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脱炭素社会の実現に向けて、近年注目されているのが「カーボンネガティブ」である。カーボンニュートラルやカーボンオフセットとの違いについてもわかりやすく解説する。カーボンネガティブを実現している国や企業の具体的事例もあわせて解説する。
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エレミニスト編集部
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カーボンネガティブとは、二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量よりも吸収量が多い状態を意味する。2015年に採択されたパリ協定や、2020年に行われた「2050年カーボンニュートラル宣言」など、温室効果ガス削減に向けた取り組みが加速する中、注目度が高まっている。
カーボンネガティブの英語表記は「Carbon negative」であり、二酸化炭素排出量を「ネガティブ(負、マイナス)」にするという、強い意志を示すものだ。二酸化炭素排出量を「実質ゼロ」にするだけでは、脱炭素化社会の実現に向けた取り組みは不十分である。さらに一歩進んだ取り組みとして、多くの企業が注目しているのだ。
カーボンネガティブという言葉が世のなかに広まるきっかけになったのは、2020年にマイクロソフトコーポレーションが行った宣言である。マイクロソフトは、「2030年までにカーボンネガティブを実現すること」を明言。排出量を減らすための取り組みはもちろん、吸収量を増やすための取り組みも、積極的に行っていく姿勢を示した。
温室効果ガス削減に向けた取り組みとして、耳にする機会も多いカーボンオフセット。これは、「二酸化炭素の吸収量」を証書とし、目に見える形で取引可能にした新たな仕組みである。二酸化炭素排出量をゼロにできない場合、この証書のやり取りによってカーボンネガティブを目指すことになる。
カーボンオフセットについては、以下の記事で解説しているとおり、世界各国でさまざまな問題点も指摘されている。カーボンネガティブを実現するためには、カーボンオフセットだけではなく、さらに一歩進んだ対策が求められるだろう。
地球温暖化対策において、注目されるのがカーボンロックインの解消である。そのための取り組みとして、カーボンネガティブとともに注目されているのがカーボンポジティブである。
二酸化炭素の「除去」に焦点を当てたカーボンネガティブに対して、二酸化炭素の「吸収」に注目するのがカーボンポジティブだ。両者の意味合いはほぼ同じである。カーボンポジティブについては、以下の記事で解説している。
カーボンネガティブという概念が登場するまで、一般的に広く知られていたのが「カーボンニュートラル」だ。カーボンニュートラルは、二酸化炭素の排出量と吸収量の差が実質ゼロの状態を示している。「排出量<吸収量」を目指すカーボンネガティブは、カーボンニュートラルの先を目指す取り組みと言えるだろう。
マイクロソフトからスタートしたカーボンネガティブ。取り組む企業は、年々増加傾向にある。具体的にどのようなメリットが期待できるのか、3つのポイントにまとめよう。
カーボンネガティブが注目されるきっかけになったのは、地球温暖化問題である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)が2021年に公表した「第6次評価報告書」によると、温室効果ガス排出量が中程度のまま推移した場合、2100年までの気温上昇は 2.1~3.5℃。排出量が非常に多い状態のまま推移すれば、最大で5.7℃もの気温上昇が予測される。(※1)
カーボンネガティブに向けた取り組みが一般化すれば、「排出量を減らす」だけではなく、「吸収量を増やす」ための取り組みも、より一層活性化するだろう。脱炭素社会の実現に向けて、さらに強力な推進力になる。
地球温暖化は、我々の社会に以下のようなリスクをもたらす。
・大規模自然災害の増加
・干ばつや気温上昇による食料生産量の低下
・水資源の不足
・生態系の破壊
カーボンネガティブに向けた取り組みが広がり、温暖化を阻止することは、持続可能な社会の実現にもつながっていくだろう。
また企業としての持続可能性を追求する意味でも、カーボンネガティブは重要な意味を持つ。地球資源やエネルギーの有効活用は、今後の経済活動において欠かせない視点である。カーボンネガティブに向けた取り組みが、今後の事業活動を安定させることにもつながるはずだ。
地球温暖化は社会全体が抱える課題の一つであり、それに対して、各企業がどのような取り組みを行うのか、高く注目されている。カーボンネガティブを掲げ、具体的に行うことが、ステークホルダーに対するアピールになるだろう。
米国のスタートアップ企業であるAir Protein(エア・プロテイン)。この会社が開発したのは、環境にやさしい代替肉「Air Meat(エア・ミート)」である。原料は、空気中に含まれる炭素など。少ない資源から短期間で食料をつくり出す技術は、社会が抱えるさまざまな問題を解決するものとして、注目が高い。
エア・ミートの原材料は、空気中の炭素をタンパク質へと変換したもの。栄養価も極めて高く、わずか4日で生産される。製造段階で二酸化炭素を排出せず、空気中の炭素を消費するため、この商品単体でカーボンネガティブを実現している。
2007年、スコットランドで誕生したクラフトビールメーカーBrewDog(ブリュードッグ)も、カーボンネガティブを実現している企業の一つである。2020年に、所有する9,308エーカーの森を再生するプロジェクトをスタート。サステナビリティをすべての活動の中心に据えた事業形態へとシフトした。(※2)
2022年には、社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI」への出品も話題に。フードロス削減に向けた取り組みにも力を入れている。
デンマークのリゾートアイランド、ボーンホルム島に誕生したのがHotel GSHである。建物の大部分は木でできており、従来型のホテルよりも二酸化炭素排出量の削減に貢献。またホテルに使われた木材が空気中の二酸化炭素を吸収するため、カーボンネガティブを実現するという仕組みだ。
将来的にホテルを取り壊す場合も、廃棄物を増やさない工夫を採用。持続可能な新たなリゾートホテルとして、世界的にも注目されている。
カーボンニュートラルよりも、さらに厳しい制約を求められるカーボンネガティブ。高い目標を掲げながらも、まだまだ道半ばという国や企業が多い。しかし世界の国々のなかには、すでにカーボンネガティブを達成しているのが、「ブータン」「スリナム」「タスマニア島」の3つの国と地域だ。
これらに共通するのは、豊かな自然と、経済活動に対する人々の意識である。ブータンでは、国内の森林面積を一定以下にしないよう、憲法で定めている。人々の生活を支えているのは風力発電や水力発電だ。
タスマニア島では、豊かな森林の管理方法を変化させることで、カーボンネガティブを実現。島内のウッドチップ工場を閉鎖させ、原生林の伐採がストップしたため、二酸化炭素吸収量が排出量を大きく上回ったのだ。
これら3つの国と地域は、いわゆる「先進国」と比較して、金銭的・物質的に「豊かである」とは言えないだろう。とはいえ、世界規模でカーボンネガティブの実現を目指す上で、見習うべき手本である。脱炭素社会の実現に向けて、参考になる点が多いはずだ。
多くの国や地域、そして企業が温室効果ガス削減に向けた取り組みを加速させる中、カーボンネガティブを実現する国や企業は、増えていくだろう。新たな技術や国としての工夫にも、ぜひ注目したいところだ。
※1 IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書(14ページ目)|気象庁
※2 PUNK STORY|BREW DOG
英国No.1クラフトビールメーカーのブリュードッグがKURADASHIに出品|KURADASHI
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