気候緩和とは? 気候適応との違いや具体策、SDGsとの関係を解説

温室効果ガスを排出している煙突のイメージ

Photo by C Bischoff

気候緩和とは、温室効果ガスの排出削減によって気候変動の進行を抑える取り組みのこと。本記事では、「緩和」と「適応」の違いや再生可能エネルギー・森林保全などの具体的対策を紹介。またパリ協定・SDGs13との関係、日本の政策や企業の脱炭素経営などにも触れる。

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2026.03.23

気候緩和とは

温室効果ガスがたくさん排出されているイメージ

Photo by Billy Joachim on Unsplash

気候緩和の定義

気候緩和とは、温室効果ガス(GHG)の排出を減らし、気候変動の原因をできるだけ抑える取り組みを指す。英語では「Climate Change Mitigation(気候変動緩和)」と表現され、IPCCや国連機関をはじめとする国際機関で広く使われている(※1)。

なぜ「緩和」という言葉が使われるのか

気候変動対策の文脈で「緩和」という言葉が使われるのは、問題の根本原因である温室効果ガスの排出そのものに働きかけ、変化の進行速度を「緩やか」にする、つまり影響を小さくする考え方に基づいているから。

気候変動の影響を「なかったこと」にするのではなく、現実的に可能な範囲で進行幅を抑える、という発想が「緩和(Mitigation)」という言葉に込められている。

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気候緩和が必要とされる背景

温暖化により干ばつを引き起こしているイメージ

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気候変動が進むと何が起こるのか

IPCCの第6次評価報告書(AR6)によれば、現状の対策のまま推移した場合、21世紀末に世界の気温は産業革命前比で最大約5.7℃上昇する可能性があるとされている(※2)。

気温が上昇すると異常気象の激甚化を招き、記録的な洪水・干ばつ・熱波・大型台風の頻度が増加すると推測される。日本でも、1時間降水量80mm以上の極端な大雨の発生頻度が近年増加しており、猛暑日や熱中症死者数の増加も確認されている(※3)。

生態系への影響も深刻で、サンゴ礁の白化、生物の生息域の変化、農作物の品質・収量の低下などが進行している。さらに海面上昇による国土の水没リスクや、気候難民の増加といった社会的問題も、気温上昇が続く限り悪化し続けると予測されている。

人間活動との関係

IPCC第6次評価報告書は、「人間の影響が大気・海洋・陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断言している。

産業革命以降、化石燃料の大量消費、農業・畜産からのメタン排出、廃棄物処理における亜酸化窒素排出、さらに森林破壊による吸収源の喪失が複合的に重なり、大気中の温室効果ガス濃度は急速に上昇してきた。CO2・メタン・一酸化二窒素など、主要な温室効果ガスの2019年時点での世界排出量は約590億トン(CO2換算)に達しており、1990年代比で大幅に増加している(※4)。

こうした排出増加の主因が人間活動であることが科学的に確立されたいま、排出源を管理・削減する気候緩和の取り組みが不可欠な課題となっている。

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気候緩和と気候適応の違い

気候緩和とは「原因への対策」

気候緩和は、気候変動の原因である温室効果ガスの「排出削減」と「吸収源の拡大」を通じて、気候変動の進行速度そのものを抑制することを目的としている。

代表的な緩和策は、再生可能エネルギーへの転換・省エネルギーの推進・電気自動車の普及・植林・CCS(CO2回収・貯留技術)の導入などが挙げられる。

緩和策の効果が現れるまでには長い時間を要するため、早急かつ持続的な取り組みが必要だ。IPCCは2030年代前半に世界の気温が1.5℃上昇に達する可能性が高いと指摘。この10年間の緩和行動が、今後数千年にわたる気候変動の規模を左右すると予測している。

気候適応とは「影響への対策」

植物を栽培しているイメージ

Photo by Divaris Shirichena on Unsplash

気候適応とは、すでに生じている、あるいは将来に避けられない気候変動の影響に対して、自然や人間社会のあり方を調整し、被害を最小限に食い止めたり、逆に気候の変化を利用するための取り組みである(※5)。

具体例としては、水害を防ぐ防災インフラの整備、高温でも育つ農作物の品種開発、熱中症対策のための早期警戒システムの構築などが挙げられる。日本では2018年に「気候変動適応法」が制定され、国・都道府県・市町村が連携して地域の特性に応じた適応計画を策定することが制度化されている。(※6)

両者が必要な理由

気候緩和と気候適応は、それぞれ単独では十分ではなく、両輪で推進することが不可欠である。緩和策を最大限に実施したとしても、過去に排出された温室効果ガスの蓄積による気候変動の影響は今後も一定程度続くと見込まれており、その影響への備えとして適応策が必要となる。

逆に適応策だけでは、温室効果ガスの排出が続く限り気温上昇は止まらず、やがて適応できる限界を超えた損失と損害が生じる。緩和と適応は「車の両輪」の関係で、相乗効果を生み出しながら実施することで、将来にわたる気候変動対策の持続可能性を高めることができる(※5)。

