2021年にブルーボトルコーヒーは「2024年までにカーボンニュートラルを達成する」と宣言。米国や日本、アジアで展開する同社は一丸となって、この目標に向けて、包括的な廃棄物・温室効果ガス排出削減の取り組みを推進する。そして、飲食業界でサステナビリティを牽引する目的の本質は、「おいしく」そして「楽しむ」という創業のストーリーにあるようだ。
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Photo by Kenta Hasegawa
ブルーボトルコーヒー 代官山カフェ
アメリカや日本、韓国、上海、香港などに100店舗以上のロースタリーカフェを展開するブルーボトルコーヒー。2000年代初めに“サードウェーブ”と呼ばれるコーヒーの新たな潮流を生み出したブランドの始まりは、コーヒー好きな創業者、ジェームス・フリーマン氏が自宅ガレージで焙煎したコーヒーを地元のファーマーズマーケットで振る舞い始めたことにさかのぼる。
そこではサステナブルは当たり前で、必要なものを生産者から購入し、各々が持参したバッグで持ち帰るような暮らしだったという。隣人と温かな会話が交わされ、おいしいものを共有する時間が流れる。これがブルーボトルコーヒーの原風景だ。
ブルーボトルコーヒージャパン マーケティングマネージャーの吉田恵氏は、「サステナビリティは、およそ20年前の創業時からの大切な理念」だと話す。
サステナビリティにかけるブルーボトルコーヒーの熱意について、2021年に「2024年までにカーボンニュートラル実現を宣言」したことで世界が注目した。
ブルーボトルコーヒーアメリカ本社の報告によると、企業が科学的に根拠のある環境目標を設定する際に用いられる指標「Science Based Target initiative(SBTイニシアチブ)」において、2018年のベースラインと比較して、販売製品1キロ当たりの二酸化炭素排出量を20%削減するという目標を達成する見込みだという。最終的な承認結果は、第三者機関によって2025年に報告される予定だ。
「バリューチェーンとして健全にコーヒー豆を仕入れられる持続可能な関係性を築くことや、環境を考慮した資材の研究と開発を続けてきた一方で、ローカルレベルでは、地域の方とのふれあいを通じてサステナブルなライフスタイルを発信し、商品を開発してきました」(吉田氏)
ブランドが長期的な目標を掲げたことで、国や地域が異なるそれぞれの環境で実行できることを考えて、行動するムーブが現れた。業界を牽引するブルーボトルコーヒーの宣言の真意は、一人ひとりの環境への常識を書き換えること。ゲストを巻き込んでカルチャーをつくることにありそうだ。
シュガーケーンカップ
カフェでは、使い捨てのプラスチック製カップやストローなどのごみが出るのが一般的だ。例えば、アメリカのカフェでは1店舗あたり、毎月平均で15,000個もの使い捨てカップが消費されているという。そんななか、ブルーボトルコーヒーがカーボンニュートラルの達成に向けて注力している分野のひとつが、廃棄物削減だ。
例えば、2020年から採用しているバンブーストロー。プラスチック製ではなく、成長が早くサステナブルな素材として知られるバンブー製のものを使用している。
また、冷たいドリンクの持ち帰り用カップには、主にとうもろこし由来で微生物による分解が可能なバイオプラスチックを使用している。
「日本ではすでに、店内での使い捨てカップのご利用を基本的にお断りしています。それはコーヒーをおいしくお召し上がりいただくため。例えばブラックコーヒーを透明のガラスカップに注ぐことで、コーヒー豆の色、香りをより味わっていただけるんです」(製品開発の村上加奈子氏)
コーヒーを五感で楽しむ延長に、廃棄物の削減がある。
また、2025年にはシュガーケーンという素材の使い捨てカップを導入する予定だ。「シュガーケーンは、砂糖の製造過程で出る副産物からつくられる素材なので、このカップをつくるために木材や繊維を新たに収穫することはありません」(村上氏)
