企業は株主だけでなく、従業員や地域・社会などあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきだという「ステークホルダー資本主義」が世界中で波及している。本記事では、日本企業におけるステークホルダー資本主義の関係性や、考え方が普及した背景を紐解きながら、メリットと課題について解説する。
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ステークホルダー資本主義とは、企業に影響するすべてのステークホルダー(利害関係者)との関係を重視し、企業活動を通してこれらステークホルダーへの貢献をめざす長期的な企業経営のあり方をいう。
従来の資本主義とは「自由競争ものもとで、よりよいサービスを提供する個人や企業の利益が拡大されるという経済システム」である。資本主義においては、企業が経済活動を通して利潤を追い求めることが推奨されてきた。
資本主義の考え方で利害関係者を捉えると、株主や取引先、従業員などが浮かぶ人もいるだろう。近年では、金銭的な利害関係だけでなく、行政や地域、社会、環境といった企業を取り巻くすべての相手を含めて「ステークホルダー」を指し、関係構築が重視されている。
アメリカで主流とされてきた「株主資本主義」とは、企業経営は株主の利益を最大化するべきと考える資本主義だ。
これに対し、企業は株主への貢献を第一として利益を追い求めるのではなく、企業活動に影響するすべてのステークホルダーに貢献すべきというステークホルダー資本主義を主張する動きが活発化している。
株主第一主義を貫いてきたアメリカに対し、日本企業の経営には古くから「買い手・売り手・世間の三方よし」という近江商人の経営哲学が根付く。自分たちの利益だけを追求するのではなく、お客様に満足してもらうと同時に、社会へ貢献しなければならない。数多くの企業で実践されてきたこの考え方は、ステークホルダー資本主義の概念に通じる部分が多いといえる。
日本では、2015年に国連が提唱する責任投資原則(PRI)に年金積立運用行政法人(GPIF)が署名したことをきっかけに、ESG投資(E環境、S社会、Gガバナンス)が普及。また、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の高まりを受け、経営戦略に社会課題へSDGsを組み込む企業が増えている。
いまや企業の持続的成長にはステークホルダーとの関係性を明らかにし、共感を得ながら評価を高めることが欠かせない要素である。
ステークホルダー資本主義が広がった背景には、アメリカ主要企業のCEOが名を連ねる経営団体ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が2019年8月に発表した声明がきっかけにある(※1)。
1972年に設立されたBRTでは、企業統治の基本原則として「企業は主に株主のために存在する」という株主資本主義を掲げてきた。この声明は近年のESG投資やSDGsの普及を受けており、アメリカの短期的な利益追求による社会格差の拡大や、環境破壊への影響からステークホルダー資本主義への舵を切ったとされる。
声明には「お客様、従業員、サプライヤー、地域社会、株主などすべてのステークホルダーの利益のために会社を導くべきである」と明記され、同組織の会長JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン氏やアップルのティム・クック氏などアメリカの有力経営者181名がこぞって署名。世界経済に衝撃を与えた(※2)。
これらの流れを受け、2020年には世界経済フォーラム(WEF)のダボス会議では「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」をテーマに開催された。
世界経済フォーラムでは同団体の指針を示した1973年の「ダボス・マニフェスト」を、「ダボス・マニフェスト2020」として改定。「収益の最大化だけでなく、官民連携や市民社会との協力を通じ、企業が持つ能力とリソースを注ぐことでより持続可能で結束した世界を築く」との方向性を示した(※2)。
ステークホルダー資本主義が浸透することで、企業には「事業を通じ、社会貢献をする責任」が生じる。企業のCSR活動に止まらず、自社の利益拡大と社会課題の解決の両輪を実現することで、広範囲な社会課題へのアプローチが期待される。
資本主義とは、雇用主が従業員を雇用することで利益を創出する仕組みであり、資本家と労働者の所得格差が拡大するという問題が存在している。
ステークホルダー資本主義において価値を創出するためには、従業員との良好な関係構築も重視される。公正な評価・処遇や、新しい働き方の推進、多様性の尊重、人材育成など、よりよい企業活動を実現するための取り組みが推進されることで雇用・労働問題も減少に向かうことが考えられる。
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