1997年の、京都議定書にて決定されたCDM(クリーン開発メカニズム)。先進国と発展途上国がともに温室効果ガス削減をめざす、画期的な仕組みであった。成立背景や日本の現状、そして決定から20年以上経過したいまだからこそわかる課題点をまとめる。
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CDM(クリーン開発メカニズム)とは、1997年の京都議定書にて決定された、柔軟性措置である。目標を達成するために設定された京都メカニズムの一つだ。
京都議定書とは、先進国に対して温室効果ガスの排出削減目標を定めたもので、法的拘束力を持つ。各国が連携し、より確実に温室効果ガスの削減を進めるために採択された。
ただしこの議定書は、過去の発展にともなって排出した温室効果ガスの責任を、先進国が負うようにつくられたもの。これから先、多くの温室効果ガスを排出するだろう開発途上国に対する制限は、ない。
このような背景のもと、先進国と開発途上国の両方にメリットが発生する仕組みとして生まれたのが、CDMである。先進国が途上国で温室効果ガス削減プロジェクトを実施した場合、排出削減量に応じてクレジットを発行。先進国はそれを自国に持ち帰ることができる。
つまり先進国は、途上国での成果を自国の削減目標達成のために充てられるのだ。
CDMが成立した背景にあったのは、先進国を通じた途上国の温室効果ガス排出削減効果である。また同時に、先進国から途上国に対する、持続可能な開発援助を達成する目的もあった。
先進国が持つ環境対策テクノロジーが途上国へと移動するメリットも、非常に大きいと言えるだろう。
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CDMの仕組みと流れは以下のとおりだ。
1. 二酸化炭素排出量削減プロジェクト実施事業者が、プロジェクト計画書を作成
2. 先進国(投資する国)と途上国(ホストとなる国)の両方が承認
3. 指定運営組織(DOE)による審査
4. CDM理事会による登録(登録料の支払い)
5. 事業の実施とモニタリングスタート(経過観察とデータ収集)
6. クレジット(CER)の検証と認証
7. 国連のCDM理事会によるCERの発行
プロジェクト実施事業者は、登録時に登録料を支払う仕組みだ。その金額は、排出削減量予測にもとづいて決定される。ただし年間排出削減量予測が一定数値以下の場合やホスト国が後発開発途上国である場合、登録料が免除されるケースもある。
CDMプロジェクトには以下の2つの種別があり、それぞれで目的が異なっている。
・排出削減CDMプロジェクト→温室効果ガスの「削減」をめざすプロジェクト
・新規植林/再植林CDM(A/R CDM)プロジェクト→排出された温室効果ガスの「吸収」促進をめざすプロジェクト
さらに排出削減CDMプロジェクトは、大規模プロジェクトと小規模プロジェクトに分類される。それぞれで運用・手続きに関するルールが異なるのだ。
CDMでは、特別な対策が施されていない現状の排出量をベースライン(基準)と設定し、そこから各プロジェクトによってどれだけ削減されたかを計測する。削減量に応じて発行されたクレジットは、世界規模で売買が可能だ。
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京都議定書の第1約束期間は、2008年から2012年までであった。日本はこの期間の温室効果ガスの平均排出量を、1990年の排出レベルから6%削減する義務が課せられていた。2012年度までの日本の平均排出量は、12億7,800万t/年で、これは基準年比+1.4%にあたる数値である。(※1)
ここからCDMによるクレジットの数値を加味しよう。京都メカニズムクレジット取得事業によって政府が取得したクレジットの総量は約9,749万tで、民間分が約2億9,409万t。
これは基準年比6.2%にあたる数値である。ここに森林等吸収源を加え、日本は基準年比-8.7%を達成した。(※1)
京都議定書で定められた削減義務数値は、アメリカで基準年比-7%、EUで-8%であった。(※2)アメリカはのちに京都議定書からの脱退を表明するが、EUはいち早く対応をスタート。政府によるクレジット買取も日本よりも早く開始し、削減義務数値も達成している。
ホスト国として多くのプロジェクトを実施しているのは、中国やインド、ブラジルなどである。とくに中国のCER発行量は多く、全体の59.4%を占めた。(※3)
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京都議定書の達成に一定の役割を果たしたCDM。しかし運用が進むにつれて、さまざまな課題・問題点が指摘されるようになった。以下はその一例である。
過去のCDMプロジェクトの実績をみると、その内容に偏りがみられる。人気が高いのは温室効果ガスの末端処理を行うプロジェクトだ。
その理由はプロジェクトの実施が比較的簡単で、コストも安いためである。当初の目的の1つである「省エネ促進」に取り組むプロジェクトは、決して多くはなかったのだ。
またホスト国にも偏りがあった。2011年のデータによると、登録済みプロジェクトの80%以上がアジア地域を対象としたものだ。なかでもかなりの割合を占めたのが、中国とインドである。経済活動が活発な地域に集中する結果となったのだ。(※4)
CDMのプロジェクトを実行しクレジットが発行されるまでには、多くのステップを乗り越える必要がある。審査開始から発行までの期間は約2.5年。審査が厳格に行われる分、使い勝手は悪くなった。(※5)
長い時間をかけて手続きを踏んだとしても、審査通過できるとは限らない。プロジェクトを立ち上げることへのハードルは、極めて高い。
仕組みとしては優れた点を持ちつつ、CDMにはさまざまな問題点もあった。これらの課題を解消するため、新たに広がっているのが二国間クレジット制度(JCM)である。
この制度では、基本的なメカニズム管理は二国間で行われる。一括管理の必要がなく、スピーディーな対応が可能だ。
またプロジェクトの対象範囲は広く、確認や検証も従来よりも柔軟な姿勢で行われる。2019年に発表されたデータによると、日本は17の国とパートナー関係を構築した。
現状では国際的な取引・移転を行わないクレジット制度だが、取引可能な制度へと移行するための話し合いは継続的に実施。CDMの問題点を改善した、新たな取り組みとして注目されているのだ。(※6)
京都議定書で定められたCDMは、環境を守るための革新的な取り組みとして注目された。運用とともに問題点も多く見つかったが、これらの課題を解消し、新たな制度もスタートしている。持続可能な途上国への支援と環境保護の両立は、今後も注目されていくだろう。
※1 京都メカニズムクレジット取得事業 の概要について
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/credit/mat160118.pdf
※2 附属書I国の京都議定書(第一約束期間)の達成状況|国立環境研究所 地球環境研究センター
https://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201407/284004.html
※3 https://sustainablejapan.jp/2017/08/06/cdm/27731
※4 クリーン開発メカニズムの課題と二国間クレジット制度の展望|三菱UFJモルガン・スタンレー証券https://www.sc.mufg.jp/company/sustainability/cef/article-09.html
※5 今後の新たな柔軟性メカニズムの 在り方について
http://gec.jp/gec/jp/Activities/cdm/sympo/2010/t1-1_MOE.pdf
※6 二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism (JCM)) の最新動向
https://www.carbon-markets.go.jp/document/20190819_JCM_goj_jpn.pdf
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