カーボンクレジットとは 取引制度や活用事例をわかりやすく解説

広大な敷地で風車が回っている様子

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温室効果ガスの削減効果をクレジットとして売買できるカーボンクレジット。カーボンニュートラルの実現に向けて脱炭素の取り組みが加速しているが、カーボンクレジットもそのひとつだ。本記事では、カーボンクレジットの取引制度や種類を解説。ビジネスにおける活用事例についても紹介する。

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2023.06.30
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カーボンクレジットとは

さまざまなデータが分析されているPC画面

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カーボンクレジット(Carbon Credit)とは、CO2などの温室効果ガスの排出削減量・吸収量をクレジットとして発行し、売買可能にする仕組みのこと。炭素クレジットと呼ばれることもある。

温室効果ガスの排出削減量・吸収量を増やすためには、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用、適切な森林管理などが必要だ。カーボンクレジットの取り組みに参加すると、企業努力によって生じた排出削減量・吸収量をクレジットとして購入者に売ることができる。クレジット創出者は売却によって利益を得ることができ、購入者は自身の排出量を相殺したり、排出量削減のアピールにつながったりするわけだ。(※1)

現在、国をあげて、2050年までにCO2の排出を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」に取り組んでいる。企業や個人に、温室効果ガスの排出量削減が求められており、エネルギー関連産業、製造・輸送関連産業、家庭・オフィス関連産業などの分野ごとに実行計画を策定している。(※2)

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カーボンクレジットの種類

木々の若葉が茂っているのを見上げた様子

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クレジット認証のための主要要件として、「Real(実際に行われていること)」や「Unique(唯一無二であること)」などが挙げられる。(※3)カーボンクレジットは実態を掴みづらい分、信頼性を保つことが重要だ。

以下では、国際的に行われているメカニズムから民間事業者におけるボランタリークレジットまで、カーボンクレジットの仕組みを具体的に説明しよう。

国際的なカーボンクレジット

CDM

CDM(クリーン開発メカニズム/Clean Development Mechanism)は、1997年に採択され2005年に発効された京都議定書によって規定されている制度。温室効果ガス削減のための柔軟性措置として国連が主導しているのが特徴だ。

先進国が発展途上国において温室効果ガス削減プロジェクトを実施した場合に、生じた削減量にもとづいてクレジットが発行される仕組みであり、先進国は削減量を自国の分として計上できる。CDMには、温室効果ガスの削減以外にも、途上国の持続可能な開発を助長する目的もある。(※4)

また、2021年11月に開催されたCOP26において、CDMの後継となる「64メカニズム」について議論された。CDM関連のプロジェクトに関しては、今後暫定措置を経て、64メカニズムへ移管される運びだ。(※5)

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JCM

JCM(二国間クレジット/Joint Crediting Mechanism)とは、発展途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組むための制度。パートナー国(発展途上国)に対し、脱炭素技術やインフラなどの普及を行い、そこで生じた温室効果ガス排出削減・吸収への貢献を定量的に評価し、日本の削減目標の達成に活用するという内容だ。

日本政府は積極的にJCMを推進しており、2023年4月時点で26カ国とパートナー関係を構築している。(※6)

政府・自治体によるカーボンクレジット

J-クレジット

J-クレジットとは、2008年度から2012年度まで実施された「オフセット・クレジット(J-VER)」の後継として、2013年4月にスタートした国の取り組みだ。温室効果ガスの排出削減量・吸収量を国がクレジットとして認証する制度であり、経済産業省・環境省・農林水産省が運営を担っている。

J-クレジットの創出者は、中小企業・農業者・森林所有者・地方自治体など。温室効果ガスの排出削減や吸収量増加につながる事業の実施によって発行されたクレジットを、購入者に売却できる。J-クレジット購入者は、カーボンオフセットや温室効果ガス削減目標の達成のためにクレジットを活用する。(※7)

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地域版J-クレジット

地域版J-クレジットとは、J-クレジットの制度に則って地方公共団体が運営する認証制度。地域版制度運営主体として承認されてはじめて運営ができ、現在、新潟県と高知県で運営されている。地域版のJ-クレジットは、国が認証するクレジットと同様に管理される。(※8)

