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気候正義は、気候変動がおよぼす影響の不公平さを人権的な視点を入れて捉えた考え方。近年、気候変動に向き合うムーブメント「Fridays For Future」が世界中で広まり、日本でも若者世代を中心に気候正義が訴えられている。本記事では、気候正義の意味や取り組みについて解説する。
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気候正義とは、英語では「Climate Justice(クライメート・ジャスティス)」。気候変動に関連する環境的な問題と社会的な公正、平等を結びつけた概念であり、具体的には、気候変動の影響が地理的、経済的、社会的に不平等であることを指摘し、これに対処する際に公平さと包括性を追求する考え方だ。
気候変動による影響をダイレクトに受けている人と、気候変動の原因をつくっている側が異なることが問題視されている。気候変動を地球温暖化として捉えるだけでなく、人権的な視点が入っているのがポイントだ。
そもそも気候変動は、先進国や富裕層がエネルギーを大量に消費し、温室効果ガスを排出してきたことで引き起こされている。持続可能とはいえない経済発展を続けたことで、環境に負荷がかかり、地球は、人々が生活しにくい場所へと変わってきている。結果として、世界中で、地球温暖化による自然災害や異常気象が多発。巨大台風や干ばつ、海面上昇などによって、多くの人々が命や生活を脅かされている。
ここで問題視されるのが、気候変動による影響を大きく受けているのは、温室効果ガスの排出量が少ない発展途上国の人々ということ。発展途上国の多くの人々が従事している農業や漁業などの第一次産業は、気候変動の影響をダイレクトに受ける。また、発展途上国では、気候変動に適応するための技術や資金が不足していることにより、さらなる貧困を引き起こす。気候変動は、不平等を加速させてしまうのだ。
気候正義では、気候変動を引き起こしている側が責任を果たすことが求められる。いま影響を受けている発展途上国の人々や、これから影響を受けるであろう将来世代の権利を保護しながら、地球温暖化を止めることが必要とされる。
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気候正義が生まれた背景には、地球温暖化問題の深刻化がある。地球温暖化によるさまざまな影響が浮き彫りになり、早急な対応が求められている。2018年には、気候変動問題に向き合うためのムーブメント「Fridays For Future(未来のための金曜日)」がはじまり、世界に広まりを見せている。2019年以降、日本でも、気候変動問題の解決や気候正義を訴える活動が活発化している。
以下では、改めて、地球温暖化の原因や現状を見ていこう。
地球温暖化の原因である温室効果ガスにはさまざまなものがあるが、主として、石油や石炭などの化石燃料を燃焼するときに発生する二酸化炭素(CO2)が挙げられる。化石燃料を大量に使用しているのは、先進国である。温室効果ガス排出量が多い上位10カ国だけで、世界の排出量の7割を占めている。(※1)
温室効果ガス排出量を細かく見ると、排出者はさらに偏っていることがわかる。個人消費による温室効果ガス排出量の約半分は、世界人口の10%である最富裕層が占めているというデータがある。1990年以降、この傾向に変化はない。一方で、世界人口の50%を占める貧困層による排出量は、全体の10%以下にとどまっているのが現状だ。(※2)
気候変動について評価を行う国連の組織にIPCCがある。2022年4月に発表されたIPCCの第6次評価報告書によると、2010年から2019年までの10年間における世界の温室効果ガス排出量は、過去のどの10年間よりも高い数値だった。
パリ協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く、1.5℃に抑えるように努力する「1.5℃目標」が掲げられた。温室効果ガスの排出量の数値は依然として高く、このままでは目標達成にはとうていおよばない。目標を達成するためには、2025年までに温室効果ガス排出量を減少に転じさせる必要がある。各国があらゆる分野において、対策を行うことが求められている。
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気候正義によって、地球や人々におよぼす影響はどのようなものが考えられるだろうか。
気候変動が第一次産業へもたらす影響は計り知れない。とくに、農業分野では多くの影響が顕在化している。異常気象や自然災害によって、予期せぬ事態に見舞われることが増えるだけでなく、気候変動による生育障害や品質の低下なども問題視されている。つまり、それだけ第一次産業は気候正義の影響を受けるということだ。
また、漁業や養殖業も深刻だ。海水温の上昇は水産資源の枯渇につながる。海洋生物の生息域が変化することで、生態系が崩壊し、漁業や養殖業における生産量の減少が発生している。さらに、植生の変化や害虫被害などによる、林業への影響も大きいといわれている。
気候正義においては、第一次産業で生計を立てている人々は弱者になり得る。第一次産業の比重が大きい発展途上国では、生計手段を失う人が増え、生活が立ち行かなくなる。世界気象機関(WMO)の報告書によると、気温上昇によって、アフリカの農業生産性は大きく減少するという。(※3)
気候正義では自然災害の増加も見逃せない。近年の気候変動によって、世界各地で自然災害の規模が大きくなり、頻度が増えている。巨大台風やハリケーン、山火事や氷河が溶けることによる洪水など、その影響は日に日に大きくなっている。
