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サステナビリティは、企業が今後も成長を続けていくための、重要なキーワードである。サステナビリティ経営へと方針転換する企業が増えているいまだからこそ、その意味やメリットを学ぼう。注目される背景や企業の取り組み事例を紹介する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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サステナビリティとは、日本語で「持続可能性」を意味する言葉だ。もともとは「sustain(維持する)」と「able(~できる)」という2つの単語を組み合わせてつくられたもので、経済、社会、環境など、あらゆる方面で注目されている。
これまでの社会の枠組みにおいては、「とにかく利益を上げること」だけが重視されてきた。しかし目先の利益だけに囚われ、社会や環境を顧みなければ、そう遠くない時期にすべてが立ち行かなくなってしまう。だからこそ、いま重要視されているのが「将来にわたって機能を維持し続けられる持続可能性を持った仕組み」である。
短期的に将来的に事業活動そのものを停止せざるを得ない状況になれば、意味がない。利益が多少落ちてしまったとしても、事業活動を続けていくことのほうが重要だ。そのためには既存のやり方から脱却する方法があり、それは決して簡単なものではない。
だからこそ、多くの企業がサステナビリティに注目している。こうした傾向は、今後もさらに強まっていくと思われる。
企業がサステナビリティを考える上で知っておきたいのが、同じような意味合いを持つ類語との違いである。
SDGsとは、2015年の国連サミットにて採択された「持続可能な開発目標」を意味している。「Sustainable Development Goals」の頭文字からつくられたキーワードで、17の目標と169のターゲットで構成。大きな特徴は、目標達成年度が「2030年」と明確に定められている点である。社会や環境、経済など、サステナビリティを実現するための具体的な行動指針がSDGsというわけだ。
CSRは「Corporate Social Responsibility」の略で「企業の社会的責任」を意味している。法令順守や社会貢献などを含め、企業としての指針を示したものだ。事業活動を行う上で、社会や環境に与える影響は決して少なくない。それに対してどう責任を負い、持続可能性実現のためにどう対応するのか、CSRによって内外へと示しているのである。
一方でESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3つを示す。企業が今後も成長し続けていくためには、これら3つの視点が欠かせないと言われている。
ESGに配慮した取り組みをする企業は、社会的に見て「価値が高い」と判断される。ESG投資に乗り出す投資家が増えているいま、事業を円滑に進めていくため欠かせない視点と言えるだろう。こちらも環境や社会など、サステナビリティと深く関わっているケースが多い。
では、なぜいまこれほどまでにサステナビリティが注目されているのだろうか。背景にある3つのポイントを紹介しよう。
近年、待ったなしの状況に追い込まれているのが、各種環境問題である。利潤だけを追い求め、環境負荷を無視し続けた結果、我々の社会にはさまざまな問題が生じている。地球温暖化や海洋汚染、土壌汚染に資源の枯渇は、とくに危険視される問題だ。
このまま地球温暖化が進めば、自然界への影響は避けられないだろう。気候変動による影響は、海面上昇や干ばつに洪水など、多方面におよぶと考えられている。海洋汚染や土壌汚染がさらに深刻化すれば、生態系は変化し、深刻な食糧不足に陥る可能性も。仮に資源が枯渇すれば、事業活動さえままならなくなってしまうだろう。
深刻化する環境問題は、消費者にとっても他人事ではない。とくにSDGs採択以降、サステナビリティを意識して商品・サービスを選択する消費者が増えているのだ。つまり、「大量生産大量消費」よりも、環境や社会にやさしい「エシカル消費」へと、ニーズがシフトしているのだ。
サステナビリティを前面に打ち出した企業経営や商品・サービスは、こうした消費者層に対して、効果的にアピールできる。今後もこうした流れは続くと見られ、企業としても対応に迫られているのだ。
さまざまな課題を抱える現代社会において、変化しているのは消費者ニーズだけではない。投資家が投資先を判断するための基準や、労働者が就職先を決定する際の条件にも、サステナビリティが深く関わるようになってきている。
環境問題や社会問題がクローズアップされるなか、短期的な視点のみで経営する企業の未来は暗い。「金銭や労働力を投資するにはリスクが高い」と判断されれば、事業活動そのものが立ち行かなくなってしまうのだ。こうしたリスクを避けるためにも、サステナビリティ経営に力を入れる企業が増加中だ。
サステナビリティについてより深く知るため、3つの柱に注目してみよう。これは、2005年開催の世界社会開発サミットにて提唱されたもの。サステナビリティには、環境保護・社会開発・経済開発というトリプルボトムラインがあるとされた。
