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2024年を目標に、国際的なプラスチック規制の枠組みをつくることを目指す「国際プラスチック条約」。本記事では、国際プラスチック条約の目的や背景、内容を説明しながら、各国の取り組みやSDGsとの関係などについて解説していく。
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国際プラスチック条約とは、2024年を目標に、国際的なプラスチック規制の枠組みをつくることを目指す条約のこと。
2022年2月から3月にかけて開催された第5回国連環境総会再開セッションで、海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する法的拘束力のある条約について議論するための政府間交渉委員会(INC)を立ち上げる決議が採択された(※1)。
国際プラスチック条約では、単にプラスチックを減らすことを目的にしているわけではない。
プラスチック製品における原材料の採取から生産、設計、使用、廃棄にいたる「ライフサイクル・アプローチ」を通じて、プラスチック汚染をなくすことを目指している(※2)。
プラスチック削減に対する取り組みは世界中で実施されているが、なぜいま国際プラスチック条約が求められているのだろうか。プラスチック汚染がもたらしている地球への悪影響に触れながら解説していこう。
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1950年以降、プラスチックの生産量は急激に増加。それにともない、プラスチックごみも増加している。プラスチックのなかには分解されるまでに数百年を要するものあり、地球の生態系や野生動物、私たちの健康や世界経済に深刻な影響をおよぼしている。
海洋や河川に流出したプラスチックは、「マイクロプラスチック」となり、海洋生物がエサと間違えて食べてしまい、生態系に悪影響をおよぼすことが懸念されている。さらに、マイクロプラスチックの影響を受ける海洋生物が増えることで、それらを食す人間にも何かしらの悪影響をおよぼすことも懸念されているのだ。
現在は年間約800万トンもの廃プラスチックが陸上から海洋に流れているといわれており、世界経済フォーラムの報告書(2016年)によると、2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量は魚の量を超過すると予測されている。
1950年から2015年までに生産されたプラスチックは、世界中で83億トンを超え、そのうち63億トンが廃棄されている。
しかも、プラスチックはリサイクル率が低く、回収された廃プラスチックのうちリサイクルされているものは約9%。12%が焼却、79%が埋め立てまたは海洋などの自然環境へ投棄されていると推測される。
適切に処理されていないケースも多く、多くの国でリサイクル施設が不足していたり、処理能力が追いついていなかったり、プラスチックごみのリサイクルや廃棄処理において課題を抱えているのが現状だ。現状のペースでは、2050年までに120億トン以上のプラスチックが埋め立てまたは自然投棄されると予測されている(※3)。
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プラスチックに関する環境問題と聞くと、先述した「海洋プラスチック問題」のイメージが大きいが、実は気候変動にも悪影響をもたらしている。
一般的なプラスチックの製造には石油をはじめとする化石燃料が必要で、製造過程でのCO2排出が地球温暖化をはじめとする気候変動問題に影響を与えていると問題視されているのだ。
また、一般的なプラスチック製品の原料となる石油は有限であり、エネルギー分野でも枯渇が懸念されている。そのような背景もあり、プラスチック製品の再利用や循環型社会の実現が求められているのだ。
国際プラスチック条約の内容は多岐にわたるが、主な取り組みは以下の通り。
・ プラスチックの削減、リサイクル、リユース
・ 製品設計、生産、廃棄における規制
・ マイクロプラスチック対策
・ 各国の責任と協力
・ 途上国への支援
・ 情報共有、技術協力
主な取り組みについて、もう少し詳しく説明しよう。
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プラスチックごみの処理・廃棄問題だけに焦点をあてがちだが、プラスチック汚染の主な原因は、プラスチック生産量の増加だといわれている。
国際プラスチック条約では、製造時のCO2排出が気候変動問題にもつながることから、使い捨てプラスチック製品の段階的な廃止と代替素材の促進など、プラスチックの生産や使用を制限し、環境負荷を減らすことを目指している(※2)。
国際プラスチック条約では、原材料の採取から生産、設計、使用、廃棄にいたるライフサイクル全体を通じて、プラスチック汚染をなくすことを目指している。
そこでプラスチックのリサイクル技術の向上のため、各国でリサイクル施設の整備支援、循環型経済の実現に向け、安全なリサイクルを可能とする製品設計、プラスチックの再利用や代替素材の活用を推奨するなどしている(※4)。
