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家庭から出る生ごみや家畜のふん尿を有効活用し、クリーンなエネルギーを生み出すバイオガス。バイオガスとバイオガス発電がもたらすメリットや、普及に向けた課題、日本における現状と成功事例を紹介。
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バイオガスとは、微生物のメタン発酵によって生成される可燃性ガスのこと(※1)。えさとなる生ごみや紙ごみ、家畜ふん尿を酸素のない状態にし、微生物に分解させることでバイオガスが発生する。発生したガスは「メタン」という燃えやすい気体が含まれているため、エネルギー源として利用できるほか、発酵残さ(微生物の食べ残し)は肥料として再利用が可能だ。
バイオマスとは動植物などから生まれた生物資源の総称で、これらの資源からつくる燃料はバイオマス燃料と呼ばれる。(※2)バイオマスからつくられる燃料はペレットなどの固体燃料、バイオエタノールやバイオディーゼル燃料などの液体燃料、気体燃料がある。バイオガスは、バイオマスから生成される気体燃料であり、エネルギーの一形態だ。
バイオガスをつくるためには、まず家畜糞尿や食品廃棄物、農業残渣などの有機廃棄物を収集する。次に有機廃棄物を嫌気性消化槽に入れ、酸素を遮断した環境で微生物によって分解させる。有機廃棄物を微生物に分解させることで、メタンや二酸化炭素などを主成分とするバイオガスが生成される。
生成されたバイオガスは、発電や暖房などのエネルギー源として利用される。また、発酵残さは肥料として活用できる。
バイオガス発電は、バイオマスの発酵などによって生成されたバイオガスを燃焼して電力を生み出す方法だ。バイオガスの燃焼で発生した熱によってガスタービンまたはガスエンジンを動かし、発生した運動エネルギーを発電機に伝達し、電力を生成する。また発電過程で発生する熱エネルギーも、エネルギーとして利用できる。
従来の火力発電と仕組みはほぼ同じであり、燃料に使用される石油、石炭、液化天然ガス(LNG)がバイオガスに変わったもの。なお、バイオマス発電も同様の仕組みで、木材や農産物の廃棄物、家畜の排泄物、一般家庭から出る可燃ごみなどのバイオマス(生物由来の資源)を直接燃焼させて電力を生み出す。
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世界でも注目を集めるバイオガス発電だが、どのようなメリットがあるのだろうか。
ごみとして焼却されるはずだったものをバイオガスの生成に活用することで、廃棄物の量を減らすことができる。焼却にかかるコストやエネルギーが減り、焼却による有害物質の排出も抑制できる。
化石燃料を燃やしたときと比べて温室効果ガスの発生を少なく抑えることができる。また家畜の排せつ物を長時間そのまま貯留することで発生していたメタンガスを抑えることが可能だ。(※3)メタンガスは二酸化炭素の28倍温室効果があるとされている。(※4)
太陽光や風力発電のような再生可能エネルギーと異なり、天候や時間に左右されず、いつでも稼働させることが可能だ。また、再生可能エネルギーの出力が落ちたときなど、必要に応じて電力を取り出すことができる。さらに、バイオガスは、有機廃棄物や農業残渣などの資源を原料として使用するため、化石燃料のような枯渇の心配がない。
地元で発生した生ごみや紙ごみ、家畜のふん尿などの原料を用いてバイオガスをつくり、その地域の電力供給に活用することができる。また微生物の食べ残しである発酵残さを地域の農地に還元することが可能だ。
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普及が期待されるバイオガス発電だが、まだまだ課題も残る。
安定したバイオガス生成には、大量かつ一定の有機廃棄物が必要となる。原料は地域や季節によって変動することもあり、また都市部では有機廃棄物の収集が難しいという問題もある。大きな農場や農園から一括で大量に収集するのではなく、一般家庭や商業施設などの小規模な発生源から回収する必要があるためだ。
バイオガスの普及には原料となる生ごみ等を安定的に、かつ効率的に収集する方法を確立する必要がある。また、大規模農場などに近い場所にバイオガスプラントなどの施設を設置できれば問題ないが、離れた場所の場合は運搬方法や運搬業者の手配も必要となるだろう。
バイオガス発電には焼却施設のほかにメタンガス化施設(バイオガスプラント、嫌気性消化槽など)も建設する必要があるため、初期費用が大きくなるという課題がある。