環境保護とは、いまの地球環境を未来までつなぐための、各種保護活動のこと。脱炭素社会の実現や、再生可能エネルギーのさらなる活用、海洋汚染対策などが挙げられる。社会開発とは、生活に欠かせない各種社会サービスの改善や発展を目指すこと。教育の平等や多様性を認める社会の実現などが含まれるだろう。
経済開発とは、サステナブルな仕組みで利益を生み出し、成長を続けていくことだ。環境や社会に配慮した製品を生み出すのはもちろん、事業活動そのものの仕組みの変化も重要なポイントに。既存の事業形態から抜け出しつつ、利益を出し、成長し続けていくことが鍵となるだろう。
サステナビリティ経営が注目されているものの、具体的に何をするべきかで悩む事業者は多い。3つの柱を意識して、経営の転換を推し進めよう。
昨今の社会情勢のなか、「サステナビリティ」は企業価値をはかる重要な要素である。しかし、サステナビリティに対する考え方や姿勢は、事業者によってさまざまであり、一概に比較できるものではない。だからこそ注目されているのが、GRIスタンダードである。
GRIスタンダードとは、グローバル・レポーティング・イニシアチブが策定した、サステナビリティに関する国際基準である。共通スタンダードと項目別スタンダードの2種類で構成されており、項目別スタンダードはさらに経済・環境・社会の3つに分けられている。企業は共通スタンダードと、該当する項目別スタンダードに回答し、サステナビリティ報告書を作成する。
GRIスタンダードに基づいてサステナビリティ報告書を作成すれば、それぞれの企業が具体的にどういった取り組みを行い、どのような成果を得られたのか、はっきりと記載される。
サステナビリティ経営を行う企業の多くが、ホームページ上でサステナビリティ報告書を公開。またその報告書が、GRIスタンダードに準拠したものだと明示している。国際的な指標に基づいた正確な報告書の公開によって、国内はもちろん、海外からの評価も高まるだろう。
サステナビリティ経営には、さまざまなメリットが期待できる。具体的に3つ紹介しよう。
サステナビリティを意識した取り組みは、社会全体から注目されている。だからこそ、利益追求だけに囚われない経営方針は、企業イメージやブランドイメージの向上に役立つ。環境や社会に対してどのように考え、どう責任を取っていくのか。その姿勢こそが企業価値につながるのだ。
消費者意識が変化しつつあるいま、「価格」や「機能」はもちろん、企業やブランドへの「共感」が重視されやすい。サステナビリティは非常に重要なキーワードと言えるだろう。各種社会課題に関連する市場規模は、今後も拡大すると予測されている。サステナビリティをキーワードにブランド価値を向上できれば、さらなる成長につなげられるはずだ。
サステナビリティに対して、関心を寄せているのは一般消費者だけではない。取引先や従業員、投資家たちからの評価も向上するだろう。
投資家たちの評価が上がれば、投資を受けやすくなる。取引先の評価が上がれば、今後の取引に好影響を与えてくれるはずだ。
またサステナビリティ経営が従業員に与える影響は大きい。仕事に対する自信ややりがいを深め、モチベーション向上につながっていく。あらゆる側面から円滑な事業運営をサポートしてくれる点も、サステナビリティ経営のメリットと言える。
少子高齢化が進むいま、人材確保で悩む企業は多い。サステナビリティ経営で内外からの評価が高まれば、より優秀な人材が集まりやすくなるだろう。社会からの注目が集まるようになれば、自社の魅力も自然と発信できるように。採用活動の手間やコストの削減につなげられるだろう。
不透明な世のなかにおいて、今後も成長し続けるためには、優秀な人材が必要不可欠である。サステナビリティ経営で企業価値が高まれば、知名度は向上。環境問題や社会課題に対する意識が高い層に対して、積極的にアピールできるはずだ。
サステナビリティ経営に取り組む企業は、年々増加している。とはいえ、具体的に何に取り組み、どう変えていくのかは、それぞれの企業によって異なるものだ。実際にサステナビリティ経営を行う5つの企業から、その内容を学んでみよう。
世界的に人気のスポーツブランドであるPUMA(プーマ)。ファッション業界誌「The Business of Fashion」が発表した、サステナビリティ・インデックス2022において第1位を獲得した。「水と化学物質」「労働者の権利」「透明性」のカテゴリにおいて、トップスコアを獲得。他ブランドを大きく突き放す結果となった。
そのほかにもプーマでは、二酸化炭素排出量の削減に尽力。好調な売り上げを維持しつつも、2017年から2021年にかけて、自社事業から排出される二酸化炭素量を88%も削減。サプライチェーンにおいても12%の削減に成功している。
100%再生可能エネルギーを購入し、自社車両を電気自動車へと移行。さらに持続可能な材料を使用し、工場レベルでの効率改善を推し進めたことが、こうした結果につながったとされている。(※1)
グッチやサンローラン、ボッテガ・ヴェネタなど、世界的にも人気のブランド数多く率いるKERING(ケリング)。その事業活動は、「ラグジュアリーとサステナビリティは同一である」という信念に基づいて行われている。
