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GXリーグとは、温室効果ガスの排出削減と経済成長を両立するための枠組みのこと。カーボンニュートラルの実現に向けて、日本が注力している取り組みのひとつだ。本記事では、GXリーグの活動内容をわかりやすく解説。いま必要とされる理由や参加企業の役割、効果や課題についても紹介する。
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GXリーグとは、民間企業が官・学と連携し、温室効果ガスの削減に貢献しながら成長するための枠組みのこと。公式サイトでは、「温室効果ガス排出削減の取り組みを経済成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力向上に向けて経済社会システム全体を変革すること」と定義されている。(※1)
そもそもGXとは、「Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)」を略した言葉。脱炭素社会の実現に向けて、温室効果ガスの削減と経済成長を両立しながら、持続可能な発展を目指す取り組みを指す。
カーボンニュートラルの実現に向けて、世界的にさまざまな取り組みが推進され、GXの動きが加速している。日本では「2050年カーボンニュートラル」を宣言しているが、達成を目指しながら経済成長を実現するには、今後10年間で150兆円以上の投資が必要とされている。(※2)
そこで、日本でGXを推進するために設立されたのがGXリーグだ。企業群が関係機関と連携する枠組みを提供し、カーボンニュートラルの実現に向けて挑戦しやすい環境づくりを行う。いわば、企業が温室効果ガスの排出量を削減しながら、正しく評価され、成長できる社会を目指すための取り組みといえる。
上述の通り、GXリーグは、カーボンニュートラルの実現に向けて、社会構造を変革することを目指している。日本の企業群が世界に貢献するための行動指針を議論する場としての役割も果たす。GXリーグに参画する企業が主体的に活動することで、気候変動という地球規模の課題を解決するためのアクションになる。
GXリーグの大きな目的は、地球環境を保全しながら、経済成長も叶えること。企業のGXの取り組みが広く応援される構造をつくることは、GXのさらなる推進につながる。GXリーグは、持続可能な社会を実現するためのプラットフォームなのだ。
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GXリーグでは、企業に対し、以下の4つの場が提供される。(※3)
・実践:企業がGX投資や温室効果ガス削減について開示を行う場
・共創:新市場を創造するために、官学と連携し、ルール形成を行う場
・対話:カーボンニュートラル実現後の未来について業種を超えて対話を行う場
・交流:サステナビリティに関する課題や関心について自由に議論する交流の場(GXスタジオ)
これらの場に、企業がリーダーシップを持って参加することが、脱炭素社会の実現に向けた好循環を生み出すと考えられている。以下では、「GXリーグ規程」をもとに、もう少し具体的に、GXリーグがどのような活動を行っているのかを見ていこう。(※4)
GXリーグではカーボンニュートラルの実現に向けて、参画企業同士の交流を行う。イベントには企業関係者はもちろん、外部有識者も参加できる。事務局の募集に対して応募をする形で、参加が決定する。
市場創造に向けたルール形成としては、産業横断的な領域・国際的に貢献できる領域・投資促進につながる領域などのさまざまなトピックでワーキンググループが設置される。GXに関するルールを共有したり、ルールを策定したりと、多様な活動が行われる。国際的な発信が行われることもある。
GXリーグにおける排出量取引(GX-ETS)では、自らが設定した削減目標において、進捗を開示しながら取り組みを進める。ルールは、政府のカーボンプライシング制度に携わってきた有識者による検討会で、企業の意見を取り入れながら策定されている。
大きな流れは、「プレッジ」「実績報告」「取引実績」「レビュー」の4段階。目標は自ら設定し、実績報告では排出量実績を算定・報告する。第三者検証をはさみ、「超過削減枠」として創出された分を他社に売却できる仕組みだ。目標の達成状況や取引の状況に関しては、専用のダッシュボードで確認できる。(※5)
気候変動という喫緊の課題に対応すべく、各国が取り組みを進めるなか、日本では2050年カーボンニュートラルを宣言している。2024年11月には、2035年度までに2013年度比で温室効果ガスの排出を60%削減、2040年度まで73%削減する案を公表した。(※6)2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、より一層歩みを進めなければいけない状況だ。
