ベルリン在住のイラストレーター・KiKiが、自身が育った西伊豆の日本の村とベルリンの暮らしの共通点をつづるコラム(毎月14日28日更新)。子どもの頃から夢見てた空き瓶回収をベルリンで実現させたKiKi。現地では「習慣になっている」そうだが、いまの日本でも回収してもらえるという。
KiKi
イラストレーター/コラムニスト
西伊豆の小さな美しい村出身。京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科卒業後、同大学マンガ学科研究室にて副手として3年間勤務。その後フリーランスに。2016年夏よりベルリンに移住。例えば、…
ベルリンに引っ越す前からずっと、密かに楽しみにしていることがある。
それは空のペットボトルやビールの空き瓶をお店に持っていき、デポジット分のお金を受け取ることだ。理由は、わたしが子どもの頃に父と祖父が飲みながら聞かせてくれた話にある。
ふたりはとってもビールが好きで、夕食時には毎日のように飲んでいたのだが、酔っ払った父は、「お父さんが子どもの頃はね、ビールの空き瓶を集めて酒屋さんに返しにいくと、お金がもらえたんですよ。それがお父さんのお小遣いだったんですよ」と何度も何度も話してくれたのだ。
教育方針により敬語で会話するその内容を聞いて、子どもながらに「わたしもやってみたい!」と思っていた。しかし、わたしが生まれる頃にはもう、ビールの空き瓶をお金に替えてくれる酒屋さんはなくなっていた。
やがて大学を卒業し、ベルリンに引っ越すと決めて情報を集めるなかで、ドイツには空き瓶のデポジット制度があるということを知った。そこで子どもの頃の思い出がパッと蘇り、「絶対にやろう!」と心に決めた。
ベルリンに引っ越して1年目。ホストファミリーにお世話になっていたわたしは、その家のお母さんに「酒屋さんに持っていくビールの空き瓶があったら教えてください!」と伝えた。
初めて空き瓶をお金に替えてもらったときは、「父がやっていたことをベルリンで実現できた!」とても感動したことを覚えている。
ドイツで空き瓶がお金に替えられるのは、ペットボトルや缶の飲料、ビールなどを購入する際に、商品代とは別に容器の保証金を支払っているからだ。これを「Pfand(ファンド)制度」(※1)という。この制度のおかげで、みんな自然と容器を返却する習慣が身についている。
ほとんどの飲料の容器が返却できるが、たまにできない容器もある。それを見分ける方法は、瓶と缶を模したマークがついているかどうか。
このマークがある容器は、返却できる。容器代は飲み物によって違いがあるが、だいたい25セント(約32円)程度だ。
1本では大した額ではないように感じるが、“塵も積もれば山となる”。例えば、飲み物6本分になれば、25セント×6=1.5ユーロ(約192円)。
1個25セントのおいしいプリンを6つ買ってプリン三昧の一日を過ごすこともできるし、192円あればドイツの食生活では欠かせないパンも一斤買える。
容器の返却方法は2つある。
1つは、酒屋さんに持っていく方法。レジのお兄さんに空き瓶を手渡すとすぐに計算し、レジから容器代を出してくれる。その場でビールや飲み物を買うなら、会計の際に容器代を差し引いてもらうことも可能だ。
もう1つは、自動回収の機械を利用する方法。ベルリンでは、ほぼすべてのスーパーに設置されている機械だ。
この機械の丸い穴に容器を入れていくと、最後にレシートのような紙に合計の容器代が記載されて出てくる。
これを持ってレジにいくと、現金に替えてもらえる。酒屋さんと同様に、会計の際に容器代分を差し引いてもらうことも可能だ。
この制度のおかげで、道端に空き瓶やペットボトルが落ちていることもない。もしあったとしても、ホームレスの人たちがきれいに拾って、現金に替えるためにお店に持っていく。
友人たちと公園でピクニックしているとき、「その空き瓶をくれないか?」と声をかけられることが多くある。こういうとき、わたしは必ず渡すようにしている。お金は少し怖いと感じてしまうが、ビール瓶なら抵抗感もない。彼らの手助けに少しでもなるのならうれしい、と自分の心も軽くなる。
vol.5のコラムで紹介した、不用品のやり取りができるfacebookグループ「Free Yorr Stuff Berlin」でも、たまに「大量のビールの空き瓶があるから、ほしい人がいたらピックアップしにきて!」なんて書き込みがあったりする。
このように空き瓶のデポジット制度はリサイクル促進効果だけでなく、困っている人たちへのちょっとした手助けにもつながっているのだ。
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