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CSR活動とは、「企業や組織が果たすべき社会的責任」を意味している。企業の不祥事や倫理的な問題などが取りざたされる中、どのように問題に向き合い社会的責任を果たしていくかが、いま問われている。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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CSRは「Corporate Social Responsibility」の頭文字を取った言葉で、日本語では「企業や組織が果たすべき社会的責任」と訳されている。昨今、企業や組織による、さまざまなスケールの不祥事の類や、社会規範の倫理的逸脱行為などが、世界的な社会問題の一つとして取り上げられている。
CSRの概念は、これまで、とくに第二次世界大戦以降続いてきた、復興を基盤とした経済発展優先主義的な風潮の中で、「さして重要ではないと認識されてきた問題」あるいは「とくに取り上げられてこなかった問題」に対して、認識を新たにし、その社会的な責任を果たしていく必要性があることを示している。
SDGs(持続可能な開発目標)といった新たな世界基準の概念の浸透に伴い、よりエシカルな活動への移行が促され、既存の理念や旧態的システムからの脱却を図るよう、社会から求められている。社会の「視線」が強まったことにより、既存の拝金主義的な理念だけではNGとみなされるようになってきたのである。
こうした背景の下、企業は、あらゆる分野において問題などがないかを洗い出し、その解決を図るといった率先した行動で、社会のニーズに対応していくことが求められている。
ESGとは、「環境・社会・ガバナンス(企業統治)(Environment・Social・Governance)」のことで、企業が活動を維持していく上で必要とされている3つの観点である。これらを経営戦略に取り入れているか否か、という点が、投資家をはじめとするステークホルダーらの判断材料となり、評価をも左右しうるとされている。
SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことで、2015年9月、国連サミットで採択された。「持続可能」をキーワードに、2023年までに「17のゴール」と「169のターゲット」がその目標として設定されている。この地球規模の目標が礎となり、さまざまな新しい概念が派生している。
サステナビリティ=「持続可能性(Sustainability)」。人類と地球を取り巻く「環境と資源」「社会」「経済」の3つの観点に基づいた包括的な捉え方、考え方を意味する。社会全体の「持続可能性」を高めていくという考え方。企業がその活動を通じて、これら3つの分野について、理念や経営戦略などへ導入を図っていくことを、とくに「コーポレート・サステナビリティ(Corporate Sustainability)」という。
国際標準化機構(ISO=International Organization of Standardization)は、「ISO26000」で、企業などすべての組織が、社会的な責任を果たすための重要な視点として、以下の「7原則」を示している。(※1)
1.「説明責任」:外部に与える組織の活動に関する説明責任
2.「透明性」:組織の意志決定や活動の透明性について保持
3.「倫理的な行動」:公平性など、倫理観に基づく行動
4.「ステークホルダーの利害の尊重」:投資家、株主などステークホルダーの利害の尊重
5.「法の支配の尊重」:各国の法令の尊重、遵守
6.「国際行動規範の尊重」:国内の法律だけではない、国際標準的な規範の尊重
7.「人権の尊重」:人権の尊重
近年、企業の環境や人権問題などにおいて、社会に負の影響を与える事象が表出している背景には、SDGsに代表されるような、新しい世界標準的概念の浸透があるといえる。これまで経済優先主義的、拝金主義的な風潮の陰に隠れていたような、社会的な問題を含む事象は、いまや「許されないもの(こと)」として瞬時に認識される。
インターネットやSNSなど、高度に発達した情報網により、社会における「監視の目」といったシステムの機能が物理的にも強まったといえる。
万一、このように「強度を増してきた社会的なフィルター」によって、社会への負の問題が表出した場合、企業イメージはたちまち低下してしまい、企業価値をも棄損しかねない。このようなリスクを回避するために、経営方針などに「CSRの概念をあらかじめ組み込む」という考え方が広まったものと考えられる。
海外のCSR事情を見てみると、文化的・社会的な背景などによって、それぞれ国により状況が異なっている。
例えばEU(欧州連合:European Union)は、「世界でもっとも包括的で競争力のある社会の実現」を柱とした目標を、2000年に採択。「政府の行う雇用政策や低所得者層の救済について、企業がその社会的責任を果たすことが期待される」と、その内容は比較的「人権意識寄り」の傾向にあるといえる。
一方、アメリカでは「個人の社会的関心を投資の意思決定に結び付ける」ような、〈社会的責任投資(SRI)〉の意義が柱となり進展している。
そして、こうした欧米の概念を追随しているのがアジア諸国であり、なかでも日本は「数歩リード」しているような状況であろうか。
アジアの中で、あらためて日本のCSR対応を見ると、前述の「ISO26000」で示されているなかでも、「社会貢献や社会への還元・コンプライアンスや倫理観・社会的公正性・環境への配慮・ステークホルダーへの説明責任」(※一橋大学大学院商学研究科 谷本寛治教授「CSR経営」中央経済社2004年刊)という観点が重要視されている。