1996年の意思表明から2003年のサステナビリティ専門チームの立ち上げ、2017年には、2025年に向けたサステナビリティ戦略の3つのテーマ「ケア(配慮)、コラボレート(協業)、クリエイト(創造)」を発表した。2023年現在、これら3つのテーマのもとで、さまざまな取り組みが進められている。
具体的には、2025年までにサプライチェーン全体の環境フットプリントを40%削減すると明言。温室効果ガスは50%削減を目標にしている。また生物多様性のための取り組みにも積極的だ。2025年までに、サプライチェーンに関わる100万ヘクタールの土地を修復、再生。さらに100万ヘクタールを保護するとしている。(※2)
アメリカ合衆国に拠点を置くLevi Strauss(リーバイ・ストラウス)は、大手アパレルメーカーの一つ。ジーンズブランド「Levi’s」でその名前を知られている。サステナビリティについても、積極的かつ多角的な取り組みを行っている。
リーバイ・ストラウスが掲げているのは「気候」「消費」「コミュニティ」という3つの柱だ。製造施設におけるエネルギー効率を定期的に検査。より効率を高めるための仕組みを積極的に採用している。また配送用カートンのデザインや配送・流通それぞれのプロセスにも注目。合理化を進め、二酸化炭素排出量や廃棄物削減に向けた取り組みを行っている。
アパレルメーカーに欠かせない原料と言えばコットンだが、リーバイ・ストラウスでは持続可能な調達方法を模索。2020年には、使用するコットンの83%を、ベターコットンやオーガニックコットン、リサイクルコットンなど、サステナブルな繊維に転換している。
2021年には「Buy Better, Wear Longer— いいものを長く着よう」という新たなスローガンを立ち上げた。ファストファッションの台頭により「使い捨て」文化が浸透するなか、「品質の高い衣類を長く使用し、廃棄物を減らそう」という取り組みを実施。不要になった衣類は「Levi’s® SecondHand」のプログラムで回収している。(※3)
スウェーデンの大手アパレルメーカーH&Mも、サステナビリティに対して、先進的な取り組みをしている。ファッションの未来を見据えた個性的な取り組みも多い。
「H&Mグループ サステナビリティ・パフォーマンス・レポート2020」によると、グループで使用されている素材の64.5%をリサイクルまたはサステナブルな方法で調達。主要な素材であるコットンについては、その100%オーガニック、リサイクル、またはよりサステナブルに調達されたコットンへと切り替えられた。さらに、2025年までにリサイクル素材の使用を、全体の30%まで引き上げることを目標としている。
H&Mの強みは、使用済みの布地を、品質を落とさずにリサイクルするという画期的な技術を生み出した点だ。グループ傘下のブランド「Monki」にて、コレクションを発表。世界的にも注目を集めた。
H&Mが目指すのは「100%循環型の企業」であり、その実現のために包装・パッケージの新システムを開発。認証済みの紙でつくられた包装・パッケージマルチブランドで適用できるため、廃棄物やエネルギーコストの削減につながっている。(※4)
イギリス発の人気ブランド・BURBERRY(バーバリー)では、ブランドの革新とクリエイティビティの歴史を踏襲しつつ、サステナビリティ経営を推進している。アパレルアイテムには、再生生地やオーガニック生地など、サステナブルな素材を採用。2025年までに、すべての素材が追跡可能な状態にするとしている。素材調達の透明性を高めるためだ。
バーバリーの取り組みは、オフィスや店舗でも積極的に行われている。オフィスや店舗、倉庫など、各拠点で消費される電力の68%は再生可能エネルギーを使用。2022年までの100%達成を目指していた。2021年には、さらなる取り組みを推進するため、2040年までに「クライメート・ポジティブ」を達成すると宣言。これは、CO2の排出量より削減量が多い状態を指す。カーボンニュートラルの一歩先を行く目標である。
バーバリーでは、廃棄物に対する取り組みも強化。包装材の刷新のほか、商品開発で生じた余分な布地の活用など、幅広い取り組みを行っている。は、余分な布地は別ブランドへと寄付され、新たな製品に生まれ変わる仕組みだ。
サステナビリティは、企業経営にとって欠かせないキーワードである。持続可能性を意識しないまま企業活動を推し進めても、さらなる成長は見込めないだろう。今後も成長し続けていくために、事業活動の方針転換が必要である。
サステナビリティには環境保護・社会開発・経済開発の3つの柱があるとされ、企業経営にさまざまな工夫が求められる。今回紹介した各社の事例も参考にしつつ、持続可能性を意識した経営へとかじを切っていこう。
※1 PUMA Ranked Most Sustainable Brand on Business of Fashion Sustainability Index 2022|businesswire
※2 ケア(配慮)|ケリング
結果|ケリング
※3 SUSTAINABILITY|LEVIS
※4 H&Mグループ、サステナビリティ・レポート2020を発表|H&M
Sustainability Performance Report 2020|H&M Group
※5 OUR COMPANY|BURBERRY
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