温室効果ガスの削減を後押しする「カーボン・オフセット」とは何か。カーボン・オフセットのメリットや問題点、クレジット取り引きとはどのようなものかをわかりやすく解説する。わたしたち個人ができるカーボン・オフセットのアクションもぜひチェックしてほしい。
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ライター
大手電力グループ会社を経て、新電力ベンチャーにおいて自治体および大手商社と地域新電力の立ち上げを主管。福岡市において気候変動や地球温暖化、省エネについての市民向けセミナーを実施。現在は、…
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カーボン・オフセットとは、二酸化炭素やフロンガスなどの温室効果ガスの排出を削減する手段のひとつだ。できるだけ排出量を削減する努力し、それでも削減できなかった量に対して埋め合わせをする。
埋め合わせの方法には削減活動への投資や削減量の買い取りなどがある。自分自身の温室効果ガス排出量を、別のだれかが削減した量で埋め合わせる(オフセットする)という仕組みだ。
地球温暖化の原因となる二酸化炭素の削減は、いま世界中で喫緊の課題だ。世界各地で、二酸化炭素を出さない脱炭素型の社会に向けた取り組みが進められている。多くの国や企業が二酸化炭素の排出削減目標を立て、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに切り替えたり、電気やガスなどを節約する省エネに力を入れたりしている。
しかし、削減の努力を重ねても目標の削減量に届かない場合もある。例えば、再生可能エネルギーに切り替えても、太陽が出ていない時間や風が吹かない日は発電しないため、別の電源を使わざるをえない。このようなときには、二酸化炭素を排出する発電所から電気を調達することもある。
やむを得ず発生してしまった二酸化炭素の排出量を埋め合わせるのが、カーボン・オフセットだ。二酸化炭素の排出削減量は目には見えないが、クレジットという方法での売買が認められている。削減量の取り引きがしやすいようにと、国が認めた取り引きのかたちがクレジットだ。クレジットを買うと、二酸化炭素を削減したとみなされる。
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カーボン・オフセットは、イギリスの植林NGOから始まったと言われている。1997年、植林NGOの「Future Forest(フューチャー フォレスト)」 が、森林による二酸化炭素の吸収量をクレジット化して売買する「炭素オフセット・プログラム」を始めた。
Future Forestは、これまでに欧州やアフリカ、南北アメリカなどで約25万本以上の植林を行っている。その後、環境意識の高い欧米を中心に世界中に広がっていった。
二酸化炭素の排出量を取り引きするという考え方は、京都議定書でも採用されている。同じく1997年のCOP3で、開発途上国の削減量を先進国が買い取り、その資金で途上国の削減活動を支援する京都メカニズムを日本が提案し、世界に認められた。
カーボン・オフセットを利用して、カーボン・ニュートラルを目指す企業も増えている。カーボン・ニュートラルとは、わかりやすくいうと、二酸化炭素の排出量と吸収量が同じであることだ。排出した二酸化炭素と同じ量の吸収や削減をすることで、二酸化炭素を増やさないことがカーボン・ニュートラルのポイントだ。
カーボン・オフセットのメリットは、社会全体で二酸化炭素の削減を促進できるところだ。削減が進んだ側から削減が進んでいない側へ、削減量をシェアする取り組みだと考えてほしい。削減が進んだ側からみると、削減量をクレジットとして販売することで得た収入を、さらなる削減の取組への投資とすることもできる。
二酸化炭素の削減とひと口にいっても、その取り組みには困難がともなう。企業が設備を最新式の省エネタイプのものに更新したり、再生可能エネルギー由来の電力会社に切り替えたりすることには、コストや手間がつきものだ。
一方で、植林のための広大な土地をもつ地域や省エネの取り組みが目標以上に進んだ企業などでは、多くの削減量を生むケースもある。削減量が余っている人から必要としている人に渡すことが、カーボン・オフセットの目的だ。
カーボン・オフセットには、わたしたち個人も参加できる。実は、カーボン・オフセットされた商品は2020年9月末現在、900点以上販売されている。その種類はさまざまで、チョコレートやパン、お米などの食品から、キッチンやトイレなどの住宅リフォームまでさまざまだ。
こうした商品やサービスを購入することが、カーボン・オフセットの取り組みを応援することにつながる。
海外の事例では、9月14日にカーボンフリー宣言をしたアメリカ・カリフォルニア州のGoogleがユニークだ。
Googleは、2030年までに二酸化炭素の排出をゼロにするカーボンフリーをコミットした。このコミットのなかで、これまでに排出してきたすべての二酸化炭素をカーボン・オフセットで相殺すると述べている。現在だけでなく、過去の排出量もゼロにするというチャレンジングな先進例だ。
日本では、商品やサービスに加えイベントでのカーボン・オフセットが頻繁に行われている。2019年8月31日の東北楽天ゴールデンイーグルス主催の試合では、楽天生命パーク宮城で使われた電気による二酸化炭素の排出をオフセットした。
また、宮崎県の道の駅「にちなん日野川の郷」は、カーボン・オフセットによって二酸化炭素の排出ゼロで運営されている。
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しかし、カーボン・オフセットには課題もある。削減努力をしていない企業でも、クレジットを購入すれば削減目標を達成したとみなされることは、実質的な削減なのかという意見もある。
また、クレジットとして削減量を販売すると、販売した側は削減とみなされない。これは販売した側と購入した側で削減量をダブルカウントしないための措置だ。
こうした課題への対策として、日本ではJクレジット制度事務局という機関が中心となって、制度の見直しを図っている。クレジットを創出する手段は広がり、一般家庭が参加するケースも増えてきている。カーボン・オフセットがよりよい仕組みになり、拡大するように制度を整えているところだ。
海外でGoogleがカーボンフリーを宣言したように、世界中で脱炭素の取り組みは活性化している。日本企業もカーボン・オフセットやほかのいろいろな手段を駆使して、二酸化炭素削減の目標達成に向けて努力を重ねている。
わたしたちができることは、まずカーボン・オフセットとは何かを知ること。そして、カーボン・オフセットされた商品を選んで手に取ることだ。
消費者がカーボン・オフセット商品を志向すれば、企業はより早くそうした商品やサービスを拡充させるだろう。
脱炭素のニーズを表明することは、消費者サイドからマーケットを動かしていくことにほかならない。
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