「2050年カーボンニュートラル」とは? 日本や世界の現状、取り組みをわかりやすく解説

自然のなかの風力発電設備

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地球温暖化を食い止めるために、世界一丸となり取り組んでいる「2050年カーボンニュートラル」。日本でも目標達成に向けて、さまざまな取り組みが行われている。本記事では、「2050年カーボンニュートラル」に向けた世界各国の動向や、温室効果ガス排出の現状についてわかりやすく解説する。

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2024.06.19

「2050年カーボンニュートラル」とは

豊かな森林

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「2050年カーボンニュートラル」とは、言葉の通り、2050年までにカーボンニュートラルを実現しようとする動き。日本では、菅元首相が2020年10月の所信表明演説のなかで、2050年までにカーボンニュートラルを実現する旨を宣言した。

地球温暖化が深刻ないま、世界各国が気候危機にストップをかけるべく、対策を推進している。その対策のひとつとして重要視されているのが、「2050年カーボンニュートラル」だ。

そもそもカーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルは、直訳すると炭素中立。環境省の脱炭素ポータルによると、「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」と定義されている。(※1)

つまり、カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から森林管理などによる吸収量を差し引くことで、実質的にゼロと見なす考え方。排出量の削減と吸収量の増加を、両軸で取り組んでいくことが求められる。

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きっかけはパリ協定

2015年12月に、2020年以降の地球温暖化対策に関する国際的な枠組みとしてパリ協定が採択された。パリ協定では、世界の平均気温を産業革命前と比較して2度より低く保つ「2度目標」が掲げられている。また、努力目標1.5度以内で合意。世界全体で、脱炭素化へ向けて歩みを進めることとなった。

2021年4月時点で、世界125カ国・1地域が、2050年カーボンニュートラルの実現を表明。さらに、2021年11月現在、年限を区切った形での表明は、154カ国・1地域にのぼる。(※2)実現に向けての各国の手法は、さまざま。それぞれが、それぞれの形で尽力している。

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「2050年カーボンニュートラル」を目指す理由

森林が荒地になっている様子

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世界の平均気温は、変動を繰り返しながらも上昇を続けている。カーボンニュートラルを目指す理由は、地球温暖化に歯止めをかけるために、温室効果ガスの排出量削減が必須だからだ。

2018年に公表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5度特別報告書」によると、何も行動せずに地球温暖化が進行した場合、2030年から2052年の間には気温上昇が1.5度に達する可能性が高いとされた。(※3)パリ協定における1.5度努力目標を達成するためには、2050年近辺を基準年として対策を進める必要があった。さらに、1.5度の地球温暖化と2度の地球温暖化の間には、影響とリスクにおいて明確な違いがあると予測されている。この点を含むさまざまな背景から、「2050年カーボンニュートラル」の動きが世界に広まっていったのだ。

2021年には、IPCCが地球温暖化に人間の活動が大きく関わっていることを断定した。(※4)いま起きている異常気象や自然災害などの地球の変化は、私たち人間が招いた結果といえる。地球温暖化を食い止めるには、「2050年カーボンニュートラル」に実直に向き合うことが重要。いま、どれだけ取り組みを進められるかにかかっているのだ。

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日本の温室効果ガス排出の現状

煙突から煙がのぼる様子

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日本の平均気温は上昇傾向にあり、100年あたりでは1.30℃の割合で上昇している。1990年代以降は、高温の年が頻出しているのが現状だ。(※5)

2022年度の温室効果ガスの排出量は、CO2に換算すると11億3500万トン。2021年度の排出量11億6400万トンと比べると、2.5%減少している。また、2013年度の14億700万トンからは19.3%減少している結果だった。

推移を見てみると、2021年度に一時増加したものの、それ以外は減少を続けている。2021年度から減少した主な要因は、発電電力量の減少や鉄鋼業における生産量の減少などによるエネルギー消費量が減少したこと。2013年度と比べると、電力由来のCO2排出量が減少している。

2022年度の部門ごとの増減に関しても、産業・運輸・業務その他・家庭・エネルギー転換など、すべての部門において減少している。(※6)

世界の温室効果ガス排出の現状

工場から立ちのぼる煙

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世界の平均気温は、1850〜1900年の工業化以前と比べてすでに約1.1℃上昇している(2020年時点)。このままの状態で地球温暖化が進む場合、気温はさらに上昇していく見込みだ。(※7)

2024年2月にまとめられた環境省の報告によると、世界におけるエネルギー起源CO2の排出量は、1990年に205億トン、2020年には317億トンと大きく増加している。2030年には362億トンと、さらに増加する予測。主要排出国の内訳は、時代とともに大きく変化している。(※8)

「World Bank Open Data」の2023年最新データによると、CO2排出量がもっとも多いのは中国であり、世界の31.18%を占めている。次いでアメリカ(14.03%)、インド(7.15%)と続き、日本は世界5位で3.15%という結果だ。上位15カ国が全世界の排出量の76%を占めているという事実も、抑えておきたい。

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「2050年カーボンニュートラル」に向けた日本の取り組み

太陽光パネルが設置されている様子

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「2050年カーボンニュートラル」を実現するためには、あらゆる産業における変革が求められる。心がけだけでは後戻りできない状況まで差し迫っており、大胆な構造転換や設備投資が必要。2020年には経済産業省を中心に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、取り組みの加速を後押ししている。

