コーヒーが飲めない日が来る?「コーヒー2050問題」の原因と対策を考える

私たちの日常に欠かせないコーヒー。このまま地球温暖化が進むと、25年後にはいまのような値段でコーヒーが飲めない日が来るかもしれない。「コーヒー2050年問題」の原因とリスク、私たちがいまからできる対策についてみていこう。

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2024.02.23
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「コーヒー2050年問題」とは

「コーヒー2050年問題」とは、世界のコーヒー豆生産量の約6割を占めるアラビカ種の栽培に適した地域が2050年までに半減するというもの。

国際調査機関のワールド・コーヒー・リサーチ(以下WCR)が発表したもので、地球温暖化による気候変動により、気温や湿度の上昇、「さび病」の流行、干ばつなどが発生し、これまでコーヒー栽培に適していた土地が適さなくなってしまうことが原因だ。

2050年には下の図のように栽培地が大きく減少してしまうとされている。

温暖化で減少するコーヒー生産地の図 link

Photo by 朝日新聞

「コーヒー2050年問題」による懸念

栽培適地の減少によって、コーヒー生産量の減少や品質の低下、コーヒー生産農家の貧困、さらにコーヒーの価格の高騰といった問題が引き起こされることが懸念されている。

アラビカ種で75%減、ロブスタ種で63%減という報告も

コーヒーはアカネ科コーヒーノキ属の数種の総称で、果実を加工してつくられる。飲用に栽培されるコーヒーの品種は「三大原種」と呼ばれるアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種の3つ。リベリカ種は栽培地域が少なく、コーヒー豆全体の流通量の1%以下。私たちが口にするコーヒーは、残る2種で占められている。

アラビカ種は高品質で味のバランスが良く、流通しているコーヒー豆の半数以上を占める。"コーヒーの王様"と呼ばれるブルーマウンテンもこの品種で、風味や香りに優れる。しかし、コーヒーの木の大敵である「サビ病」という病気に弱く、土壌も選ぶ。標高900m以上の高地で栽培され、育てるのが難しく、手間がかかる品種だ。WCRの報告書によると、2050年までにアラビカ種の栽培に適した土地が75%も失われる(※1)。

ロブスタ(カネフォラ)種はアラビカ種に次いで多く生産されており、苦みが強いのが特徴。インスタントコーヒーや缶コーヒーなどの原料に多く使用されている。アラビカ種に比べて病虫害に強く、標高300mの低地でも栽培できる品種。同報告書によると、2050年までに生産可能地域の63%が失われるという(※1)。

「コーヒー2050年問題」で懸念される3つのこと

コーヒー豆を選んでいる様子

Photo by Milo Miloezger on Unsplash

1.コーヒー生産量の減少と品質の低下

コーヒーは繊細で栽培適地が限られる

良質なコーヒーの栽培条件には、昼夜の寒暖差や適度な降雨量、標高が必須。その条件が揃っているのが、「コーヒーベルト」と呼ばれる、赤道をはさんで北緯25度から南緯25度の間だ。コーヒーは寒さに弱く、日光を好むものの強すぎるとダメージを受け、乾燥に弱いが水はけのいい肥えた土壌を好む。

生産地ではすでに気候変動の影響が

繊細で育てるのが難しいコーヒーは、地球温暖化による気候変動によって大きな影響を受けてしまう。産地ではすでに、雨季と乾季が乱れ境目がなくなってきていたり、温暖化により昼夜の寒暖差が減る、干ばつが起きる、サビ病などの病気が発生する、といった問題が起き始めている。

現在のような温暖化と気候変動が続けば、コーヒーの栽培に適した土地が減り、生産量の減少はもちろん、良質なコーヒー豆がつくられなくなってしまう。おいしいコーヒーが飲めなくなる日も遠くないかもしれない。

2.コーヒー生産農家の離農と貧困

コーヒー農家の多くが小規模

コーヒーは世界70カ国以上で生産され、約2500万世帯が従事する巨大産業。そしてその多くが栽培地面積5ヘクタール以下の小規模農家であり、主な産地は中南米やアフリカなど貧困問題を抱える発展途上国だ(※2)。

