注目が高まる「水素発電」とは? 仕組みやメリット・デメリットを詳しく解説

水素発電 カーボンニュートラル クリーンエネルギー

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水素発電は、カーボンニュートラル社会の実現へ向けたクリーンエネルギーとして注目されている発電方式。電力を大量に長期で貯蔵すること、長距離輸送も可能であり、さまざまな用途に利用できる点から注目が高まっている。その仕組みからメリット・デメリット、具体的な取り組みまで、詳しく解説する。

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2024.06.20
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水素発電とは

水素発電は、火力発電に用いられる石炭や天然ガスに代わる燃料として水素を使用する発電方法。水素は燃焼させても有害物質やCO2のような温室効果ガスが発生せず、排出されるのは水(H2O)だけ。そのため、水素発電は化石燃料を用いた火力発電に代わるクリーンエネルギーとして、近年注目を集めている。

水素はどこからつくられる?

水素発電 水素 電気分解 種類

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水素はさまざまな方法で製造することができる。主に使われる原料は石油や天然ガスであり、石炭を蒸し焼きにする方法や、水を電気分解して水素を取り出す方法などがある。

水素には3種類以上ある

水素は無色の気体だが、近年ではその製造方法によって、「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」などに分類される。

水素の3つの種類の図式 link

Photo by 経済産業省 資源エネルギー庁

グレー水素

グレー水素とは、石油、天然ガス、石炭の化石資源から抽出される水素のこと。元の資源に炭素が含まれていることから、水素を取り出す際にはCO2が排出される。副産物の二酸化炭素を回収・貯蔵しないため環境負荷が高いが、コストが低いため現在もっとも広く使われている。日本では、産業用や燃料電池自動車の燃料用に供給されている。

ブルー水素

ブルー水素は化石燃料から抽出されるが、生成する際に発生するCO2を回収・処理し、大気中のCO2を抑える点がグレー水素と異なる。近年では、石油採掘または天然ガスの採掘時にCO2を圧入し、石油や天然ガスを絞り出すとともに、CO2に置き換え貯留するという処理方法が海外で行われている。

グリーン水素

太陽光発電などの再生可能エネルギーを用いて、製造工程においてもCO2を排出せずにつくられた水素のことを、グリーン水素という。そのため環境への影響が小さく、持続可能なエネルギーとして期待されている。海外では、広大な土地を利用して太陽光発電を行い、それによってグリーン水素をつくり、輸出する動きも見られる。

ブルー水素の特徴とは?日本&海外の取り組みと課題も紹介

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水素発電の仕組みは3つ

水素発電 仕組み 燃料

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水素発電には、「汽力発電」「ガスタービン発電」「燃料電池」の3つの方式がある。ここでは、それぞれの仕組みについて解説する。

汽力発電

汽力発電は、水素または水素と他の燃料をボイラーで燃焼させることで蒸気をつくり、その蒸気によってタービンを回転させることで発電機を動かし、発電する方法。現在の火力発電において主流な方式となっている。石炭や天然ガスなどの燃料が水素に置き換わったものと捉えるとわかりやすい。

ガスタービン発電

ガスタービン発電は、水素または水素と他の燃料をガスタービンで燃焼させ、発生したガスでタービンを回転させて発電する方法のこと。ガスタービン発電は汽力発電と組み合わせて、コンバインド発電として用いられることが多く、ガスタービンから出る排気をボイラーで熱利用することで、汽力発電に比べて高い熱効率を発揮することが特徴だ。こちらも石炭や天然ガスを用いた火力発電で使用されている方法。燃料を水素に置き換えることで、水素発電になる。

燃料電池

燃料電池は、水素と酸素を化学反応させることによって電力を直接取り出す方法だ。化学反応で発電を行うため、汽力発電やガスタービン発電に比べ、より高効率で発電できるのが特徴。一方で、発電量を大きくするほどコストがかさむため、燃料電池は大規模発電には不向きとされている。エネファーム(家庭用小型燃料電池)や家庭用燃料電池、FCV(燃料電池自動車)での活用が進められている。

水素発電のメリット

水素発電 メリット CO2

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水素発電は次のようなメリットから、次世代の発電方法として注目を集めている。

さまざまな資源からつくることができる

水素はさまざまな物質を構成する元素であるため、それらの物質を化学的に分解することで取り出すことが可能だ。水の電気分解から製造できるほか、化石燃料やメタノールやエタノール、低品位で安価な石炭「褐炭」や未使用のガス、廃プラスチックやバイオガスなどからも取り出すことができる。また、製鉄所や化学工場などでも、製造過程で副次的に水素が発生する。水素発電が普及すれば、エネルギーを安定的に確保できるようになることが期待できる。

燃えるときにCO2を排出しない

石炭や石油、天然ガスなどの石油燃料は、燃焼時に大量のCO2を排出する。一方で燃料に水素だけを使って水素発電を行った場合、発電時にCO2が排出されない。水素をつくり出す過程においても再生可能エネルギーを使用すれば、製造から利用まで一貫してCO2を出さないことが可能だ。日本においてエネルギー構成の大部分を占める化石燃料を水素で代替できるようになれば、脱炭素化が可能となり、環境負荷を大きく軽減することができる。

貯蔵ができる

再生可能エネルギーが持つ課題として、発電量の変動があげられる。とくに天候に左右されやすい太陽光や風力発電では一定の発電量を保証することが難しく、エネルギーの安定供給が課題だ。一方、水素は圧縮や液化などさまざまな方法を通じて貯蔵することができる。必要に応じて使用することができ、安定供給性が高いことも大きなメリットだ。

