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カーボン・オフセット制度とはどのようなものなのか。認証制度の概要と仕組み、種類、認証機関について解説。また認証を受けた企業や団体の事例を挙げ、認証制度に関して、わかりやすく説明していく。
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カーボン・オフセットの認証制度について解説する前に、まず、カーボン・オフセットとはなにかをおさらいしておこう。
私たち人間が活動することで避けられない二酸化炭素(以後、CO2)などの温室効果ガスの排出。この排出量をできるだけ減らすように努力したうえで、それでも出てしまうCO2を、別の場所で削減や吸収して埋め合わせするという考え方がカーボン・オフセットだ。
たとえばCO2を吸収する森林を管理・育成したり、バイオマス・風力・水力などの再生可能エネルギーの利活用などが挙げられる。
カーボン・オフセットの制度には「クレジット」の存在が欠かせない。削減や吸収したCO2は、クレジットと呼ばれるもので売買の取り引きが可能だ。例えば、ある部分で多くCO2が排出された場合、クレジットを購入することでそのCO2を減らしたり相殺できる仕組みだ。
カーボン・オフセットで用いられるクレジットは、信頼性を維持するために、以下の4つなどの基準を満たしていることが必要だ。(※1)
・確実な排出削減・吸収が実現されていること
・排出削減・吸収量が一定の精度で算定されていること
・温室効果ガス吸収の場合はその永続性が確保されていること
・クレジットを創出するプロジェクトの二重登録、クレジットの二重発行、二重使用が回避されること
「カーボン・オフセット制度」は、環境省が2011年に開催した「カーボン・ニュートラル等によるオフセット活性化検討会」での提言を受けて設立した認証制度のこと。CO2排出削減と吸収を一層促進する仕組みとして、制定された。
その前身は、2012年から始まった「カーボン・ニュートラル認証制度」と「カーボン・オフセット認証制度」の2つだ。別々に認証していたこれらの制度を、前述の検討会を契機に統合。環境省は新たに「カーボン・オフセット制度」を創設した。
さらに2012年6月には、「カーボン・オフセット第三者認証基準」を公表。2017年4月からは、環境省の公開文書に準拠し、認証制度は民間主導で行われている。
カーボン・オフセット認証制度の目的は、信頼性の高いカーボン・オフセットの取り組みを普及し、企業や消費者にCO2の排出の認識と削減の努力を促進することだ。
また認証を受けた企業は、信頼性が高まるというメリットがある。一定の基準をクリアした企業だけが認証される仕組みであるため、その企業の取り組みはお墨付きをもらえることになる。つまり、認証を得ることは、カーボン・オフセットの取り組みに対する社会的評価の向上につながるのだ。
また認証を受けることで、消費者に対して環境問題に対する取り組みをわかりやすくアピールでき、コミュニケーションツールとして役立つ意味もあるだろう。
このように、カーボン・オフセット認証制度によって、積極的なCO2削減の循環へつながっていく可能性が高まるというわけだ。
上述したように、カーボン・オフセット制度は環境省から2017年4月より民間主導に移行した。2017年3月末日で、環境省での「カーボン・オフセット制度」の新規認証や登録申請を終了。2017 年4月1日からは、民間主導による認証プログラム「カーボン・オフセット第三者認証プログラム」として運営されている。
カーボン・オフセット第三者認証プログラムは、環境省「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」と「カーボン・オフセットガイドライン」に準拠している。
カーボン・オフセット第三者認証プログラムを実施しているのは、一般社団法人カーボンオフセット協会だ。
カーボン・オフセット第三者認証プログラムは、「カーボン・オフセット認証」と「カーボン・ニ ュートラル認証」の2種類に分類でき、同協会は両方の認証制度の運営を行っている。
ちなみに、これらの認証を取得するか否かは、カーボン・オフセットを行う企業が自らの取り組みの規模や内容から選択できる。
「カーボン・オフセット認証」とは、カーボン・オフセットの取り組みが認証基準を満たしていることを、同協会が確認し認証を付与する制度だ。
この認証では、取得しようとする活動のなかで、温室効果ガス排出源のすべてを排出量として算定する必要はないことが大きな特徴だ。また、削減努力も定量ではなく、定性的な評価であるため、初めて取り組む事業者なども比較的取得しやすい。
販売促進やCSR活動等のアピールに活用しやすく、商品やサービスに対して認証を取得する事例が多く見られる。
一方、「カーボン・ニュートラル認証」は、組織におけるカーボン・ニュートラルの取り組みに対して、認証基準を満たしているかどうかを検証機関が審査し認証する制度だ。
組織単位でのCO2排出量が検証の対象となるため、認証フローは「カーボン・オフセット」に似ているが、認証基準がより厳格になる。
CO2削減については、基準とする年を設定したうえで、明確な数値を示す定量的な評価を行うことが必須となる。
カーボン・ ニュートラル認証の基準は、 ISO14061規格群に基づいているため、認証された場合は、国際基準を満たすものとして国内外にアピールすることが可能となる。グローバルな活動をする企業には、大きなメリットとなるだろう。
また、組織全体のCO2排出量を把握できるようになり、事業に対して温室効果ガス削減ポテンシャルをつかめ、場合によっては削減により事業効率の向上やコスト削減にもつながることが考えられる。
