「環境レイシズム」とは マイノリティにもたらす差別の現状と世界の事例

環境レイシズム

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「環境レイシズム」とは、環境問題が社会的・民族的マイノリティに対して不平等に被害をもたらしていることを指す。環境汚染や気候問題の被害は世界中で起こっているものの、被害の大きさは決して平等ではない。環境問題と人種差別の関係性や、環境レイシズムの実例などから問題を読みといていく。

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2021.08.26

環境レイシズムの意味と提唱された背景

「環境レイシズム(Environmental racism)」とは、社会的・民族的マイノリティ(少数派)が、環境汚染などが起きている場所の近くで生活することを強制する政策や慣行によって、彼らが不平等な健康的被害をもたらしている事態にあることを意味する。(※1)

環境レイシズムは、1982年、公民権運動を主導したアフリカ系アメリカ人、ベンジャミン・チャビスによって初めて提唱された。(※1)

環境レイシズムには、「環境正義」と深いつながりがある。「環境正義」とは、環境に関する法律や規制などにおいて、すべての人が公平に扱われることを意味する。(※2)人種や肌の色にかかわらず平等に安全な環境で暮らせるよう、環境正義を求める運動の中で、環境レイシズムという概念が生まれていった。

環境問題と人種差別の関係

環境レイシズム

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環境問題と人種差別はどちらも世界的に注目され、取り組むべき喫緊の課題である。しかし、二つの異なる問題が実は結びついており、事態をさらに悪化させていることは、日本ではあまり知られていない。白人と有色人種、先進国と発展途上国など、人種差別と同様に環境的格差が生じているのだ。

例えば、アメリカでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死亡率が環境汚染と関連があることがわかっている。特に有色人種が多く住む地域では環境汚染が進み、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡率が高い。(※3)

また、英医学誌「ランセット」で発表された内容によると、2015年に環境汚染が原因で死亡した人は世界で900万人以上。その約92%は、経済的に貧しい国々やインドなど急速な経済発展を遂げている国だ。(※4)

環境レイシズムの具体例

世界的な廃棄物の輸出

アメリカ、イギリス、オーストラリアなど先進国の多くは、埋め立て廃棄物を海外に輸出。廃プラスチックなどは中国が受け入れ先の中心だったが、2017年に輸入を禁止して以降、東南アジアで廃プラスチックや有害廃棄物が送られるようになり、現地住民に健康被害をもたらしている。

その後、中国に続いてマレーシア、インドネシア、ベトナムなどのアジア各国で、廃プラスチックの輸入規制を導入している。日本もまた、プラスチックなどの廃棄物を輸出している先進国のひとつである。(※5)

ガン罹患率は50倍 米黒人居住地域の「ガン通り」

環境レイシズム, 化学工場

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通称「キャンサー・アレー(がん通り)」と呼ばれる、アメリカ・ルイジアナ州南東部のセントジョンザバプテスト。ミシシッピ川沿いのおよそ137kmに及ぶこの地域は、古くから黒人居住地区であり、150以上の化学工場や石油精製所がある。

この地域では、発がんの可能性が高いとされるクロロプレンの排出のため、地域住民がガンにかかる割合は、アメリカ人の平均より50倍高いという。(※6)

アメリカ先住民居留地で放射線物質を採掘

1830年に制定された「インディアン移住法」によって強制移住を強いられたアメリカ先住民。その保留地域では、核兵器の材料になるウラン鉱山が発見され、アメリカ先住民の多くがウラン採掘に駆り出されてきた。彼らは、いまもなお被曝による被害に苦しめられているという。(※7)

気候危機の被害を受けるグローバル・サウス

世界で排出される二酸化炭素の多くは富裕国が原因とされている。一方でアフリカの温室効果ガス排出量は、世界の排出量のわずか2~3%ほどだ。(※8)

しかし、大気汚染や気候変動の被害に襲われるのは、アフリカや東南アジアなどの発展途上国である。気候問題が叫ばれる中、アフリカでは深刻な干ばつがたびたび発生し、何千万人もの人が食糧不足に苦しんできた。

先進国の大量生産・大量消費が生んだ「ラナ・プラザの悲劇」

環境レイシズム

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ファッションの大量生産大量消費を支えてきた、バングラデシュやインド、カンボジアなどの縫製工場。低賃金で劣悪な労働環境の中、バングラデシュで2013年4月、複数の縫製工場が入った複合ビルが崩落する「ラナ・プラザの悲劇」が起こる。死者1,100人以上、負傷者2,500人以上が出る大惨事となった。

近年の動きと現状

環境レイシズムの問題が訴えられるようになってから、世界では是正に向けた取り組みが一部見られる。事例の一つとして、1989年に採択された、非OECD諸国への危険廃棄物の輸出の規制する「バーゼル条約」が挙げられる。

1995年には工業国から他の国へのすべての有害廃棄物輸出を禁止するよう改正され、2021年には汚れた廃プラスチックの輸出入が規制対象となった。

また、アメリカでは以前から環境レイシズムが問題視されてており、環境正義を訴えるさまざまなデモが行われている。しかし、環境運動の主導権を握るのは先進国や白人が中心で、環境問題においていまだマイノリティが被害を受けている現状がある。

「環境レイシズム」に向き合い、差別を終わらせるために

環境正義

Photo by mohammad samir on Unsplash

社会的・民族的マイノリティの多くが、気候危機や環境汚染による影響を不均衡に受け、いま現在も、彼らから安心安全な生活が奪われてきている。

残念ながら、温室効果ガスを排出し廃プラスチックが大量に出ている日本も、このことに無関係ではない。私たちの便利な生活の裏側で、このような環境レイシズムが起きていることに、いま一度目を向けていくべきではないだろうか。

参考
※1 What is environmental racism?|WEF
https://www.weforum.org/agenda/2020/07/what-is-environmental-racism-pollution-covid-systemic/
※2 Learn About Environmental Justice | EPA
https://www.epa.gov/environmentaljustice/learn-about-environmental-justice
※3 Linking Air Pollution To Higher Coronavirus Death Rates|Harvard University
https://projects.iq.harvard.edu/covid-pm
※4 The Lancet Commission on pollution and health | The Lancet
https://www.thelancet.com/commissions/pollution-and-health
※5 東南アジア諸国が廃プラスチック輸入規制を強化、日本の輸出量は減少 | JETRO
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/32168afb4b8f0bfe.html

※6 Waiting to Die: Toxic Emissions and Disease Near the Louisiana Denka/DuPont Plant|University Network for Human Rights
https://www.humanrightsnetwork.org/waiting-to-die
※7 Native communities hit hard by mining legacy|The University of New Mexico
http://news.unm.edu/news/native-communities-hit-hard-by-mining-legacy
※8 United Nations Fact Sheet on Climate Change | 気候変動枠組条約(UNFCCC)
https://unfccc.int/files/press/backgrounders/application/pdf/factsheet_africa.pdf

※掲載している情報は、2021年8月26日時点のものです。

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