東京都と埼玉県における排出量取引制度

東京都と埼玉県は、2010年に「キャップ&トレード制度の首都圏への波及に向けた東京都と埼玉県の連携に関する協定」を締結した。両都県では、独自の排出量取引制度を導入しており、相互のクレジット取引を可能にしている。(※9・10)事業者が削減義務量を超えて削減した超過削減量や、削減量を相殺するためのオフセットクレジットの取引もできるのが特徴だ。(※11)

民間が主導するボランタリークレジット

VCS

VCSとは、Verified Carbon Standardの略であり、世界中の数々のプロジェクトが認証を受けているメカニズムである。炭素市場に一定の標準化をもたらすことを目的に、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)やIETA(国際排出量取引協会)などの機関によって2005年に設立された。

CDMやVCSで承認された方法論以外にも、新規の方法論を受け入れているのが特徴。(※12)森林や土地利用、湿地保全など、多様なプロジェクトが登録されている。(※13)

Gold Standard

Gold Standard(GS)とは、2003年にWWF(World Wide Fund for Nature)をはじめとする環境NGOが設立した認証制度であり、ゴールドスタンダード事務局が運営を行っている。プロジェクトの質の高さに着目した認証基準を設けており、買い手に対して質を保証するのが特徴だ。持続可能な開発や地域コミュニティへの貢献を重視して評価が行われる。(※14)

カーボンクレジットの取引制度

黒い背景にコインが立ててある様子

Photo by Jonathan Borba on Unsplash

カーボンクレジットにおける売買にあたっての取引制度は主に2つある。以下でそれぞれ説明する。

ベースライン&クレジット制度

ベースライン&クレジット制度とは、排出量の取引をする方式のこと。温室効果ガスを削減するプロジェクトを行った際に、プロジェクトが存在しなかった場合の排出量との差分をクレジットとして認証する方法だ。

排出削減型と吸収型、いずれのプロジェクトも対象。クレジットの創出者はクレジットの売却により利益を得ることができるため、温室効果ガス排出削減への動機付けにもなる。ベースライン&クレジット方式は、自主的な取り組みを後押しする手法であるといえる。(※15)

キャップ&トレード制度

キャップ&トレード制度は、排出枠の取引をする方式のこと。大規模事業者や自治体などの排出者に排出枠が割り当てられている場合に用いられる手法であり、排出量が排出枠を下回った排出者が、上回った排出者に余剰分の枠を売却できる。

温室効果ガスを多く排出する産業への規制の側面があり、一定の排出量を確実に削減できるメリットがある。(※16)

カーボンクレジットのメリット

複数人でパソコンの画面を指さす様子

Photo by John Schnobrich on Unsplash

以下では、カーボンクレジットがもたらすメリットを紹介する。クレジットの創出者、購入者それぞれにメリットがあるが、ここでは仕組み全体として主要なものを3つ挙げる。

クレジット売却益を活用できる

クレジットの創出者は、クレジットの売却で得た利益を活用できるメリットがある。設備投資の一部を補ったり、さらなる投資に活用したりと、さまざまな用途に使えるため、事業活動の幅も広がるだろう。

地球温暖化対策になる

温室効果ガスの削減を目的とするカーボンクレジットは、地球温暖化対策につながっている。クレジットの創出者が実質的にCO2の排出削減・吸収に取り組むのはもちろん、購入者もクレジットの購入を通して、創出者の活動を後押しすることになる。

カーボンクレジットへの参加は、カーボンニュートラルの実現を目指し、私たちが暮らす地球を守る取り組みのひとつなのだ。

社会全体の脱炭素意識を醸成できる

カーボンクレジットに参加し、取り組みを見える化すると、実施企業の社内メンバーの意識が向上するだろう。また、菅元総理によるカーボンニュートラル宣言やSDGsの浸透など、昨今の情勢を踏まえると、環境に配慮した会社の製品やサービスを選択したい消費者が増えると予想される。

メーカーやブランドが環境への取り組みとあわせて自社のサービスを提供することで、社内メンバーや消費者の意識をよい方向へ導く可能性が大いにある。

カーボンクレジットの課題

丸められた紙が捨ててある様子

Photo by Steve Johnson on Unsplash

カーボンクレジット市場は急拡大しているが、課題も残されている。カーボンクレジットの種類によって細かな課題は異なるが、全体としての課題を3つ紹介しよう。

制度の活用が難しい

カーボンクレジットには多くの種類や制度があり、それぞれの認証方法が複雑なケースも多い。また、どの制度を活用したらいいのかわかりにくいのが現状だ。

カーボンクレジットに参加する際には、登録や審査などの手続きが必要とされる。計画書の登録やモニタリングの実施、報告書の作成といったフローを経てはじめて登録に至るのが基本である。参加するための労力や知識が必要となるため、ハードルの高さを感じる団体も多いだろう。