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気候緩和の主な対策

再生可能エネルギー(風力発電)のイメージ

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温室効果ガスの排出削減

気候緩和における最重要施策が、温室効果ガスの排出削減である。エネルギー分野では、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料から、太陽光・風力・水力・地熱などの再生可能エネルギーへの転換が急務とされている。

IPCC第6次評価報告書によれば、太陽光発電のコストは2010年から2019年の間に約85%低下し、風力発電も約55%低下するなど、再エネの経済的競争力は飛躍的に向上している(※7)。

省エネルギーの徹底も並行して不可欠であり、建物の断熱性能向上(ZEB・ZEH)、省エネ機器の普及、電気自動車(EV)への転換などが重要な対策として位置づけられている。さらに、排出削減が困難な産業分野では、CCSやCCUS(CO2有効利用・貯留技術)の実用化が期待されている。

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吸収源の強化

森林のイメージ

Photo by kazuend on Unsplash

温室効果ガスの排出削減と同時に、大気中のCO2を吸収・固定する「吸収源」の強化も気候緩和の重要な柱である。陸地にある森林などが吸収・貯留した炭素のことを「グリーンカーボン」と呼ぶ。

森林だけでなく、海草藻場・海藻藻場・マングローブ林・干潟なども、大気中のCO2を吸収・固定する働きを持つ。近年はこのような海洋生態系による炭素吸収である「ブルーカーボン」も注目されている。国土交通省のデータによると、海域による炭素吸収量は年間約29億トンと、陸域の約19億トンを上回るとされている。日本は2024年4月、世界で初めて海草藻場・海藻藻場の吸収量を国連に報告するなど、ブルーカーボンの国際的な算定・活用に先駆的に取り組んでいる(※8)。

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ライフスタイル・社会構造の転換

技術的対策だけでなく、社会全体の構造とライフスタイルの転換も気候緩和には不可欠だ。

国民一人ひとりの消費行動(衣食住・移動手段の選択)に起因する温室効果ガスの排出量は、日本全体の排出量の約6割を占めるとされており、消費者行動の変容が緩和策の実効性に大きく影響する(※9)。そこで環境省は「デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)」を推進。個人・企業・自治体が連携して脱炭素型のライフスタイルへの転換を促している。

また、コンパクトシティの推進・公共交通網の整備・建物の省エネ基準の強化など、都市設計・社会インフラレベルの変革も温室効果ガスの排出構造を根本から変える上で重要な施策として位置づけられている。

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国際社会における気候緩和

パリ協定と気候緩和

2015年にCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定は、気候変動に関する国際的な枠組みとして歴史的な意義を持つ。パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命前比で「2℃より十分低く保つ」とともに「1.5℃に抑える努力を追求する」ことが長期目標として設定された。

この1.5℃目標は、当初は努力目標とされていたが、IPCCの「1.5℃特別報告書」(2018年)が1.5℃と2℃の違いによる生態系・人間社会への影響の大きな差を示したことで、国際社会の重要な目標として広く認識されるようになった。

パリ協定では各国が「国が決定する貢献(NDC)」として削減目標を5年ごとに提出・強化する義務を負っており、日本は2030年度に2013年度比46%削減という目標を掲げている(※10)。

IPCCが示す気候緩和の方向性

IPCCは、世界中の科学者の知見を集約し、気候変動に関する科学的評価を定期的に公表する国際機関である。

2023年に公表された最新の第6次評価報告書(AR6)統合報告書では、1.5℃目標を達成するためには、2030年までに2019年比で世界全体のGHG排出量を約43%削減し、2035年までに65%削減することが必要と明示された。報告書は「この10年間の選択と行動が、現在から数千年先にまで影響する」と強調しており、緩和行動の即時性と大幅な強化の必要性を訴えている(※11)。

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日本における気候緩和の取り組み

国会議事堂のイメージ

Photo by Tsuyoshi Kozu on Unsplash

政府・自治体の政策

日本政府は2020年10月、「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)」を宣言した。これを受け、2021年には「地球温暖化対策の推進に関する法律」が改正され、2050年カーボンニュートラルが基本理念として法律に明記された(※12)。

また、2050年に向けた産業政策として「グリーン成長戦略」が策定され、洋上風力・水素・蓄電池など14の重要分野で具体的な目標と工程表が示されている。地方自治体レベルでも、「ゼロカーボンシティ」を宣言した自治体は全国的に増加しており、環境省はこれら自治体の脱炭素先行地域としての取り組みを支援している(※13)。

国・地方脱炭素実現会議が策定した「地域脱炭素ロードマップ」では、2030年度までに100か所以上の脱炭素先行地域を実現するという具体的目標が掲げられている。

企業の取り組み

日本企業においても、脱炭素経営(気候変動対策を経営戦略に組み込む取り組み)の潮流が急速に広がっている。パリ協定の採択を契機に、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示、科学的根拠に基づく排出削減目標の設定、事業電力の100%を再生可能エネルギーで賄う「RE100」への参加などが、グローバル企業を中心に拡大している。

