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価値協創ガイダンスとは、持続可能な事業を創造するための、企業と投資家とのコミュニケーションを促進するためのガイダンスだ。この記事では価値協創ガイダンスが持つ意義やメリット、活用できる具体的なシーンや方法に焦点を当て、どのように役立つかを紹介する。
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価値協創ガイダンスとは、企業と投資家が互いに理解を深め、持続的な価値を協創する行動をとることを促すために経済産業省が作成したガイドライン(手引き) のこと。企業側が投資家側に伝えるべき情報(投資に必要な情報、経営理念やビジネスモデル、経営戦略やガバナンスなど)を整理し、投資家にわかりやすく伝えること(質の高い情報開示)と、投資家とよりよいコミュニケーションを図ること(質の高い対話)が目指されている。
2017年に経済産業省から公表された概念で、企業と投資家の"共通言語"となる指針として策定された。2022年に改訂され、最新のものは「価値協創ガイダンス2.0」と呼ばれている。
価値協創ガイダンスは、企業がSX(サステナビリティトランスフォーメーション)を実現するため、自社の価値創造に至るまでのストーリー(価値創造ストーリー)を投資家に伝えるための手引きとして使用されている。
具体的には、企業が自らの経営理念やビジネスモデル、戦略などを統合報告書として整理することで、投資家に企業価値を明確に伝えることに役立てられている。企業のガバナンスやサステナビリティに関するビジョンを示すことで、昨今機運の高まっているESG(Environmental, Social, Governance)投資にも対応し、持続可能な価値創造やイノベーションの実現を目指す。
統合報告書とは、企業が財務情報に加え、企業の社会的責任(CSR)などの非財務情報を統合してまとめたレポートだ。自社の全体像を株主や投資家だけでなく、取引先、金融機関、従業員などすべてのステークホルダーに対して説明するための文書でもある。統合報告書は、上場企業においては企業のウェブサイトで一般に公開されている。
価値創造ストーリーとは、企業が自身の資本を事業活動に投入し、環境や社会、ステークホルダーにどのような価値を提供していくのかという価値創造プロセスを、ストーリー形式で説明するものである。
価値創造プロセスとは、資本の流れを示すフレームワークのことで、企業の事業活動がどのような流れで、どのような価値を生み出すかを明確に示している。価値創造プロセスを有機的にしたものが価値創造ストーリーだ。
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最初の価値協創ガイダンスの策定は、2017年に行われた。その背景には、2014年に経済産業省が公表した「伊藤レポート」がある。このレポートでは企業の競争力向上や持続的な価値創造の必要性が論じられており、日本企業が抱える低収益性や株価の低迷という課題を解決し、企業価値を向上させるための取り組みの必要性が議論された。
続いて2016年に設立された「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」では、企業価値向上のために有形から無形資産への投資のシフトやESG投資の重要性が議論された。こうした中で、企業と投資家の対話を通じて行われる価値協創の重要性が見直され、2017年に「価値協創ガイダンス1.0」が策定されたという経緯がある。
2020年には「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ」が公表され、企業が外部環境の変化に対応しながらも長期的かつ持続的に企業価値を向上させる概念である「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」が示された。2022年には「伊藤レポート 3.0(SX版伊藤レポート)」が公表され、「価値協創ガイダンス2.0」に改訂されたことで実践的にSXに取り組む段階に入ったのである。
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価値協創ガイダンスの中で挙げられているフレームワーク(ガイダンスを読んだ企業が共通して利用できる、型・思考の枠組み)は、企業と投資家の間での価値創造に関する対話や実践を支援するためのものだ。ここでは、価値協創ガイダンスにおける重要なフレームワークについて紹介する。
価値観は企業理念や経営理念が基盤となっており、組織全体の行動や意思決定に影響を与える。また価値協創ガイダンスでは、企業の価値観が価値創造にどのように関連しているかを示す必要がある。
企業の長期的な成長や持続可能性を確保するための、戦略的方針や計画だ。企業が将来の成長や価値創造、災害などのリスクを踏まえた計画を明確にし、変化に対応する指針が定められる。
企業が設定した戦略や中期的な目標を達成するための、具体的なアクションプランである。目の前の課題に対してどのように貢献するのか、価値を生み出すのかを明確にし、実行に向けた具体的な取り組みを投資家と共有することを強調する。
企業の実行計画の達成度を評価するための指標だ。成果指標を設定し、投入された資本と創出した価値のパフォーマンスに対してどのように評価するかを明確化する。
価値協創ガイダンスにおけるガバナンスは、企業組織の意思決定の仕組みや管理体制、投資家への利益の分配をさす。企業は良好なガバナンスを設けることで、投資家との信頼関係を構築する。
フレームワーク全体を通して企業と投資家がどのように関わるか取り決め、各フレームワークにおいて透明性を持たせるために行われる。価値協創ガイダンスにおいては、企業と投資家の持続的な関係構築がとくに重視されている。
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価値協創ガイダンスにおける、企業と投資家それぞれの具体的なメリットについて解説する。
価値協創ガイダンスが企業に求める役割は、SXの実現だ。企業はステークホルダーの課題を解決することで収益を得て、利益の分配と再投資を行いながら企業価値を持続的に向上させる。その過程において、ガイダンスに従い価値創造ストーリーを練り、投資家との対話を行う。
また一旦つくり上げた価値創造ストーリーを固定化させるのではなく、外部環境の変化や対話で得られた示唆に応じて変化していくことで持続可能な価値創出を目指す。
自社の経営のあり方を整理し、経営の効率化や強化を実行するためのマネジメントツールとして価値協創ガイダンスを活用する。価値創造プロセスを明確化し、自社のビジネスモデルや戦略に重要な要素を選択して活用することが求められる。
自社の経営のあり方やマーケットでの立場を明らかにし、経営戦略や企業の持続可能性を高める手段として活用できる。また投資家とのコミュニケーションの質を向上させることで投資家との信頼関係を築け、成長的な事業を展開できる。
投資家は企業独自の価値創造ストーリーを評価・分析し、中長期的な視点で持続可能性や価値創造能力を重視し投資の指標とする。また価値協創ガイダンスを活用して情報開示や対話の質を向上させることで、各プレーヤーが社会が抱える課題に対して向き合うことも期待されている役割だ。
投資家は価値協創ガイダンスを参照して、企業との情報と自己の認識のギャップを埋めるための手段とする。また機関投資家はスチュワードシップ活動を行う際に価値協創ガイダンスを活用し、投資先企業の状況把握や対話・エンゲージメントを実施する。
企業とのコミュニケーションを通じて、投資判断に必要な情報を把握できる。そのほかにも機関投資家がスチュワードシップ活動を行う際に、投資先企業の状況把握やエンゲージメントを実施するための枠組みとして活用できる。
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価値協創ガイダンスはSX実現のため、企業の情報開示や投資家との対話の質を向上させる「共通言語」としての役割を果たすために策定された。提示されるガイダンスをベースに、企業のビジネスモデルや投資家の評価実態を把握し、内容や活用方法の改善を継続的に行うことが求められる。
また価値協創ガイダンスは中長期的な価値創造ストーリーの理解を深めるための枠組みであることから、個々の用語の表記にとらわれることなく、対話を深めることが本質的に求められている。
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