Photo by SDGs SDGsコンパス 企業 取り組み 社会課題
「SDGsコンパス」とは、企業がSDGsを取り入れた経営をする際の行動指針のこと。まずやるべき5つのステップをわかりやすく解説するとともに、企業がSDGsに取り組むそもそものメリット、5つの企業の取り組み事例を紹介する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
SDGコンパスとは、企業がSDGsを取り入れた経営を進めていくための行動指針のこと。各企業の事業にSDGsがもたらす影響を解説しつつ、企業がSDGsをどのように活用するべきか、そしてその貢献を測定・管理する方法について、ツールと知識を提供するものだ。
正式名称は「SDG Compass -SDGsの企業行動指針-」で、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)の3組織によって開発された。
企業がSDGsに最大限貢献できるよう、取り組むべき手順として以下の5つのステップを提示している。
ステップ1:SDGsを理解する
ステップ2:優先課題を決定する
ステップ3:目標を設定する
ステップ4:経営へ統合する
ステップ5:報告とコミュニケーションを行う
ステップの2~5は繰り返し行われてることが望ましく、それによってさまざまな問題を解決へ導くことができると考えられている。
Photo by Andrew Neel on Unsplash
では、そもそも企業がSDGsに取り組むことで得られるメリットには、どのようなものがあるのだろうか。
企業が資源を効率的に利用し、環境負荷を低減するなど、SDGsに積極的に取り組むことで企業のイメージが向上し、ステークホルダーからの評価が高まる。これにより、企業や製品・サービスに対する信用や支持を獲得しやすくなる。その結果、売り上げや資金調達、取引先の確保など、さまざまな利益を得ることが可能になる。
SDGsに取り組むことによって、自社が投資対象として注目されるというメリットもある。責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)が提唱されてから、環境・社会・ガバナンスの持続可能性を重視するESG投資が世界的に広がっている。SDGsに取り組む企業に積極的に投資する投資家が増えているため、SDGsへの取り組みは企業にとって新たなビジネスの機会を創り出すきっかけになる。
社会課題に取り組む企業は好印象を持たれるため、優秀な人材が集まりやすく、採用活動で優秀な人材を獲得しやすくなる。また、従業員にとっても、社会課題や環境課題に貢献している企業で働いているという認識は、やりがいやモチベーションの向上につながる。
Photo by Cathryn Lavery on Unsplash
先述したSDGコンパスにおける5つのステップについて、順を追って一つずつ解説する。
企業のトップや担当者は、SDGsの17の目標と169のターゲットについてはもちろん、策定された経緯も含め、まずはSDGsについての理解を深めることが重要だ。そうすることで、企業がSDGsに取り組むことの重要性や、どのようにすればSDGsを有利に活用できるかが見えてくるだろう。
SDGsにはさまざまな社会課題が含まれている。そのため、自社はどの課題に焦点を当て、どれに取り組むか、その優先課題を決めることが重要だ。
優先課題は、以下の3つの大まかな項目に沿って決定される。
①バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する
②指標を選択し、データを収集する
③優先課題を決定する
自社のサプライチェーンやバリューチェーン全体でSDGsに関する現在と将来の社会的・環境的影響を考慮し、とくに影響が大きいと考えられる領域を特定し、それに基づいて優先的に取り組むべき課題を決定する。これにより、企業は取り組むべき重要な課題を明確にし、取り組みの重点化を図ることができる。
ステップ2で優先課題を決定したら、それらに対して具体的かつ測定可能な目標を設定し、期限を区切った計測できるKPI(主要業績評価指標)を選択する。そして、各目標についてベースラインを設定し、目標が「絶対目標」(KPIのみを考慮)か「相対目標」(原単位目標、KPIを産出の単位と比較する)かを明確にする。
次に、目標に対する意欲度を設定する。これは、目標達成までの時間などに大きく影響を与えるため、意欲的な目標設定をすることが重要だ。そして、これらSDGsに関する目標の一部、またはすべてを公表する。これは効果的な情報発信の手段となり、従業員や取引先のモチベーションが上がるほか、外部のステークホルダーに対するアピールにもなる。
そして、SDGsを経営に統合する段階に入る。ステップ3までに定めた持続可能な目標を企業に定着させるためには、CEOや経営幹部のリーダーシップが重要となるため、SDGsに事業として取り組む根拠やメリットを明確に伝え、全社員の理解と協力を得る必要がある。専門チームをはじめ、事業部、人事部などの各部門の取り組みが重要だ。また、持続可能性の課題は企業単体では難しいため、社内だけでなく社外とのパートナーシップに取り組むことも推奨されている。
近年では、社会問題に対する姿勢が投資先としての魅力を高めるポイントにもなっており、企業の持続可能性に関する情報開示が急速に増加している。そのため、SDGsへの取り組みの進捗状況や達成度について定期的に報告し、コミュニケーションをとることは、ステークホルダーとの関係性を強くするだけでなく、企業の価値向上につながる。