小規模な農園を経営する農家ほど、少しの自然災害でも大きなダメージを受けてしまう。干ばつやサビ病により品質が低下する、もしくは出荷量が減少すれば、収入は大きく減る。貧困地域ではそういった経済的ダメージに耐えうる蓄えは難しく、生活苦に直結する。

収入より上回る農薬などのコスト

さらに、不安定かつ低水準で推移するコーヒー豆の国際取引価格と、高騰する農薬も農家を苦しめている。2006年から2015年の10年間で、コーヒー豆が生産コスト以下で売られていたというケースもあり(※3)、コーヒー農家はコーヒーから十分な収入が得られず、貧困と隣り合わせの生活を強いられている。

農薬を買うことができず、不適切な農園管理による「さび病」のさらなる拡大も懸念されている。持続可能な栽培ができないことから、生産者の離農が増え、さらなる栽培地減少が起きてしまうのだ。

3.コーヒーの価格高騰

止まらない消費量の増加

「コーヒー2050年問題」が予想通りに進んでいくと、私たちが気軽においしいコーヒーを飲めなくなる日が来るかもしれない。生産量の減少が懸念される一方、世界全体のコーヒーの消費量は年々増加傾向にあるからだ。

増加するコーヒーの世界生産量と消費量のグラフ link

Photo by 朝日新聞

さらに中国をはじめとするアジアでの消費も増え続けており、これまでの需要と供給のバランスが崩れ、コーヒー豆の価格の大幅な高騰が起こり得る。

「コーヒー2050年問題」を回避するための対策は?

対策1.二酸化炭素排出量の削減への取り組み

風力エネルギー生産の様子

Photo by Tyler Casey on Unsplash

「コーヒー2050年問題」の一番の原因とされる地球温暖化による気候変動。その食い止めがもっとも必要な対策だ。

世界的な動きでは、2015年のパリ協定の採択によって、二酸化炭素排出量の削減に向けた具体的な取り組みを、先進国だけではなく世界中の参加国すべてが求められた。2015年9月の国連サミットにて採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」では、2030年までに達成するべき17の目標のうち、13「気候変動に具体的な対策を」が設定されている。

先進国・開発国を含めたすべての国々の、政府だけでなく企業や個人も、具体的な取り組みが求められているなかで、日本や中国をはじめとする二酸化炭素排出上位国の多くが、政府主導でカーボンニュートラルを推進している。達成目標時期を明らかにしたうえで、さまざまな取り組みを行っている。

【2023年最新】二酸化炭素排出量の最新ランキング 日本の順位や排出状況とは

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対策2.フェアトレードなど適正価格での取り引き

コーヒー豆のフェアトレード

Photo by Niclas Illg on Unsplash

コーヒー農家が持続的に生産できるよう、コーヒー豆の販売価格の適性化も求められる。

コーヒー豆の価格はニューヨークとロンドンの先物取引市場で基準となる国際価格が決められており、生産者に価格決定権がない。ブラジルなどの大規模コーヒー農園による大量生産の影響から、コーヒー豆の取引価格の伸び悩みや低下が起こっており、生産量の少ない小規模農園は影響を受けている。

例えばコロンビアの農家では125キロのコーヒーを生産するのに220ドルのコストがかかっているが、彼らがコーヒーの買い付け業者から受け取っている金額は平均210ドル。つまり、生産すればするほど赤字が増える状態だ(※4)。

国際フェアトレード基準では「フェアトレード最低価格」が定められており、国際市場価格がどんなに下落しても、輸入業者は「フェアトレード最低価格」以上を生産者組合に保証しなけれならない。

また、フェアトレードの際に個々の小規模農家がまとまり生産者組合をつくることで、協力しあい生産能力を高める、市場とつながることで交渉力を身につける、フェアトレードによる利益で地域社会を発展させていく、といった利点も生まれる(※5)。

いち消費者である私たちが、フェアトレード認証を受けているコーヒーを積極的に消費するというアクションを起こすことで、コーヒーの適正価格での取り引きを推進させるきっかけとなる。

