若者を中心に広がる「気候不安症」とは?世界や日本の現状と原因

嵐の前触れ

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気候不安(エコ不安)は、地球温暖化や環境破壊など地球の危機的状況に対する心理的不安や恐れを抱いた状態で「気候不安症」とも呼ばれる。全世界で若者を中心に広がりつつあり、個人の心理的健康や生活だけでなく、社会全体の持続可能性にも影響を与える問題だ。

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2024.05.03
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気候不安(エコ不安)とは

水面に映る雲

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気候不安(エコ不安)とは、近年急速に進行する地球温暖化や環境破壊などの地球の危機的状況に対して引き起こされる、個人や社会全体の心理的な不安や恐れのことを指す。

「気候不安症」とも呼ばれ、人々が地球の将来や環境に対して不安感や無力感、絶望、悲しみ、怒り、焦り、罪悪感などの心理的ストレスを感じる状態だ。

具体的には、極端な気候現象の増加や生態系の変化、海面上昇などの影響によって生じる地球規模の問題に対する不安が挙げられる。

気候不安症(エコ不安症)が世界で増加

雨

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2021年にバース大学のチームが中心となり10か国の16歳から25歳の計1万人を対象に実施した調査「子どもと若者における気候不安と気候変動への政府の対応についての考え方」(※1)によると、若い世代において地球の将来に不安を感じている人が世界で増加していることが明らかになった。

過去数十年にわたる急激な気候変動が人々の日常生活に影響を与えており、これにより環境の不安定さや将来への不安が高まっている。

世界10か国で「気候変動を心配している」人が8割超え

調査した10か国すべてにおいて「気候変動を心配している」と答えた人が8割を超える結果となった。これは、世界的な問題意識の高まりを示している。気候科学の進展により、地球温暖化や極端な気象現象の頻発など、気候変動の影響がより明確になっているためである。

さらにソーシャルメディアの普及により、気候変動や環境問題に関する情報が広く共有され、人々の意識が高まっている。気候変動は将来の生活や環境に直結する重要な問題であり、若い世代の間ではとくに関心が高まっている。

日常生活にネガティブな影響を与えると感じる人は途上国と先進国で差がある

気候変動に対する不安などの負の感情が日常生活にネガティブな影響を与えると感じる人には、途上国と先進国で差が見られた。「フィリピン」「インド」「ナイジェリア」「ブラジル」などは影響を与えていると思う人が半数以上いるのに対し、「フランス」「アメリカ」「イギリス」「ポルトガル」「オーストラリア」といった国々では3割程度にとどまっている。

途上国では気候変動による影響がより直接的で深刻であることから、その影響を日常生活で強く感じる傾向があるためだ。これに対し先進国では、より高度なインフラや技術、リソースへのアクセスがあるため、気候変動に対する直接的な影響を軽減できる場合が多く、日常に影響を感じる人が少なくなっている。

人類の未来に対して多くの人が不安を抱えている

気候変動が地球規模で破壊的な影響をもたらすことで、人類の存続を脅かす可能性に世界中の人々が深い危機感を抱いていることが明らかになった。

気候変動があたえる人類の未来について「将来が恐ろしい」と考える人の割合は多くの国で7割を超え、フィリピンでは9割を超えるという結果が出た。これらの考え方は、気候変動がもたらす未来への深い不安と危機感を反映しており、世界中の人々が真剣に対処すべき課題であることを示している。

日本の気候不安症(エコ不安症)の現状

雪と鉄橋

Photo by Sora Sagano on Unsplash

前記した2021年にバース大学の研究者が主導し10か国で実施された調査を基に、日本でも同じ質問に加え、独自の設問をさらに追加し、日本在住の16歳~65歳、5000人を対象に調査が実施された。(※2)10か国と日本の調査結果を比較し、日本の現状を明らかにしていく。

若年層は気候変動によって悲観的な感情を持ちやすい

気候不安に対する日本と世界の調査結果のグラフ link

Photo by 電通総研

若年層(16〜25歳)は、気候変動が引き起こす環境の悪化や社会への影響を心配し、それによって悲観的な感情を持ちやすい傾向があった。「悲しみ」「諦め」「落ち込み」「絶望」いずれの感情も他世代より「感じる」と回答している。彼らは未来を生きる世代であり、気候変動が進行すれば自らの生活や社会に大きな影響を及ぼすことを認識しているからだろう。

なお国ごとの比較において、気候変動がもたらす感情として「不安」を感じているかという質問では、10か国平均が61.8%に対し、日本は72.6%と10ポイント以上高い数値を示した。日本は他国と比べて、気候変動に対して強い不安感を抱いていることがわかった。

日常生活で気候不安の影響を感じている人は、先進国の中では高い

気候不安の日常への影響に関する調査結果のグラフ link

Photo by 電通総研

「気候変動に対する感情は、私の日常生活にネガティブな影響を与えている」という質問に対して「はい」と答えた割合は49.1%で、平均3割程度にとどまる先進国の中では高い結果となった。

自分自身や人類の将来に対しては、それほど悲観的にとらえていない

気候不安による将来への影響に関する調査結果のグラフ link

Photo by 電通総研

気候変動が引き起こす環境の悪化に対して、漠然とした不安は日本の多くのが抱えていることは上述した。しかし自分自身や人類に対する考え方は、それほど悲観的にとらえていないという結果となった。

「将来がおそろしい」と考える人は10か国平均75.5%なのに対し、日本は53.1%と20ポイント以上の差がある。ほかの「私がもっとも大切にしているものは破壊されるだろう」「私は両親と同じようなチャンスを手に入れられないだろう」「私の家族の安心は脅かされている」などといった質問に関しても、30から40ポイント低い結果が出ている。

気候不安(エコ不安)はなぜ起こる?

