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気候変動問題を語るとき、「カーボン○○」というワードがいくつも登場して混乱したことはないだろうか。ここでは、よく使われる10個の「カーボン○○」の意味や使われ方、メリットや問題点、具体的な事例を紹介。知っていてもふと、意味を忘れてしまったときにぜひ活用して。
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「カーボン」は、元素記号「C」と表記される原子番号6の「炭素」を指す言葉。炭素は自然界に広く存在し、生命の構成要素であるだけでなく、ダイヤモンドやグラファイトなどの形でも存在する。
一方、環境関連用語としての「カーボン」は、二酸化炭素(carbon dioxide/以下、CO2)由来の炭素を意味する。
【状態を表す言葉】
カーボンニュートラル | 二酸化炭素の吸収量と排出量がイコールの“状態”。同義語は「ネットゼロ」「ゼロカーボン」 |
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カーボンネガティブ | 二酸化炭素の排出量が吸収量を下回った“状態” |
カーボンポジティブ | カーボンネガティブと同義。二酸化炭素の吸収量が排出量を上回った“状態” |
【CO2売買に関する言葉】
カーボンオフセット | カーボンニュートラルやカーボンポジティブを達成するための“手段”。二酸化炭素の吸収量を証書化(クレジット)したものを買い、排出量を埋め合わせる(オフセットする)こと |
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カーボンクレジット | 二酸化炭素の排出削減量や吸収量を売買可能な形に証書化したもの=クレジット。カーボンオフセットに用いられる |
カーボンプライシング | 排出される「炭素」に価格を付ける仕組み。炭素税やクレジットなど |
【その他】
カーボンフットプリント | 温室効果ガスの排出量をCO2に換算して表示する仕組み |
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カーボンリサイクル | 二酸化炭素を炭素資源と捉え、炭素化合物として再利用すること |
カーボンフリー | 温室効果ガスを全く排出しないこと。Googleが宣言したことで注目される |
カーボンハーフ | 東京都が表明した「2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減する」目標のこと |
紹介した10個の言葉について、次でそれぞれ詳しくみていこう。
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カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること(※1)。具体的には、CO2をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味している。
カーボンニュートラルを達成するためには再生可能エネルギーへの転換や省エネが欠かせず、結果的に二酸化炭素排出量の削減が進むというメリットがある。企業が取り組めば、社会的責任や環境保護に対する意識が高いことをアピールでき、イメージ向上にもつながる。
一方、排出量を測定する際に、どこからどこまでを対象とするのかといった定義が難しい。自社のみに限定するのか、取引先を含めたサプライチェーン全体の排出量までを含めるのかといった具合だ。また、カーボンニュートラルを達成するためには、温室効果ガスの排出量を正確に計測することが重要だが、検証が難しいといった問題点もある。
「環境未来ビジョン2050」を策定し、目標達成に向けて尽力している。具体的には、2030年までに2019年度比で温室効果ガス排出量を70%削減、2050年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現する予定。
2020年10月、日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言。さらに2021年10月に日本のNDC(国が決定する貢献)として「2050年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、2030年度において、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに50%の高みに向け、挑戦を続けていく」ことを国連に提出した。
2007年にカーボンニュートラルを実現し、2017年には、すべてのオフィスとデータセンターの電気を再生可能エネルギー100%に切り替えた。今後は創業時までさかのぼって、過去に排出した二酸化炭素もすべてオフセットする考えだ。
カーボンネガティブとは、二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量が、森林や植林による吸収量よりも下回っている状態のこと。排出量をマイナス(=ネガティブ)にすることに焦点を当てた表現だ。
カーボンポジティブも同義語であるが、こちらは二酸化炭素の吸収量が、排出される量より多くなっている状態のこと。吸収量をプラス(=ポジティブ)にすることに焦点を当てた表現だ。
いずれもカーボンニュートラルより進んだ状態を指す言葉であり、これらの目標を達成するためには、エネルギー効率の改善、再生可能エネルギーの導入、森林保全といった、二酸化炭素の排出量を減らす取り組みと、二酸化炭素の吸収量を増やす取り組みを多岐にわたり行うことが必要だ。
アメリカのアウトドア用品メーカーであるパタゴニアは、2020年に全拠点の使用エネルギーを再生可能エネルギーに切り替えることを宣言し、2025年までに「カーボンポジティブ」の実現を目指すと発表した。
