脱炭素への注目の技術「BECCS」とは? その仕組みと特徴、現状や課題を解説

log

Photo by Dan Smedley on Unsplash

脱炭素化社会に向けて注目されている技術が「BECCS」だ。この技術の仕組みや特徴、メリットにはどんなものがあるのだろうか。また、世界各国の現状や課題もみていこう。

ELEMINIST Editor

エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2024.08.16
ACTION
編集部オリジナル

知識をもって体験することで地球を変える|ELEMINIST Followersのビーチクリーンレポート

Promotion

未来の地球を救う技術「BECCS」とは

BECCS

Photo by American Public Power Association on Unsplash

BECCSとは、Bio Energy with Carbon Capture and Storageの略で、バイオマスエネルギーの利用と、CCSと呼ばれる二酸化炭素を回収・貯留を組み合わせた技術である。

BECCSの仕組みと特徴

BECCSの仕組みは、次のとおりだ。

まず植物や木材・農業廃棄物など燃料となるバイオマスを、燃焼・ガス化・発酵などによってエネルギーに変換する。このとき排出される二酸化炭素を回収し、高い圧力をかける。高い圧力をかけた二酸化炭素を地中深くの地層に送り、貯留する。貯留した二酸化炭素は大気に戻ることがなく、漏れ出さないとされている。

BECCSの特徴は、カーボンニュートラルな発電方法であるバイオマス発電に加え、バイオマスエネルギーをつくるときに排出される二酸化炭素を大気中に放出せず、回収・貯留することで、二酸化炭素の削減ができることだ。

BECCSのメリット

BECCSのメリットには、次のようなものがある。

二酸化炭素を削減できる

BECCSは、バイオマスエネルギーをつくるときに排出される二酸化炭素を回収・貯留する。そのため、二酸化炭素の排出を実質的に削減できるのが最大のメリットだ。

再生可能エネルギーの供給

バイオマス発電は再生可能なエネルギーのひとつであり、BECCSを利用することで化石燃料に依存しないエネルギー供給ができる。

二酸化炭素の永久貯留

CCS技術では二酸化炭素を永久貯留でき、大気への放出はない。

DACCSとの違い

BECCSと同様のネガティブエミッション技術に「DACCS」がある。DACCSとは、Direct Air Carbon Capture and Storageの略で、大気中の二酸化炭素を直接回収して分離・吸収し、地中に貯留する技術だ。

両者の違いは、回収する二酸化炭素の発生源にある。BECCSは、バイオマス発電から発生する二酸化炭素を回収するのに対し、DACCSは、大気中の二酸化炭素を直接回収する。

バイオマスとは 期待される“生物資源”の活用方法

関連記事

BECCSが注目される背景

biomass

Photo by Nipun Jagtap on Unsplash

2015年に行われたパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前から2℃よりも十分に低く抑え、さらに1.5℃未満に抑える努力をすることが国際目標として掲げられた。(※1)

この国際目標を達成するには、効果的な二酸化炭素排出削減策が必要となる。そこで注目されているのが、ネガティブエミッション技術のひとつであるBECCSだ。BECCSなら、大気中の二酸化炭素を除去し軽減できる。またポテンシャルの大きさと比較的低コストであることも、BESCCSが注目されている理由となっている。

パリ協定とアメリカの関係 温室効果ガス排出大国が離脱と復帰をした理由

関連記事

BECCSの現状と今後

corn

Photo by henry perks on Unsplash

日本や世界におけるBECCSの現状と、今後の展望について説明する。

日本の現状と今後

福岡県の三川発電所に、BECCSの大規模設備がある。この設備ではバイオマス発電の主燃料にパーム椰子殻を使い、1日に排出される二酸化炭素の50%にあたる500トン以上を分離回収できるのが特徴だ。(※2)

日本国内では、160億トンの二酸化炭素貯留可能量が推定されている。また2030年までの事業開始に向け、民間事業者におけるCCS事業の検討もスタートしたばかりだ。(※3)これらのことから、今後BECCSの国内実証化も進めていく必要があると考えられている。