以下では、政府の取り組みとして代表的なものをピックアップして紹介する。

再生可能エネルギーの拡大

2023年に開催されたCOP28では、再生可能エネルギーの発電容量を2030年までに世界全体で3倍にするという目標が掲げられた。

日本では、2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定された。化石エネルギー中心の構造から、クリーンエネルギーが中心の構造へ転換する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」を加速させ、持続可能な発展を進める方針だ。

再生可能エネルギーの主力電源化を目指し、再エネ比率36〜38%の達成を掲げている。次世代ネットワークの構築をはじめ、水素・アンモニアの活用や次世代型太陽電池の量産体制づくりなど、多方面のアプローチから政策を推進している。(※9)

成長志向型カーボンプライシング構想

日本におけるGXを実現するために、政府が打ち出しているのが「成長志向型カーボンプライシング構想」だ。カーボンプライシングとは、企業が排出するCO2に価格をつけ、行動変容を促す政策手法。世界各国により方針が異なるが、日本ではカーボンプライシングと、経済成長のための投資促進策を組み合わせ、独自の手法により仕組み化している。

10年間で150兆円超の官民GX投資を実行し、大胆な先行投資と、排出量取引制度や化石燃料輸入事業者を対象とした炭素に対する賦課金制度などの排出削減措置を両輪で進めていく方針だ。(※10)

脱炭素事業への出資

株式会社脱炭素化支援機構(JICN)は、2022年に設立された官民ファンド。改正地球温暖化対策推進法に基づいて、財政投融資と民間からの出資を原資として事業を行っている。存在意義は、「カーボンニュートラルへの挑戦を通じて、豊かで持続可能な未来を創る」こと。脱炭素に関する多様な事業に投融資を行うことで、「2050年カーボンニュートラル」を多様な方向から推し進める。(※11)

省エネ性能の高い住宅・建築物への助成

「住宅・建築物カーボンニュートラル総合推進事業」は、住宅や建築物の省エネ化を推進するために創設された。「LCCM住宅整備推進事業」「地域型住宅グリーン化事業」「優良木造建築物等整備推進事業」「長期優良住宅化リフォーム推進事業」「住宅エコリフォーム推進事業」の5つ。LCCM住宅整備推進事業では、建築から解体までを通じたCO2排出量をマイナスにする住宅に対して、戸建1戸あたり最大140万円の補助を行う。

ほかにも、リフォームや事業におけるプロジェクトなど、5つの事業の対象はそれぞれ。幅のある支援で、住宅分野における省エネを総合的に推進する目的だ。(※12)

「2050年カーボンニュートラル」に向けた世界各国の目標

自然のなかで地球儀を持って佇む人

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日本では、2050年カーボンニュートラルの実現にあたり、2030年度に2013年度比で温室効果ガスを46%削減する中期目標を掲げている。では、各国の目標はどうだろうか?

以下では、EU・アメリカ・イギリス・中国の目標について解説する。(※13・14)

EU

EUでは、2018年に「2050年カーボンニュートラル」を目指すための「A clean planet forall」を公表した。電化・水素・Power-to-X・省エネルギー・資源循環・組み合わせ・1.5℃技術・1.5℃行動変容の8つのシナリオを設け、さまざまな要素や仮説を想定して分析が行われている。

フランス・イタリアは中期目標として、2030年に1990年比で少なくとも55%の温室効果ガスを削減する方針。日本と同じ2013年度比に換算すると44%減に相当する。

アメリカ

アメリカの中期目標は、2030年に2005年比で50〜52%の温室効果ガスを削減すること。2013年度比に換算すると45〜47%相当だ。アメリカは、トランプ政権時の2020年11月にパリ協定から離脱するも、2021年2月にバイデン大統領が就任すると、初日にパリ協定に復帰。現在は、上記の目標を定め、積極的に取り組む姿勢を見せている。

バイデン政権にとって、気候変動への対応は優先政策課題のひとつ。トランプ政権時の措置の見直しやエネルギー分野への巨額な投資などを行っている。

イギリス

イギリスは、すべての温室効果ガスを対象に2030年に1990年比で少なくとも68%削減(2013年比55%相当)、さらに、2035年までに78%削減(2013年比69%相当)を目標としている。

イギリスでは、2020年に「グリーン産業革命のための10項目」、2021年に「ネットゼロ戦略」を発表。さらに、2022年には「エネルギー安全保障戦略」が設定された。脱炭素だけでなく、エネルギー安全保障の確保を優先課題に掲げ、エネルギーの国産化を推進するべく取り組みを進めている。(※15)

中国

世界でもっともCO2を排出している中国は、ネットゼロの長期目標を2060年に設定している。習近平国家主席は、2020年の国連総会一般討論演説で、中期目標としては、2030年までにCO2排出量を削減に転じさせることを表明した。

2021年には、国務院により「2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動方案」が発表された。エネルギー消費や非化石エネルギー消費の割合、森林カバー率などの分野別に取り組みが明示された。(※16)

「2050年カーボンニュートラル」を実現するために

このまま地球温暖化が進行すれば、私たちが地球でいままで通りに暮らしていくのは難しくなる。異常気象や自然災害を目の当たりにし、地球の危機を肌身で感じることも増えてきたのではないだろうか。

「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、いま真剣に取り組めるかどうかが地球の未来を大きく左右する。私たち個人にも大いに関係のある話だ。いまの状況を把握し、自分ごととしてできることから行動に移していきたい。

※掲載している情報は、2024年6月19日時点のものです。

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