カーボンネガティブを達成している国は、ヒマラヤ山脈にあるブータン、中米のパナマ、南米のスリナムの3か国とオーストラリアのタスマニア島。これらの国と地域は、経済を犠牲にしてでも森林を守り、再生可能エネルギーを活用して温室効果ガスを抑えている。たとえばブータンは、新憲法に森林の面積規定を盛り込むなどによって国土の7割以上が森林という状況をつくり、カーボンネガティブを実現したとされている。
大手IT企業のマイクロソフトは、2030年までにカーボンネガティブになる計画を発表。また、1975 年の創業以来、直接的および電力消費により間接的に排出してきた CO2の環境への影響を 2050 年までに完全に排除することを目指す(※2)。これは企業レベルの取り組みだが、国や地域全体での取り組みにも影響を与えるものだ。
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カーボン・オフセットとは、できるだけ排出量を削減する努力したうえで、それでも削減できなかった量に対して埋め合わせをすること。埋め合わせの方法には削減活動への投資や削減量の買い取りなどがある。自分自身の温室効果ガス排出量を、別のだれかが削減した量で埋め合わせる(オフセットする)という仕組みだ。
二酸化炭素の排出削減量は目には見えないが、クレジットという方法での売買が認められている。削減量の取り引きがしやすいようにと、国が認めた取り引きのかたちがクレジットであり、クレジットを買うと、二酸化炭素を削減したとみなされる仕組みになっている。
カーボン・オフセットのメリットは、社会全体で二酸化炭素の削減を促進できるところ。削減が進んだ側から削減が進んでいない側へ、削減量をシェアする取り組みともいえる。削減が進んだ側は、クレジットの販売で得た収入をさらなる削減の取組への投資とすることもできる。
カーボンオフセットが必ずしも排出削減に結びついていないという問題がある。具体的には、削減努力をしていない企業でも、クレジットを購入すれば削減目標を達成したとみなされてしまう。カーボンオフセットを行うことで、企業が自社の排出削減努力を怠る可能性があるという懸念だ。
また、カーボンオフセットの対象となる温室効果ガス排出量の算定方法が正確でない場合、効果が十分に発揮されない可能性がある。情報の透明性が確保されていない場合、カーボンオフセットの信頼性が損なわれる可能性がある。
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カーボンクレジット(Carbon Credit)とは、CO2などの温室効果ガスの排出削減量・吸収量をクレジット(排出権)として発行し、売買可能にする仕組みのこと。企業努力によって生じた排出削減量・吸収量をクレジットとして購入者に売ることができ、購入者は自身の排出量を相殺(オフセット)することができる。
カーボンクレジットにはいくつか種類があり、国連が主導している国際的なカーボンクレジット「CDM(クリーン開発メカニズム/Clean Development Mechanism)」や、各国の政府や自治体によるクレジット、日本では経済産業省・環境省・農林水産省が運営を担っている「J-クレジット」などがある。その他、民間主導のものだとWWF(World Wide Fund for Nature)をはじめとする環境NGOが設立した認証制度「Gold Standard(GS)」などがある。カーボンクレジットは実態を掴みづらい分、信頼性を保つことが重要だ。
カーボンクレジットにおける売買にあたっての取引制度は主に2つある。
「ベースライン&クレジット制度」=排出量を取引するという考え方。温室効果ガスを削減するプロジェクトを行った際に、プロジェクトが存在しなかった場合の排出量との差分をクレジットとして認証する方法だ。プロジェクトの例としては、低効率ボイラーの更新や太陽光発電設備の導入、森林管理プロジェクトなど。
「キャップ&トレード制度」=排出枠を取引するという考え方。大規模事業者や自治体などの排出者に排出枠が割り当てられている場合に用いられる手法であり、総排出量が割り当てされた排出枠を下回った事業者がその余剰排出枠を売却することができる。
カーボンクレジットは、制度の複雑さと参加のハードルの高さから活用が難しい点、クレジットの量や価格の設定が不透明な点が課題として挙げられる。また、クレジットの購入が逃げ道となり、企業が自社の排出削減努力を怠る可能性があるという懸念も残される。
カーボンプライシングは、世界中で常に排出される「炭素」に価格を付ける仕組みのこと。企業や団体が排出するCO2に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策で、さまざまな手法がある(※3)。 具体的には、温室効果ガスの排出量に価格を設定し、排出量が増えるほど費用が発生する。
EUでは、2005年から世界で初めて「排出量取引制度(EU-ETS)」を開始。また、炭素税は欧州を中心に導入が進んできており、EU諸国のうち、フィンランドやスウェーデン、フランス、英国、ドイツなどでは、排出量取引制度に加えて、炭素税を導入している。
メリットとしては、CO2の排出者の行動が変われば、CO2の排出量削減につながり、地球の温暖化対策に有効であること、クリーンエネルギーを使ってつくられた製品や事業の付加価値が向上し、投資の後押しが得られれば、脱炭素化に向けたさらなる取り組みがうながされることだ。
一方、デメリットとしては、CO2排出のコストが増えれば、企業の生産活動に影響を及ぼす可能性があること、国際的な競争力が低下したり、CO2排出の規制が緩やかな国へ生産拠点や投資先が移転したりするなど、経済に悪影響が生じるおそれもある。
企業が炭素価格に対してどのように反応するかが不確実なため、国全体での排出削減「量」について確実な見通しが作れないことも問題点だ。