世界の現状と今後

欧米では、さまざまなBECCSプロジェクト・プラントが進行している。

アメリカには、トウモロコシからエタノールを製造する施設がある。そのいくつかでは100万トンの二酸化炭素回収能力・貯留規模を持つBECCSプロジェクトが進んでいる。また、小規模な実証プロジェクトも進められている状況だ。(※4)

イギリスでは、Drax社が2024年に年800万トンの二酸化炭素回収能力・貯留規模をもつBECCSプラントの建設を開始。2027年にユニットの運転を開始する予定だ。また、同社はイギリスのセルビィ火力発電所の燃料を石炭からバイオマスに転換しているさなかで、2019年にBECCSパイロットプロジェクトで二酸化炭素の回収をはじめている。(※4)

北欧でも、スウェーデンの大手電力会社であるVattenfallとノルウェーのAker Carbon Captureが、商業BECCSプラントの共同開発を実施し、進めている。(※5)

このように各国でBECCSプロジェクト・プラントが進められ、今後はBECCSの普及が拡大していくことが考えられる。しかし実用化や拡大については、次項で解説する課題をクリアする必要があるだろう。

バイオガスとバイオガス発電とは? メリットや残された課題、日本の現状について解説

関連記事

BECCSの課題

BECCSには二酸化炭素を除去できるというメリットがあるものの、課題もある。そのひとつが二酸化炭素の除去コストだ。BECCSにおける二酸化炭素の除去コストは、1トンあたり100〜200ドルかかると見込まれている。植樹による二酸化炭素の除去コストと比較すると2〜4倍のコストがかかるため、BECCSを実用化するにはいかに二酸化炭素除去コストを抑えるかが鍵となる。(※4)

またBECCSのプラントの建設や二酸化炭素の貯留地には、ある程度の土地の広さが必要となる。そのため土地の確保、土地の確保による生物多様性との兼ね合いなども検討しなければならない。

環境NGO「FoE Japan」がレポート「バイオマス発電は環境にやさしいか?」を発表

関連記事

BECCS利用に向けた企業の取り組み

power generation

Photo by Lee Lawson on Unsplash

BECCSの技術開発に取り組む企業を紹介しよう。

三菱重工エンジニアリング

三菱重工業エンジニアリングは、イギリスの大手電力会社Drax社とBECCSプロジェクトで技術提携している。このプロジェクトでは、三菱重工エンジニアリング独自の二酸化炭素回収技術が使われている。プロジェクトの実現により、世界最大量となる年間800万トン以上の二酸化炭素排出量を削減できると見込んでいる(※6)

Drax社

イギリスにあるバイオマス発電企業「ドラックス社」は、ノークヨークシャーにあるドラックス発電所でBECCSの試験的導入を行っている。2027年には、バイオマス発電ユニットにBECCSを導入する予定だ。(※7)これにより、毎年数百万トンの二酸化炭素が大気中から除去されると見込んでいる。(※8)

Stockholm Exeri社

スウェーデン・ストックホルムにあるエネルギー企業「Stockholm Exeri社」は、2025年にBECCSプラントの建設を開始すると発表した。このBECCSプラントによって、年間最大80万トンの大気中の二酸化炭素を除去できるとされている。(※9)

「大気中のCO2を回収する」世界最大規模の施設がアイスランドにオープン

関連記事

脱炭素社会に向け、BECCSに注目しよう

tree

Photo by Arnaud Mesureur on Unsplash

BECCSは、二酸化炭素を効果的に除去できる技術である。現在、世界中で脱炭素化に向けた動きが加速しており、同時にBECCSへの注目が高まっている。各国、実働に向けて研究・開発が行われている。今後は二酸化炭素を減らすことに加え、除去することも脱炭素社会の鍵となるだろう。

※掲載している情報は、2024年8月16日時点のものです。

    Read More

    Latest Articles

    ELEMINIST Recommends