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パリ協定は地球温暖化対策の要とも言える国際的な枠組みだが、アメリカの離脱や復帰は少なからぬ混乱を呼んだ。なぜアメリカはパリ協定をめぐり、一連の行動をおこなったのだろうか。本記事では、パリ協定とアメリカの関係や、過去から現在までの流れ・世界の反応などについて解説する。
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パリ協定は地球温暖化対策の一環として重要視される国際的な枠組みである。55ヶ国以上が批准し、公平な合意として取り扱われている。しかし2017年、アメリカのトランプ政権は協定からの離脱を表明。2020年11月4日には正式に離脱した。
しかしその後おこなわれた大統領選挙で打ち立てられた新政権・バイデン政権は、即座にトランプ前大統領の方針を打ち消し、2021年2月にパリ協定に復帰。現在、アメリカはパリ協定にもとづいた国際的な枠組みをもとに、積極的な対策を示している。
なぜトランプ政権はパリ協定の離脱を実行したのだろうか。離脱・復帰の理由と一連の流れを追うことにより、あらためてパリ協定の意義と課題がわかる。
ここでパリ協定について簡単に振り返ってみよう。
パリ協定は温室効果ガス排出削減に関し、2020年以降の国際的な枠組みとして設けられたものである。きっかけは1992年に採択された「国連気候変動枠組条約」だ。条約の内容は世界中で地球温暖化対策への取り組みをおこなうことへの合意だった。
この国連気候変動枠組条約をもとにし、パリ協定が提案された。そして2015年の11月30日から12月13日までフランス・パリで開催された「COP21(第21回 気候変動枠組条約締約国会議)」において採択されたのである。2016年11月には正式な発効に至り、日本を含む55ヶ国が批准した(※1)。その後は批准国が159ヶ国まで増加している。
パリ協定の命題である温室効果ガス排出削減の具体的な決定は以下になる。(※2)
1:緩和策の実施(世界の温室効果ガス排出量の削減)
2:適応策の実施(気候変動の悪影響への適応計画立案・実施)
3:各国の削減目標と2050年までの長期温室効果ガス低排出発展戦略の提出
4:緩和策は2年、各国の削減目標は5年ごとの計画の見直し・評価
5:開発途上国への資金援助・能力開発援助
6:市場メカニズムの活用(※3)
7:被害と損失(ロストアンドダメージ)の支援とその仕組みの構築
いずれも各国の積極的な取り組みが求められる内容であり、温室効果ガス排出量削減の成功を目指す骨子となる。とくに市場メカニズムの活用は目標達成に効率的な役割を果たすと考えられ、批准国のなかでも120ヶ国以上が活用に前向きな姿勢を見せた。
地球温暖化対策で大きな前進となるパリ協定だが、前述のとおり、2017年にアメリカはパリ協定からの離脱の意志を発表した。そして2019年には正式な離脱の手続きに入り、その1年後である2020年には離脱を完了する。
当時のトランプ政権によると、パリ協定はアメリカ国民にとって過度な負担を強いるものであったという。温暖化対策のコストのために雇用喪失や工場閉鎖が起き、その影響で一般家庭にまで負担を強いていたとの考えだ。
つまりトランプ政権の意図としては、パリ協定離脱によって国家の経済的負担を緩和し、国民の雇用や生活を守るという方向性だったと考えられる。
かと言って、世界の反応が穏やかであったわけではない。アメリカは温室効果ガスの1種である二酸化炭素の排出量が世界第2位(2017年)であり、かつ、パリ協定の主導としての役割を果たす国だった。開発途上国への拠出額も大きい。その国の離脱は各方面からさまざまな反応を呼び起こした。
科学者同盟の気候・エネルギープログラム政策担当レイチェル・クレトゥース氏は、パリ協定の離脱はアメリカの国際的な孤立と経済・資源などへの実質的な損害があると憂慮。アメリカ国内では民主党が「離脱は我が国の恥」と強い言葉での非難をおこなった。
トランプ前政権の決定による脱退は、2021年に新政権となったバイデン政権に即座にくつがえされた。バイデン大統領は就任当日の2021年1月21日、パリ協定への復帰手続きを執ったのである。これによりアメリカはパリ協定への正式な復帰を果たし、あらためて温室効果ガス排出量の削減努力と向き合うことになる。
世界はアメリカのパリ協定復帰を歓迎した。日本の小泉環境大臣(当時)は「世界の脱炭素社会の実現にはアメリカの参加が欠かせない」と談話を発表(※5)。天然資源保護協議会のジェイク・シュミット氏は「米国を世界的な対話の舞台に復帰させる重要な決定」と評価した。
現在、バイデン政権は地球温暖化対策に熱心な姿勢を見せている。2021年には「気候変動サミット」をオンライン開催。日本の菅義偉前総理大臣をはじめ、各国の機関・自治体・企業から40名以上もの代表者が参加し、温室効果ガスをはじめとした諸問題について活発な議論がおこなわれた。(※4)
また、「キーストーンXL」の建設計画中止を決定したことにも注目するべきだ。キーストーンXLはカナダとテキサスを結ぶ巨大なパイプラインになる予定だった。環境破壊や先住民族の権利軽視、大量の二酸化炭素排出の可能性が指摘されていたが、バイデン政権が正式に建設計画を却下し、中止が決定した。
バイデン政権がパリ協定への復帰を決めたのは、温室効果ガス排出の削減をはじめとした環境に関する高い意識はもちろんだが、いっぽうでは2026年の発効が目指されているEUの国境炭素税にまつわる懸念が考えられる。
国境炭素税とは、環境配慮(規制)が不充分な国からの輸入品に課税されるEUの税制度だ。その製品の製造工程で発生した二酸化炭素排出量に応じた税が課される仕組みだ。
国境炭素税の発効はいまのところ2026年が予定されているが、その時点でパリ協定から離脱したままでは国境炭素税が重くなる可能性があり、輸出面で大打撃を受けかねない。海外企業との競争力が低下する恐れもあるため、経済面から見てもパリ協定への復帰は必要だったと言えるだろう。
2020年のアメリカの離脱で危機感を抱かれたパリ協定だが、2021年の復帰で新たな局面を迎えることになった。地球温暖化は進みつつあり、世界各国が一丸となって対策を立てなければいけない人類共通の課題だ。
パリ協定を批准することによって国家の意識が高まり、地球環境が改善に導かれる。今後もパリ協定と批准国の動きに注目したい。
※1 パリ協定|全国地球温暖化防止活動推進センター
※2 パリ協定の概要(仮訳)(1〜5ページ)|環境省
※3 COP26におけるパリ協定6条(市場メカニズム)解説資料(4ページ目)|公益財団法人 地球環境戦略研究機関
※4 気候サミット特集|公益財団法人 地球環境戦略研究機構※5 米国のパリ協定復帰について(環境大臣談話)|環境省
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