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「気候変動に関する政府間パネル」を意味する「IPCC」。地球温暖化と気候変動に関する包括的な評価の実施を活動目的として、定期的に報告書を作成している政府間組織だが、具体的に何を行なっているのだろうか。本記事では、IPCCの活動内容や与える影響、最新の第6次報告書について解説する。
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「IPCC」とは、「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略で、「気候変動に関する政府間パネル」のことを指す。まずは、IPCC設立の背景や役割について簡単に紹介しよう。
IPCCは、1988年に世界気象機構(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって共同設立され、同年の国連総会でその活動が承認された政府間組織のこと。設立には、地球温暖化と気候変動が世界的な問題、解決すべき深刻な課題になってきたことが背景がある。
IPCC加盟国は195カ国にもおよび、事務局はスイスのジュネーブに置かれている(※1)。
IPCCは、地球温暖化と気候変動に関する包括的な評価の実施を活動目的としている。
地球温暖化や気候変動に関する科学的知見の評価を行い、定期的に報告書を作成。この報告書は、国際交渉や国内政策のための基礎情報として世界中の政策決定者に引用されている。
IPCCの主な活動は、「評価報告書(Assessment Report)」とよばれる気候変動に関する報告書の作成である。
IPCCには、世界各国の政府から推薦された専門家や科学者たちが参加している。彼らの最前線の研究によって得られた膨大な知見や観測データをもとに、評価報告書が執筆されており、非常にボリュームのある報告書となっているのだ。この評価報告書は5〜8年に一回作成されており、2024年現在、第6次評価報告書まで公表されている(※2)。
具体的にIPCCでは、地球温暖化とそれに起因すると考えられるさまざまな気候変動が、世界にどのような影響をもたらすのか評価をしている。さらに必要な対策などについて、科学的、技術的、社会科学的な観点から知見や見解を提供。ただし、政治的には中立な立場であるため、特定の政策に対する提案は行わない。
IPCCは、3つの作業部会とイベントリー・タスクフォース(温室効果ガス目録に関するタスクフォース)で構成されている。それぞれの役割は、以下の通りだ。また、下記にプラスして、IPCC総会が開催される際には、取りまとめ役として議長団(ビューロー)が置かれる。
気候システムおよび気候変動の自然科学的根拠についての評価を行う。
気候変動に関する社会経済および自然システムの脆弱性、気候変動がもたらす好影響・悪影響、ならびに各分野における適応策についての評価を行う。
温室効果ガスの排出削減など、気候変動に対する対策(緩和策)についての評価を行う。
各国における温室効果ガスの排出量・吸収量の目録策定のための方法論の作成、改善を行う。
膨大なデータをもとに作成されるIPCCだが、これまでどのような影響を与えてきたのだろうか。ここからは、IPCCの活動が与える影響について紹介しよう。
IPCCは2007年に、人為的に引き起こされる気候変動の認識を広めたことや、気候変動を解決するための土台を築く取り組みを行ってきたことが評価され、ノーベル平和賞を受賞した。
2007年は第4次評価報告書が公表された年で、この第4次評価報告書は、地球温暖化が疑う余地なく起きていることを明記した画期的なものであった。
さらに、報告書のなかでは温暖化の原因についても言及。「大気中の温室効果ガスの増加である可能性が非常に高い」と記載し、温室効果ガスと温暖化が密接に関係していることを世界中に伝えた。
IPCCの報告書は、気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」における、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち(2℃目標)、1.5℃に抑える努力をする(1.5℃努力目標)」という目標にも影響を与えている。
パリ協定の長期気温目標が発表された2015年当時、長期の気温目標に関しての科学的知見は十分ではないとされていた。そこで、IPCCに特別報告書の作成が求められたのだ。
IPCCは「1.5℃特別報告書」を作成し、2018年に公表した。この報告書では、「予測される気候変動、潜在的な影響および関連するリスク」について言及。1.5°C上昇の場合と2°C上昇の場合では、生態系や人間システムへのリスクが大きく異なることについて報告している。
また「1.5℃未満に抑えるためには、世界のCO2排出量を2030年には2010年比で45%削減し、2050年前後にネットゼロを目指すことが必要」と公表した(※3)。
その後、2021年6月に開催された「主要7ヶ国首脳会議(G7サミット)」、および11月に開催された「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」では、「2℃目標」と「1.5℃努力目標」の継続が再確認されている。
このようにIPCCの報告書は、政策決定者が気候変動対策を検討し決定する上で役立てられており、世界中に影響を与えているのだ。
1990年に第1次報告書が公表されてから、現在まで第6次報告書が公表されている。それぞれ公表年は以下の通りだ。
報告書 | 公表年 |
第1次報告書 | 1990年 |
第2次報告書 | 1995年 |
第3次報告書 | 2001年 |
第4次報告書 | 2007年 |
第5次報告書 | 2014年 |
第6次報告書 | 2023年 |
最新の報告書である第6次報告書(AR6)では、地球温暖化と気候変動問題の危機的な現状や、長期的・短期的な見通し、「1.5度目標」達成への解決策などが示された。
報告書のなかの「政策決定者向けの統合報告書」では、世界の平均気温は産業革命前からすでに1.1度上昇しており、2030年代には1.5度に達する可能性が高いことを改めて指摘。パリ協定では、今後の地球の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ「1.5度」に抑えることを長期目標に掲げているが、現在までに世界各国が示している温室効果ガスの排出削減目標では、全部合わせても「1.5度目標」を達成するには不足しているのだ。
そのような現状から、第6次報告書では、「1.5度に気温上昇を抑えるためには、2035年までに世界全体で2019年比60%の削減(CO2は65%削減)が必要である」と伝えている。
また、今後のさらなる気温上昇に伴って、温暖化による取り返しのつかない損失や損害が増加し、人々や自然が適応の限界に達するであろうこともあわせて指摘している。
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第6次報告書の内容からもわかるように、地球温暖化や気候変動問題において私たちに残された時間は極めて少ない。各国、各自治体、各企業、そして個人が脱炭素化に向けて、行動を加速していく必要があるのだ。次回数年後に公表されるであろう第7次報告書の内容は、私たち一人ひとりの行動や選択に委ねられている。
参考
※1 気候変動の科学的知見|環境省
※2 IPCC 第6次評価報告書(AR6) 統合報告書(SYR)の概要(1ページ目)|環境省 地球環境局
※3 IPCC 1.5°C特別報告書|環境省
※4 IPCC 第6次評価報告書(AR6)統合報告書(SYR)の概要(4ページ目)|環境省 地球環境局
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