マイクロビーズとは 問題点と進む世界各国や企業の対策

スプーンに色とりどりのアイシング

Photo by Alexander Grey on unsplash

マイクロビーズは、0.1mm以下の小さなプラスチック粒子。これまで化粧品や日用品に添付されてきたが、環境や人体への影響が懸念されている。世界でマイクロビーズの使用規制が進むなか、日本ではどう対処しているのか。マイクロビーズの問題点や各国、企業の対策をまとめた。

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2024.05.27
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マイクロビーズとは

赤や青や黄のプラスチックストローロット

Photo by FlyD on unsplash

マイクロビーズとは、ポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチック素材でつくられた非常に細かい形状のビーズで、マイクロプラスチックの一種だ。大きさは数ミクロン(μm)から数百ミクロン(0.001mm∼0.1mm)で、目に見えないほど小さい。

マイクロビーズは、化粧品や洗剤などの日用品に配合されているが、使用後に排水されると、川や湖、海に流れ着き、環境のなかに残留する。その結果、海洋生物や自然環境に有害な影響を与える可能性がある。

また、人体に対する影響も懸念されている。具体的な健康被害はまだ明らかになっていないが、マイクロビーズが含まれた製品を使用することにより、洗い流しきれなかった粒子が体内に残る可能性がある。それが蓄積され続けると、血管や消化器官などを傷つける可能性も懸念されている。

マイクロプラスチックによる人体への影響 心臓・肺・血液から検出される

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マイクロプラスチックとの違い

マイクロプラスチックとは、大きさが5mm以下の微細なプラスチック類の総称だ。発生源により、次の「一次的マイクロプラスチック」と「二次的マイクロプラスチック」に分類できる。特定の用途のために最初から小さくつくられたマイクロビーズは、「一次的マイクロプラスチック」に該当する。(※1)

一次的マイクロプラスチック

一次的マイクロプラスチックとは、最初から微小サイズ(5mm以下)で製造されたプラスチックのこと。主にスクラブ剤として洗顔料や歯磨き粉などの製品に配合されている。

マイクロビーズの微粒子は、通常の排水処理施設では除去することができない。一度環境に放出されると回収が困難で、生活排水と一緒に家庭の排水溝から海や川へと流出し、環境のなかに存在する微量な化学物質を吸着し、プランクトンや魚に摂取されてしまう。

一部の国々では、一次的マイクロプラスチックの規制が始まっており、日本では、業界団体による自主規制の動きが進んでいるものの、法律で禁止されているわけではない。(※2)

二次的マイクロプラスチック

二次的マイクロプラスチックとは、最初は大きなサイズで製造されたプラスチックが5mm以下に破砕・細分化したもの。具体的には、不法投棄や正しい手順で廃棄されなかったビニール袋やペットボトルなどが、紫外線や波、石や砂にさらされて劣化し、細かく砕かれてマイクロサイズになったものだ。

マイクロビーズが含まれる製品とは

化粧ブラシとピンクの粉

Photo by Joanna Kosinska on unsplash

マイクロビーズは、さまざまな製品に使用されている。たとえば、肌の表面を滑らかにするために洗顔料に添加されたり、肌の古い角質を取り除くためにスクラブ剤にも添加されている。

歯磨き粉にも、マイクロビーズが含まれている。これらは歯の表面を磨くために使用され、歯垢や汚れを効果的に取り除くとされる。洗浄力を高めるために、洗剤にも使用されたり、なめらかな質感を出すために、ファンデーションにも使用される。

マイクロビーズの成分表示

マイクロビーズを含む製品の成分表示は、通常、製品のパッケージやラベルに記載されている。

たとえば、化粧品に使用されるマイクロビーズ(ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、シリコンなど)は、 商品の成分表に「ポリエチレン末」「ナイロン-12」「コポリマー」「クロスポリマー」などと表記されている。(※3)

ただし、メーカーによっては異なる成分表示の名称を使用することがある。その場合は、メーカーに聞くしかないのが実情だ。マイクロビーズが含まれている製品を避けるためには、自分が使っている商品に何が入っているのか確認しよう。

マイクロビーズの問題点とは

水に浮かぶペットボトル

Photo by Naja Bertolt Jensen on unsplash

マイクロビーズが問題視されるのには、以下のような理由が挙げられる。

環境への影響

マイクロビーズは、ほとんどの廃水処理システムでは回収が困難であるため、使用後に排水されると川や湖、海に流れ着く。そして自然分解がされないため、一度自然界に流出してしまうと数百年間以上に渡って残り続けてしまう(※4)。これらの微粒子が与える生態系や環境への影響はまだ完全には解明されていないが、マイクロビーズを含む製品の使用を避け、環境への影響を最小限に抑えることが求められている。

