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近年、カーボンプライシングへの注目度が上昇している。地球温暖化対策やカーボンニュートラルを実現するための、ポイントと言えるだろう。ここでは、そんなカーボンプライシングの基礎知識を解説。その背景やメリット、デメリットについて理解しよう。
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カーボンプライシングとは、世界中で常に排出される「炭素」に価格を付ける仕組みを指す。これが注目されるようになったきっかけは、地球温暖化である。
地球温暖化の主な要因は二酸化炭素だ。「炭素」という目に見えないものに、「お金」という価値を結び付けることによって、社会全体の変化を促す。二酸化炭素排出にお金がかかるとなれば、「なんとかして排出量を抑えよう」という動きが加速するだろう。カーボンプライシングとは、脱炭素社会を実現するための改革案の一つなのだ。
カーボンプライシングには、大まかに以下の5つの類型がある。それぞれを詳しく見ていこう。
燃料や電気を使用した場合、直接的および間接的に二酸化炭素を排出する。この排出量に比例して課税する仕組みが、炭素税だ。排出量に応じて課税する金額が決まるため、さまざまな排出に対して金額を付けやすい。また、行政側にかかるコストが少ない点もメリットと言える。
課税金額が予見しやすいため、安定的に得られる税収としても期待できるだろう。ちなみに、日本が導入している地球温暖化対策税は、炭素税の一種である。
政府が企業ごとに、あらかじめ排出量の上限を決めておき、必要に応じて「排出権」を売買する仕組みが国内排出量取引である。上限を下回った企業は排出権を売却し、上限を上回った企業は排出権の購入によって帳尻を合わせる。企業ごとに平等な上限を設定できるかどうかが、大きな課題だ。
二酸化炭素削減価値を証書化。そのうえで取引を行うのがクレジット取引の概要である。
・非化石証書取引
・Jクレジット(二国間クレジット制度)
・民間セクターにおけるクレジット取引
日本では上記のようなクレジット取引が導入されている。
市場メカニズムを活用した排出削減のための戦略であり、一部の国際機関が合意している。国際海事機関では炭素税スタイルでの導入を検討。国際民間航空機関においては排出量取引スタイルを導入するなど、各機関によって導入方法は異なっている。
インターナルカーボンプライシングでは、それぞれの企業が独自で、自社の二酸化炭素排出に対して価格をつける。これは、企業の低炭素投資や各種対策を推進するための取り組みだ。
インターナルカーボンプライシングの導入によって、企業それぞれの行動変容を促す狙ねらいがある。(※1)
カーボンプライシングが注目される背景には、環境問題に対する世界的な意識の高まりがある。地球全体で温暖化を食い止めるためには、国の枠組みを越えた取り組みが必要だ。
2021年に世界銀行が公表した「State & Trends of Carbon Pricing 2021 Executive Summary」によると、2021年4月時点で、64の国と地域が温室効果ガス削減のためのカーボンプライシングを導入している。ここ数年で導入する国と地域の数は急増しており、今後も同様の流れが続いていくと予想できる。(※2)
世界でいち早くカーボンプライシングを取り入れたのは、ヨーロッパ諸国だ。フィンランドやオランダ、スウェーデン、ノルウェーといった国々では、1990年代初頭に炭素税の仕組みを導入。非常に高い税金がかけられている。(※3)
こうした国々が、カーボンプライシングへの取り組みが不十分な国に対して、不公平感を抱くのは当然のことだ。各国が足並みをそろえて対策していくために、世界中でカーボンプライシングへの注目度が高まっているというわけである。
カーボンプライシングの注目度が世界的に高まる中、気になるのが日本の立ち位置だ。残念ながら日本の状況は、世界的に見て後れを取っている。2012年から導入された地球温暖化対策税は、炭素税の一種という位置付けではあるものの、その課税額は欧州諸国と比較してあまりにも低い。(※4)
日本では、2018年から環境省主導による「カーボンプライシングの活用に関する小委員会」を開催。日本が今後取り得るカーボンプライシングの手法について、間口を広げて議論している。このように積極的な議論が進められてはいるものの、2022年2月現在、具体的な導入方法と導入時期に関する見通しは立っていない。(※5)
カーボンプライシングには、メリットもあればデメリットもある。具体的には、以下のような点が挙げられるだろう。
カーボンプライシングを導入すれば、企業側は二酸化炭素排出量を減らすための取り組みを、より積極的に行っていくだろう。脱炭素化社会の実現は近付き、またそのために必要な技術革新が進む可能性も高い。二酸化炭素排出量を削減できれば、温暖化対策につながるはずだ。
また、カーボンプライシングによって一定の税収を確保できるようになれば、それを環境対策や経済対策に充てられるというメリットも期待できる。
カーボンプライシングのデメリットとして挙げられるのは、エネルギーにかかるコストの上昇である。日本はもともと、エネルギーコストの高い国として知られている。カーボンプライシング導入によってさらにコストが上昇すれば、各種産業への影響は避けられないだろう。国際的な競争力が低下する恐れもある。
また、カーボンプライシングを導入したからといって、二酸化炭素排出量が減少するとは限らない。日本のエネルギーコストが上昇すれば、負担の軽い国や地域を求めて流出する企業は増えるだろう。企業の移転により、日本国内の排出量は減るかもしれない。しかし、流出先の国や地域でそれ以上に増えれば、温室効果ガス削減効果は得られていないことになる。
カーボンプライシングが注目される理由は、地球温暖化に対して国際的な意識が高まっているからだ。欧州諸国と比較すると、日本の取り組みはまだ不十分であると言わざるを得ないだろう。とはいえ、カーボンプライシング導入にはメリットもあればデメリットもある。その両方を把握したうえで、しっかりと準備を進めていくことが大切だ。
2020年10月、当時の菅内閣総理大臣が所信表明演説にて、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを明らかにした。カーボンプライシングに関する議論は、ここから一気に高まっている。今後どのような流れになるのか、カーボンプライシングについて理解したうえで、しっかりと注目していこう。(※6)
※1 カーボンプライシング|環境省
インターナル・カーボンプライシングについて(2ページ目)|環境省
※2 State & Trends of Carbon Pricing 2021 Executive Summary|PMI
※3 海外のカーボンプライシングの実態(5ページ目)|日鉄総研
※4 地球温暖化対策のための税の導入|環境省
※5 議事次第資料・議事録一覧|環境省
カーボンプライシングの活用に関する小委員会 中間整理(概要)|環境省
※6 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説|首相官邸
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