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GHG(温室効果ガス)プロトコルとは、温室効果ガスの排出量を算定・報告する際の国際的な基準である。2025年3月末までには、スコープ3の開示義務化が最終的に確定する予定だ。この記事では、GHGプロトコルの内容や特徴、温対法との違い、企業のメリット、重要視されている理由を紹介する。
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GHG(温室効果ガス)プロトコルとは、温室効果ガスの排出量を算定・報告する際の国際的な基準である。Greenhouse Gas(温室効果ガス)の頭文字をとり、GHGプロトコルと呼ばれている。
GHGプロトコルの対象は、企業や団体、国、自治体などだ。例えば企業の場合、自社が排出した温室効果ガスだけでなく、他の事業者から提供された電気や熱についても算定・報告する。つまり、自社が関わる原材料の調達から製造、物流、販売、廃棄まで、サプライチェーン全体の温室効果ガスの排出量を合計する。
GHGプロトコルは、算定方法の基本的な考え方や要求事項を示している。事業者はこれにしたがって、算定・報告を進めていく。(※1)
GHGプロトコルは、世界環境経済人協議会と世界資源研究所により、1998年に共同設立された。そして、事業者、NGO、政府機関などの複数の関係者により作成され、現在に至る。
GHGプロトコルの目的は、公的・国際的に認められたGHG排出量の算定・報告の基準を設け、利用者の促進を図ることである。
CO2とGHGの違いは、意味するガスの種類である。両方とも温室効果ガスだが、CO2は二酸化炭素のみを指すのに対して、GHGは二酸化炭素のほか、メタン、一酸化二窒素など、複数のガスを意味する。
温対法とは、正式には「地球温暖化対策の推進に関する法律」といい、地球温暖化を防止するためにGHGの排出量の削減などを促進する日本の法律だ。「地球温暖化対策推進法」と略されたり、「温対法」と呼ばれたりする。GHGプロトコルとの違いは、種類や取り組み方にある。
GHGプロトコルは国際的な基準やガイドラインであり自主的に取り組むのに対して、温対法は日本の法律であり排出量を国に報告する義務が課されている。また、GHGの排出量の計算方法などについても異なる点がある。
ISO規格(ISO1467)とは、製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルまでに排出される温室効果ガスを計測、報告、検証するための国際規格である。GHGプロトコルを規格化するために策定され、GHGを算出する手法や内容に大きな違いはない。
しかし、GHGプロトコルとの違いは対象範囲にある。ISO1467が製品やサービスごとであるのに対して、GHGプロトコルはサプライチェーンを対象としている。
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これまでに見てきたように、GHGプロトコルの最大の特徴は、サプライチェーン全体の排出量を算定・報告することである。
算定に当たっては、サプライチェーンの排出量をScope(スコープ)1〜3に分類して行う。次の章で内容を確認していこう。
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GHGプロトコルの「Scope(スコープ)1・2・3」とは、サプライチェーンにおける温室効果ガス排出量の算定・報告に必要な考え方である。
スコープ1は自社が直接排出するGHG、スコープ2は自社が間接排出するGHG、スコープ3は原材料の仕入れや販売後に排出されるGHGを指す。内容を詳しく見ていこう。
スコープ1は、自社が直接排出するGHGである。製品を製造する際などに直接排出するGHGを指す。製品を加工する際に燃料を燃やして、CO2を排出するなどがその例だ。
スコープ2は、自社が間接排出するGHGである。他社から供給された電気などを利用することで、間接的に排出されるGHGを指す。自社の事務所で電気を使用しており、その供給源である発電所の排出するCO2などがその例だ。
スコープ3は、原材料仕入れや販売後に排出されるGHGである。製品をつくるために必要な従業員の通勤や出張、また製品の利用・廃棄の際に排出されるCO2がその例だ。自社の生産活動の上流と下流が該当する。
スコープ3には、15のカテゴリ分類がある。どのような活動がスコープ3に当てはまるのかを確認してみよう。(※2)
これらの分類を見てみると、事業で発生するさまざまな活動がスコープ3に当てはまることがわかる。
現在、スコープ3は任意に取り組むべき事項とされている。しかし2023年6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、スコープ3の開示義務化を決定した。
これを受けて日本では、民間のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が主体となり、2024年3月に草案を公表している。この後、草案に対する意見を募集し、2025年3月末までに開示義務化が最終的に確定する予定だ。(※3)
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GHGプロトコルが重要視される理由は、気候変動への対策が世界的に求められていることが挙げられる。国の経済を担う企業は、事業活動において持続可能な社会の実現に貢献する役割を期待されている。GHGプロトコルは、企業の責任として環境への対策を進める際の1つの指標になる。
また、事業活動の中でSDGsに取り組むことは、社会への貢献のみならず、企業の成長戦略やイメージの向上に欠かせないものとなっている。企業はGHGプロトコルなどを通じて、その取り組みをアピールすることが可能だ。
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GHGプロトコルは、企業が社会への責任を果たす指標になることは先述の通りである。それでは、企業がGHGプロトコルを採用するメリットは具体的にどのようなものなのか。4つのポイントを見ていこう。
1つ目のメリットは、企業の信頼性の向上につながることである。GHGプロトコルで求められているサプライチェーンの排出量の開示は、自社の環境に対する積極的な取り組みを示す機会になる。企業が環境保全の姿勢を示せば、信頼を得ることができるだろう。
2つ目は、サプライチェーンを含めた全体の排出量が把握できることだ。サプライチェーン全体の排出量を把握することで、環境負担を明確に把握できる。さらにGHG削減のための課題を明らかにし、将来的な経営戦略を立てるのにも役立つ。
3つ目は、ESG投資家などへのアピールにつながることだ。ESG投資は、気候変動などに対する企業の取り組みを投資の判断にしている。企業がGHGプロトコルを実行することで、投資家に明確な判断材料を提示できる。
4つ目は、さまざまな国際イニシアティブに活用できることである。例えば、事業に使用する電力を100%再生可能エネルギーにする「RE100」や、GHG排出削減の⽬標「SBT」を設定して認証を受ける国際イニシアチブがある。これらのイニシアティブに必要な情報は、GHGプロトコルのデータを基に作成することも可能だ。
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GHGプロトコルは、温室効果ガスの排出量を算定・報告する際の国際的な基準だ。企業は、気候変動が世界的な課題であるいま、GHGプロトコルを活用した事業運営が求められている。
現在スコープ3は任意だが、2025年3月末までに開示の義務化が決まる予定だ。企業は、環境への取り組みを通じた信頼性の獲得を経営戦略の1つとして、GHGプロトコルを活用していくことになるだろう。
※1 知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
※2 サプライチェーン排出量算定の考え方|環境省
※3 スコープ3の開示義務化が決定、脱炭素企業がとるべき対応とは|新電力ネット
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