人体への影響

マイクロビーズが含まれた製品を使用すると、洗い流しきれなかった粒子が体内に残る可能性がある。これらの微粒子は、皮膚だけでなく口内や、洗顔の際に目に入ってしまったりすることも考えられる。

また、マイクロビーズが海や川に流出すると、水のなかに住む生き物たち何らかの形で摂取してしまう。これらの生物が人間の食物連鎖に組み込まれると、人間がマイクロビーズを間接的に摂取することになる。

マイクロビーズの表面には重金属やダイオキシンなどの有害物質が付着しやすいこと、また、食品中のマイクロビーズを摂取することで、マイクロビーズのなかに蓄積する汚染物質が体内組織のなかに移行する可能性があることが研究でわかっている。

さらに、最近の研究では、健康な人々の血液や肺、心臓からマイクロプラスチックが検出されている。これは、マイクロビーズが人体の内部に侵入し、体内で移動する可能性を示す。

マイクロプラスチック問題とは 各国の対策と企業の取り組み事例24選

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生態系への影響

マイクロビーズは海水よりも軽いため、海洋環境において広く浮遊・拡散し、プランクトンによって摂取される。プランクトンは海洋生物によって摂食され、海洋生物の体内に蓄積すると、成長が阻害され、広範囲にわたる海洋環境や海洋生態系にリスクをもたらす可能性がある。

東京農工大学が、東京湾に生息するカタクチイワシ64尾の体内を調べたところ、80%程度の49尾からマイクロビーズが検出されたとの報告がある(※5)。

また、マイクロビーズは環境中の化学汚染物質を吸着する性質があり、これが生物の体内に入れば影響を及ぼす。たとえば、マイクロビーズを摂取した海鳥のカルシウムや血中コレステロールの値が正常でないことがわかっている(※6)。カルシウムの値が低いと卵の殻が薄くなり孵化率が低下し、血中コレステロール値が高いとさまざまな病気の原因となる。

世界各国のマイクロビーズへの対策

世界では、マイクロビーズの環境・人体・生態系への悪影響を防ぐため、規制を設ける国が増えている(※7)。代表的な国の例を見ていこう。

アメリカ

アメリカでは、2015年12月28日に当時の大統領バラク・オバマが「マイクロビーズ除去海域法」という法案に署名し、マイクロビーズを含む化粧品類の製造や流通を全面的に禁止する法律が成立した。具体的には、2017年7月にマイクロビーズを使用した水で洗い流すことができる化粧品(歯磨き粉含む)の製造が禁止され、2018年6月には販売が全面禁止となった。

EU

EU(欧州連合)では、2023年10月17日からマイクロプラスチック添加製品の原則販売が禁止された。その対象は、マイクロビーズ(研磨粒子としてのマイクロビーズ)を含む化粧品や洗剤、柔軟剤、シャボン玉のキラキラのような玩具に含まれるマイクロプラスチック、人工芝などのスポーツ施設の表面を覆う顆粒インフィルなど、広い用途に対して直接規制されることになった。(※8)

フランス

フランスでは、2018年1月にマイクロビーズを含む洗い流し(リンスオフ)化粧品の製造、市場への投入が禁止されている。(※7)

イギリス

イギリスでは、2018年1月にマイクロビーズを含む製品の製造を禁止し、同年7月には、マイクロビーズを含む水で洗い流せる化粧品類とパーソナルケア製品の販売を禁止する法律が施行された。

カナダ

カナダでは、2018年7月までにマイクロビーズを含むトイレタリー製品の製造、輸入、販売を禁止しており、2019年7月からは、マイクロビーズを含む自然健康製品の輸入、販売も禁止となった。(※9)

韓国

韓国では、2017年に5㎜以下のマイクロプラスチックを含む化粧品の製造・流通が禁止され、翌年には販売も禁止になった。さらに2021年には、国内・海外で製造された洗剤類におけるマイクロビーズの使用禁止が制定された(※10)。

台湾

台湾では、2018年にマイクロビーズを含む化粧品、洗浄剤の製造と輸入が禁止になり、2020年には販売も禁止された。

中国

中国では、2020年より、マイクロビーズを含む家庭用化学品の生産・販売が禁止になり、2022年末までに、マイクロビーズを含む化粧品の製造・販売が禁止された(※11)。

