お金だけに依存しない「里山資本主義」の基礎知識 地域循環型の経済システムで安心な社会を形成

畑で働く人々

「里山資本主義」とは、お金だけに依存するのではなく、地域にある金銭換算できない資源に付加価値を与えて事業をおこなったり、自給自足を取り入れたり、地域コミュニティーを形成することによって持続可能な社会をつくろうという新しい資本主義のカタチである。

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2021.03.26
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里山資本主義とは

田畑で作業する男性

Photo by Pan Species on Unsplash

「里山資本主義」とは、「お金がお金を生む経済(マネー資本主義)」だけに依存するのではなく、山や海、森といった、お金に換算できない自然由来の地域資源に付加価値を与えることによって、持続可能で安心な地域社会をつくろうという新しい資本主義のカタチである。2013年に地域エコノミスト・藻谷浩介とNHK広島取材班が出版した著書において提唱された。

現在のグローバル経済においては、人々や自然と共生して持続可能な循環型社会の形成を目指すことよりも、エネルギーや資源を際限なく消費することで利益を増やしていく、というマネー資本主義的な経済システムが常識となっている。

ところが、2011年に発生した東日本大震災をきっかけに、たとえお金があったとしても、システムやネットワークが破綻してしまえば、水も食料も電気も手に入れられないという社会構造の弱さが浮き彫りとなった。

このことから、お金に頼ることなく、どのような状況下でも生活を維持することのできる仕組みをつくっておこうという「里山資本主義」が注目されるようになったのである。

地域循環型の経済で持続可能な社会を形成

里山資本主義では、地域にある資源に新たな付加価値を生み出すことによって、生活や事業を成り立たせる。

例えば、ある程度の食料を田舎の田畑で自給自足したり、廃材を利用して発電をしたり、農家で出た規格外品の収穫物を加工して販売するなど、地域循環型の経済システムを形成していく。

また、収穫した食材を地域内の人々でシェアしたり、物々交換をするなど、地域内でのコミュニティやネットワークをつくっておくことで、金銭を介さずとも生活が成り立つ強い社会が形成され、生活で何か困ったことがあれば助け合って生きていくことができる。

このように、地域の自然環境や人間関係を活用・循環させることによって、お金だけに依存しない経済システムを構築できるのが里山資本主義だ。

里山資本主義はマネー資本主義のサブシステム

里山資本主義の反対語となるのが、「マネー資本主義」だ。マネー資本主義とは、より多く稼いだり経済を循環させ続けることを「豊かさ」と捉え、生活に必要なものすべてをお金で購入したり、際限ある資源を大量消費してでも利益を得ようという考え方である。

里山資本主義の提唱者・藻谷氏は、マネー資本主義は目先の経済成長を優先して、大量生産・大量消費をするなどして資源や人を食い潰すため、持続可能な社会の形成は難しいと考える。

ただし、里山資本主義はお金を稼ぐことを否定するわけではなく、マネー資本主義における経済システムの弱さを補うサブシステムとして考えられている。

つまりお金はほどよく稼ぎながらも、できる範囲で自給自足を試み、物々交換したり、不要なものは他人にあげたりすることで、お金だけにとらわれない安心なネットワークをつくっておくことが大切なのだ。

里山資本主義が持つ可能性とメリット

里山資本主義の考えを取り入れることで、グローバル経済に左右されることなく、地域循環型の持続可能な生活を送ることができる。

これは、地域住民のネットワークや、地域資源を活かした自給自足のシステムを形成することによって、お金に頼らずとも生活に必要なものはほとんど手に入れられるようになるためだ。

また、近年のマネー資本主義社会において、人々の時間や労力は、働くことやお金を稼ぐことに多く消費されてきた。

しかし自然の恵みや地域コミュニティとのつながりを重視する里山資本主義では、本来の人らしい本質的な生活を取り戻し、生きることへの喜びや安心感を与えてくれる。

里山資本主義の実践例

畑で働く人

Photo by Anaya Katlego on Unsplash

広島県庄原市総領町という山間部に暮らす男性は、石油缶を改造したエコストーブを使い、地域で採れる薪を燃料に、原価ゼロの暮らしを実践している。

電気・ガス代がかなり節約されるだけでなく、エコストーブのつくり方さえ知っていれば、被災地などの電気やガスが使えない環境でも火を焚くことが可能になる。

林業や木材産業が盛んな岡山県真庭市では、大量に発生する林地残材や製材端材を有効活用して、木質バイオマス発電をおこなっている。本来廃棄される予定だった資源を無駄にせず、燃料費も節約できるほか、化石燃料を使うよりもCO2排出量も少ないという。

瀬戸内海の周防大島では、地元農産物でつくったジャムを、土質、品種、年によって味が異なるという個性的なコンセプトをもとに販売。地域内での経済的循環をつくるため、地元の農家や食品製造業者と連携を取りながら、地域に根ざした活動を展開している。

こういった活動を実践するには、自然由来の資源が多い田舎に移り住まなくては難しいと考えられがちだが、都会でも十分実践できる。例えば、ベランダでハーブを育てて近所の人と物々交換をしてみたり、家庭から出た生ごみをコンポストで堆肥にしたり、週末だけ田舎の田畑を利用したり。

このように里山資本主義は、自分にできる範囲で生活に取り入れることができる。

里山資本主義の課題

里山資本主義という考え方は、いまだ認知度が低いほか、国民の多くが自給自足の生活を送ることによって経済が崩壊してしまうのではないかという不安も残る。

自らの手で何かを生み出し、地域住民と助け合うことによって生活は保たれるかもしれないが、それをビジネスとして発展させない限り、経済が停滞してしまう可能性もある。

そもそも、マネー資本主義は「消費を繰り返し、経済を循環させ続けないと社会は崩壊してしまう」という不安から生まれているため、この固定観念をすぐに振り払うことは難しい。

また、地域資源を活かした新しい事業を始めたり、移住や二拠点生活をするにも資金面に不安が残るため、ハードルが高い。しなやかで持続可能な生活様式にシフトしていくには、それ相応の保障や安心を提示する必要があるだろう。

パンデミックの最中、再注目される里山資本主義

昨年より新型コロナウイルス感染症が流行し、家で過ごすことが増えたことで、自分の生活を見直した人は多いのではないだろうか。

不安定な雇用が浮き彫りになったことで、ベランダで植物を育てたり副業を始めてみたりと、多くの人々が自分の手で何かを生み出す術を持つことに重要性を感じているように思う。

経済活動がすべてストップしてしまえば生活は不安定になるが、自給自足の体制を整えておくことで、このような危機に直面したときにも柔軟に対応しやすい。

このことから今後、里山資本主義の考え方はますます評価されていくのではないだろうか。

※掲載している情報は、2021年3月26日時点のものです。

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