バイオガスを発生させた後に残る発酵残さ(消化液や残留固形物)は、肥料として使えないものは廃棄物として処理しなければならない。また、都市部では農園や農場が少なく、肥料としての需要も少ないため、処理方法を検討する必要がある。環境省が行った調査によると、残さ率は10%を超えるという。(※5)
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日本におけるバイオガス発電の導入についてみていこう。
バイオガス発電にはバイオガスをつくるためのバイオガスプラントが必要だ。日本には生ごみ(家庭系・事業系)と食品廃棄物を受入れ対象としているメタンガスプラントが42施設あり、畜産系や下水等の汚泥のみを対象とした施設も含めるとさらに多くなる。(※6)また、固定価格買取(FIT)におけるバイオガス発電施設は、2023年3月末時点の累積で新規認定が370件あった。(※7)
日本で利用されているバイオマスの原料は、家畜排せつ物や下水汚泥がメインとされており、バイオガス発生量は家畜排せつ物が約8,000万トン、下水汚泥が7,900万トンだ。(※8)
固定価格買取(FIT)制度とは、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で買い取る制度(※9)。上で述べたように2023年3月末時点で、累計370件のバイオガス発電施設がFIT制度の新規認定を受けた。買い取った電力は16.4万kWだ。(※7)
FIT制度が制定されて以降、年度ごとに認定施設が15〜30件ずつ増加していることから、FIT制度がバイオガス発電施設の増加に起因していることがわかる。(※10)
なお、日本の発電電力量のうち再生可能エネルギーが占める割合は2021年時点で約20%。そのうち、バイオマス発電は、太陽光発電、水力発電に次いで3番目に多い。
新潟県長岡市は、2013年4月にバイオガス発電センターを本格始動。1日に65トンの有機廃棄物を処理し、12,300kWの電気を発電することが可能だ。2023年には年間約209万kWhを発電し、一般家庭の約530世帯分を賄った。2013年度と比較すると2023年度の燃やすごみの量は約3割減少し、456トンの二酸化炭素(一般家庭の約180世帯分)を削減した。(※11)
埼玉県寄居町の寄居バイオガスプラントは2022年から稼働。1日の最大処理能力は100トン、約1,600kWを発電する。乾式のメタン発酵技術を採用している点が特徴で、これまで処理が困難とされていた水分含有率が低い有機物からもバイオガスを高効率に取り出すことができる。これにより、紙ごみや異物であるプラスチックなど、食品廃棄物と異物などの他の廃棄物との分別をせずに原料として活用することが可能だ。(※12・13)
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日本における一次エネルギーの自給率は11.3%とされており、ノルウェーの759.3%やオーストラリアの345.5%と比較すると低い水準であることがわかる(※14)。バイオガスは有機廃棄物や農業残渣を利用し、持続可能なクリーンなエネルギーとして電力や熱を生成できる。そのため、日本国内のエネルギー供給の多様化と安定化が期待できるだろう。
※1 メタンガス化が何かを知るための情報サイト|環境省
※2 バイオマスを燃料に変える|資源エネルギー庁
※3 【畜産家向け】牛のメタンガスが環境に与える影響|対策と貢献が必要|自然電力グループ
※4 温室効果ガスインベントリの概要|環境省
※5 2. メタン化導入見通し・効果の評価|環境省
※6 メタンガス化施設の導入事例等|環境省
※7 メタン発酵バイオガス発電に関わる情勢2023年10月27日|経済産業省
※8 バイオガス・バイオメタンの都市ガス利用について|資源エネルギー庁
※9 制度の概要|資源エネルギー庁
※10 メタン発酵バイオガス発電の導入促進|一般社団法人日本有機資源協会
※11 生ごみバイオガス化事業|長岡市
※12 オリックス資源循環株式会社|埼玉県
※13 国内最大の乾式バイオガス発電施設「寄居バイオガスプラント」竣工~可燃ごみを再エネ利用し、CO2排出量低減と循環型社会に貢献~|オリックス
※14 安定供給 | 日本のエネルギー 2022年度版「エネルギーの今を知る10の質問」|資源エネルギー庁
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