SDGsコンパスで報告が求められている情報には、次のようなものがある。
・優先課題が設定された理由と経緯
・優先されたSDGsの課題に対する目標と進捗
・目標達成のための戦略と実践状況
SDGsへの取り組みを積極的に外部へ発信することで、新たなビジネスチャンスやパートナーシップを生み出す可能性が広がるだろう。
Photo by Annie Spratt on Unsplash
実際にSDGsに取り組んでいる企業が、SDGsコンパスで示されている目標設定や報告書の作成をどのように実践しているのか、その事例を紹介する。
イギリス・ロンドンに拠点を置く「ユニリーバ」は、ビジネスの成長とサステナビリティの両立に積極的に取り組んでいる。2010年には、環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させることを目指す事業戦略「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入し、「10億人以上のすこやかな暮らしを支援」「製品の製造・使用から生じる環境負荷を半減」「数百万人の暮らしの向上を支援」という3つの分野で、9つのコミットメントと50以上の数値目標を設けた。
10年間の取り組みを通じて、消費者の製品使用1回あたりの廃棄物量を32%削減、世界中のすべての工場で埋め立て廃棄物ゼロを達成、自社工場からの温室効果ガスの排出量を50%削減、女性管理職比率が51%を達成など、8割以上の取り組みで目標を達成した。
国内外の通信事業を展開する「NTTコミュニケーションズ」は、「2030カーボンニュートラル宣言」をし、実現に向けた取り組み「カボニュー」を進めている。また、「NTT Communications Corporation Sustainability Report 2023」では、サステナビリティ推進に向けた基本方針や重点活動項目・KPI・目標の設定プロセスを開示し、コーポレート・ガバナンス体制を明示している。
さらに、企業としてサステナビリティ活動を総合的かつ戦略的に推進・管理するため、「サステナビリティ推進委員会」を設置し、グループ全体でサステナビリティを推進している。そして、2024年には、超省エネかつ高発熱対応の次世代型グリーンデータセンター「Green Nexcenter」を新設する計画も具体的に明示している。
証券業を中核とする投資・金融サービス業を行う「大和証券グループ」は、2030年までに企業の温室効果ガス排出量をネットゼロにすることや、2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロにすることを目指す「大和証券グループカーボンニュートラル宣言」を策定している。
さらに、「サステナビリティレポート2023」を公開し、2030年までに女性取締役比率30%以上、2025年度に女性管理職比率25%以上にするなどのサステナビリティに関するKPIを設定しているほか、サステナビリティ責任者やサステナビリティ推進委員会を設置し、KPIのモニタリングや進捗状況の把握を行っている。
日本の電機メーカーである「富士通株式会社」は、2025年度のGRB(グローバルレスポンシブルビジネス)の目標を明示している。人権や環境、ウェルビーイング、サプライチェーンなどいくつかの項目ごとに目標を掲げており、具体的にはリーダーシップレベルの女性比率を20%に向上、カーボンニュートラルの実現など事業活動に伴うリスクの回避と環境負荷の最小化などを掲げている。
「日本航空株式会社(JAL)」は、SDGsの17目標すべてに取り組んでいる。具体的には、JAL D&Iラボによるジェンダー平等の推進や乳がんキャンペーンの実施、2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指す宣言、長年にわたるユニセフへの支援などがあげられる。さらに、客室で提供される料理に使用されていた石油由来のプラスチックの全廃や、サービス用品には森林資源に配慮された国際的な認証を受けたものを採用するなど、各分野での具体的な取り組みを積極的に推進している。
先述したように、企業がSDGsに取り組むことは、企業価値の向上やESG投資の対象になるなど、さまざまなメリットをもたらす。企業がSDGsへの取り組みを経営に組み込む際には、まずはSDGsコンパスの5つのステップを順に実践していくのがいいだろう。より効果的にSDGsを事業活動と結びつけることができる。
参考:
・SDGsの企業行動指針|SDGs Compassとは何か(P.4-28)
・SDGs COMPASS|SDGコンパスとは?SDGs導入の5つのステップをやさしく解説
・ユニリーバ|持続可能性
・SDGsを企業の成長戦略に据え、サステナビリティの実現に取り組むユニリーバ 企業のSDGs取り組み事例Vol.12
・大和証券グループ|環境マネジメント
・大和証券グループ本社 サステナビリティレポート2023(P.5-9)
・NTTコミュニケーションズ|サステナビリティレポート(P.7-33)
・富士通|2025年度 GRB(グローバルレスポンシブルビジネス)の目標
・JAL|SDGs達成に向けた取り組み
ELEMINIST Recommends