たとえば企業が、燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税する。これにより、CO2の排出を抑制するインセンティブを創出する。
企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業との間でCO2の排出量を取引する。上限を下回った企業は排出権を売却し、上限を上回った企業は排出権の購入によって帳尻を合わせることができる。
CO2の削減を「価値」と見なして証書化し、そのうえで売買取引を行うこと。
市場メカニズムを活用した排出削減のための戦略であり、一部の国際機関が合意している。国際海事機関では炭素税スタイルでの導入を検討。国際民間航空機関においては排出量取引スタイルを導入するなど、各機関によって導入方法は異なっている。
企業が自社のCO2排出を抑えるために、二酸化炭素排出に対して独自に価格付ける仕組み。これは、企業の低炭素投資や各種対策を推進するための取り組み。
カーボンフットプリント(CFP)とは、商品やサービスのライフサイクルを通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して表示する仕組みのこと。原材料調達から、生産、流通、使用・維持管理、廃棄・リサイクルに至るまで、商品やサービスに関するすべてのプロセスを通じて排出されるCO2やメタン、一酸化炭素、フロンガスなどの温室効果ガスの排出量がCO2に換算される。
CFPプログラムに準拠した製品には特定のマーク、「CFPマーク」や「エコリーフマーク」が表示され、消費者はこれらの指標を参考にして地球温暖化への影響度や環境負荷を判断できる。
カーボンフットプリントにより、消費者が製品やサービスを選択する際、炭素排出量が低く、より環境にやさしい選択を選ぶための道しるべとなっている。また、企業にとっても、環境への責任と持続可能性への取り組みをアピールする手段となる。
CO2を資源として捉え、これを分離・回収し、さまざまな製品や燃料に再利用することで、CO2の排出を抑制する取り組みのこと(※4)。2019年に実現に向けて本腰を入れ始めたカーボンリサイクルは、ようやくロードマップが示され、開発と普及活動が始まったばかりだ。
カーボンリサイクル先としてロードマップに示されているのは、化学品・燃料・鉱物・その他(※5)。化学品は主にポリカーポネートの代替品として、燃料は主にバイオ燃料やバイオマス由来のバイオ燃料として、鉱物は主にコンクリート製品やコンクリート建造物の製造過程に必要な資源としてのリサイクルが挙げられている。2030年頃の実用化が目指されている。
カーボンフリーとは、企業や国家が温室効果ガスを全く排出しないことであり、排出量と吸収量を均衡させて実質ゼロにするカーボンニュートラルよりも厳しい条件だ。カーボンフリーの達成が目指される場合、発電などの際にCO2を排出しない、太陽光、風力、水力、地熱などのカーボンフリーエネルギーの利用を指すことが多い。
カーボンフリーという言葉は、Googleが2030年までに自社のデータセンターやオフィスで使うエネルギーを100%カーボンフリーにすると宣言した(※6) ことでも注目された。
国や企業がカーボンフリーの段階に到達するには多くの時間と設備投資が必要とされる。日本においては、2020年10月に「2050年カーボンニュートラルを目指す」ことが宣言された段階だ。日本は火力発電を主力としているため、CO2を全く排出しないカーボンフリーの実現は困難だといえる。
カーボンフリーエネルギーへの移行を目指すにも、開発時に環境負荷を与えてしまうため、慎重に進める必要がある。メガソーラーは設置に広い土地が必要となり、森林を切り開くといった環境負荷が懸念される。風力発電機は設置する場所が限られるうえ、設置できる地域が北海道や東北地方など一部の地域に集中しているため、電力系統との連携にも課題がある。
さらに、地熱発電の運用中はCO2を排出しないが、地熱を取り出せる場所が限られることや長期間の開発が必要なため、コストが高くなるというデメリットがある。開発後の電力の安定供給にも課題が残る。これらの課題を解決するためには、新しい技術や政策の革新が必要となる。
2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比で50%削減するという目標。気候危機が一層深刻化する中、世界が2050年CO2排出実質ゼロという共通のゴールに向けて急速に歩みを進めている状況を受けて、東京都が2021年1月に表明した。(※7)
都内から排出されるCO2などの温室効果ガスを2000年比で50%削減することが主な目標であり、再生可能エネルギーによる電力利用割合を50%程度まで高めることも目指している。
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温室効果ガスによる地球環境への悪影響が問題視されるようになり、「カーボン○○」というワードも多くの場面で使われるようになった。今回は、「カーボン○○」について、いま一度整理し、それぞれの意味やメリット、問題点や使われ方をまとめた。知っておくことで、関連するニュースや企業の取り組み、各国の動向についての理解がしやすくなるはずだ。
※1 脱酸素ポータル|カーボンニュートラルとは
※2 マイクロソフト|2030 年までにカーボンネガティブを実現
※3 経済産業省資源エネルギー庁|脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?
※4 経済産業省資源エネルギー庁|カーボンリサイクルについて
※5 経済産業省|カーボンリサイクルロードマップ資料
※6 Google|気候変動対策の第3の10年:カーボンフリーの未来の実現
(※7) 環境局|ゼロエミッション東京戦略2020 Update & Report
参考
・農林水産省|カーボン・オフセット
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