環境省はESG投資の潮流を背景に、脱炭素経営が「企業価値の向上」や「新たなビジネスチャンスの獲得」に直結すると位置づけており、気候変動対策を「成長の機会」として積極的に活用することを後押し(※14)。さらに経済産業省は2050年カーボンニュートラル目標に向けて、「グリーンイノベーション基金」を創設。企業の脱炭素イノベーションへの投資を10年間にわたって支援している。

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市民・個人ができること

電車通勤・通学のイメージ

Photo by Kanchan Raj Pandey on Unsplash

気候緩和は政府・企業だけの課題ではなく、一人ひとりの日常的な行動が排出削減に直結する。冷暖房設定の最適化・節電・断熱リフォームといった省エネ行動、公共交通機関・自転車・徒歩への転換、食生活における食品ロス削減や植物性食品の積極的選択、フードマイレージを意識した地産地消など、生活全般の脱炭素化が求められる。

環境省の「デコ活」では、電動車への乗り換え・省エネ家電の選択・再エネ電力プランへの切り替えなど、個人が取り組める具体的なアクションを推奨している。また、企業の脱炭素経営を「消費者として支持する」姿勢も重要だ。環境配慮型製品・サービスの選択が市場を通じて企業の緩和行動を後押しする。

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気候緩和とSDGs

SDGs13との関係

気候緩和は、国連が2030年までの達成を目指す持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動に具体的な対策を」と直接的に連動している。

SDGs13は、気候変動および自然災害に対するすべての国の強靱性と適応力を強化すること、気候変動対策を政策・戦略・計画に組み込むことなどをターゲットに定めており、温室効果ガスの排出削減を核とする気候緩和の取り組みがその実現を支える鍵となる(※15)。

1.5℃目標の達成を目指してGHG排出量を大幅に削減することは、SDGs13の根幹をなす行動であり、脱炭素化に向けた政府・企業・市民の一体的な取り組みが、同目標の達成に不可欠な条件となっている。

他目標とのつながり

気候緩和とSDGsの関係は目標13にとどまらず、複数の目標と密接に連関している。再生可能エネルギーの普及と省エネの推進はSDGs7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の達成に直結する。また、森林保全・ブルーカーボンの維持は、SDGs15「陸の豊かさも守ろう」およびSDGs14「海の豊かさを守ろう」とも重なる。

さらに、脱炭素経営を推進することで生まれる新産業・雇用はSDGs8「働きがいも経済成長も」に寄与。脱炭素型の都市設計・インフラ整備はSDGs11「住み続けられるまちづくりを」と結びつく。つまり気候緩和は、単一の環境対策ではなく、持続可能な社会全体の実現を後押しする「横断的な課題」として位置づけることができる。

気候緩和の課題と今後

技術的・社会的課題

気候変動対策の実現に向けては依然として多くの技術的・社会的課題が残されている。とくに鉄鋼、セメント、化学産業などは「ハード・トゥ・アベート(hard-to-abate)」と呼ばれ、化石燃料への依存や高温プロセス、化学反応に伴う排出などの構造的要因から脱炭素化が難しい分野とされる。これらの産業は世界のCO2排出の大きな割合を占めており、低炭素技術の確立やコスト低減、インフラ整備が重要な課題となっている(※16)。

水素還元製鉄やバイオマス燃料、CCSなどの革新的技術は、削減困難分野の脱炭素化に不可欠とされるが、その社会実装には大規模な投資と長期的な技術開発が必要とされている。また、脱炭素化は化石燃料産業に依存する地域や雇用への影響、先進国と途上国の排出削減負担の公平性、国内における政策合意形成などの社会的課題もともなう。

さらに、IPCCの分析によれば、各国が提出しているNDC(国が決定する貢献)の水準は、1.5℃目標に整合する排出削減経路と比較して依然として大きな乖離があり、現行の政策のままでは1.5℃目標の達成は困難とされている。

今後の展望

IPCCは、持続可能な未来を確保するための機会の窓は急速に狭まっているが、まだ実現の経路は存在するとも説明している。たとえば、太陽光・風力発電のコストは過去10年で劇的に低下し、電気自動車・蓄電池の普及も加速している。

今後の展望として、エネルギーシステム全体の脱炭素化、産業・建築・輸送・農業など全セクターにわたる排出削減の「システム転換」が強調されている。個別技術の導入にとどまらず、社会・経済・制度全体を脱炭素型に再設計する「トランジション(移行)」の視点が不可欠であり、政府の一貫した政策、企業の野心的な投資、そして社会全体の価値観の転換が今後の気候緩和の鍵を握っている。

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気候緩和は、いま行動を起こすことが重要

気候緩和とは、温室効果ガスの排出削減と吸収源の強化によって、気候変動の進行を少しでも抑えるための取り組みである。パリ協定の1.5℃目標に向け、国際社会・日本政府・企業・個人が一体となった行動が求められている。技術的・社会的な課題は残るが、緩和策の実現手段は、すでに私たちの手の届くところにある。未来の気候を守るために、いまできることから行動を起こすことが重要だ。

※掲載している情報は、2026年3月23日時点のものです。

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