日本の炭素税導入の現状は? 仕組みや目的・諸外国の事例を紹介

炭素税

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地球温暖化対策の一つとして検討されている、「炭素税」。環境税の一種である炭素税の目的や仕組みは何なのか? すでに導入されている諸外国の事例を紹介しながら、導入の効果やメリット、デメリット、日本ではいつから導入されるか解説する。

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2021.08.30
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「炭素税」とは?

炭素税

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炭素税とは、化石燃料や電気を利用した際、その使用量に応じて課せられる税金のことだ。

化石燃料や電気を利用すればするほど、二酸化炭素排出量の増加につながる。その使用量に応じて課税される仕組みがあれば、多くの燃料を使う製品の価格は、自然に上昇する。この価格上昇によって、二酸化炭素排出量の多い製品の需要を低下させることが、炭素税導入の大きな目的だ。

カーボンプライシングとは

炭素税について考えるとき、必要になるのが「カーボンプライシング」の概念だ。カーボンプライシングとは、日本語では「炭素の価格付け」などと呼ばれる。二酸化炭素の排出量に応じて、企業や家庭にコストを負担してもらう仕組みを言う。そしてカーボンプライシングの代表的な制度に「炭素税」がある。

炭素税が求められる背景

炭素税が必要とされる背景にあるのは、地球温暖化だ。1880年から2012年にかけて、世界の平均地上気温は0.85℃上昇した。とくに直近30年に、地球の気温は急激に上昇。

今後、有効な対策を取れないまま時間が進んでいけば、2100年までに「地球の平均気温は2.6~4.8℃も上昇する」と試算される。気温上昇に伴い、平均海面水位は最大で82cmも上昇するという。(※1)

さらに2021年8月に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)より公表された第6次評価報告書によると、世界の平均気温の上昇はさらに加速。2040年までの20年間に1.5℃上昇する可能性が高いことが指摘されている。(※2)

地球温暖化対策として有効なのは、温室効果ガスの代表格である二酸化炭素の削減だ。日本でも、すでにさまざまな対策が行われているが、その効果は十分ではない。さらに削減量を増やす対策として、企業に税負担を課す炭素税の導入が本格的に検討されている。

「地球温暖化対策のための税」も炭素税

日本では2012年より、化石燃料の輸入事業者などを対象に、化石燃料に対して課税する「地球温暖化対策のための税(温対税)」を導入している。これも炭素税の一種だ。

この「地球温暖化対策のための税」の導入により、2020年の二酸化炭素排出量は1990年に比べて、約600万トン~約2,400万トン減(約0.5%~2.2%減)と試算されている。(※3)

環境税・税収中立型環境税とは

環境税は、環境保全を目的として課す税金のことで、炭素税は環境税の一つである。環境税として徴収した税収は、省エネ促進など環境保全費用として活用される。また環境税の税収を所得税や消費税などの減税にあてて、税収中立的に活用することが検討されている。

炭素税の税収の仕組み

炭素税

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炭素税の課税対象は、「化石燃料を燃焼した場合に排出する二酸化炭素の量」である。二酸化炭素の量が多ければ多いほど、課税される金額も増えていく仕組みだ。(※4)

現在検討されている課税段階は次の4つのパターンまたは組み合わせだ。

・上流課税:化石燃料の採取、輸入時に課税する
・中流課税:化石燃料製品の製造所から出荷する時点で課税する
・下流課税:化石燃料製品を、工場、オフィス、家庭等に供給する時点で課税する
・最下流課税:最終製品が最終消費者に供給される時点で課税する

さらに課税水準については、最初から高い課税水準に設定すると社会的な影響が大きい。そのため低い課税水準からスタートし、段階的に引き上げていくことが検討されている。

炭素税導入で期待できる効果

炭素税導入に向けた動きが活発化しているいまだからこそ、気になるのは「炭素税導入によって、本当に地球温暖化対策としての効果が期待できるのか?」という点だ。炭素税導入によるメリットは、以下の3つの点で現れると考えられている。

・製品価格インセンティブ効果
・社会への効果
・環境対策財源への効果

炭素税の本格導入によって製品の価格が上昇すれば、その製品が持つ競争力は低下しかねない。そのため、より魅力ある商品や、より炭素税のかからない(製造過程で二酸化炭素排出量が少ない)商品の開発と、流通ルートの開拓につながっていくだろう。企業には炭素税を削減すればするほど、経済的なメリットが生まれる。

また、実際に炭素税が導入されれば、社会で大きな話題となるだろう。より多くの人が、二酸化炭素削減に向け、より具体的な行動を起こすようになるはずだ。さらに、炭素税によって税収が増えれば、環境対策に必要な財源の確保にもつながる。

炭素税導入で指摘されるデメリット

一方で、炭素税導入にはデメリットもある。もっとも懸念されるのは、炭素税負担による日本製品の国際的競争力低下である。

炭素税導入後の日本製品は、炭素税が上乗せされるため、炭素税を導入していない国や地域のマーケットでは、価格面でハンデを負うことになる。

また、低所得者への負担増が懸念される。低所得者は収入に対して生活必需品の購入費用の割合が大きい。そのため、CO2排出量に応じて消費者に課税される炭素税は、消費税と同じように、所得が低い世帯ほど負担が大きくなると考えられる。