一方、シュガーケーンは紙の分類にあたる。廃棄することにはなるが、原料のサトウキビは早く成長し持続可能な植物であること、砂糖の生産工程で出る副産物を利用でき、従来の紙より少ないエネルギーで生産できることから、サステナブルな素材として注目されている。
店内利用の方には、使い捨てカップではなく、コーヒーカップで提供する。
ストローやカップに環境負荷の低いものを使っているとはいえ、そもそもの廃棄量を減らすためには、利用客の協力も欠かせない。その一環が、日本では2019年から始めているマイボトル割引だ。マイボトルを持参すれば、1杯20円の割引を受けられる特典がある。
ブルーボトルコーヒーの利用客のうち7〜8割は店内利用だというが、立地によってテイクアウトの需要も少なくはない。
「実は、店内をご利用の方でもマイカップやマイボトルをお持ちいただくと割引の対象になるので、みなさんにぜひご利用いただきたいです。本来店内では使い捨てカップを使わないのでごみの削減にはなりませんが、マイカップやマイボトルを持ってくることを楽しんでほしいと、エコカップの販売を始めたときから続けています」(吉田氏)
ミニマルなデザインの「ブルーボトルエコカップ」は、Ecoffee Cup®のエコカップを採用。発売以来、土の中で分解可能なバンブーパウダー(竹の繊維)を使用する特別仕様に。ミニマルなデザイン、ニオイを吸着しづらいシリコン素材の蓋など、コーヒーをよりおいしく楽しむための細部のこだわりにブルーボトルコーヒーらしさを感じる。
「マイカップやマイボトルを持ってくることを“ゲーム感覚”で楽しんでもらうために『マイカップスタンプカード』を配布したりして。スタンプが5つ貯まると次回のマイカップを使用したご注文時にドリンク1杯をプレゼントという企画を2023年のアースマンスで実施したときは、通常よりもずっと多くのご利用がありました」(吉田氏)
「本当の意味で環境負荷を減らすとはどういうことかを考えて、アメリカの店舗では『廃棄ゼロ』のカフェを実験的につくろうとした」という、ブルーボトルコーヒー。
サンフランシスコの店では、コーヒーかすや食品廃棄物を堆肥化するなどして、2021年に廃棄ゼロを達成した。そしてこの成功例にならい、2022年時点でアメリカのすべての生産拠点で廃棄ゼロのオペレーションを実現している。
廃棄物削減とともに推進しているのが、温室効果ガス排出削減の取り組みだ。そして、その代表格とも言えるのが、オーツミルクのオプション無料化といえる。
従来の乳製品より二酸化炭素の排出量が少なく、環境への負荷が低いことで植物性ミルクの市場が世界的に急成長している。その時流に乗って、アメリカのブルーボトルコーヒーでは2021年よりオーツミルクの標準提供をスタートした。2018年にはカフェで飲まれているミルクの4分の1以下だったのが、いまでは大半を占めるほど植物性ミルクは市民権を得た。
ブルーボトルコーヒーが採用しているMinor Figures(マイナーフィギュアズ)のオーツミルク
そして日本のブルーボトルコーヒーがはじめてオーツミルクを導入したのが、2020年のことだ。当時、欧米に比べて植物性ミルクの普及が進んでいない日本で、納得のいくオーツミルクを見つけるのは苦労したと、グローバルプロダクトマネージャーのブサト麻紀子氏は話す。
「私たちは“コーヒー屋”なので、自分たちのコーヒーとの相性が大事なポイントになります。コーヒーに負けないくらいのおいしさが成り立つものを模索しているなかで、アジアでの展開を始めたばかりの『Minor Figures(マイナーフィギュアズ)』に出会いました」(ブサト氏)
オーツミルク単体のおいしさと、ラテアートでのきめこまかなテクスチャー。バリスタが太鼓判を押すほど理想的なオーツミルクだったそうだ。
