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水平リサイクルとは、使用した製品を原料にして同じ製品をつくること。リサイクルにいくつか種類があるなか、ひとつの方法だ。本記事では、水平リサイクルとカスケードリサイクル(垂直リサイクル)との違いなどをわかりやすく解説。水平リサイクルの国内・海外の事例や、メリット・課題を紹介する。
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水平リサイクルとは、使用済みの製品を再び同じ製品に再生・再利用するリサイクル手法を言う。たとえば、使用済みペットボトルを回収して、新たなペットボトルに再生する「ボトル to ボトル」や、アルミ缶から再びアルミ缶をつくる循環システムがこれに該当する。
資源の価値を下げずに何度も繰り返し利用できるのが特徴であり、限られた資源を有効活用しながら廃棄物を削減できる点で、環境負荷の低減に大きく貢献する。
この仕組みが注目を集めるようになった背景には、世界的な資源枯渇とプラスチック汚染の深刻化がある。日本国内でも、2022年に施行された「プラスチック新法」を契機に、企業や自治体が水平リサイクルの導入を加速させている。とりわけ、品質と安全性が求められる食品容器や飲料容器において、同一素材への高度な再生が持続可能な社会を支える鍵として位置づけられている。
水平リサイクルは、「カスケードリサイクル(垂直リサイクル)」と対照的だ。
カスケードリサイクルとは、使用した製品を元とは異なる製品に再生する方法をいう。元の製品より品質が落ちてしまうのが特徴的だ。カスケードとは「小さな滝」や「滝状の流れ」を意味し、品質の低下が伴う。
これに対して、水平リサイクルでは、同一製品に戻すことで素材の価値を維持し、理論上は半永久的な再利用が可能だ。その点が、水平リサイクルとカスケードリサイクルとの大きな違いと言える。
水平リサイクル、カスケードリサイクルのほかにも、リサイクルにはいくつかの種類がある。ここで改めて確認しよう。
まず、リサイクルには以下の3つに大きく分けられる。
マテリアルリサイクルとは、使用した製品や廃棄物を、資源として再び利用すること。
マテリアルリサイクルはさらに、水平リサイクルとカスケードリサイクルに分類できる。
サーマルリサイクルとは、廃棄物を焼却処分し、そこで発生する熱エネルギーを利用すること。「サーマル」は「熱」を意味することからも、理解しやすいだろう。
ケミカルリサイクルとは、廃棄物に化学的な処理を行い、他の物質にリサイクルすること。
水平リサイクルには、さまざまなメリットがある。
水平リサイクルは、限りある天然資源の使用量を抑えると同時に、CO2など、製造工程にともなう温室効果ガスの排出を大幅に削減できるという環境面での大きな利点がある。
たとえば、使用済みペットボトルを回収して、それをもとに再びペットボトルに水平リサイクルすると、バージン素材からペットボトルを製造する場合と比べて、1kgあたりのCO2排出量は63%削減できる(※1)。
大量生産・大量消費による環境負荷が問題視される現代において、水平リサイクルは持続可能な資源循環の手段となり得る。
水平リサイクルは、国や地域の資源自給力を高める手段としても注目されている。日本のように天然資源の多くを輸入に依存する国にとって、使用済み製品を国内で再資源化し、再び製品として活用できることは、資源の安定供給と経済安全保障の観点から大きなメリットをもたらす。
また、企業にとっても、リサイクル原料の活用は調達リスクの軽減や、ブランド価値の向上、さらにはサプライチェーン全体におけるCO2削減の実績づくりにも直結する。
近年では、水平リサイクルに積極的に取り組む企業に対して、投資家や消費者の評価が高まっており、ESG経営を推進する上でも競争優位性をもたらしている。
水平リサイクルは、持続可能な開発目標(SDGs)との高い親和性を持つ取り組みでもある。とくに「つくる責任 つかう責任」(目標12)や、「気候変動に具体的な対策を」(目標13)といった項目に対して、直接的な貢献が期待される。
原材料の持続可能な利用、廃棄物の発生抑制、温室効果ガスの排出削減、そして地域循環型経済の促進といった観点から、水平リサイクルは単なる環境対策ではなく、社会・経済全体を巻き込んだ構造変革を担うものといえる。
企業や自治体が水平リサイクルを通じてSDGsを戦略的に実装する動きも広がっており、サステナビリティを体現する象徴的な施策の一つとなっている。
では、実際にどのような水平リサイクルが行われているか。国内外の取り組み事例を紹介しよう。
「ボトルtoボトル」とは、使い終わったペットボトルを回収し、もう一度ペットボトルとして生まれ変わらせるリサイクルの仕組みを指す。水平リサイクルの代表的な事例であり、日本国内でも多くの自治体や飲料メーカーが取り組んでいる。