現在、多くの廃プラスチックが東南アジアへ輸出されている。しかし、処理技術が確立していない国では処理が行われず、廃棄されたプラスチックがそのまま海に流出しており自然環境に大きな悪影響与えていると言われる。
国際プラスチック条約では、プラスチックごみの不適切な処理を防ぐため、輸出入の管理を厳格化、国際協力による廃棄物の追跡システムの構築なども求めている。
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国際プラスチック条約では、生産、設計、使用、廃棄のすべてを見直し、循環型経済を推進することで、プラスチック製品のライフサイクル全体にわたって、環境への影響を減らすことを目的としている。
最終的なゴールは、「2040年までにプラスチック汚染を根絶すること」。循環型経済ソリューションを最大限活用し、プラスチック汚染を根絶できれば、人間を含む地球の生態系や野生動物、地球温暖化をはじめとする気候問題、世界経済などへの、これ以上の悪影響をストップすることができる。
ここからは、国際プラスチック条約の課題について見ていこう。
まず挙げられる課題が、技術的な課題である。
プラスチックのリサイクル技術や代替素材はコストが高く、再生材のほうがバージン材よりも価格が高くなってしまうため、なかなかリサイクルが進まない。
プラスチックリサイクルや代替素材、再生材の普及が進み、需要が増えることでコストダウンも期待できるので、普及に向けた技術革新が必要である。
国内事情や利害関係により、各国の法整備がスムーズに進まず、足並みが揃わないのも課題のひとつだ。
とくに途上国は、プラスチック汚染の影響を受けやすい上、対策に必要な資金や技術が不足している。そのため、先進国が途上国へ援助や技術革新の機会を提供することも求められている。
国際プラスチック条約は、法的拘束力を持つものとしてその効果が期待されているが、監視体制や罰則規定が整備されておらず、実効性に乏しい点が懸念されている。
また、プラスチックを活用することによる企業の経済的利益が大きいこともあり、日本をはじめ各国政府も手を出すことが難しいのではないかと考えられている。
たとえ条約ができても、目指すゴールが市民レベルまで降りてきていないと、ゴールを達成することはなかなか難しい。
たとえば、日本人は自分たちを「クリーン」「エコ」だと思っていることが多いが、実はプラスチックごみの排出量はアメリカに次いで世界2位。日本人の問題意識は希薄であり、世界から取り残されつつある。
条約とともに、市民の意識改革と行動変容を促す必要があるだろう。
国際プラスチック条約とSDGsの関係についても見ていこう。
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」では、海を取り巻く問題の解決に焦点を当てている。
具体的には、サンゴ礁壊滅の危機を食い止めることや、プラスチックごみによる海洋資源や生物の減少を食い止めることなどを目指しており、国際プラスチック条約がゴールとしている「プラスチック汚染の根絶」は、この目標達成を支援する役割がある。
プラスチック生産量の削減やリサイクル技術の向上などの取り組みによってマイクロプラスチックを減らすことは、海洋生態系への配慮と保護の取り組みにもつながる。
SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」は、生産者は持続可能な方法で生産し、消費者は責任を持って消費することの大切さを伝えている。
国際プラスチック条約は、生産から消費、廃棄までのサプライチェーン全体での持続可能性の追求や、持続可能な素材と再利用の促進により、責任ある生産と消費を実現するための追い風となるだろう。
世界中で脱プラスチックの動きが加速している。ここからは、国際プラスチック条約に関連する各国の取り組みをいくつか紹介しよう。
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プラスチックごみをはじめとした環境問題に対して高い意識を持っていることで有名なEUでは、2019年に使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案が可決され、皿、カトラリー、ストロー、コップ、発砲スチロール製食品容器などの代替可能なアイテムが2021年7月から規制対象となった。
さらに、プラスチックボトル回収率を2029年までに90%、リサイクル材料含有率を2025年までに25%、2030年までに30%といった明確な循環経済アクションプランも掲げ、それぞれの加盟国で脱プラスチックへの取り組みが活発に行われている(※5)。
日本では、2019年に環境省が「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定。廃棄物処理制度によるプラスチックごみの回収・適正処理の徹底や、海洋流出しても影響の少ない素材の開発や、そのような素材への転換など、イノベーションの促進などを掲げている(※6)。
