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ESG経営とは、環境・社会・ガバナンスのエレメントをコアとした経営のことで、投資家からの企業評価につながる性質を持っている。昨今のグローバルスタンダードとして浸透しつつあるESG経営の特徴や現状の課題、取り組み事例について詳しく解説する。
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ESGとは環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)の3つのエレメントで構成される概念である。それぞれの頭文字を取り「ESG」と表記される。ESGを取り入れた経営方法をESG経営と呼ぶ。
ESGの概念は2006年に周知され、時の国連事務総長コフィー・アナン氏は、機関投資家へ向けて責任投資原則(PRI・Principles for Responsible Investment)を提唱した。(※1)
PRIは従来の各種財務情報にくわえ、ESGエレメントを投資の意志決定に活用する行動原則である。これにより投資家や株主は企業の財務情報だけではなく、ESGエレメントへのアクションや達成率も投資プロセスの重要な項目としてとらえるようになった。
企業の評価に深くかかわることになったPRIの流れを受け、各企業はコーポレートガバナンスにESGを取り入れた経営姿勢を意識するようになる。環境問題や労働環境の課題を解決するため、ESG経営に舵を切り、数々の取り組みを始める企業が続出することになった。
グローバルな視点で見ると、2018年のESG投資残高は30兆ドルにおよんだ。2014年から比較すると70%もの成長を見せており、投資家や株主の強い関心を示す結果だと言えるだろう。日本では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資に積極的な姿勢を取っている。(※2)
ESGはSDGsとよく似ている印象がある。どちらも国連の提唱によってグローバルスタンダードになった点、環境や社会に存在する課題への取り組みが重視される点など、たしかに類似性が高いことは否めない。
ESGとSDGsの大きな違いはふたつだ。ひとつは取り組みの主体となる組織である。ESGは企業、投資家、株主が主体となって取り組む概念とされている。いっぽう、SDGsは人類全体が主体となって課題を共有し、解決にむかって取り組む行動である。
ふたつめの違いは「目標」と「手段」の差だ。SDGsは持続可能な「目標」として設定された指針であり、ESGはSDGsの目標を達成するために提唱された「手段」として分類できる。つまりSDGsは目標、ESGはその手段だと言える。
違いがあるとはいえ、ESGはSDGsと非常に親和性が高い。どちらも持続可能な社会の形成のため、推進され続けられるべき存在だとわかる。
いまやESG経営はグローバルスタンダードになりつつある。各企業の積極的なESG経営への取り組みは、人類全体が目指すSDGsのゴールにたどり着くための大きな一助になるだろう。
2006年のコフィー・アナン氏によるPRIの提唱は、ESGが注目されるきっかけになった。前述のとおり、いまではグローバルスタンダードとも言えるほど浸透しつつある。
無論、当時の国連事務総長が提唱したということだけが注目の理由ではない。利益追求の裏にある諸問題を企業が認識し始めたのだ。
当時、環境問題や労働問題が深刻になりつつあった。環境汚染や労働環境への意識の低さが大きな問題になり、企業としての成長に悪影響が出るという懸念が表面化したのである。同時に、資本主義の影響で起こり得る経済格差や資源の浪費、自然破壊にも注目が集まった。
企業の成長のために環境、社会、ガバナンスを人類にとって不適切なものにするべきではない。その意識の広まりがESGに大きな注目を集め、各企業が本格的な取り組みをスタートさせたと言えるだろう。
ESGを意識した経営は「ESG経営」と呼ばれる。近年、世界各国の企業はESG経営に熱をいれるようになった。ESG経営はSDGsのゴールの一助になる事実を横に置いても、じつは企業の成長にとって非常に重要な意味を持っている点も抑えておきたい。
もっとも大きなポイントは前述した投資領域の拡大だ。大きな成長を遂げ、投資家が見逃す理由がない。投資家の目に留まり、高い評価を得られるよう、企業はESG経営に大きな意味を見出している。
また、ESG経営は顧客や従業員、取引先などにも影響をおよぼす。ESGに力を入れるのは環境問題や労働問題への意識が高いというアピールになる。
このアピールは、ESGやSDGsに関心を持つ層を新たな顧客として獲得できる可能性が高まるだろう。また、従業員は労働問題の解決をはかる企業に勤めているという安心感を持ち、その一端を担う人材として誇りを持つようになる。さらに、整えられた労働環境での業務は効率化が期待できる。
企業にとって、ESG経営はメリットをもたらす。なかでも次の3つは大きなメリットを実感させてくれるだろう。
ESG経営の本格的な取り組みを行うことで、自然環境への配慮や理想的な労働環境の構築が進んでいく。いわば健全性と透明性にすぐれた経営状態が生まれやすくなる。これは企業にとって大きなブランディング効果を生むだろう。
ESG経営は高いリスクマネジメントが求められる。労働環境の課題、社会問題(自然環境)への対応は、管理・統治を意味するガバナンスを強く意識する必要性がある。ESGを意識することにより、おのずとリスクマネジメント能力が高まるだろう。