このリサイクル方法のポイントは、元の用途(飲料用の容器)と同じ品質を保ちながら、再び新しいペットボトルをつくることにある。一般的なリサイクルでは、回収されたプラスチックが繊維やシートなど、異なる用途に加工されることが多いが、「ボトルtoボトル」ではあくまで“同じものに戻す”という循環が特徴だ。
「ボトルtoボトル」の水平リサイクルを行っている自治体やメーカーは多いが、業界のなかでも先駆けてこの取り組みを始め、使用済みのペットボトルを回収し、飲料容器として再び使用する水平リサイクルのモデルケースとなってきたのが、サントリーグループだ。
同社では独自のBtoBメカニカルリサイクルシステムを開発。品質と安全性を保ちながら、リサイクル素材の使用比率を高めている。サントリーは、再生材を使用したボトルの透明度や強度を確保するために、リサイクル技術の高度化にも注力しており、2021年には日本初の「100%リサイクルPETボトル」での製品化を実現している。
また、同社は2030年までに、すべてのペットボトルをリサイクル素材または植物由来素材に切り替えるという明確な目標を掲げており、循環型社会の実現に向けた業界全体の流れを牽引している存在でもある。
使用したあとの紙おむつは捨てるのが当たり前だったが、メーカーを問わず、使用済みの紙おむつを回収して、独自のオゾン処理を行い、再び紙おむつにリサイクルしているのが、ユニ・チャームのプロジェクト「RefF(リーフ)」。RefFは「Recycle for the Future」からネーミングされたもので、紙おむつの世界初*の水平リサイクルだ。
現在、使用済みの紙おむつの回収を行っているのは、鹿児島県志布志市と鹿児島県大崎町の2自治体。リサイクルパルプを一部に使用した紙おむつは、イオン九州のほか、ユニ・チャームのダイレクトショップでも全国から購入可能だ。
*オゾン処理技術を使用した紙おむつから紙おむつへの水平リサイクル技術について(2020年12月ユニ・チャーム調べ)
味の素食品の川崎工場では、2023年4月から、工場内で使われる「ストレッチフィルム」(透明な包装ラップ)を対象にした水平リサイクルを開始した。汚れが少ないフィルムを素材別に回収・洗浄し、再び同じストレッチフィルムへと再生する取り組みだ。
プロセスでは、まず工場内の指定回収ポイントへ使用済みフィルムを集め、素材ごとに分別。その後、洗浄・粉砕・再成形して高品質なフィルム素材に戻す。2023年4月から10月までの半年間で、6,190㎏のリサイクルを実現している(※2)。
海外でもさまざまな水平リサイクルの取り組みが行われている。例えば、フランスのバイオテクノロジー企業、カルビオスは、酵素分解技術を活用した「繊維to繊維」のリサイクル技術を開発した。ペットボトルのリサイクルではなく、ポリエステル繊維をリサイクルして、「繊維to繊維」の水平リサイクルを実現した。
「繊維to繊維」のリサイクルは難しく、現在市場に出回っているリサイクル繊維のうち、「繊維to繊維」は1%未満とも言われる。だが、カルビオスの技術開発が繊維業界の水平リサイクルの突破口になるかもしれない。
さまざまな水平リサイクルの取り組みが行われる一方で、課題もある。
水平リサイクルでは、使用済みの素材から再び同じ品質の製品をつくる必要がある。しかし、ペットボトルやフィルムなどにはさまざまなラベルや着色、異素材の混入があるため、高度な選別や洗浄、再生技術が求められる。さらに、再生された製品の品質を安定させることも課題であり、飲料用途のような高い衛生基準をクリアするには先進的な技術とインフラが不可欠だ。
リサイクルプロセスには、分別・洗浄・再加工など多くの工程があり、特に水平リサイクルは品質を保つためにコストが高くなりがち。バージンプラスチック(新しい石油由来のプラスチック)の価格が安い場合、リサイクル材を使う経済的なメリットが薄れることもあり得る。企業側が投資を継続するには、制度や消費者の支持も重要な要素となる。
消費者のなかには「リサイクル品=品質が劣る」という先入観があると考えられる。また、リサイクル品に対して「高い」「見た目が悪い」「衛生面で不安」といったイメージを持つ人もおり、こうした心理的なギャップを埋めるために、水平リサイクルのプロセスや再生品の品質面での正しい理解を促す取り組みが求められている。
私たちができるもっとも基本的なアクションは、分別を正しく行うこと。たとえばペットボトルなら、中を軽くすすいで、ラベルとキャップを外す。ストレッチフィルムなどは、他のごみと混ぜずに指定された方法で出す。こうした基本を守るだけでも、リサイクルの質と効率は大きく変わる。
水平リサイクルを行ってできた製品を購入することは、その取り組みを応援することにつながる。「買い物は投票」というように、こうした製品を積極的に選ぶことで、企業にとっての水平リサイクルのメリットが高まり、循環型の社会に近づく。自分の選択が未来の資源を守る力になるのだ。
どんな水平リサイクルの取り組みがあるのか知り、その取り組みや企業の姿勢に共感したら、その製品を購入してぜひ応援しよう。
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