そのほか、2022年4月には「プラスチック資源循環促進法」を施行。プラスチック使用製品製造事業者に対し、製品の設計段階における3R+Renewableの取り組みが要請されている。
韓国は、1人あたりのプラスチック廃棄量が世界第3位。これを受けて韓国では、2030年までにプラスチック廃棄量を50%以上減らし、リサイクル率を70%以上まで引き上げることを目標に設定している。具体的には、家庭で出た資源ごみを指定日時に仕分け場に持っていくと、ごみ袋が1枚もらえる、などの取り組みを実施している。
世界最大のプラスチック消費国である中国では、「プラスチック汚染改善行動計画」を2021年9月に発表。小売り、オンライン取引、飲食、ホテルなどでの使い捨てプラスチック製品の使用を減らすように求めるなど、2025年までにプラスチックごみを削減するための目標や、ライフサイクル全体を通してプラスチック製品の管理を強化する取り組みを記している(※5)。
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アメリカでは、プラスチックへの規制は州や自治体ごとに異なる。
ニューヨーク州は2020年3月1日から、州内の小売店や食料品店などで使い捨てプラスチック製レジ袋の使用を禁止している(※7)。
また、アメリカ国内でもトップクラスの厳しい基準で環境保全に取り組むカリフォルニア州では、2026年1月1日から、州内の食料雑貨店でのプラスチック製レジ袋を全面禁止することが決まっている。現状では、消費者が小売店でレジ袋を必要とする場合、再利用とリサイクルが可能な厚手のプラスチック製レジ袋、または紙袋のどちらかを選べることが多いが、法改正により、2026年からはレジ袋が必要な場合、再生紙を利用した紙袋のみが選択肢となる(※8)。
さらに、「プラスチック汚染防止および包装材生産者責任に関する法」により、2032年までにすべての使い捨てプラスチック包装材や食品容器を、リサイクルまたは堆肥化可能なものにすることやその65%を実際にリサイクルすることが定められた(※9)。
「プラスチック汚染根絶」という条約のゴールに辿り着くために、私たちには何ができるだろうか。
まず大切なのは、プラスチック汚染に関する正しい知識を身につけることだ。
プラスチック汚染によって悪影響を受けるのは、ニュースで取り上げられている海洋生物だけではない。地球環境そのものや海洋を含む多くの生物、そして人間の健康にも影響をおよぼす可能性がある。
そのほか経済にも影響があることなど、ニュースやネットで流れてくる情報を受け取るだけでなく、自らプラスチック汚染に関する正しい知識を身につけるため調べてみることも重要である。
プラスチック製品は軽くて丈夫で、何かと便利だ。しかし、その“便利だから”の積み重ねで、プラスチック汚染は現在の危機的状況まで進んできてしまった。
たとえば、「これまではレジ袋を使っていたが、いまではエコバッグに慣れた」という人も多いのではないだろうか。これまで当たり前に使っていたプラスチック製品も、ちょっと意識を変えることで使わずに済むものもある。
いま一度“当たり前”に目を向けて、本当にプラスチック製品でなくてはダメか、リサイクルする方法はないのかなど、自分の生活を見直してみることも大切だ。
プラスチック汚染根絶のために何をしたらいいのか考えることももちろん大切だが、とにかく行動を起こすことも同じくらい重要だ。
「ペットボトルではなくマイボトルを使う」「カフェに行ったらマグカップで飲む」など、小さなことでもOK。思いついたことから行動に移してみよう。
プラスチックにまつわる世界各国のルールを変え、脱プラスチックの救世主となり得る国際プラスチック条約。この条約ではプラスチック製品のライフサイクル全体を通じて、プラスチック汚染をなくすことを目指しているが、そのなかには、我々の使用や廃棄も含まれている。まずは買い物時などに「プラスチック製品を選ぶ必要があるか」を自問するなど少しずつ意識を変えて、できることから行動してみよう。
※1 海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する条約|環境省
※2 現在のプラスチック条約交渉に関する5つのポイント|国連大学
※3 プラスチックを取り巻く国内外の状況(7ページ目)|環境省
※4 国際プラスチック条約とは - なぜ今必要とされているのか?条約の目的と背景をまとめて解説!|ブルードットグリーン
※5 日本人のプラごみ廃棄量は世界2位。世界の「脱プラスチック」の動き|日本財団ジャーナル
※6 「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について|環境省
※7 NYでプラ製レジ袋有料化スタート 施行初日、本当にレジ袋は消えたのか?|Yahoo!ニュース
※8 米カリフォルニア州で2026年からプラスチック製レジ袋が全面禁止へ(米国)|ジェトロ
※9 プラスチック規制をめぐる国際動向|HRガバナンス・リーダーズ株式会社
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