「決め手となったのは、何事も楽しむ発想力ですね! ブランドのカルチャーに共感しました」と、ブサト氏は話す。カーボンニュートラル、B-Corp認証取得、100%植物由来など、“環境へのやさしさ”をダイレクトに伝えることもできるはずです。しかし、マイナーフィギュアズは、「楽しいことをしよう」「おいしいオーツミルクを飲もう」と呼びかけていたという。
「ブルーボトルコーヒーも想いは同じ。ゲストの方においしいコーヒーを楽しんでいただくことに一番の喜びを感じています。みんなで楽しいことをした結果として、社会や環境によい行動に結びついているという自然な流れを大切にしています」(ブサト氏)
そして、日本では2023年7月よりにカフェラテやカプチーノなどのドリンクでのオーツミルクのカスタム無料化を開始。業界に先駆けて無料化を始められたことを、吉田氏は「おいしさが伝わった結果」と振り返る。
「実際、これまでに無料化のトライアルを繰り返してきた。2023年にオーツミルクの無料化を行ったところ、利用者が通常の4倍近くに増加。2024年1月には、代官山カフェでアメリカのようにオーツミルクを標準提供してみたところ、半数以上の方はそのままオーツミルクをご利用いただきました。そして無料トライアル期間が終わった後も、多くの方にオーツミルクをお楽しみいただいています」(吉田氏)
オーツミルクに興味を持っていたけれど、どんな味なのか試す機会がなかったり、二の足を踏んでいたりした人にとって、無料化はオーツミルクを楽しむ習慣を広める確かな一歩になった。
ちなみに、吉田氏おすすめのオーツミルクを使った飲み方は、ブレンドにオーツミルクのラテを合わせる方法。または、ジブラルタル(エスプレッソに同量のスチームミルクを加えたブルーボトルコーヒーのオリジナルのドリンク)にオーツミルクを使用すると、さっぱりとした味わいになるそうだ。
オーツミルクと同様に、プラントベースフードの取り組みも進めている。プラントベースの「レモンカルダモンケーキ」や、「オーバーナイトオーツ」などの提供も行った。とくに外国人ゲストなどから「植物性のメニューは?」「グルテンフリーのメニューが欲しい」と問い合わせがあることも多いという。それらの声にこたえて、プラントベースフードの開発も進めているところだ。
ただ、実際はブルーボトルコーヒーの求めるおいしさを考えると、レギュラーメニューとして登場するまでは至っていない。しかし、ブルーボトルコーヒーでは「ウェルカム・エブリワン」という考えを芯にすえており、あらゆるゲストの声にこたえていった結果、プラントベースフードやグルテンフリーフードも、いずれ揃っていくと期待できるだろう。
Photo by Kenta Hasegawa
ブルーボトルコーヒー 代官山カフェ
サステナビリティにかける熱意に共感する仲間の輪は少しずつ広がりを見せている。
コスメティックブランド「SHIRO(シロ)」とともに不要になった製品を回収する箱を期間限定でカフェに設置するなど、業界の垣根を越えて“楽しい”サステナブルなライフスタイルの実現に乗り出した。
さらに、製造拠点である北砂ファクトリーと一部のカフェで再生可能エネルギーを導入。これによって、日本国内のブルーボトルコーヒーで提供されるコーヒーの焙煎やペイストリーの製造は、化石燃料を使用せず二酸化炭素を排出しない持続可能エネルギーでまかなわれることとなった。
また、世界のコーヒー豆生産量の約6割を占めるアラビカ種の栽培に適した地が半減するという「コーヒー2050年問題」を見据え、2023年にはロブスタ種を使用したブレンドの発売を開始。サプライヤーやパートナーとも持続可能な関係を維持できるような取り組みも進めているという。
新しいことを始めるときは、できるだけ小さな一歩から始めることが長続きの秘訣だったりするものだ。目標が大きければ、なおのこと。ブルーボトルのコーヒーで「おいしい」「楽しい」という身近な喜びを味わってみる。お気に入りのカップを持ってお茶しに行くことなら、今日からサステナブルを始められそうだ。
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