とはいえ、状況別に適切な対策を施すことで、デメリットの解消は十分に可能だ。炭素税本格導入による悪影響を最低限にするための、さまざまな準備が必要不可欠である。

世界の炭素税導入国

炭素税

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世界に目を向けてみると、すでに炭素税を取り入れている国が多い。炭素税の導入が世界的に本格化し始めたのは1990年代のこと。ヨーロッパを中心に導入国が増えているが、その内容や実態は国によってさまざまである。(※5)

実際に炭素税を導入している国は、どこか?3つの事例を紹介しよう。

1990年 フィンランドの導入事例

1990年に世界で初めて炭素税を導入したのが、北欧・フィンランドである。導入時の税率は「1トン(CO2)あたり1.12ユーロ」だったが、2018年には「1トンあたり62ユーロ」と、約60倍にまで上昇している。

課税対象は暖房用および輸送用の化石燃料。ただし電力は含まれない。2017年の炭素税の税収は13億3,900万ユーロ。二酸化炭素排出量は、炭素税が導入された1990年を100とすると、2015年には78まで減少している。

1991年 スウェーデンの導入事例

スウェーデンはフィンランドと並ぶ、炭素税先進国の一つである。2018年の税率は1トン(CO2)あたり119ユーロで、世界最高水準だ。暖房用および輸送用の化石燃料消費に対して課税される仕組みだ。

炭素税導入が決定した際、労働税を減額し、国民の負担軽減を図っている。1991年の二酸化炭素排出量を100とすると、2015年には75まで減少している。

2010年 アイルランドの導入事例

アイルランドが炭素税を導入したのは2010年のことで、その目的は「経済危機からの再建」だった。当時のアイルランドにはリーマンショックの影響が強く現れており、税収確保のために導入されたのが炭素税だ。

当初の課税対象は石油・天然ガスだったが、その後に石炭も追加。それらの消費量に対して課税される。税率は1トン(CO2)あたり20ユーロで、CO2排出量の大幅削減には至っていないが、ほぼ横ばいで増加を防いでいる。

日本における環境税についての議論

環境税, 炭素税

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現在、日本で導入されている炭素税は地球温暖化対策税(温対税)のみである(2021年8月時点)。温対税の税率は海外の例に比べて低く、これだけでは温室効果ガスの大幅な削減に至っていない。こうした現状を打破するために、より厳しい税率の炭素税の導入に向け、議論が進められている。

環境税・炭素税に関する議論

環境税に関する議論では、導入による利点と課題の両方が挙げられている。一方で、いきなりヨーロッパ並みの水準で炭素税を導入しても、日本で二酸化炭素排出量が確実に削減するとは限らない。

それにエネルギーコストの増加が、日本経済に与える影響は決して少なくないだろう。また、国民の理解を得ていくステップについても、慎重な議論が求められている。

だが炭素税導入にはプラスの効果が大きいとする報告が多い。例えば、国立環境研究所が2021年6月に発表した報告書によると、二酸化炭素の排出量削減をしながら、省エネ機器などの導入が促進されれば、長期的には経済成長につながるという。

日本政策投資銀行グループのシンクタンクの試算では、二酸化炭素1トン当たり1000円から1万円で課税した場合、税収の使途によっては、実質GDPの伸びにつながる可能性があるという。

さらに、富士通、リコー、イオンなど大手189社が加盟する日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は2021年7月、日本政府に対して炭素税導入を後押しする意見書を提出している。

日本の炭素税導入はいつから?

炭素税の導入については、2021年8月現在、まだ正式には決定されていない。とはいえ2021年3月に、環境省が炭素税の本格導入に向けて具体的な検討段階に入ったと、報道されている。

経済全体への影響を踏まえて、炭素税の導入または「地球温暖化対策のための税(温対税)」の増税が行われるとみられる。現在の温対税の税率は、1トン(CO2)あたり289円で、世界各国と比較すると非常に低い水準である。そのため、増税となった場合は、どこまで引き上げられるか、注目される。

炭素税導入で目指す社会全体の意識改革

諸外国の例を見てみると、同じ炭素税でも、導入目的はそれぞれで異なっていることがわかる。日本では、どのような目的でどのように導入していくのか、盛んに議論が行われていることだろう。

地球温暖化が予測以上に早いペースで進んでいるため、私たちはより一層厳しい取り組みを行う必要がある。炭素税導入を通じて、日本社会全体の環境問題への意識がより一層高まることが望ましいだろう。

参考
※1 地球温暖化の現状 | 環境省
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/ondanka/
※2 最新の地球温暖化の科学の報告書:IPCC第6次評価報告書 | WWF
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4685.html
※3 「地球温暖化対策のための税」について|環境省
https://www.env.go.jp/policy/tax/faq.html
※4 炭素税について|環境省
https://www.env.go.jp/council/06earth/%E7%82%AD%E7%B4%A0%E7%A8%8E%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf
※5 諸外国における炭素税等の導入状況|環境省
https://www.env.go.jp/policy/policy/tax/mat-4.pdf

※掲載している情報は、2021年8月30日時点のものです。

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