環境正義とは? 世界の実例と環境レイシズムに向けた取り組み

環境正義

Photo by Thomas Ashlock on Unsplash

「環境正義」とは、環境負荷が不平等にもたらされている状況を不正義とする概念のこと。環境問題と人種差別は関連した問題で、環境レイシズムともつながりがある。世界や日本で、実際にどのような環境的差別問題が起きているか、世界の取り組みとあわせて紹介する。

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2021.08.26
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環境正義と環境レイシズム

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Photo by Patrick Hendry on Unsplash

「環境正義(Environmental Justice)」とは、環境負荷が不平等にもたらされている状況を不正義だとする概念。肌の色や民族、所得によって差別されることなく、誰もが公平に安全な環境で暮らす権利を持っていると提言することだ。

1980年代のアメリカでは、人種や肌の色にかかわらず平等に安全な環境で暮らせるよう求める社会運動が行われた。この運動の中で環境正義という概念が生まれ、さらに有色人種などのマイノリティーや社会的弱者が、一方的に環境汚染の被害を受けていることを指す「環境レイシズム」の概念も生まれた。

諸外国と日本における環境レイシズムの現状

1980年代の環境正義運動で訴えられた「環境レイシズム」。しかし、解決の糸口がなかなか見えないのが現状だ。

例えばアメリカでは、ごみ処理施設や化学工場など大気汚染をもたらす原因の多くが、貧困層の黒人コミュニティが住むエリアに集中している。しかも白人の方がPM2.5を引き起こす原因となる商品やサービスを多く消費するのに対して、黒人やヒスパニック系住民の方が、白人よりPM2.5濃度の高い地域に住む傾向があると報告されている。(※1)

アメリカでのPM2.5排出量は2003年から2015年の間に50%に減少した。しかし有色人種が多く住み環境汚染が進んでいる地域で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死亡率が高いように、環境レイシズムは依然としてなくなっていない。(※2)

日本においても、地域による環境的差別が存在する。環境への被害やリスクが大きい施設は、都心部ではなく郊外につくられるものの、その利益の多くを享受しているのは都心部に住む人々だ。原子力事故が起きた福島第一原子力発電所では、発電した電気は首都圏に送電しており、利益と負担が公平に分配されているとは言えない。

環境レイシズムの具体例

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ガン罹患率が50倍の黒人居住地域

アメリカ・ルイジアナ州南東部のセントジョンザバプテストは、古くから黒人居住地区として知られている。そして、ミシシッピ川沿いのおよそ137kmに、150以上の化学工場や石油精製所があり、この地域住民のガン罹患率は全米平均の50倍になる。(※3)

これは、発がんの可能性が高いとされるクロロプレンの排出のためとみられ、この地域には「キャンサー・アレー(がん通り)」の名がつけられている。

アメリカ先住民が放射線物質の採掘で被曝

アメリカのニューメキシコ州では、核兵器の材料になるウラン鉱山が発見された。しかしここは、1830年に制定された「インディアン移住法」によって、多くのアメリカ先住民が強制移住してきた地。

そのため、アメリカ先住民の多くがウラン採掘に駆り出され、被曝したという。彼らは現在も、その被害に苦しんでいるそうだ。(※4)

アフリカで干ばつが頻発

アフリカでは大規模な干ばつが頻発し、何千万人もの人が食糧不足などに苦しんできた。干ばつの主な原因は、地球温暖化による気候変動だ。だがアフリカで排出する温室効果ガス排出量は、世界の排出量のわずか2~3%ほどと少なく、多くは先進国で排出されている。(※5)

このように、先進国が主な原因で気候変動が引き起こされ、アフリカや東南アジアなどの発展途上国がその被害を受けているケースが多い。

原発事故が露わにした地域格差と差別

2011年3月11日に東北を襲った東日本大震災。原子力事故が起きた福島第一原子力発電所の周辺地域の人々は、避難生活や移住を余儀なくされる中、原発事故による風評被害にとどまらず、移住先でも避難者に対するいじめが相次ぐなど、被害を受けた。日本における地域格差が露わになった事例だ。

事故から10年以上たった現在でも、この地域では長期にわたり自宅に戻れない「帰還困難区域」が残っている。(※6)

世界における環境正義への取り組み

環境正義を取り上げ、取り組みを発表している国に、アメリカがある。同国では、環境正義に対応するため、1992年にアメリカ環境保護庁(EPA)に「環境正義室」が開設された。(※7)

さらに、ジョー・バイデン大統領は、大統領選挙中から「環境正義」への取り組みを公約として掲げており、これを受けてEPAは2021年4月、環境正義の推進に取り組むことを宣言している。

また近年では、2020年にアメリカで起きた「Black Lives Matter運動」が環境レイシズムにつながる問題としてあるだろう。これをきっかけに、黒人への暴力や人種差別の撤廃を訴える運動が世界中に広がった。

環境正義と真の平等へ

人種や地域によって、不均衡にもたらされる環境被害を是正しようという環境正義。平等への道のりは、人種差別や気候変動など世界的な問題に限らず、日本国内や私たちの周りを見ても向き合うべき課題が山積みだ。

膨らんだ環境問題の原点で何が起きているのか、私たちの生活は誰かの苦しみの上で成り立っていないのか、知る必要があるだろう。

参考
※1 Black and Hispanic Americans bear a disproportionate burden from air pollution | University of Washington
https://www.washington.edu/news/2019/03/11/disproportionate-burden-from-air-pollution/
※2 Linking Air Pollution To Higher Coronavirus Death Rates|Harvard University
https://projects.iq.harvard.edu/covid-pm
※3 Waiting to Die: Toxic Emissions and Disease Near the Louisiana Denka/DuPont Plant|University Network for Human Rights
https://www.humanrightsnetwork.org/waiting-to-die
※4 Native communities hit hard by mining legacy|The University of New Mexico
http://news.unm.edu/news/native-communities-hit-hard-by-mining-legacy
※5 United Nations Fact Sheet on Climate Change | 気候変動枠組条約(UNFCCC)
https://unfccc.int/files/press/backgrounders/application/pdf/factsheet_africa.pdf

※6 避難指示区域の状況|ふくしま復興ステーション
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/list271-840.html
※7 Environmental Justice Fact Sheet | EPA
https://www.epa.gov/fedfac/environmental-justice-fact-sheet

※掲載している情報は、2021年8月26日時点のものです。

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