GXリーグは、2023年4月に本格始動。国だけでなく、企業や生活者がオールジャパンで取り組みを進めることで、日本国内における脱炭素目標の達成を目指している。
また、日本の脱炭素技術や環境投資を世界に発信し、国際的なルールづくりを牽引することにも注力している。(※7)SDGsの目標13には「気候変動に具体的な対策を」があるが、GXリーグがうまく稼働することで、目標達成に大きく貢献する可能性を秘めている。
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日本一丸となって温室効果ガスの排出量を削減するために、GXリーグ参画企業にはさまざまな挑戦が求められる。以下では、参画企業について詳しく紹介する。
GXリーグへの参画企業数は、年々増えている。2022年の「GXリーグ基本構想」発表時点では、440社からの賛同があった。2023年度は568社が参画し、2024年度からは新たに179社が加わり、2024年3月時点で参画企業は747社にのぼる。
航空や鉄道などの運輸業をはじめ、製造業や情報通信業など、幅広い業種の企業が参画している。排出量削減目標の達成に向けて各々が挑戦を続けるほか、一企業では実現が困難なルール形成についての議論も進められている。(※8)
GXリーグ参画企業は、大きく3つの取り組みを推進する必要がある。それぞれに必須項目と任意項目が設けられ、積極的な公表や発信が求められている。(※9)
1つ目は、「自らの排出削減の取り組み」だ。2050年カーボンニュートラルに賛同し、2030年の排出量削減目標を掲げなければならない。達成に向けての戦略を描き、進捗は毎年公表する必要がある。任意項目として、国の削減目標である2030年度までに2013年度比46%削減をリードすることが求められている。
2つ目は、「サプライチェーンでの炭素中立に向けた取り組み」だ。原料の調達から消費者のもとに製品・サービスが届くまでの流れにおいて、温室効果ガスを削減するよう努めなければならない。さまざまなステークホルダーへの働きかけ、生活者への呼びかけも求められている。
3つ目は「製品・サービスを通じた市場での取り組み」として、市場のグリーン化に向けた積極的な取り組みが期待されている。具体的には、生活者や教育機関などとの対話を行い、経営方針に活かすこと。ステークホルダーと連携し、イノベーションの創出に取り組むことなどだ。
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GXリーグは脱炭素社会の実現を促進するだけではなく、企業や生活者にもたらすポジティブな影響も多い。以下では、企業と社会、それぞれが得られるメリットを紹介する。
GXリーグへの参画が企業にもたらすメリットは多数あるが、もっともわかりやすいのは、企業イメージの向上だろう。枠組みに所属することで、企業の認知度が上がるだけでなく、地球環境保全に関して高い意識を持つ企業としてのポジティブなイメージが強くなる。
ESG投資の動きが加速する昨今、資金調達のしやすさという点でも、GXリーグがメリットに働きやすい。イメージアップによって、優秀な人材の確保にもつながるだろう。
また、GXリーグで他社との交流が盛んになることで、新しいアイデアが生まれやすくなる。業界関係者や官公庁、学術機関と情報交換をすることで、新たなビジネスチャンスを得られる可能性も。さまざまな分野においてネットワークを構築しやすくなる点もメリットだ。
カーボンクレジット制度を活用できる点も、今後の企業経営において大きなアドバンテージになりそうだ。日本政府は、2023年度からGXリーグのもとで、排出量取引(GX-ETS)を実施してきた。2026年度の本格稼働を目指し、データの収集やガイドラインの策定を進めている。2028年度にはCO2排出量に応じた賦課金制度、2033年度には発電事業者向けにCO2排出枠の有償オークションの実施などが検討されており、今後はさらなる発展が見込まれている。(※10)
GXリーグによって、社会に生じる変化も少なくない。一番大きなところでは、GXリーグ参画企業の働きによって温室効果ガスが削減され、地球温暖化の緩和につながる点だろう。私たちが地球で心地よく暮らしていくためには地球温暖化対策が欠かせないが、取り組みのひとつとしてGXリーグが存在している。
企業の連携によって持続可能な産業基盤が構築されると、いまより環境負荷を抑えた生活が可能になるかもしれない。グリーン市場が拡大することで、私たちのライフスタイルもより環境に配慮されたものに変化する。また、グリーンジョブが創出されることで、雇用が拡大する可能性が大きくなる。