日本のマイクロビーズへの対策

日本におけるマイクロビーズへの対策は、主に自主規制によって進められている。具体的には、日本化粧品工業連合会が2016年3月に、会員企業1100社に対してマイクロビーズの使用の自主規制を呼びかける文書を発行。(※7) これにより、主な大手メーカーは製品への使用を取りやめたとの報告がある。

また、日本政府は「プラスチック資源循環戦略」(2019年5月)において、「2020年までに洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロビーズの削減を徹底する」という方針を示した。2020年、環境省が洗い流しのスクラブ製品の販売企業に対してマイクロプラスチックビーズの使用状況を確認した。

これらの取り組みは、法的な強制力ではなく、企業の自主的な活動によるものだ。これらの取り組みにより、日本国内におけるマイクロビーズの使用は大幅に減少し、環境への影響を軽減することが期待されている。(※12)

日本の化粧品の現状とメーカーの対策

茶色の瓶やケース

Photo by Towfiqu barbhuiya on unsplash

以下の企業は、環境への影響を考慮し、マイクロビーズの使用を停止または減少させるための取り組みを行っている。それぞれの企業が具体的にどのような代替素材を使用しているかなど、詳細な情報は各企業の公式ウェブサイトでも確認できる。

日本におけるマイクロビーズ使用の現状

2020年に環境省が洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロプラスチックビーズの使用状況を確認したところ、対象となった洗い流し製品10,583件においてスクラブ剤としてマイクロプラスチックビーズを使用している製品は確認されなかった。(※12)

しかし、これらの調査対象は洗い流すタイプの製品であり、ファンデーションなど洗い流さない製品にはまだマイクロビーズが使われている可能性がある。さらに、マイクロビーズが不使用でも、研磨・スクラブ以外の用途としてポリエチレンが使われている製品が存在する。実際に環境省による調査でも、ポリエチレンを配合成分とする194の製品が確認された。

ポリエチレンはプラスチックの一種であり、環境や生態への影響がマイクロビーズと同じように懸念される。プラスチック問題を解決するためには、これらの成分についても考慮する必要がある。

日本の化粧品メーカーの対策

花王

花王は、マイクロプラスチックビーズ(マイクロビーズ)に関する状況を考慮し、2016年末までに洗顔料や全身洗浄料などに使用されていたマイクロプラスチックビーズの代替素材への切り替えを完了。現在、花王が生産および出荷しているすべての洗顔料、全身洗浄料、ハミガキはマイクロプラスチックビーズを使用していない。

コーセー

コーセーグループは、2014年度開発の新しい洗浄料からマイクロプラスチックビーズの配合を中止し、環境負荷の低い植物性原料などに置き換えた。既存の洗浄料の切替も完了し、2018年1月以降は、マイクロプラスチックビーズを含む洗浄料の国内外への出荷を一切行っていない。

マンダム

マンダムでは、2017年度にマイクロプラスチックビーズの代替原料化を完了した。すでに代替品として土にかえる生分解性の改良スクラブを使用した商品を販売している。

資生堂

資生堂は、2018年8月末までに、洗浄料などに含まれるマイクロプラスチックビーズの代替素材への切り替えを完了。それ以降、洗い流すタイプの製品へマイクロプラスチックビーズは使用していない。

P&Gジャパン

P&Gジャパンでは、展開しているすべてのフェイシャル・ボディ洗浄料と歯磨き粉の処方からマイクロプラスチックビーズを除いている。また、製品に使用されている成分について、ホームページで情報を開示している。

環境汚染に加担しないための知識は大切

ボディスクラブ剤

Photo by Toa Heftiba on Unsplash

これまで化粧品や洗剤などの日用品に配合されてきたマイクロビーズ。目に見えない小さな成分であるがゆえに、知らず知らずのうちに使用し、環境や自身の身体によくない選択をしてきてしまった人も少なくないのではないだろうか。

多くの国では使用が規制され始めているが、日本ではまだ"禁止"には至っていない。しかし、環境や生態への影響を懸念し、メーカーが自主的に規制を進めている。また、それに伴い、代替となる成分の開発も進んでいる。

私たち消費者には、マイクロビーズに限らず、環境や生態に悪影響を与える物質についての知識を得ること、そして意識的に対象となる製品を選択しないといった行動を取ることが、今後はより求められるのではないだろうか。そういった行動が結果的に、国や企業の対応をより加速させていくことにつながる。

※掲載している情報は、2024年5月27日時点のものです。

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