2026年4月施行「排出量取引制度」とは?仕組みやメリット、炭素税との違いを解説

空と工場の煙

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排出量取引制度とは、経済活動を阻害することなく、企業のCO2排出量を削減する取り組み。2026年4月からの本格稼働を前に、導入の意義や目的、背景、改正GX推進法から、メリットと課題などをわかりやすく解説する。

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2026.03.04

排出量取引制度(ETS)とは?基本を知ろう

排出量取引制度」は英語で「Emissions Trading Scheme」、略してETSと呼ばれる。まずは、その定義と基本的な仕組みから整理していこう。

定義

排出量取引制度とは、企業のCO2排出量に「枠」を設け(=これを「キャップ」と言う)、その枠を超えてCO2を排出した企業は、CO2の排出量が枠内でおさまった企業から、その「排出枠」を取引して購入できる仕組みのこと。

簡単にいうと?

さらに簡単に言うと、企業はCO2排出の上限を設定し、上限を超えてしまった企業と上限内におさえられた企業で、排出量について売買できる制度。排出枠を「キャップ」、取引を「トレード」と言い、この仕組みは、一般的に「キャップ・アンド・トレード」と呼ばれる。

目的

排出量取引制度の最大の目的は、社会全体でCO2の排出量を削減することだ。CO2の削減が容易な企業にとっては、安価なコストで大幅に削減し、余った排出枠を売って利益を得ることが可能。一方、削減が困難な企業にとっては、 高価な対策を無理に行うより、他社から排出枠を買う方が安く済むことになる。そのような仕組みで、経済活動を阻害せずに地球全体のCO2を減らしていけるのが、この制度というわけだ。

対象企業は?

排出量取引制度の対象となる企業は、CO2の直接排出量が10万トンを超える企業(前年度までの3年度平均)だ。

いつから?

排出量取引制度が本格的に始まるのは、2026年度から。2026年1月5日より、確認業務を担う登録確認機関*の登録申請を開始し、2026年4月から制度がスタートする(※1)。
(登録確認機関*:対象事業者が排出枠などについて、国の登録を受けた登録確認期間から確認を受ける必要がある)

ちなみに、この制度は、1997年の京都議定書で国際的な仕組みとして位置づけられたのが始まり。世界では、2005年に「EU-ETS(欧州連合排出量取引制度)」が開始され、現在では世界でもっとも成熟した市場となっている。

日本では、東京都が2010年に「東京都キャップ&トレード制度」を導入。国レベルでは、2023年度から民間企業が官・学と連携した「GXリーグ」がスタートしている。

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炭素税との違い

排出量取引制度と炭素税は、どちらもCO2排出量に価格をつける「カーボンプライシング」の仲間だが、アプローチが正反対だ。

排出量取引制度炭素税
対象大規模な工場・発電所など化石燃料を利用する全消費者・企業
価格の決定方法市場の需要
(変動)
政府が決定
(固定)
企業側の負担削減努力で売却益が出る排出する限り一律で税負担

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導入の背景

排出量取引制度は、上述したように、すでに世界でも導入されている制度。では、日本での2026年度からの本格導入を前に、なぜこの制度が始まるのか背景を今一度確認しよう。

排出量取引制度を導入する背景にあるのは、2015年に採択されたパリ協定。世界全体で産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えるという目標を掲げ、日本も2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を国際公約として宣言した。世界全体で、温室効果ガスや、その主成分であるCO2の排出量削減が、急務として求められている。

改正GX推進法

日本で排出量取引制度が加速している理由に、また「改正GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」がある。2024年の法改正により、これまで企業の自主性に任されていた「GXリーグ」での排出量取引に、明確な法的裏付けが与えられた。この法律によって、排出量取引制度の2026年度からの本格稼働が始まる。

排出量取引制度の仕組み

では、排出量取引制度が具体的にどのように運用されるのか見てみよう。

1 排出枠(クレジット)の割り当て

まず、政府や自治体が対象企業に対し、一定期間のCO2排出上限(キャップ)を定め、その分の「排出枠」を割り当てる。割り当て方には、主に2つの方式がある。

無償割当(グランドファザリング方式など)
過去の排出実績などに基づいて、無料で排出枠を配る方式。企業の急激な負担増を抑えるために、導入初期によく使われる。

有償割当(オークション方式)
企業が政府から排出枠を買い取る方式。「汚染者が費用を負担する」という原則に忠実で、政府の財源にもなる。

2 取り引き

割り当てられた排出枠に対して、実際の排出量によって「取引(トレード)」が発生する。

3 オフセットとの関係

排出枠を超えてしまった企業は、排出枠の購入以外に、「カーボン・オフセット」の仕組みを利用して、同様に排出枠を超えた分について帳尻合わせすることも可能だ。

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排出量取引制度のメリット・デメリット

排出量取引制度のメリットとデメリットはどうだろう。

メリット1:CO2削減努力が収益につながる

もっとも大きなメリットは、省エネや再生可能エネルギーの導入で余った排出枠を市場で売却し、キャッシュを得られる点だ。これまでは「環境対策=コストがかかる」という固定観念があったかもしれない。だがそれが覆り、「削減=利益」というビジネスモデルが成立する。

メリット2:低コストでCO2排出削減

企業がCO2排出量の削減を取り組む際、どうしてもコストがかかってしまう部分があるだろう。だが、CO2の排出が難しい企業にとってコストをかけて取り組むより、CO2の排出が行い企業から排出枠を買い取ることで、低コストでCO2の排出削減につながるメリットがある。

メリット3:企業としての評価アップ

排出量取引制度への積極的な参加は、脱炭素経営への先進的な姿勢として評価されるだろう。企業の価値や存続にも影響を与える取り組みといえる。

デメリット1:排出量が増えた場合のコスト増

削減が計画通りに進まなかった場合や、事業拡大で排出量が増えた場合、不足分の排出枠をそのときの市場の価格で購入しなければならない。市場価格が高騰した場合、経営を圧迫する大きな財務リスクとなる可能性がある。

デメリット2:報告の業務負担

対象企業は自社の排出量を正確に見える化させ、第三者機関による検証を受けるプロセスが必要になる。これには専門知識を持った人材の確保や、管理システムの導入コスト、事務作業の工数が発生する。

デメリット3:制度変更の可能性

排出量取引制度は国内外の政策変更に強く影響され、仕組みが変更される可能性があることも覚えておきたい。

私たちのくらしを豊かにする「排出量取引」

少し難しく感じられたかもしれないが、「排出量取引制度」を一言で言えば、「地球を守るための工夫をした企業が得をする仕組み」と言えるかもしれない。

これまで、CO2を出すこと自体に直接的なコストはかからなかった。しかし、この制度によって、CO2排出量が目に見える「価値」へと変わる。企業が必死に知恵を絞って脱炭素に取り組むのは、それが地球のためだけでなく、自社の利益や生き残りにも直結するようになったから。

私たち消費者にできることは、こうした制度に前向きに取り組んでいる企業を応援すること。脱炭素製品を選んだり、企業の取り組みに注目したりすることが、巡り巡って持続可能な社会づくりへの大きな後押しとなるだろう。

※掲載している情報は、2026年3月4日時点のものです。

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