フェアトレードとは 仕組み・基準・認証をわかりやすく解説

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対策3.新種のコーヒー豆の開発

栽培条件が厳しく繊細なアラビカ種の新種開発も対策のひとつ。東京に本社を置くコーヒーの製造・販売会社「キーコーヒー」はWCRとともに、高温や病気に強く、収穫量や風味も優れた品種の開発を始めている。同じアラビカ種でも品種によって育つ環境や気候、病気に対する耐性が異なるからだ。

また、時間とお金の投資が難しい小規模農園に代わり、WCRでは「新5ヵ年戦略」を設け、病気や気候の変化に強い新種の開発や生産性向上のための技術開発に取り組んでいる。

コーヒーを取り巻く問題とSDGs

SDGsの開発目標のアイコンが並んでいる様子 link

Photo by 日本ユニセフ協会

2015年9月の国連サミットにて採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」とコーヒー産業が抱える問題は大きく関係している。2030年までに達成するべき17の目標のうち、深く関わるものをみてみよう。

目標1「貧困をなくそう」| 目標2「飢餓をゼロに」

SDGs目標1と目標2のアイコン

生産コストよりも販売価格が下回るといったコーヒー豆産業を取り巻く現状は、コーヒー農家の貧困や飢餓を生み出している。そこに気候変動や異常気象による影響が加わると、収穫量の減少が追い討ちをかける。

さらに、「コーヒー2050年問題」により栽培適地がより標高の高い場所へ移っていくと、従来の生活圏から離れることにより病院や学校へのアクセスが難しくなる。山の上では栽培できる面積が減るため、生産量の確保が難しく、さらなる収入減につながるという問題も。

金銭的にも物理的にも、日々の生活がより困窮してしまうという現実がある。目標1「貧困をなくそう」は、コーヒー生産者にとっても対策が必要な目標のひとつだ。

目標8「働きがいも経済成長も」

SDGs目標8のアイコン

この開発目標では、一人ひとりが働く喜びを感じられる仕事の整備・提供が必要だとしている。コーヒー豆の生産現場においては、生産者側に価格の決定権がなく、国際市場価格に連動した低い金額で取り引きされてしまう。収入よりコストが下回ってしまうケースもある。どんなにおいしく良質なコーヒー豆をつくっても価格に反映されづらい。

これでは働く意味がないし、努力や工夫で質を上げるメリットもなく、やりがいも感じられない。彼らの権利が保護され、適切な対価を得ることができたなら、いまよりも豊かで幸福なコーヒー産業の発展を続けることができるだろう。

また、目標8では、「2025年までにあらゆる形態の児童労働をなくす」というゴールも設定されている。コーヒー農家では収益が少なく安定しないため、父親は都市部に出て働き、農村部に残された女性や子どもたちがコーヒー豆の栽培にあたるという現状もある。コーヒーによる収入が安定して確保されることで、多くの児童労働問題が解消される。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

SDGs目標13のアイコン

「コーヒー2050年問題」は気候変動の影響によるもの。SDGsの開発目標13は「コーヒー2050年問題」の解決に直結する。

目標15「陸の豊かさも守ろう」

SDGs目標15のアイコン

コーヒーの栽培には熱帯雨林の伐採という森林破壊の問題がついてまわる。気候変動によりコーヒーの栽培適地が変化し、より標高の高い場所へと移動すると、新たな栽培地開拓のために森林が伐採される可能性が出てくる。現在のコーヒー栽培地域を守ることは、目標15「陸の豊かさも守ろう」にもつながるのだ。

身近な嗜好品から地球環境について考える

コーヒーは私たちの生活に欠かせない身近な嗜好品だ。しかし、コーヒーが生産される赤道直下の遠い地域で起きていることについて、私たちは知らないことが多い。

「コーヒー2050問題」を知ることで、すでに生産地で起きている環境問題について知り、農家の現状を知り、地球が直面している危機を目の当たりにすることができる。コーヒーを飲むたびに、"これを守るために自分になにができるか"、"コーヒーをつくる人たちの生活と幸福のために何ができるか"を考える。それだけでも、日々の行動が少し、変わってくるのではないだろうか。

※掲載している情報は、2024年2月23日時点のものです。

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