ESG経営は新たな顧客開拓が期待できる。場合によっては新たなビジネスチャンスの創出も可能だ。言うまでもなく新たなビジネスチャンスは企業が歓迎するフェーズであり、投資家のさらなる関心を集め、結果としてキャッシュフローの改善の可能性を高める。
ESG経営では7種類のエレメントが重要とされている。いずれも投資家をはじめとしたステークホルダーの判断基準になるため、企業にとって気を抜けないエレメントだ。
1:ネガティブスクリーニング
ESG経営にあてはまらない企業を前もって排除するスクリーニング。アルコール、煙草、ギャンブル、武器の製造・販売をする企業が該当する。これらは投資家から「罪ある株」と呼ばれることも。
2:国際規範スクリーニング
環境破壊や人権侵害に対し、国連グローバル・コンパクト(UNGC)や国際労働機関(ILO)が提唱する国際規範の基準に達していない企業を排除するスクリーニング。
3:ポジティブスクリーニング
ESGへの取り組み評価が高い企業を抽出するスクリーニング。ESG評価機関が公表する「ESG格付け」が情報源として取り扱われることが多い。
4:サスティナビリティ・テーマ投資
持続可能性に重点を置いた投資手法。再生可能エネルギーや太陽光発電への投資、国家や自治体によるグリーンポンド投資も該当する。
5:インパクト・コミュニティ投資
地域活性化に重点を置いた投資手法。低所得者や中小企業は金融機関からの融資が受けにくいが、インパクト・コミュニティ投資によって支援・融資をおこなうことによって、地域活性化や貧困問題の解決に繋げられる。
6:ESGインテグレーション
財務情報をもとにした従来の投資判断にESGのエレメントをくわえ、企業を総合的に評価する方法。ESGの重要性がグローバリズムとして認知される昨今、投資先を決定する大きな項目として注目されている。
7:エンゲージメント
企業、株主、投資家の対話を指す。株主提案も含まれる。建設的な対話により、企業の成長やブランディングを高めるねらいがある。
ESG経営には課題もある。とくに以下の2つについては多くの企業が意識している傾向だ。
ESG経営は短期的な取り組みでは効果がわかりにくい。SDGsと同じく、数年単位での長期的な取り組みが必要になる。
しかし、初期費用の回収が長期におよんだ場合、資金力が心もとない企業は資金ショートを起こしかねない。取り組みそのものは長期になるとしても、資金回収面においては短期的な計画が望ましい。
ESG経営を評価するESG評価機関は、機関数が複数におよぶ上に、じつは統一された評価基準や規格が設けられていないのが実情だ。
透明性があるとは言い難く、評価される側である企業は方向性に迷う可能性がある。高い評価を獲得するためには「評価されやすい取り組み」に重点を置く必要があるだろう。
なお2022年2月、日本の金融庁は「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」において、ESG評価機関に対して評価の透明性の確保を求めたいとの意向を示している。(※3)
ESG経営は日本企業でも積極的に取り入れられている。いくつかの事例を紹介する。
三菱ケミカルホールディングスは、2015年に国連がSDGsを採択する以前からESG経営に強い関心を持ち、着手していた。自然環境・社会環境の持続的発展を意識した製品のリリースや再生可能エネルギーの積極的な利用、そのほか多くの分野で独自の基準を設けた上で実行し、世界の投資家から高い評価を得ている。
エーザイ株式会社は、開発途上国・新興国における医薬品へのアクセス環境を向上させ、世界中から注目を集めた。「アフォーダブル・プライス(患者が購入できる価格)」として国や疾病に応じた価格設定をおこない、継続的な医薬品の提供へ取り組み続けている。
また、疾病や治療に対する認知を高めるため、開発途上国・新興国の公的機関と連携を取り、医療の必要性について啓発活動にも力を入れている。(※4)
JR東日本は数多くの取り組みをおこなっている。なかでも注目したいのが「ゼロカーボン・チャレンジ2050」だ。2020年にスタートしたこの取り組みは、2050年にゼロカーボンを実現するという大きな目標を掲げている。(※5)
ゼロカーボンはSDGsにおいて重要なエレメントとされており、二酸化炭素を排出する機会が多い企業にとっては悩みの種のひとつだろう。大規模な鉄道会社であるJR東日本がトライする事例は、日本のみならず、脱炭素社会を目指す世界でも強く意識されることを期待したい。
投資判断基準になるESG経営は、経済面のみならず、SDGsのゴールへ導く大きなファクターである。初期投資の回収期間や評価機関の規格の不統一性などの課題はあるが、グローバルな問題を解決するための重要な手段であることは間違いない。
人類全体がよりいい未来へと歩めるよう、世界規模でESG経営へのさらなる取り組みが望まれる。
※1 About the PRI|PRI
※2 ESG投資を巡る課題(34ページ目)|財務省
※3 「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」(第1回):議事録|金融庁
※4 新興国・開発途上国での事業展開|エーザイ株式会社
※5 JR東日本グループ「ゼロカーボン・チャレンジ2050」|JR東日本
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