日本企業に広がる「ステークホルダー資本主義」の考え方 普及の背景と推進するメリットとは

日本のオフィスビルディング

企業は株主だけでなく、従業員や地域・社会などあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきだという「ステークホルダー資本主義」が世界中で波及している。本記事では、日本企業におけるステークホルダー資本主義の関係性や、考え方が普及した背景を紐解きながら、メリットと課題について解説する。

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2021.01.31

ステークホルダー資本主義とは

オフィスで話し合うビジネスパーソン

Photo by Photo by Amy Hirschi on Unsplash

ステークホルダー資本主義とは、企業に影響するすべてのステークホルダー(利害関係者)との関係を重視し、企業活動を通してこれらステークホルダーへの貢献をめざす長期的な企業経営のあり方をいう。

従来の資本主義とは「自由競争ものもとで、よりよいサービスを提供する個人や企業の利益が拡大されるという経済システム」である。資本主義においては、企業が経済活動を通して利潤を追い求めることが推奨されてきた。

資本主義の考え方で利害関係者を捉えると、株主や取引先、従業員などが浮かぶ人もいるだろう。近年では、金銭的な利害関係だけでなく、行政や地域、社会、環境といった企業を取り巻くすべての相手を含めて「ステークホルダー」を指し、関係構築が重視されている。

ステークホルダー資本主義はなぜ広まったか

株主資本主義との違い

アメリカで主流とされてきた「株主資本主義」とは、企業経営は株主の利益を最大化するべきと考える資本主義だ。

これに対し、企業は株主への貢献を第一として利益を追い求めるのではなく、企業活動に影響するすべてのステークホルダーに貢献すべきというステークホルダー資本主義を主張する動きが活発化している。

株主第一主義を貫いてきたアメリカに対し、日本企業の経営には古くから「買い手・売り手・世間の三方よし」という近江商人の経営哲学が根付く。自分たちの利益だけを追求するのではなく、お客様に満足してもらうと同時に、社会へ貢献しなければならない。数多くの企業で実践されてきたこの考え方は、ステークホルダー資本主義の概念に通じる部分が多いといえる。

日本では、2015年に国連が提唱する責任投資原則(PRI)に年金積立運用行政法人(GPIF)が署名したことをきっかけに、ESG投資(E環境、S社会、Gガバナンス)が普及。また、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の高まりを受け、経営戦略に社会課題へSDGsを組み込む企業が増えている。

いまや企業の持続的成長にはステークホルダーとの関係性を明らかにし、共感を得ながら評価を高めることが欠かせない要素である。

世界で普及した背景

ステークホルダー資本主義が広がった背景には、アメリカ主要企業のCEOが名を連ねる経営団体ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が2019年8月に発表した声明がきっかけにある(※1)。

1972年に設立されたBRTでは、企業統治の基本原則として「企業は主に株主のために存在する」という株主資本主義を掲げてきた。この声明は近年のESG投資やSDGsの普及を受けており、アメリカの短期的な利益追求による社会格差の拡大や、環境破壊への影響からステークホルダー資本主義への舵を切ったとされる。

声明には「お客様、従業員、サプライヤー、地域社会、株主などすべてのステークホルダーの利益のために会社を導くべきである」と明記され、同組織の会長JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン氏やアップルのティム・クック氏などアメリカの有力経営者181名がこぞって署名。世界経済に衝撃を与えた(※2)。

これらの流れを受け、2020年には世界経済フォーラム(WEF)のダボス会議では「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」をテーマに開催された。

世界経済フォーラムでは同団体の指針を示した1973年の「ダボス・マニフェスト」を、「ダボス・マニフェスト2020」として改定。「収益の最大化だけでなく、官民連携や市民社会との協力を通じ、企業が持つ能力とリソースを注ぐことでより持続可能で結束した世界を築く」との方向性を示した(※2)。

ステークホルダー資本主義のメリット

ダボス会議の様子

事業を通じ、社会課題解決へ貢献する企業が増える

ステークホルダー資本主義が浸透することで、企業には「事業を通じ、社会貢献をする責任」が生じる。企業のCSR活動に止まらず、自社の利益拡大と社会課題の解決の両輪を実現することで、広範囲な社会課題へのアプローチが期待される。

雇用格差の是正と、従業員が働きやすい環境へ

資本主義とは、雇用主が従業員を雇用することで利益を創出する仕組みであり、資本家と労働者の所得格差が拡大するという問題が存在している。

ステークホルダー資本主義において価値を創出するためには、従業員との良好な関係構築も重視される。公正な評価・処遇や、新しい働き方の推進、多様性の尊重、人材育成など、よりよい企業活動を実現するための取り組みが推進されることで雇用・労働問題も減少に向かうことが考えられる。

