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インパクト投資とは経済的リターンと社会的リターンを両立した投資のこと。ESG投資と共通の基盤を持ち、社会課題への貢献を意図する投資手法である。インパクト投資とはどのような投資なのか、構成要素やESG投資との違い、現状の市場について解説する。
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インパクト投資とは、経済的リターンと社会的リターンを両立させることを意図した投資のこと。経済的リターンとは、金銭的に得られるリターン。社会的リターンとは、社会的な課題や環境問題などを解決することを指す。
従来の投資では経済的リターンが求められたが、インパクト投資では経済的リターンと並行して、環境や貧困、福祉、教育など社会課題への貢献(インパクト)が求められる。
従来、投資の価値は「リスク」と「リターン」の2軸で判断されていたが、インパクト投資ではこれらの軸に加えて「インパクト」が取り入れられる点が特徴。よって、インパクト投資は「リスク」「リターン」「インパクト」の三次元で評価される。
・インパクト
事業や活動の結果として生じた、社会的、環境的な変化や効果(短期・長期は問わない)
・社会的インパクト評価
社会的インパクトを定量的・定性的に把握し、事業や活動に価値判断を加えること
・インパクト投資
社会や環境の課題解決を図りながら、経済的な利益の両立を目指す投資のこと
社会課題への貢献が求められる「インパクト投資」。近ごろ注目を集めている概念だが、具体的にどのような投資なのだろうか。ここではインパクト投資を構成する4つの要素を解説する。
インパクト投資の構成要素の1つに、「意図があること」が挙げられる。ここでの「意図」とは、「社会課題への貢献・解決を意図するものであること」の意味。インパクト投資では経済的リターンだけでなく社会的リターンも求められるため、社会課題への貢献・解決を意図した投資でなければならない。
インパクト投資は、社会的リターンと経済的(財務的)リターンの両方が必要である。経済的(財務的)リターンが求められるという点において、経済的(財務的)リターンを目的としない寄付や補助、助成などと異なる。
またインパクト投資では、経済的(財務的)リターンの基準が定められているわけではない。一般的なマーケットレートを上回る場合や同程度の場合、下回る場合などさまざまなケースが考えられる。
アセットクラスとは、投資対象の資産の種類・分類のこと。国内株式、国内債券、外国株式、外国債券、融資、REITなどがある。インパクト投資においても、多様なアセットクラスが対象とされる。
インパクト投資では、社会的成果を定量的・定性的に評価し、把握する必要がある。投資活動において、投資先の事業がどのような社会的成果を生んだかが指標となるため、社会に与える実際の影響度が重要となる。
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インパクト投資では社会課題への貢献を意図するため、ESG投資と共通する部分も多い。ここではESG投資とインパクト投資の違いを見ていこう。
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)の頭文字をとった投資手法のこと。具体的にそれぞれ、以下のようなことを指す。
・環境(Environment):二酸化炭素排出量の削減、再生エネルギーの使用等
・社会(Social):職場環境における人権対応や地域貢献活動
・統治(Governance):法令順守や情報開示
いずれも、企業を中長期的に発展させるために欠かせない視点とされている。
ESG投資は、2006年に発表された「責任投資原則(PRI)」によって注目を集めるようになった。当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が投資の新たな観点としてESGを紹介したことで、ESG経営・ESG投資に関する取り組みが増加し始めた。
ESG投資とインパクト投資は社会課題への貢献を目的としており、共通する部分も多い。しかし一般的に、ESG投資ではESGを投資や経営の意思決定に反映することが多いのに対して、インパクト投資では社会的リターンの最大化が求められる。さらに、社会的リターンは定性的・定量的に評価し、把握されるという特徴を持つ。つまり、インパクト投資は投資の結果であるインパクト評価をより重視することが、ESG投資との違いだ。
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昨今、注目を集めている「インパクト投資」。インパクト投資の市場は拡大しつつある。ここでは世界と日本におけるインパクト投資の現状を解説する。
GSG国内諮問委員会の「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」によると、2019年、世界のインパクト投資の市場規模が推計5,020億ドルに達した(※1)。国際機関においてもインパクト投資に関する取り組みが広がっており、2021年にはG7議長国である英国政府の支援を受けて、インパクト・タスクフォースが設立されている。
日本でも、インパクト投資の市場規模や実例が発展している。インパクト投資の推進を含む報告書が提出されるほか、検討会の設置、G20大阪サミットでは首脳宣言でインパクト投資を推進することが言及されるなど、さまざまな動きが見られる。
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世界や日本におけるインパクト投資市場が成長しつつあるが、インパクト投資の拡大にはどのような背景があるのだろうか。
国連で2015年9月に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、国や企業、一般消費者がさまざまな取り組みをおこなっている。
企業がSDGsの取り組みをおこなうことは社会的責任を果たしていると考えられ、新たなビジネスチャンスにつながったり、一般消費者からのイメージ向上につながったりと、多様なメリットがある。一方で、SDGsを考慮しない企業活動や実態が伴っていない取り組みは、一般消費者からの信頼を損ねる可能性がある。つまりSDGsの取り組みは、インパクト投資と共通する部分が大きい。
2019年末にオーストラリアで発生した森林火災など、気候変動による災害の増加を感じている人も多いのではないだろうか。温暖化や森林破壊、異常気象など気候変動による災害が増加するなかで、このような災害が企業活動に与える影響も少なくない。そのため、企業が社会課題に貢献し気候変動へ対応することは、事業の発展を推進することにつながる。
前項のSDGsや気候変動への関心の高まりにより、ESG投資の市場規模が成長していることも事実としてある。ESG投資の市場規模は2018年時点で30兆7,000億ドルに達しており、社会的側面を持った金融分野に注目が集まっている。(※2)
GSG国内諮問委員会は、インパクト投資の発展に必要な取り組みとして以下の8つを挙げている。
<インパクト投資の発展に向けた8つの取り組み>
・投資に対するリテラシーの向上
・金融商品や資金供給チャネルの充実
・投資家への情報提供の充実・投資家の行動変容の促進
・事業者の成長の機会づくりとそれを支える組織・機関の充実
・社会的インパクト評価手法の確立・普及
・インパクト投資の概念的整理の充実、クオリティの維持
・社会実装と普及に向けた枠組みづくり
・多様な担い手の繋がりの強化とコミュニティ形成の促進
インパクト投資の更なる拡大に向けて、ステークホルダー側はインパクト投資を含め、投資に関するリテラシーの向上などが求められる。一方事業者側は、金融商品の増加、投資家への情報提供の充実、社会的インパクト評価手法の確立など、さまざまな取り組みをおこなう必要がある。
経済的リターンを受けつつ社会問題にも貢献できる「インパクト投資」。ESG投資と基盤を同じくする部分もあるが、インパクトという新しい軸で注目を集めている。経済的リターンと社会的リターンを合わせ持つインパクト投資によって、持続可能な社会の実現に向けて大きく前進するかもしれない。
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