそのような教育を続けていくべきだと思っています」(亀澤氏)

体験してわかった大崎町が成功した理由

今回の取材では、“大崎リサイクルシステム”の内容を理解した上で、実際に細かいごみの分別を体験し、さらに住民の方々の本音を聞くことができた。いつもは燃えるごみとして扱っているものが、この町では燃やすことができない。それどころか、貴重な埋め立て処分場に、よそ者である自分のごみが行き着くのかと思うと、胸が締め付けられる思いがした。

ふだんからごみを減らそうと努力しているものの、刺身についていた小さなわさびのパックを中まできれいに洗ったことはなかったし、使用した生理用品の行く末をこんなにも考えさせられたのも人生で始めての経験だった。ただ、住民のみなさんも少なからず“面倒くさい”と思っていると知り、人間らしさを感じてホッとしたのも確かだ。

それでも大崎町の方々は、今日もせっせと分別に取り組んでいる。上村氏の言葉を借りれば、“ごみに対する考え方は、人によって温度差がある”から、リサイクルの真の目的を考えながら行っている人ばかりではないかもしれない。けれども、一人ひとりの協力が大きな力となり、全国の模範になっていることは紛れもない事実だ。

実はインタビューの中で亀澤氏が、「リサイクルに取り組んでいる住民に、もっと目に見える還元があったらいいと思う」とおっしゃっていた。大崎町の子ども達が“リサイクルネイティブ”として育っているのはとても頼もしいが、続けてきた方々は20年以上もごみを燃やさずに頑張ってきたのだ。みんなが嬉しいと思えるリサイクルの仕組みが整えば、さらに追随する自治体が増えることだろう。

※1 国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター|なぜ日本のごみのリサイクル率はヨーロッパに比べて低いのか?

※2 
一般社団法人大崎町SDGs推進協議会|OSAKINIプロジェクト
すべての資源が循環する持続可能な社会をつくるプロジェクトは、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会が運営する「OSAKINIプロジェクト」として進められている。

取材・執筆/河辺さや香 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2024年4月9日時点のものです。

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