水素発電のデメリットや課題

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水素発電には多くのメリットがある一方で、コスト面や技術面における課題が普及を妨げる要因となっている。

水素の供給コストの高さ

現在の技術や調達・供給方法では、水素の価格は1立方メートルあたり100円で、既存燃料の最大12倍に相当する。(※1)今後は、海外産の安価な水素の輸入や液化した水素を運ぶ専用船の造船、大量供給を可能にするサプライチェーンの構築、水素発電導入の規模拡大によるコストの引き下げなど、ひとつひとつクリアしていく必要がある。

経済産業省では、水素の利用を進める民間事業に計3700億円を投じる計画を進めており、水素の供給網整備、水素を燃料とする火力発電の実用化、国内での製造設備の大型化などを対象としている。(※2)

水素の供給インフラの整備が必要

水素発電の普及には、水素の製造・輸送・供給・利用の連携を確立する必要がある。既存のガス管を利用した水素の供給も実験が行われるなど進められているが、大規模なインフラの構築には財政面などで課題が残る。

技術的な開発が必要

水素は天然ガスなどの既存の燃料とは違うさまざまな特徴があるため、それらに対応する技術的な開発が必要だ。例えば、既存の燃料に比べて体積あたりの発熱量が低い、燃焼速度が速い、断熱火炎温度が高いといった特性があるため、技術的な課題が発生している。そのため、最近では既存の燃料に水素を混ぜて利用する「水素混焼」方式が取られているほか、水素を100%使用する「水素専焼発電所」を実現するための技術開発も進められている。

日本における水素発電の現状

水力発電 日本 現状

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これまでに、水素発電は国内外で小規模な実証実験がおこなわれてきた。近年注目度が高まるなか、日本における水素発電の活用も広まりを見せている。

自動車や電車、家庭用小型燃料電池で実現

国内における水素エネルギーの活用事例として、自動車や電車、バスがあげられる。
JR東日本が開発したFV-E991系「HYBARI(ひばり)」は、水素燃料電池と蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載し、世界で初めて70MPa(メガパスカル)の高圧水素を利用できる燃料電池鉄道車両。東日本地域で運行している。また、東京都交通局は、トヨタ自動車が開発を手がける水素燃料電池バス「SORA(ソラ)」を導入し、都内で75車両運行中だ。札幌市や名古屋市などの地域でも水素バスの運行が開始されている。

自動車業界では、トヨタ自動車が2014年に世界初の量産燃料電池車「MIRAI」を発売し、ホンダも2016年に燃料電池車「CLARITY FUEL CELL」を発売している。これらは環境性能と走行性能が評価されている。

また2009年には、東京ガス、大阪ガス、パナソニックの共同開発によって家庭用小型燃料電池「エネファーム」の製品化に成功。エネファームは水素を使って発電し、発生する熱を給湯や暖房に利用することで高いエネルギー効率を実現している。累計販売台数約500,000 台(※3)と多くの家庭に導入され、電気代の節約やCO2排出削減に寄与している。

水素発電は実証運転の成功例も

日本では、水素を使った発電技術の開発が進められている。大規模な発電所での実用化には至っていないものの、いくつかの実証運転が行われている。

2018年、大林組と川崎重工業は、市街地における水素燃料100%のガスタービン発電による熱電の同時供給を実現。開発した「水素コージェネレーションシステム(水素CGS)」は、水素のみ、または水素と天然ガスを混ぜ合わせたものを燃料とすることも可能で、実証試験を通じて燃焼安定性や運用の安定性が確認された。

また、イーレックス株式会社による「富士吉田水素発電所」は、水素専焼発電所として2022年4月より実証運転を開始。水素発電の課題である連続性の確認やコスト低減を図る事を目的としている。

CO2フリーのグリーン水素活用も進む

再生可能エネルギーを活用する「グリーン水素」は、製造工程で使用する電気もCO2フリーなことから、その活用が各地で積極的に進められている。

福島県浪江町「福島水素エネルギー研究フィールド」

NEDO、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業は、再生可能エネルギーを利用した国内最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」を建設し、2020年3月に稼働を開始。

この施設は、再生可能エネルギーなどの電力を用いて、世界最大級となる10MWの水素製造装置で水の電気分解を行い、毎時1,200N立方メートルの水素を製造する能力を持っている。また、それらを貯蔵・供給できることから、出力変動の大きい再生可能エネルギーの電力を最大限に利用しながら、需給調整に沿った電力供給が可能となる。ここで製造された水素は、2026年度より定置型燃料電池向けの発電用途や、燃料電池車や燃料電池バス向けのモビリティ用途に使用される予定だ。

山梨県の取り組み

山梨県は、東京電力と共同で米倉山に大規模な太陽光発電所を設置し、それにより一年間で一般家庭3,400軒分の年間使用電力量に相当する約1,200万kWhの電力を生み出し、約5,100トンのCO2排出削減効果を見込んでいる。

また、山梨県と東京電力ホールディングスおよび東レは2022年2月に、国内初のP2G事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー」を設立。太陽光発電などによる再生エネルギーで得た電気を水素に変換し、貯蔵・供給するP2G(Power-to-Gas)サービスの提供を進めている。

カーボンニュートラル社会の実現に向けて

水素発電には多くのメリットがあり、カーボンニュートラル社会の実現に向けたクリーンなエネルギーとして非常に有望だ。効率的に発電・貯蔵ができるため多岐に渡る活用が期待できる一方で、コストや技術面での課題も残っている。

「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて水素発電の普及が急がれるなかで、国と企業、官民一体となった課題解決への動きに注目したい。

※掲載している情報は、2024年6月20日時点のものです。

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