ステークホルダー資本主義のデメリットと課題

企業の社会課題への貢献は、外面のパフォーマンスだという批判

企業は、長年社会的責任(CSR)を重視してきたものの、貧困格差の拡大や気候変動への解決に結びついていないという批判もある。

だが、近年では機関投資家が企業のステークホルダーに対する説明能力、外部環境の変化への対応、そして社会課題を中長期で事業として市場化できるかを評価対象としたことで、企業の事業を通じた取り組みも加速している。

事業活動によるカーボンニュートラル(低炭素化社会)の実現や、サプライチェーンマネジメントに取り組む企業の増加などに期待がかかる。

経営者のコミットとIR、CSR広報力が、企業間格差や投資家からの評価の差を生む

ステークホルダー資本主義の普及で、企業のステークホルダーへの考え方の説明が求められる中、企業内で情報開示に手が回らない企業と、熱心に取り組む企業との差が広がると考えられる。

また、ESG投資の普及により、投資機関は企業が設定・開示した持続的成長にとっての機会とリスクを踏まえた重要課題(マテリアリティ)の達成度からも、企業の取り組みを評価している。ステークホルダーとの関係性構築にはIR・CSR広報活動がますます重要とされ、経営陣の意思によりどこまでコミットできるどうかかが鍵となる。

先進的な企業の動き

下から見上げた高層ビル群

仏食品メーカー「ダノン」は使命を果たす会社へ

ダノンは、フランスで19年に新たに始まった制度「使命を果たす会社」に初めて選定され、ステークホルダー資本主義において世界的に抜きん出た企業として知られる。

同社は定款に「地球自然資源の保全」など4つの目標を加え、株主価値の向上と社会・環境課題の解決を両輪として活動することを明記した。従業員や社会・環境などのステークホルダーへ、法的に義務を持たせたことが評価を受けている(※3)。

米ブラックロック、ステークホルダー資本主義の重要性を言及

世界最大の資産運用会社であるブラックロック。ラリー・フィンクCEOは、2018年に投資先企業出したレターで、「企業の継続的な発展には、優れた業績をあげるのみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければならない」と述べた。(※4)

欧州では、ESG投資の視点がなければ、運用会社は投資家から資金を預けてもらうことはできないことにも述べている。同社のレターは、企業がステークホルダー資本主義に取り組むうえで強く影響を与えるものとなった。

社会との共生に取り組む「サントリー」

2020年のダボス会議にも出席したサントリーは、企業活動で出た利益を、投資のみならず顧客・取引先・社会貢献に使う「利益三分主義」を実践してきた(※5)。

サントリーグループとして創業精神である「水と生きる」を社会と約束する同社は、カーボンニュートラルの取り組みやプラスチックの使用を最小限とする取り組み、天然水を育む活動などを行っている。日本において長年ステークホルダー資本主義を貫いてきた企業だと言えるだろう。

ステークホルダー資本主義化による変化とこれから

2020年の新型コロナによって、それぞれの業界・企業で価値観や企業風土の違いが浮き彫りになった。業績へ打撃を受ける企業があれば、新たなビジネスチャンスで成長する企業、自社の社会的責任を問い直す企業など、事業環境によってあらゆる方向へ向かわせた。

日本で普及し始めていたESG投資やCSR、SDGsへの取り組みが止まってしまうのではないかという懸念もあったが、Withコロナ時代で企業として生き残るためには、事業における機会とリスクをしっかり把握し直すことが大切だ。

サスティナビリティと経営の統合、ステークホルダーとの関係構築について、向き合う企業はむしろ増加していくと考えられる。

※1 Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’|Business Roundtable
https://www.businessroundtable.org/business-roundtable-redefines-the-purpose-of-a-corporation-to-promote-an-economy-that-serves-all-americans
※2 ビジネスラウンドテーブルと「企業の目的に関する声明」について意見交換|一般社団法人 日本経済団体連合会
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2019/1205_11.html
※3 The Davos Agenda|WORLD ECONOMIC FORUM
https://www.weforum.org/events/the-davos-agenda-2021
※4 DANONE ENTREPRISE À MISSION
https://www.danone.com/fr/about-danone/sustainable-value-creation/danone-entreprise-a-mission.html

※5 LETTER TO CEO 2018 A Sense of PurposeBlackRock
https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/ceo-letter-2018
※6 サントリーグループの理念体系|サントリー
https://www.suntory.co.jp/company/philosophy/

※掲載している情報は、2021年1月31日時点のものです。

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