クレジットの価格が不透明

クレジットの価格が相対的に決まるため、量や価格の設定が不透明なのも課題のひとつだ。カーボンクレジットには不明瞭な点も多く、需要・供給の妨げになっている可能性がある。市場が拡大しているとはいえ、情報開示が限定的であり、活用に踏み出せないケースもあるだろう。

脱炭素化が進みにくくなる懸念がある

クレジットの購入が逃げ道となり、実態として脱炭素化が進まない可能性も考えられる。購入前提とし、事業活動の改革が行われない場合、カーボンクレジットを活用することで全体としての温室効果ガスは削減されるかもしれないが、一団体としての削減量に変化はないだろう。

カーボンクレジットは、あくまで、脱炭素社会を目指すための手段のひとつである。脱炭素化という真の目的を置いていかないように意識したい。

カーボンクレジットとビジネスの活用事例

高層ビル群を見上げた様子

Photo by Floriane Vita on Unsplash

以下では、カーボンクレジットがビジネスにどう活用されているかを見てみよう。具体的な企業事例を3つ紹介する。

キヤノン

1992年から、ライフサイクルアセスメントという手法を用いてCO2の排出量の把握に努めているキヤノン。同社はJ-クレジット制度を通じて、カーボンオフセットを実施している。

また、オフィス向け複合機におけるカーボンオフセットを実施。製品の原材料調達から廃棄・リサイクルまでの製品ライフサイクル全体で排出するCO2に関して、複合機導入者からの要望があった場合にカーボンオフセットを行う。それにより、キヤノンがオフセットしたCO2排出量を、導入者が自己排出分の削減量として活用できる仕組みだ。(※17)

ほか、キヤノンは、神戸市が展開する「こうべCO2バンク」と提携して、地域のCO2削減活動にも貢献している。(※18)

凸版印刷

凸版印刷は、イベントでのCO2排出量算定や印刷物・出版物向けのカーボンフットプリントによるカーボンオフセット申請代行など、さまざまな取り組みやサービスの提供を行っている。

社内では、定期的に「社内環境関連会議」を実施。その際に排出されたCO2は、排出量を算定し、カーボンオフセットを行っている。2019年度は、「オルタステクノロジー高知によるCOF2を用いた温室効果ガス排出削減事業」のJ-クレジットを活用。エッチングガスを温室効果が低いフッ化カルボニル(COF2)ガスに変更することで、温室効果ガスを排出削減した。(※19)

ファミリーマート

ファミリーマートでは、2009年に「カーボン・オフセットキャンペーン」を全国7600店舗で実施。1999年に開発した環境配慮型プライベートブランド「We Love Green」の日用品の原料調達から廃棄までの工程で発生するCO2排出量をオフセットし、排出枠を日本政府に譲渡するという内容だ。国連が認証するインドの水力発電プロジェクトによって削減されたCO2排出枠を買い取る形でオフセットが行われた。(※20)

また、2012年には「被災地支援型カーボン・オフセットキャンペーン」を実施。ほかにもカーボン・オフセットつきレジ袋の導入をはじめ、温室効果ガス排出削減に関する取り組みを積極的に行っている。

脱炭素社会の実現には、カーボンクレジットの活用が有効

メリットが多い反面、課題も残されているカーボンクレジット。カーボンクレジットの制度が存在するゆえに、事業における改革が進みづらいという面がある一方で、全体としての温室効果ガス排出削減において有効な手段であることは明白だ。

世界的な問題である、温室効果ガス問題。地球環境を守るために、温室効果ガスの排出削減・吸収は急務である。まずは現状に目を向けること。そして、カーボンクレジットをはじめとする取り組みを可能な範囲で実行することが大切ではないだろうか。急拡大するカーボンクレジット市場の今後にも引き続き注目したい。

※掲載している情報は、2023年6月30日時点のものです。

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