では、なぜ気候不安(エコ不安)は起こるのか。その理由はさまざまではあるが、主となる要因を以下にいくつか示しいく。

絶望的なニュースや映像を見る

気候不安(エコ不安)が起こる理由の1つは「絶望的なニュースや映像を見る」ことだ。洪水や森林火災などの自然災害や、氷河の融解や生物多様性の喪失などの環境問題を伝える映像やニュースをメディアやソーシャルメディアで見るたびに、心理的な負荷がかかり絶望感や不安感を引き起こす。

これらの報道は個々の日常生活や地球全体の未来について不安を煽り、気候不安を増幅させる一因となる。

自然災害の増加とそのトラウマ

近年の"自然災害の増加"もそもそもの要因である。気候変動に伴いハリケーン、洪水、干ばつなどの自然災害が頻繁に発生し、その被害が拡大している。

過去に経験したことのない極端な気象現象や自然災害が増加し、その影響が日常生活におよぶことで、不安感や不安定感が強まる。さらに自然災害の被害を実際に経験した人々は、気候不安に陥りやすいとされている。

政府や企業の不十分な対応

気候不安(エコ不安)が生じる理由には「政府や企業の不十分な対応」という側面もある。気候変動や環境問題に対する積極的な対策が十分に取られていないと感じると、人々は未来の見通しに不安を覚える。政府や企業のリーダーシップが欠如していると感じると、個人レベルでの行動も無力に感じられ、気候不安が増大する。

先のアンケート結果においても、政府の気候変動対策に不満が大きいほど、将来に対する不安が増大するという相関関係が確認されている。

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気候不安(エコ不安)を感じたら? 対処法は?

気候不安(エコ不安)は欧米の医学・科学雑誌や主要メディアにおいても取り上げられており、アメリカ心理学会はアメリカ人の3分の2以上が気候不安を経験していると報告している(※3)。しかしながら気候不安症は精神疾患の分類や治療に用いられる明確なガイドラインがまだないため、判断する側としても対処が難しい(※4)。

捉え方を間違えると、感情をさらに悪化させてしまう可能性もある。自身でも、メンタルヘルスを健康に保つためにコントロールしていかなくてはならない。以下に、気候不安と向き合いながらできる対処法をいくつか紹介する。自分に合った方法を取り入れてみて。

自然の中で過ごす

気候不安(エコ不安)を感じたら、自然と接することが有効なひとつの対策である。自然のなかで静かに過ごすことで、心身のリラックスやストレスの軽減が期待できる。森林浴や散歩、公園でのピクニックなどを通じて自然環境に身を置くことで、緑の癒しや自然の美しさを感じられる。

気候情報に詳しいセラピストは、環境への不安や悲しみに伴う無力感に対処する方法として、自然の中で活動したり時間を過ごすことも奨励している(※5)。

行動を起こす

焦りや罪悪感といった気候不安(エコ不安)を感じたら、積極的な行動を起こすことで精神的影響の軽減が期待できる。例えばリサイクルや節水、エネルギーの効率的な利用など、自分ができる日常生活での小さな取り組みから始めることだ。

また地域の環境保護活動に参加したり、政府や企業による持続可能な政策の推進を支持したりすることも有効である。行動を起こすことで自己への無力感や無気力感といった気候不安を軽減させられる。

コミュニケーションを取る

気候不安(エコ不安)を感じたら、他の誰かとコミュニケーションを取ることも有効だ。気候変動に関する悩みや不安を友人や家族と共有することで、心の負担を軽減し、支え合うことができる。

また専門家や地域の環境グループとの対話を通じて情報を交換し、具体的な解決策や行動について助言を受けることも助けになるだろう。コミュニケーションを通じて、気候不安を抱える人々が孤立せずに共感や理解を得ることで、心の安定や前向きな気持ちを育める。

情報の適切な管理・デジタルデトックス

気候不安(エコ不安)を感じたら、情報の適切な管理が重要だ。過剰な情報摂取は不安を増幅させる可能性があるため、信頼性の高い情報源からの情報に絞ることが大切だ。ときには情報を遮断することも手段として考えておこう。

自らの感情や心理的な状態に配慮しながら、情報を適切に処理し管理することで、過度な不安を抑えて冷静な判断ができるようになる。

若者が苦しむ気候不安を全世代で協力し和らげていく

海を散歩する親子

Photo by Derek Thomson on Unsplash

気候不安(エコ不安)は国や地域で感じ方に違いはあるが、若者を中心に世界的に広がっていることが明らかになった。日本の若年層は、他国よりも気候変動に対しての不安を抱いている人は多いが、未来への影響を自分事として捉えている人は少ないという現状も浮き彫りになった。

多くの若者が将来へ前向きな希望をもち問題解決へ取り組めるよう、全世代の誰もが自分事として対策の重要性を理解し、できる限りのことをしていかなくてはならない。

※掲載している情報は、2024年5月3日時点のものです。

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