これは、日本でこれまで脈々と受け継がれてきた企業風土や文化、あるいは「敗戦」といった歴史的要因などを背景とした「日本独自の進展の仕方」であるといえる。(※2)
CSR活動の概念は、「時代に即した新しい企業や組織のあり方」について、「社会全体から」「世界標準で」問われている、という部分にある。
では実際に、企業などがCSRの概念を導入した場合、そのメリットにはどのようなものがあるのだろうか。個々の企業などの規模や社会的位置によってさまざまではあるが、一般的な観点からみてみよう。
企業や組織の内部(社内)に、社会的・倫理的な問題などがないか、「洗い出しながら解決を図っていく」といった積極的な姿勢は、社会への大きなアピールポイントとなる。
企業などが、その活動の中で、社会的・倫理的な問題が含まれていないかなど、自ら進んで精査をしていく姿勢や、それらの問題解決に取り組む姿勢は、ステークホルダーとの関係性にダイレクトな好影響を与える。
企業イメージが向上すると、必然的に優秀な人材が集まる。安定した人材確保は、安定した経営基盤の継承にもつながり、継承問題など日本社会がかかえる構造的問題の克服への足がかりともなり得る。
CSR活動を導入する際のデメリットについてもみてみよう。これも一般的な観点ではあるが、メリットだけではないことに注意が必要だ。
CSRを率先して導入するためには、それなりの「体力」が要るといえる。利益に直結する活動以外が重要視される傾向があるため、活動費用への認識や、経営的な「見通し」が不可欠である。
CSR活動には、それを円滑に遂行できる人材が必要である。活動に必要な人件費や人材の育成にともなうコスト感覚が必要である。
現実的かつ具体的なCSR活動のために、導入時に、詳細な活動計画の策定が必要であろう。通常の利益追求活動から収支に至るまで、経営的バランス感覚が求められる。
CSR活動のメリットとデメリットを理解したところで、実際に活動として推進していく上での注意点をまとめた。
CSR活動の導入には大きな社会的意義があるが、導入だけでなく、継続のためにも、安定した経営基盤維持のための企業活動は不可欠である。
CSR活動の意義やその概念は広まりつつあるが、ステークホルダーの様子をうかがうだけでは、経営は成り立たない。理念や概念だけが先行しすぎないよう、中長期的かつ具体的な事業計画の策定など、現実的な経営戦略への認識が必要となる。
CSR活動を推進する上で、人材の確保だけではなく、その育成にも尽力すべきである。人材育成には、時間とコストがかかる。短期的ではない人材育成のあり方を、経営基盤強化の一環として捉える姿勢も求められる。
では、具体的なCSRの事例にはどのようなものがあるのだろう。
社会貢献や文化・芸術などの継承、人道的支援など、事例の内容はさまざまで、その規模も多様である。傾向としては、それぞれの企業の「強み」を活かした活動が、実践のカギとなっているといえる。
ここでは、「企業市民協議会(CBCC)」より報告されている事例の中から、3例を紹介する。
・「大成建設ギャルリー・タイセイ」の運営
スイスの世界的建築家「ル・コルビュジエ」が24年にわたり手がけた建築や絵画などの作品を紹介。建築、絵画をはじめとした文化の継承に寄与している。
・「公益信託大成建設自然・歴史環境基金」による助成を実施
「公益信託大成建設自然・歴史環境基金」では、1993年の設立以来、継続的に助成を行っており、自然環境保全と、健康で文化的な生活の確保に寄与している。
・TFT(table for two)を導入し、子どもたちを支援
「大成建設技術センター」では「途上国の子どもたちの食糧支援」を目的とし、「TFT(tablefor two)」活動に協力。国内では、東戸塚地域活動ホーム「ひかり」にて、「障がい者の自立に向けた実習」におけるパン販売を支援している。
・途上国における活動
アミノ酸発酵プロセスで循環型生産モデルを構築し、原料供給農家への有機質肥料の還元や、バイオマス原料をエネルギー資源として購入するなど、環境負荷の極小化を図り、地域社会への経済的利益を生み出している。現地の食文化を尊重しつつ、簡便な調理を実現できる調味料の提供を通じて、バランスの取れた食生活を提案するとともに、誰でも買える価格を実現することで、多くの人々の食生活を豊かにしている。
・アミノ酸栄養に関する啓発と途上国の母子栄養に寄与
アミノ酸のトップメーカーとして、科学的知見を基に、アミノ酸(タンパク質)栄養の重要性を広く啓発。多様なステークホルダーと協働し、途上国の母子栄養の改善に資する製品の開発と販売に取り組んでいる。
・ライフクオリティー メイクアップ
肌のさまざまな悩みに対応する独自の化粧法を「資生堂ライフクオリティー メイクアップ」と称して、外見に深い悩みを持つ方々へメイクアップアドバイスを行っている。
あざや濃いシミ、白斑、肌の凹凸(傷あと、やけどあと)、がん治療の副作用(強いくすみなどの肌色変化、眉やまつ毛の脱毛)、がん治療の副作用による肌色の変化、手術あと(傷あと・腫瘍摘出あと)など、外見や美容上の悩みに幅広く対応。
「資生堂ライフクオリティービューティーセンター」(東京・銀座)を中心に、同活動の研修を受けた人々が全国の化粧品店や医療機関、上海・香港・台湾など海外でも活動中。この活動により、一人ひとりの QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)向上や社会復帰につなげ、人々が幸せになる社会の実現を目指している。※3
ふだんはあまり聞きなれない「CSR活動」という概念だが、大企業だけではなく、中小企業などにも広まりを見せている。「持続可能性」を秘めた企業などのあり方とはどのようなものなのか。未来のために、地球のために、利益追求に偏らないそのかたちについて、想いを馳せてみてはどうだろう。
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