Vol.3 おいしさとストーリーを分かちあう ドイツと日本のおすそ分け文化

日本の小さな村がベルリンにもあった

ベルリン在住のイラストレーター・KiKiさんが、自身が育った西伊豆の日本の村とベルリンの暮らしの共通点をつづるコラム。毎月14日と28日に公開中。ドイツのクラインガルテンと日本の農場でKiKiさん自身が体験した、農産物と農業体験の交換をつづる。

KiKi

イラストレーター/コラムニスト

西伊豆の小さな美しい村出身。京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科卒業後、同大学マンガ学科研究室にて副手として3年間勤務。その後フリーランスに。2016年夏よりベルリンに移住。例えば、…

2020.11.28

小さな庭の前に置かれた“果物と野菜いっぱいの箱”

以前住んでいたシェアフラットのメンバーの一人が「クラインガルテン(Kleine Garten)」を所有していた。

クラインガルテンとは、滞在型市民農園のこと。直訳で「小さな庭」という意味をもつドイツ語だ。都会にいながら自然とともに生活し、リラックスすることを目的につくられている。

一区画ごとに分けられた小さな庭には小屋がついていて、キッチンや冷蔵庫、シャワー、トイレなども完備。

宿泊もできるようになっているため、週末には家族みんなで過ごし、楽しんでいる姿をたくさん見かけた。ドイツの人々の生活に定着しているスタイルなのだ。

わたしはクラインガルテンの利用はしなかったけれど、小さな庭を区切る小道をよく散歩して眺めるのが大好きだった。お花や野菜、果物たちがとてものびのびと育てられている様子がとてもすてきだったから。

収穫の時期になると、お庭の前に箱いっぱいの果物や野菜が、「Zu verschenken (ツー ファシェンケン)」というメモと一緒に置かれるようになる。このメモの意味は「ご自由にお持ち帰りください」。お庭のとれたてのおすそ分けだ。

散歩中に見かけたら、いくつかもらっていくのが慣習で、もし庭に持ち主がいらっしゃったらもちろんお礼も伝える。どのように育てたのかとか、庭のこだわりポイントだとか、持ち主が紡いできた”お庭ストーリー”を教えてもらうのも私の楽しみだった。

後日会ったときにも「とてもおいしかったです」と感想を改めて伝えた。

おすそ分けで広がる出会いと循環の輪

こんなおすそ分けの文化は、わたしの故郷でも頻繁に行われていた。

わたしの実家は農家は農家を営んでいる。主に祖父母が畑仕事をして、収穫の時期は家族みんなで手伝っていた。毎年育てていたのは、たくさんのミカンとお米と、自分たちが食べる分の野菜だ。

とくにミカンは、出荷する分を除いても十分なほどたくさんの実がなったので、ご近所さんや親戚、観光客にもおすそ分け。祖父は通りかかった初対面の人にも気軽に声をかけ、「どこから来たんだ?」「このミカンはなあ」とお話しするのが大好きだった。

やがて祖父が年をとって足腰が弱くなり、満足に収穫作業ができなくなってからは、毎年村へ来ては祖父からミカンをもらって会話を楽しんでいた人たちが、たびたび祖父を訪ねて収穫作業を手伝ってくれるようになった。

そのお礼に、とあたりまえにミカンをいくつかおすそ分けしている祖父は、その交流が楽しみだったようだ。愛情たっぷりかけて育てたミカンの話を聞いてもらえたり、おいしく食べてもらえたりすることは幸せだっただろうし、ふだん都会で生活している観光客にとっても、きっと貴重な体験になっただろう。

わたしはといえば、その頃は高校生になり村を出て、あまり収穫を手伝えなくなっていた。心配していたが、そんな話を聞くようになり、とても安心したし、うれしかった。

おいしいおすそ分けは、ご近所さんだけでなく、みんなに。

イラスト

Photo by KiKi

ベルリンのクラインガルテンには、続きの話がある。

例のフラットシェアのメンバーが夏に2週間ほど旅行に出かけたとき、彼女が育てていたクラインガルテンの野菜の世話を、わたしと彼女の友人と一緒にしていた。

遠く離れて国も違うところでも、わたしの故郷と同じように畑を通して貴重な体験の交換が行われたのだった。

フラットメイトが旅行から帰ってきた後は、クラインガルテンで育った最高においしい野菜を使ってみんなでバーベキューをし、お土産話に花を咲かせた。

みんなで一つのものをシェアすることで、たくさんのハッピーとストーリーが生み出されてていく。友達や知っているご近所さんだけでなく、みんなでシェアする楽しさをクラインガルテンを通して実感した。

12/14公開予定の次回は、ベルリンのお古文化について紹介したい。

※掲載している情報は、2020年11月28日時点のものです。

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