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気候変動へのアクションが待ったなしとなったいま、企業や団体ではさまざまな工夫を凝らしてカーボン・オフセットに取り組んでいる。ここで、いくつかピックアップして紹介しよう。
佐川急便は、車両を使わず台車や自転車などで集配を行う「カーボン・ニュートラル宅配便」を実施し、CO2排出量ゼロを実現。さらに、CO2の削減が困難な営業所とサービスセンター間の貨物輸送やサービスセンター内の電気使用に関してはグループの森林保全活動により創出されたオフセット・クレジットで相殺した。(※2)
同社はこの取り組みで、2017年のカーボン・オフセット大賞で環境大臣賞を受賞した。
自動販売機の運営や管理を行う栃木県のオートスナックは、自社で開発した広告クーポン付き自動販売機「フリーポン」をフルに活用し、「CO2ゼロ配送サービス」を実施した。
フリーポン自動販売機で使用する電力と配送で生じるCO2を、宇都宮市の一般家庭に太陽光パネルを設置する取り組み「みやCO2 バイバイプロジェクト」で創出されたクレジットを買い取ることで相殺した。(※3)
市民ぐるみのカーボン・オフセットの仕組みに、ローカル企業らしさが感じられる。2017年のカーボン・オフセット大賞で、経済産業大臣賞受賞している。
地方自治体や地方の団体は、カーボン・オフセットへの取り組みに積極的なところが少なくない。2016年のカーボン・オフセット大賞で農林水産大臣賞を受賞した、鳥取県日南町の道の駅「にちなん日野川の郷」は、2016年4月のオープンからわずか半年ほどでの受賞となった。
この道の駅は、施設で排出されるすべてのCO2をオフセットにすることを前提にオープン。
同所で取り扱う全商品を対象に、寄付型のオフセット商品として1商品につき1円のクレジットをつけて販売。商品を購入すると、日南町の森林を保全する活動に直接貢献できる仕組みとなっている。(※4)
むろん、大企業もカーボン・オフセットし、カーボン・ニュートラルに向けて積極的に動いている。
東芝グループは、2021年8月1日付で、各事業で進めているカーボン・ニュートラル関連ビジネスをより加速させるため、「カーボンニュートラル営業推進部」を新設した。カーボン・ニュートラルを検討する企業に、同社の商材を組み合わせた総合的な提案を行っていくという。(※5)
環境へ貢献でき、企業や組織としてのブランド力アップにもなりうる「カーボン・オフセット認証」。認証を受けるまでの大まかなフローや、必要となる費用や有効期間は下記の通りだ。
まず、カーボン・オフセット協会へ制度利用申請書を提出し、申請を行う。その後、審査が行われ、認証を受けると認証番号とラベルが付与される。
認証取得にかかる主な費用は、登録申請料、ラベル使用料、認証費用、コンサルティング費用などとなる。それぞれの目安の金額は以下のとおりだ。
・登録申請料
初年度5万円、継続時1万円(環境省旧制度参加者は継続扱い)
・ラベル使用料(年間)
協会加盟のプロバイダ経由の場合:大企業10万円・中小企業3万円
上記以外での申請:大企業15万円・中小企業5万円
・認証費用
カーボン・オフセット制度、カーボンニュートラル制度ともに、各審査機関による個別見積もりを依頼する
・コンサルティング費用
企画、算定、証書の発行、申請書作成代行等を各プロバイダー(仲介業者)へ個別に見積もりを依頼する
カーボン・オフセット認証には、有効期間がある。認証期間は、申請者が認証申請書に記載した認証日から1年以内の期間となる。この期間は認証書の公表をはじめ、認証を取得していることをアピールしたり、オフセットラベルを使用したりできる。
カーボン・オフセット制度と同様に、CO2削減に向けた取り組みに「J-クレジット制度」がある。J-クレジット制度とは、温室効果ガスの排出量削減や吸収量を、国がクレジットとして認める制度だ。
この制度により創出されたクレジットは、カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、多様な用途に活用できる。
たとえば、企業や地方自治体などが、省エネルギー機器や再生エネルギーの導入、森林管理などの取り組みを行うと「J-クレジット創出者(つくるひと)」となり、CO2排出削減量や吸収量に見合ったJ-クレジットが発行される。
このJ-クレジットは、「J-クレジット購入者(つかうひと)」である他の企業などに販売することができる。
温室効果ガスは、目に見えない。しかし、それは確実に地球を覆い、世界中の氷河を溶かし、生き物の生息域を奪い、異常気象を引き起こしている。そればかりか、気候危機によって多くの人民が飢餓に苦しむ国まである。
欧州諸国を筆頭に、CO2削減の努力を行わない企業に対しては年々厳しい目が向けられている。努力を怠る企業の製品は、消費者の不買にもつながりかねない。
「カーボン・オフセット第三者認証」のような制度は、経済活動を行うすべの企業や団体、そして個人にとっても無視できない存在となりつつあるようだ。
※1 カーボン・オフセット ガイドラインVer.2.0|環境省
※2 「第7回 カーボン・オフセット大賞」において環境大臣賞を受賞|佐川急便
※3 第7回カーボン・オフセット大賞「経済産業大臣賞」を受賞致しました|オートスナック
※4 鳥取県日南町、CO2排出量実質ゼロの道の駅 カーボン・オフセット大賞|環境イノベーション情報機構
※5 「カーボンニュートラル営業推進部」の新設について|東芝
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