日本の例では、気象庁気象研究所の研究チームが「令和元年東日本台風」に関する数値シミュレーションのなかで、気温上昇が降水量を増加させたという見解を示した。(※4)
世界の平均気温は、上昇の一途をたどっている。気候変動を食い止めるためには温室効果ガスの削減が欠かせないが、あわせて、すでに生じている変化に適応することや補償対応も求められている。2022年に開催されたCOP27では、気候変動によって生じた発展途上国の「損害と被害」について、先進国側が基金を創設することで合意に至った。(※5)これは、まさに気候正義の影響といえるだろう。
生態系の変化が世界中のあらゆる場所で見られている。植生の変化や野生動物の分布変化など、生態系のみならず、生物多様性にも重大な影響がおよぶ。世界の野生生物の絶滅スピードが年々増加していることも、気候正義の影響といえるだろう。(※6)生態系の変化や生物多様性の崩壊は、地球環境の悪化を意味する。
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気候正義の言葉を大々的に出して取り組みを行っている企業はそう多くない。しかし、気候変動や温室効果ガス削減に向けた取り組みは、多くの企業が行っている。以下では、気候正義と関連が深い取り組みを行っている企業の事例を3つ紹介する。
丹波・丹後地域に密着し、再生可能エネルギーを供給する「たんたんエナジー」。丹波・丹後の自然の恵みを活かした発電所の電気や、環境価値のある証書を組み合わせることで、実質再エネ電気メニューを設けて電気を供給している。
たんたんエナジーは、実現したいことのひとつに「気候正義の実現」という項目を掲げている。気候変動は人権に関わる問題だとして、事業を通じて、企業や自治体、個人に気候変動防止に取り組む手段を提供している。(※7)
キーコーヒーでは、「気候変動などの環境変化に耐えうる品種」を発掘する取り組みを行っている。このままのペースで気温が上昇し続けると、2050年にはアラビカ種の栽培適地が50%減少すると予想されている。
キーコーヒーは、2016年から国際的な研究機関「ワールド・コーヒー・リサーチ」と協業で栽培試験を実施。インドネシアの直営農園で、世界で栽培されているあらゆる品種の耐病性・生産性・品質などの調査を続けている。地域に適した優良品種を世界中に届けることで、コーヒー生産者の生活を守ることや、多様性が確保されたコーヒーの未来の実現を目指している(※8)
気候正義を追求するためには、エネルギー利用の効率化やエネルギー消費の削減が必要だ。「みんな電力」では、環境負荷がかかる開発行為を行わず、地域住民との合意形成を徹底し、電気を調達している。契約者は生産者から「顔の見える電力」を購入し、再生エネルギーの生産を応援できる。サービスを通して、消費者に持続可能なエネルギー社会を実現するための「パワーシフト」の機会を提供している。(※9)
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気候正義は、地球や社会規模の大きな話に感じられるかもしれないが、私たちが個人でできる取り組みもある。以下で、3つ紹介しよう。
気候正義について行動を起こすためには、まずは知ることが第一歩。気候変動が世界にどんな影響を与えているのか、どんな被害や損失があるのかなどを把握することからはじめたい。気候正義の普及啓発活動を行っている「認定特定非営利活動法人 FoE Japan」のホームページでは、気候正義に関するパンフレットをダウンロードできる。
環境に配慮した製品やサービスを選択することも、生活者としてできる取り組みのひとつだろう。私たちが生活で手にするあらゆるものは、地球に影響をおよぼしている。とくに、生産時や輸送時、廃棄時には環境に負荷がかかっているケースが多い。だからこそ、地球環境のためにできるだけ環境に配慮した製品やサービスを選びたい。ロングライフ製品やプラスチックフリーアイテムなど、選択肢はさまざまだ。一人ひとりの選択が、社会を変えるきっかけになるかもしれない。
気候変動を止めるためには、インパクトを与えるような政策が必要だ。そのためには、私たち一人ひとりの政治参加が欠かせない。将来どのような社会を実現したいのか、いま一度考えてみよう。政治に関心を持ち、選挙権がある場合は投票することが、持続可能な社会の実現につながっていく。
気候変動は地球上で暮らすすべての人に影響をおよぼしているが、影響の程度は異なるのが現実だ。気候変動に加担していない人々が、気候変動による影響を大きく受けている構造は、あまりにも不条理ではないだろうか。
気候正義に関しては、気候変動を止めることで不公平性が是正されていく。発展途上国の人々や将来世代だけでなく、地球上で暮らすすべての人が当たり前に生活を続けていくためにも、まずは自分にできることから着実に取り組みたい。
参考
※1 Climate Justice(気候正義)とは|認定特定非営利活動法人 FoE Japan
※2 IPCC第6次評価報告書第3作業部会の注目点について P11|IPCC 第6次評価報告書第3作業部会報告書
※3 世界気象機関、アフリカの気候変動リスクに関する報告書発表|JETRO
※4 近年の気温上昇が令和元年東日本台風の大雨に与えた影響 P1|気象研究所
※5 気候変動の「損失と被害」基金で合意 COP27、対策加速では前進なく閉幕|科学技術新興機構
※6 地球温暖化による野生生物への影響|WWFジャパン※7 私たちが目指すもの|たんたんエナジー株式会社
※8 コーヒーの明日に向けて|KEY COFFEE
※9 みんな電力
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