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以下では、日本のカーボンニュートラル政策について、GXリーグと関係が深い項目について紹介する。
2050年カーボンニュートラルが目指すのは、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引いて、実質ゼロとみなす方法だが、いずれにせよ排出量の削減が求められる。
GXリーグは、カーボンニュートラル達成へ向けての仕組みのための準備段階での取り組みと位置付けられている。企業の自主的な取り組みを尊重し、行動変容を促すことで、将来に備えることが目的だ。2050年カーボンニュートラルが達成された未来は、企業間のカーボンクレジットの取り引きが成立している前提で成り立っている。この未来に備え、企業と生活者両方の意識や行動を変容させ、循環構造の実現に向けた基盤を構築するのが狙いである。(※11)
日本政府では、GXリーグの取り組み推進、並びに、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、カーボンプライシングを含めた総合的な施策の検討が必要だと捉えている。当面は、GXリーグ参画企業ならではのブランディングによって、革新的な取り組みを実行するためのESG資金調達や、労働市場からの人材調達を間接的に後押しする。
また、参画企業のなかでも積極的な取り組みが認められた企業に対しては、補助金や制度によって優遇することも検討している。(※12)
GX推進法の正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」。名前の通り、GXの取り組みを推進するために策定された法律だ。2023年2月に閣議決定された。GXの実現に向けた基本方針に基づき、以下の5つの項目が掲げられている。(※13)
・GX推進戦略の策定・実行
・GX経済移行債の発行
・成長志向型カーボンプライシングの導入
・GX推進機構の設立
・進捗評価と必要な見直し
GXリーグは、まだスタートしたばかりの取り組みだ。以下では、課題や今後の展望について紹介する。
GXリーグの課題のひとつに、人材不足が挙げられる。GXに対応できる人材が確保できない場合、そもそも取り組みに参画することが難しい。また、コストも同様だ。環境技術の導入にはコストが必要なため、なかなか踏み出せない企業もあるだろう。
GXリーグは自主性を重視しており、参画に義務があるわけではなく、離脱も自由だ。仮に参画を表明したとしても、目標達成に向けた社内での進捗管理が難しくなるケースもあるだろう。取り組みを行える企業とそうでない企業とで、格差が生じる可能性が考えられる。
上述した課題は残されているものの、参画企業は年々増加傾向だ。企業同士のコミュニケーションが活発化し、新たな環境技術が普及すると、国内の脱炭素化が大きく進展する可能性がある。官民学が協調して気候変動対策に取り組むことで、さまざまな取り組みが加速し、国際的にも大きなインパクトを与えられる可能性が大いにあるだろう。
私たちが地球で暮らしていくためには、気候変動へのアクションが急務。GXリーグ然り、企業や生活者の意識・行動変容が今後のカギになるだろう。
2050年カーボンニュートラルの実現は決してゴールではないため、その先を見据えなければならない。気候変動に立ち向かう社会を醸成するためのベースがGXリーグであり、参画企業を応援し、選択するアクションで、私たちも間接的に気候変動対策に貢献できる。
※1 GXリーグの概要|GXリーグ
※2 GXリーグ活動概要 P6|環境経済室長 梶川文博
※3 GXリーグ活動概要 P4|環境経済室長 梶川文博
※4 GXリーグ規程 P4〜|GXリーグ事務局
※5 GX-ETSの概要 P3〜9|環境経済室 課長補佐 荒井 次郎
※6 温室効果ガス「35年度までに13年度比60%減」 政府の目標案|毎日新聞
※7 2050年の未来に向けてGXリーグが始まります!|GXリーグ
※8 GXリーグに2024年度から新たに179者が参画し、合計747者となります|経済産業省
※9 GXリーグ参画企業に求める取組に関するガイダンス(事業会社向け)P4〜21|GXリーグ事務局
※10 成長志向型カーボンプライシング構想|経済産業省
※11 GXリーグ基本構想 P1〜2|経済産業省 産業技術環境局 環境経済室
※12 GXリーグ基本構想 P6|経済産業省 産業技術環境局 環境経済室
※13 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案【GX推進法】の概要|経済産業省
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